ドラッグ・ラグとは?
「ドラッグ・ラグ」とは、新開発の薬を患者に投入できるまでの時間差、あるいは、海外での新薬を国内承認できるまでの時間差のことである。
米国におけるドラッグ・ラグでは新薬の安全性(公共の利益)と、重態な患者への早期の治療薬の配布との問題が大きい。
当初アメリカでは、新薬は開発会社や販売代理店が公正な検証を行って販売をする建前だったが、1960年代の欧州でのサリドマイド薬害から、新薬の安全性にたいする規制が政策的に行われた。しかし、1980年代後半のエイズという全く未知の病気の流行後、逆に慎重な規制がなんら薬の存在しない状態を作り出し、重症患者の治療を阻害しその治療を致命的に遅延させる原因として、ドラッグ・ラグが政治問題化した。
その後、治験という名目で大量の患者に同意の下、安全性に対して十分なデータの蓄積がない新薬による、実験という形での治療が許されることになった。これによって重症な患者に対してのドラッグ・ラグの解消がなされた。欧州での薬品認可との時間差については、現在も議論と改善の方法が考えられている。
日本で遅れる理由
日本ではどうだろうか?日本においては、諸外国より新薬認可が遅い。その原因は体制面の不備にある。すなわち、諸外国においては、治験を担当する医師と製薬企業とが直接契約を結び、治験の報酬は直接医師に入るシステムになっている場合が多い。しかし、日本では直接契約が認められていない。日本で患者を1名集めるのにかかる時間は米国の18.3倍もあるという。また、1症例あたりに換算した治験費用は、米国の2倍以上になり、コスト面の問題も指摘されている。
しかし、最近では、治験に対する医師の理解が進みつつあることや、治験コーディネーターと呼ばれる職種の活躍などにより、日本の治験の質も改善している。厚生労働省は2006年(平成18年)10月、「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」を発足、定期的にヒアリングなどを行っている。また、厚生労働大臣(当時)舛添要一は、「平成23年までに、新薬の審査にかかる時間を欧米並みに短縮する」と発言している。さらに、日本単独ではなく世界規模で治験を行う「国際共同治験」への関心も高まっている。
検討委員会、治験省き承認
海外で広く使われている薬が日本で未承認だったり、一部の病気への使用に限られていたりする「ドラッグ・ラグ」を解消するため、厚生労働省検討会議は8月3日、卵巣がん治療薬など5種類の適応拡大を認め、国内の臨床試験(治験)を省略して早期に承認すべきだと判断した。
早ければ来春にも使えるようになる。
検討会議は今年4月、患者団体や学会から要望があった計374件のうち、109件を「医療上の必要性が高い」と判断。うち108件について、厚労省は5月、製薬企業に開発スケジュールやこれまでの治験データなどの資料提出を求めた。
資料を検討した結果、省略できると判断されたのは、対象疾患3件への適応拡大が認められた「エンドキサン」や、肺がん治療などに使われる抗がん剤で患者団体が要望していた「ジェムザール」の卵巣がんへの適応など5種7件にとどまった。製薬企業は11月までに承認申請を提出する。
日本製薬工業協会によると、海外で初めて発売された新薬が日本で発売されるまで平均4.7年かかる。米国は同1.2年。特に、患者数が少ない難病治療薬は、臨床試験のコストが高く、開発が遅れがちとなっている。(2010年8月4日03時07分 読売新聞)
ワーファリン
ワーファリンはワルファリン(warfarin)の商品名。抗凝固剤の1つで、殺鼠剤としても用いる。血栓塞栓症の治療及び予防。心臓弁膜症に対する機械弁を用いた弁置換術後や心房細動が原因となる脳塞栓症予防、あるいは深部静脈血栓症による肺塞栓症予防のために、また抗リン脂質抗体症候群での血栓症予防のためにしばしば処方される。
エンドキサン
エンドキサンはシクロホスファミド(cyclophosphamide:CPA)の商品名。アルキル化剤に分類される抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)、免疫抑制剤。製造販売元は、塩野義製薬株式会社。
ジェムザール
ジェムザールはゲムシタビン(gemcitabine)の商品名。抗癌剤として用いられる含フッ素ヌクレオシドの一種である。非小細胞肺癌、膵臓癌(膵癌)、胆道癌、膀胱癌、乳癌。
卵巣癌などに対しても有効性が報告されている。
ゼローダ
ゼローダはカペシタビン(Capecitabine)の商品名。フッ化ピリミジン系代謝拮抗剤に類する抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)。カペシタビンは、骨髄細胞や消化管では活性体になりにくく腫瘍組織内でより選択的に活性化することを目的とする。日本ロシュ研究所(現中外製薬株式会社鎌倉研究所)で創製された。製造販売元は中外製薬株式会社。
ハイカムチン
欧州、南アフリカ、カナダの研究者らは、経口ハイカムチン(トポテカン)が再発性の非小細胞肺癌(NSCLC)に対する治療において有益性を有することを報告。ハイカムチン経口投与は再発性および進行性NSCLCに対する有効な緩和治療法であるとされる。
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