象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

ハメられた男〜真夜中の訪問者”その143”

2024年08月12日 08時03分46秒 | 真夜中の訪問者

 昔、”Let'sNoteMini”(松下)という小型のモバイルPCがあった。但し、厳密にはPRONOTEmini(1996年発売)との名で、Let'sNoteではないが直系の先祖とされる。
 懐かしのDSTN液晶は8インチ弱で、MSDOS時代の代物であった。
 発売当時、30代の頃の私はパソコンを使って新たな仕事を始めようと思っていた。数年後にNECの98ノート(Aile)を親から借りた30万円の出費で手に入れたものの、思っていた仕事には殆ど使えず、単なるワープロ練習機と化した。
 以降、メモリー価格が急落し、台湾製の格安なデスクトップPCが次々と投入されてた時期だから、高価なノートPCを買うなんて贅沢以外の何物でもないのだが、バカは叩いても治らないとはこの事だ。

 私が特に欲しかったのは、Let'sNoteMiniの初代モデル(多分)で、133Mhzで24MB、810MBと、所有してた98ノートと殆ど同じスペックで、値段もほぼ変わらない。が、B5版という事で大きさと軽さが全然違った。
 自宅でPCを使って仕事をする時代から、ノートPCを持ち歩き仕事をする時代だと予感してはいたが、本格的なモバイルの時代が到来するのは、ずっと先の事となる。
 今から思うと、30万もあれば台湾製の格安な組立てデスクトップPCを買ってた方が、自宅に居ながらにして、CG製作などの仕事が出来ただろうにと、後悔しきりである。

 結局、人は流行を追いかけ、その流行に置いてきぼりにされ、終いには忘れ去られるのである。もっと言えば、時代を圧巻した筈の高価で高性能なノートPCも、所詮は欲望を満たす大人の玩具に過ぎなかったのだ。
 そんな私だが、ノートPCなんて夢のまた夢で、今は旧式の激安中華スマホしか持ち合わせていない。いや、それだけで十分過ぎる。
 つまり、仕事は人がするもので、PCやモノがするものではない。
 

機密情報が盗まれた?

 ふと、そういう事を思いながら眠りにつく。
 夢の舞台は、野球のグラウンドが隣接する大きな公園だった。
 私はそこで、同僚とキャッチボールをしていた。1時間ほど楽しんだろうか、同僚が”腹が減った”と言うので、近くの喫茶店へと駆け込む。
 小ぢんまりした喫茶店内はエアコンが効いてて、運動した後の頬てった身体を冷やすのに丁度良かった。
 私はある仕事を思い出し、バッグの中を開け、モバイルPCを取り出そうとするも、何処にもない。同僚が”グラウンドのベンチか何処かに置き忘れたんじゃないの?”と言うので、すぐさま喫茶店を飛び出し、グラウンド中を探し回った。
 が、(記憶では)ベンチの上に置いたであろう筈だが、何処を探しても見つからない。

 30万近くする流行りのPCだったから、誰かに盗まれたのかも知れない。グラウンドの隅々まで探したが、やはり見つからなかった。
 喫茶店に戻り、同僚に相談すると、”近くの交番に被害届を出したらどうだ?”という。
 事は急げである。喫茶店のオーナーに交番の場所を聞き、私はすぐに交番に駆け込んだ。
 運良く巡査がいた。
 ”ノートPCを公園に置き忘れたが、盗まれたみたいだ”と、私は藁にも縋る思いで伝える。
 ”高価なモバイル機器は高値で取引されるから、多分見つかんないだろうね。でも仕事だから、一応調書はとっとくよ”と巡査が応えた。
 ”会社の大切な機密データが入ってるから、万が一他所に漏れたら大惨事なんですよ”
 ”そんな大切なものなら、なくしたらアカンよ。アンタ、少し自覚が足りないんじゃねーの?”
 ”全く言われる通りです。久し振りにキャッチボールを楽しんで、子供の頃に浸ってた自分が甘かった・・”
 ”ま、悪い事ばかり考えんと、後は神様のご機嫌次第だね”

 私は巡査に礼を言って、喫茶店に向かう。
 同僚は既に食事を終えてて、私はコーヒーだけをテイクアウトで注文し、喫茶店を出る。
 先程のグラウンドに戻ると、刑事らしき人が独りポツンと立ってるではないか・・・
 よく見ると、ドラマ「BOSCH」に登場するハリー・ボッシュそっくりである。彼は見覚えのあるモバイルPCを手にしていた。その銀色の筐体は明らかに、私が血眼になって探していた”Let'sNoteMini”である。
 ”でもなぜ、この人が私のPCを持ってるのだろう”


ハリー・ボッシュ登場

 ”残念だが、これはダミーだ。中身は空っぽって事”と、ボッシュに似た刑事が口を割る。
 ”なぜ、ダミーを持ってるんです?”
 私は再び刑事の顔を見たが、やはりボッシュその人である。
 ”今私が追ってる強盗犯が置いていったもんさ。さっき、交番から電話があって、同じ様なモノの紛失届があったから、現場に直行してみたんだ”
 ”その犯人は最初から私のPCを狙ってたと?”
 ”重大な機密情報が入ってんだろ?誰だって狙うさね。今や情報は大金になるからな”
 ”でもなぜ、ダミーを持ってる必要があるんですか?そのまま逃げさればいいものを・・”
 ”奴は何かを隠している。アンタのPCの中にある機密は皆が追ってるんだ、犯人だけじゃない” 
 ”では犯人は複数のダミーをフェイクとしてバラ撒き、上手く逃げ去ろうとしてるって事ですか”
 ”多分、捜査を撹乱し、地下に潜ろうとしてるだけの事さ”
 ”でも地下に潜られたら捜査のしょうがないですよね”
 ”いや、こちらとしては、表で暴れ回れるより、地下に潜られた方がやり易いんだ”
 ”どういう事です?”
 ”アンタのPCは何処かに隠してある。命を保証する為の保険として・・つまり、持ってたら殺されて奪い取られて終りって事さ” 
 ”でも、会社の機密っても、不正監査の類ではない筈ですが・・”
 ”いや、昨今の会社の機密ってもんは複雑多岐に繋がってるから・・それらが纏まれば莫大な不正のネットワークになる”
 ”つまり、莫大な金額になる?”
 ”つまり、そういう事だ”

 刑事は”何か気づいた事があったら、ここに電話をくれ”と言って、その場を去っていく。
 私は只々、立ちすくむだけである。
 どう会社に言い訳するのか?警察からはこれらの情報は上司にも親会社にも伝わってる筈だ。最悪でなくても私はクビだろう。
 少なくとも、事の発端は私にあるのだから・・・
 私は報告を兼ねて会社に戻ろうと、同僚の車に乗ろうとした。その時、警察から電話か掛かってきた。
 内容は、犯人が捕まり、私のPCのHDD内にある機密情報は盗まれる事なく、無事だったという事である。
 私は詳しい事を知りたくて、すぐさま警察に向かった。寝耳に水といった状況で、何の事かさっぱりだったが、到達すると、先程の刑事が迎えてくれた。
 ”状況がさっぱり掴めませんが”
 ”こっちも笑っちゃうよ。犯人はパスワードをこじ開けようと悪戦苦闘してたらしい。PCに関しては素人だったんだな。近くのPCショップに出掛け、苦し紛れに相談したのさ”
 ”そこで捕まったんですか?”
 ”店員がパスワードを開けるふりをして、警察に通報したんだ。見た目で怪しいと判ったそうだ”
 ”盗みはプロでも、流石にパスワードはこじ開けれなかった?”
 ”つまり、そういう事だな”
 ”嗚呼助かった。これでクビになる事はなくなったかな” 
 ”犯人の無知に感謝だな”
 ”全くごもっともです”

 私は、手元に戻ってきたモバイルPCを明け、DSTN液晶の灰色がかった小さな画面を見ながら、ふと思った。 
 ”一寸待てよ、今はタブレットの時代じゃないのか?”
 そう思った時に、夢から覚めた。


最後に

 私が学生の頃は、テープドライブをPCに繋ぎ、キュルキュルと音を立てながら、遊んでたもんだ。そのテープドライブがフロッピーディスク(FDD)へと変わり、CDやDVDへ・・
 そして今はHDDからSSD、USBやMicroメモリに変わってしまった。
 夢の中で登場したノートPCやモバイルPCも今ではタブレットPCに様変わりし、最新のiPadAirなんてのは、下敷きみたいに薄くて軽くて高性能である。
 歴史で振り返ると、8bitPCまでは国内メーカーが競い合う雑乱状態だったが、16bitPCになると、NECの98シリーズとIBMのAT互換(DOS/V)の二択に絞られた。やがてPCがWindows一色になると、98が消滅し、DOS/V機の独壇場となる。そして今は、アンドロイドPCの時代に移行しつつある。

 因みに私は、2bitや4BitPCの頃が一番盛り上がってた様に思う。ハマりすぎて大学を留年した程だったが、それでも友人と二人で野球ゲームを開発した頃の事は明確に覚えている。
 それに比べれば、今のPCは超のつく高性能だが、所詮は大人のオモチャに過ぎない。少なくともプログラムではない。
 という事で、プログラマーを夢見てた頃のお話でした。



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