象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

人気先行のタレント系格闘家に思う〜那須川天心の限界と精神的幼弱性

2024年10月16日 04時54分20秒 | ボクシング

 ”オレの大事な顔に傷をつけやがって、顔で売ってるのに・・”とのリップサービスには笑えたが、そのジョークが悲しく響く程の試合内容だった。


たかが、噛ませ犬に・・・

 相手はフィリピン出身で8試合のキャリアを持つ有望なプロボクサーとは言え、たかが現役の学生である。”警戒されていた”との言い訳もなくはないが、所詮は(言い方は悪いが)”噛ませ犬”に過ぎない。
 そんな相手と互角の闘いでは、ファンは報われないし、天心のボクサーとしての資質を疑う所もある。 
 確かに、この試合に勝利し、WBOアジアパシフィックというオモチャのベルトを巻いた事で、日本国内での世界挑戦権を獲得した事になるが、彼は私が期待していた様なボクサーではなかった。所詮は、メディアが作り上げたインスタントな二刀流ボクサーであったのかもしれない。
 試合は、那須川天心が3-0の10R判定勝ち(98−91×2、97−92)を収めたが、採点とは逆に内容は競り合っていた。パンチの強さでは天心が、的確さでは挑戦者のアシロが勝っていた。もし敵地でやってたら、逆の結果になっていただろうか。

 事実、5Rまでは一回り身体の小さい相手に自在に動かれ、スマートで正確なパンチに出鼻を挫かれ、主導権をなかなか握る事が出来ない。6Rには両者ともヒートアップし、天心は過去5試合で最も多くのパンチを被弾する。
 7,8Rは何とかプレスをかけ、相手をコーナーに釘付けにするも、有効打に欠けてフィニッシュに繋ぎきれない。そんな中、会場はどよめきと落胆が交差する。
 9Rも勢いに任せて攻勢を掛け、ダウンを奪うが、明らかにスリップだった。天心のパンチは、相手のボディではなく胸に当ったもので、不運にもアシロはバランスを崩しただけでダウンを取られる。
 だが、この回もラッシュとは行かず、天心の表情にも、セコンドと同様に余裕がない。
 最終10Rは、両者気負い過ぎた為か、偶然のバッティングにより天心の左目尻が切れ、今度は逆にアシロが猛攻を掛けた所で、ゴングが鳴って試合終了。

 余談だが、レフェリーは天心が勝利する前提での判断だったのだろう。八百長とまでは言わないが、昨今のボクシング界でほ頻繁に起こりうる”ヤラセ”っぽい何かを感じてしまう。
 でも悲しいかな、ボクシングという興行が支配する世界では、こうやって金になるボクサーを大切に巧妙にチャンピオンに作り上げていくのである。勿論、那須川だけが例外ではない。


総評

 という事で、私の採点では98−98のイーブンとなったが、9Rのダウンが無効なら、アシロが1P差で勝ってた筈だ。少なくとも世界戦での公平なジャッジなら(有効打をとるか、攻勢点をとるかにも依るだろうが)、際どい判定にもつれた事は、火を見るより明らかだった。
 一方で日刊スポーツは、フルマークで天心の勝ちとしてたが、どこをどう見ればそんな評価ができるのだろう。
 つまり、アシロはボクシング転向後の初の格下の相手で、天心が勝つ土壌で行われた”作られた”マッチメイクでもあった筈だが、天心のボクサーとしての限界が露呈した試合でもあった。

 他方、技術面で言えば、キック特有のガニ股が直ってない。ボクシングはローキックがないから、両膝を外に向ける必要はないし、ボクサーは内股に構える事で左右前後自在にステップを踏む事が可能となる。
 今日の様な、素早く動き回る相手だと、天心のステップでは追いかける事も捕まえる事も出来ない。それに、無理に動き回ろうとすると、イタズラにスタミナを疲弊する。この試合でも、天心のフットワークの未熟さが見て取れた。
 それに、アシロのパンチはそれほど強烈でもないが、もろに被弾する場面が目立ち、防御面での課題も露呈する。
 勿論、天心のパンチ力は(50戦を戦い抜いた)クラス最強のキックボクサーだけあって一級品だが、ボクサーとしての攻守のコンビネーションとなると、その不足は無視できない。

 他方で気になったのが、村田を除く2人の元世界王者の解説者が”あからさまな天心寄り”の評価をしてた事に、不可解な違和感を覚えた。
 例えば、天心のボディーブローが”効いた!効いた!”と事ある毎に喚いてたが、仮に効いてたとしたら、相手は10Rを通じて、リング上を絶え間なく動き回れれたであろうか。
 むしろ、序盤から的確なパンチを被弾し続けてた天心の方が、ラウンドを重ねる毎に動きが微妙に鈍ってたのではないか。

 前回はファイターらしいアグレッシブな展開で、見事なKO劇を披露し、ボクサーとしての那須川天心を期待させたが、今回の試合では大きく裏切られた形となる。
 上述した様に、ボクサーとしての資質にも疑いが残り、技術的にも多くの課題が目立った結果となったが、ボクシングの黄金時代を知る私には、残念な結果でもあり、同時に”ヤッパリか”っていう諦めの気持ちもある。
 更に言えば、所詮は”人気先行型の亀田3兄弟の延長上に過ぎないのか”との恐れもあるが、今のままではその確率も高い。

 ただ救いを言えば、同じキック出身の元K-1Sバンタム級王者・武居由樹が持つWBOのベルトを天心が奪取する可能性は少なくない。


最後に〜ボクシングの黄金時代

 ただ、天心の試合の後の、WBA王者・中谷潤人の凄まじくも豪快なKO劇のお陰で、救われた自分がいた。まるで、伝説のチャンピオン大場政夫の生き写しの様にも思え、安堵する自分がいた。
 彼の異次元の凄みは、パンチをリリースする時の正確さとパンチがヒットする瞬間の破壊力にある。1クラス上の井上尚弥と対等に戦うには1年以上掛かると踏んでたが、今の時点でも互角以上に戦える事を証明した。
 中谷にあって天心にないのは、ボクサーとしての天性である。それは、壮絶な努力や熱狂的なファンやスポンサーやメディアが与えてくれるものではない。その名の通り、天から授かった才能である。
 那須川天心は中谷の完璧無比なるファイトを見せつけられ、ボクシングの本質を知った事だろう。少なくとも、彼が思う様に、キックの延長上にボクシングが存在する筈もない。

 WBA、WBC、IBF、WBOと4人の日本人世界王者で独占するバンタム級だが、昔のようにJrの階級がなく、タイトルもWBAとWBCの2つの時代だったら、現日本王者でPFPにランクされる、井上と中谷だけが王者の資格を持つ事が出来たであろう。
 過去には、ボクシングルールでキックがボクサーに勝つ自体ありえなかった事だが、それだけボクシングを取り巻く世界も地盤も、そして選手も貧相に軟弱になってるのかもしれない。
 事実、元ムエタイ王者のセンサクが転向後の僅か3試合で、Sライト級のWBC王者になった事は衝撃だった。ボクシング黄金時代の70年代中盤の出来事だったから、世界中に震撼が走った程だ。
 90年代に入ると、ウィラポンやクリチコらキック出身の選手が世界王者になるも、キックの事は話題にすらならなかった。それだけボクシングは下り坂だったのだろう。

 これも余談だが、時代を遡れば、フライ級上がりの小柄なファイティング原田は”黄金のバンタム”と称されたデフレを下し、その原田が井上と拳をまみえたら・・また、フライ級では長身とされた大場と中谷が対峙したら・・
 真のボクシングの醍醐味とは、そうした強い者同士が殴り合うべき闘いであり、メディアも軽々しく人気先行のアイドル系ボクサーに群がるべきではない。
 裏切られてバカを見るのは、私達ボクシングファンなのだから・・・



コメントを投稿