Cape Fear、in JAPAN

ひとの襟首つかんで「読め!」という、映画偏愛家のサイト。

『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

にっぽん女優列伝(183)田中絹代

2020-05-10 00:06:08 | コラム
09年11月29日生まれ・77年3月21日死去、享年67歳。
山口出身。

日本映画史的に「絶対に外せないひと」のはずなのに、田中絹代(たなか・きぬよ)さんって、忘れられがちな存在だと思うんです。

原節子や高峰秀子に比べ、言及されることが少ないですもん。
自分も含めてなのですけれどね!!

それはたぶん、失礼を承知でいえば、派手さがなかったんだと思います。

たしかにそうなのですが、50年代には監督業にも進出し6本の映画を残す―って、未だ男女が公平に扱われているとはいい難い映画界において、これって快挙ですし、もっともっと再評価されてよいひとだと思っています。



<経歴>

8人兄弟・姉妹の末っ子。
幼いころから琵琶に親しみ、母親は琵琶の師匠を目指してほしかったようですが、本人の熱意に負けて女優への道を許したそうです。

24年、松竹に入社。
同年の『元禄女』で映画俳優デビューを飾る。
まだ15歳でしたが、次作『村の牧場』(24)では主演の座を勝ち取る。
(付け足しておきますが、このころはまだ「サイレント」映画です。活弁士が大活躍した時代ですね)

以下、小津安二郎に出会うまでの作品を列挙。

【25年】
『小さき旅芸人』『激流の叫び』『勇敢なる恋』『一心寺の百人斬』『自然は裁く』『落武者』『御意見御無用』

【26年】
『悩ましき頃』『裏切られ者』『街の人々』『お坊ちゃん』『奔流』『恋と意気地』『妖刀』『彼女』『閃く刃』

【27年】
『暗闘』『地下室』『奴の小万』『天王寺の腹切り』『国境警備の唄』『真珠夫人』『悲願千人斬』
『夜は曲者』『木曾心中』

【28年】
『近代武者修行』『海国記』『村の花嫁』『不滅の愛』『永遠の心』『鉄の処女』『人の世の姿』『妻君廃業』『陸の王者』『輝く昭和』『青春交響楽』

【29年】
『森の鍛冶屋』『新女性鑑』『彼と人生』『山の凱歌』

29年、小津に出会う。
以下は、出演した小津映画のリスト。

『大学は出たけれど』(29)
『落第はしたけれど』(30)
『お嬢さん』(30)
『青春の夢いまいづこ』(32)
『東京の女』(33)
『非常線の女』(33)
『箱入娘』(35)
『風の中の牝雞』(48)
『宗方姉妹』(50)
『彼岸花』(58)

次に、溝口健二に出会うまでを。

【30年】
『絹代物語』『進軍』『若者よなぜ泣くか』

【31年】
『愛よ人類と共にあれ』
日本映画初の本格トーキー映画『マダムと女房』

【32年】
『金色夜叉』『忠臣蔵』

【33年】
『応援団長の恋』『晴曇』『花嫁の寝言』『伊豆の踊子』

【34年】
『婦系図』『その夜の女』『お小夜恋姿』

【35年】
『春琴抄 お琴と佐助』『人生のお荷物』

【36年】
『男性対女性』『新道』

【37年】
『男の償ひ』『花籠の歌』

【38年】
『母と子』『愛染かつら』前後篇

【39年】
『お加代の覚悟』『南風』『花のある雑草』

【40年】
『絹代の初恋』『愛染椿』『征戦愛馬譜 暁に祈る』『舞台姿』

40年、鬼の演出家・溝口に出会う。
以下は、出演した溝口映画のリスト。

『浪花女』(40)
『団十郎三代』(44)
『宮本武蔵』(44)
『必勝歌』(45)
『女性の勝利』(46)
『歌麿をめぐる五人の女』(46)
『女優須磨子の恋』(47)
『夜の女たち』(48)
『わが恋は燃えぬ』(49)
『お遊さま』(51)
『武蔵野夫人』(51)
『西鶴一代女』(52)
『雨月物語』(53)
『山椒大夫』(54)
『噂の女』(54)

とくに『西鶴一代女』は傑作、個人的には全キャリアの到達点だと思います。



仏像の顔を見て、関係のあった男たちを思い出していくという構成が素晴らしかったです。


ちょっと乱暴なまとめかたになりますが、そのほかの出演作をドドドっと。

【41年】
『十日間の人生』『花』『簪』『女医の記録』

【42年】
『家族』『日本の母』『或る女』

【43年】
『開戦の前夜』『敵機空襲』『坊ちゃん土俵入り』

【44年】
『還って来た男』『陸軍』

『結婚』(47)、『不死鳥』(47)、『新釈四谷怪談』(49)、
『奥様に御用心』(50)、『婚約指環』(50)、『夜の未亡人』(51)、『銀座化粧』(51)、『愛染橋』(51)、『西陣の姉妹』(52)、『秘密』(52)、『まごころ』(53)、『新書太閤記 流転日吉丸』(53)、『煙突の見える場所』(53)、『女の暦』(54)、『渡り鳥いつ帰る』(55)、『月夜の傘』(55)、『王将一代』(55)、『色ざんげ』(56)、『あやに愛しき』(56)、『流れる』(56)、『異母兄弟』(57)、『地上』(57)、『楢山節考』(58)、『この天の虹』(58)、『太陽に背く者』(59)、『浪花の恋の物語』(59)、『日本誕生』(59)。

『おとうと』(60)、『別れて生きるときも』(61)、『放浪記』(62)、『殺陣師段平』(62)、『結婚式・結婚式』(63)、『太平洋ひとりぼっち』(63)、『光る海』(63)、『この空のある限り』(64)、『香華』(64)、『赤ひげ』(65)、
『男はつらいよ 寅次郎夢枕』(72)、『三婆』(74)、『サンダカン八番娼館 望郷』(74)、『ある映画監督の生涯 溝口健二の記録』(75)、『北の岬』(76)。

『西鶴~』以外では、『おとうと』の暗い母親や、『サンダカン八番娼館 望郷』が印象に残っています。


53年、『恋文』で映画監督業に進出。
以後、『月は上りぬ』(55)、『乳房よ永遠なれ』(55)、『流転の王妃』(60)、『女ばかりの夜』(61)、『お吟さま』(62)の計6本を監督。
すべて触れているわけではないですが、京マチ子主演の『流転の王妃』は見応えがありましたよ。

77年3月21日、脳腫瘍のため死去。
享年67歳、映画の遺作は原田美枝子の熱演が光る『大地の子守歌』(76)。

86年、新藤兼人による『小説 田中絹代』の連載がスタート。
これを原作にしたのが市川崑の『映画女優』(87)で、絹代さんを吉永小百合が演じました。

敢えてこの映画から入って、実際の出演作を観ていく、、、というのも面白いかもしれません。

…………………………………………

明日のコラムは・・・

『にっぽん女優列伝(184)田中美佐子』
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする