象が転んだ

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見る者を選ぶ映画〜「7年の夜」と「オットーという男」

2023年10月29日 15時02分27秒 | 映画&ドラマ

「7年の夜」(2018)

 アマゾンレビューは3.5/5程だが、典型の見る者を選ぶ映画に思えた。
 因みに、私はこうしたシンプルな展開だが、色々と考えさせるシリアスなサスペンスが大好きである。更に、贔屓のチャン・ドンゴンのサイコぶりは、実にハマってていた。
 救いようのない最低の悪人なのに、イケメンの次元を超えたカッコよさが、見る者を泥沼の世界へと一気に引き摺り込んでいく。

 それに、娘役のイ・レがやけに可愛い。この娘を見ただけでも十分に満足だったが、少女は序盤で呆気なく車に轢かれて死んでしまう。
 折角、素朴で可憐な雰囲気を持つ娘だっただけに、もう少し眺めていたかった。一方で、シリアスで単調な暗い空気が苦手な人は、最初の10分ほどで席を立つ人も多かったろう。

 展開としては、娘を轢き殺された父親が犯人に復讐するという至極単純ではあるが、人物の描写が濃くて深い。
 複雑多岐に入り組んだ仕掛け(プロット)は殆どないが、不可解な運命の行方と人間の残忍性について、色々と考えさせるものがある。
 こうした運命の泥沼劇を作らせたら韓国の右に出るものはないのではと思う程に、充足度と濃密度が高い。
 ただ気になったのが、回想シーンなどの余計が多く、時間軸がはっきりしない点が目立った。それに、序盤のやや意味不明にも思えるシーンは、見る者によっては大きなストレスに感じたろう。

 この作品のクライマックスは、父親の虐待から逃れる為に、娘が母親を求めて逃げ出し、そこに偶々通りがかった車に轢かれるシーンにある。
 特に、道路にいきなり飛び出した12歳の少女が、車に轢かれるリアルな映像と描写には背筋が凍り付く程でもあった。
 更に、チャン・ドンゴン演じる父親の逸脱した狂気と、イ・レ演じる娘のあどけなさ過ぎる可憐さこそが、この作品の全てを凝縮している。
 だったら、このシーンをオープニングに持っていき、それまでの曖昧な展開はバッサリと外してもよかった。
 誤って少女を轢き、微かに息をしてたのに、窒息させて湖に沈めた男と、その男を追いかける父親からの逃走劇を延々と描写しても、見る者は納得したであろう。

 つまり、プロットをシンプルにしたのはいいが、だったら全てをシンプルにしても良かったかな・・・
 ”愚直なほどシンプルに”とは、iPhoneの世界だけではないのだろうか。


「オットーという男」(2022)

 この映画は、フレドリック・バックマンの小説「幸せなひとりぼっち」を原作としたスウエーデン映画「幸せなひとりぼっち」(2015)のハリウッドリメイクである。
 コメディドラマに分類されるが、これも人生について色々と考えさせられる映画だった。
 鉄鋼会社を定年退職したオットーは、半年前に最愛の妻ソーニャを亡くし、自殺を計画していた。しかし、自殺をしようとする度に、新しい隣人たちに邪魔される。
 やがて、固く閉ざしていた心を開くようになり、彼の人生は変わっていく。
 人生を諦めた孤独な男が、陽気でお節介な隣人らとの出会いによって生きる気力を取り戻していく。

 特に、”バカでも暮らせるアメリカだが、君はバカじゃない”とメキシコから移住してきた妊婦を励ますオットーには、何とも言えない幅広がりの温もりを感じてしまう。
 人は決して一人では生きていけない。しかし、孤独の中で彷徨い続けるのもまた人間であり、人生である。
 そんな孤独な人間にとって幸せとは、”生きたいというシンプルな感情”なのかもしれない。
 そういう事が感じられただけでも、心が暖かくなる良質な作品でもある。
 

追記〜「PIG/ピッグ」(2021)

 ”絶賛”という言葉があるとすれば、この様な映画に対して送るべきであろう。
 特に、ニコラス・ケイジの演技には惜しみない賛辞が贈られ、”近年の演技の中では最高のもの・・・愛と喪失をめぐる美しい物語が展開されてるが、それはケイジの鮮烈な演技があってこそのもの”と評されている。
 事実、映画批評サイト(Rotten Tomatoes)には242件のレビューが集まり、支持率は97%で平均点は8.2/10点で、”観客の予想を良い意味で裏切る”作品である事が高い評価に繋がった。
 一方でケチをつければ、「美味しんぼ」の海原雄山と山岡士郎の”究極のメニュー”対決のような気もしなくもない・・・

 妻を失った苦しみと後悔にもがく、地元の高級レストランを仕切る実業家。これまた妻も子も失い、森の奥でトリュフハンターとしてブタと暮らす、元名料理人の落ちぶれた孤独な初老の男。
 唯一の家族であるトリュフ豚を盗まれ、怒り心頭のワケあり親父が華やかな料理ビジネスの闇を暴く。その結果(悲しいかな)、自身の心と過去の闇を呼び覚ます事になる。
 ロブ(ニコラス・ケイジ)は唯一の生活の糧であるトリュフ豚を奪還すべく、トリュフバイヤーの若造と共に黒幕を探す。しかし、ブタの行方を辿る過程で自身の壮絶な過去と向き合う事になり、深い絶望の淵に陥る。

 トリュフ豚を殺された元名料理人の心の葛藤とドロドロの悔恨が終始スクリーンを支配するが、舞台がポートランドというのも絶賛の一因にもなっている。
 オレゴン州ポートランドにはブリュワリーやワイナリーも多く、地産のオーガニック食材を使用した高質なレストランやヴィーガン対応のフードコートも街の至る所に点在する。 
 こうした意識の高いフードカルチャーにより、ここ十数年で急発展してきた街だ。が故に、地価の高騰に伴うホームレスの増加や低所得者や高齢者らの立ち退き問題も深刻になり、そういった背景も時代の闇としてさり気なく描かれている。

 という事で、見る者を選ぶ?秀作映画を3つ紹介しました。
 では・・・



2 コメント

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Unknown (1948219suisen)
2023-11-01 08:52:12
一度にたくさん紹介してもらったから感想が書きにくいですが、私もどちらかと言えばシリアスな映画が好きだから見ればハマるかもしれません。韓国映画は韓国があまり好きでないので見ないのですが、演劇通な人は日本のものより韓国のものが面白いと言いますから映画のほうもそうなのでしょうか?とにかくたくさんのご紹介ありがとうございました。最近は若い人達から教えてもらうばかりです。
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ビコさん (象が転んだ)
2023-11-01 15:00:53
韓国は政府がバックアップしてるので、映画製作の環境と予算がいいんでしょうね。
一方で、日本も低予算ながら実に質の高い映画を作ってると思います。

アマプラはこうした(一見、影に埋もれそうな)秀作や良作を配信してくれるのでとても助かります。
コメントいつもありがとうです。
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