僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

「パトスとエロス」 洋館

2008年12月21日 | ケータイ小説「パトスと…」
鎌倉の閑静な住宅街を歩いていた。
キャピキャピわいわい大声でしゃべり続けていた女子達も、まだ乾ききっていない歩道や車のほとんど通らない道を歩くうちに穏やかな話し声になっていた。
「木がいっぱいだね」とか
「あそこに咲いているきれいな花、何だろう?」とか
「こんな家に住んでみたいな」等と
町の空気をかき回さないように小さな声で話した。

どんなに小さな声で話しかけても7人全員に聞こえ、みんな
「うん」とか
「すてきだね」とか
無言でうなづくかしていた。

道ばたにあった小さなお地蔵様を写そうとしている間に辰雄は仲間と少し離れてしまった。
次の目的地は分かっていたので慌てて追いつこうとはせずに、その時見えた紫陽花の咲いている家の方へ回ってみた。

うっそうと茂る木々の奥が緩やかな高台になっていて、そこに大正時代を思わせる洋館があった。
洋館の正面に回ると一面紫陽花の花が溢れていた。
まだ咲き始めて何日も経っていないらしく、紫になりきらない水色の花だったが、昨日の雨をたっぷりと吸ってそれぞれが思い切り背伸びをしているようだった。

紫陽花の水色をかき分けるようにして何歩か進むと人影が見えた。
突然現れた人影に辰雄は驚いて足を止めた。人影が振り向いた。
留美子だった。

「あっ留美子」
「辰雄君?」

辰雄は歩み寄り、洋館を見上げている留美子の横に並んで立った。

「素敵ね」留美子がつぶやいた。
「うん、すごい」

並んだまましばらく無言でいた。

「留美子」
「ん?」

「俺、留美子が好きだ」

自分でも不思議なくらい自然に言葉が出た。

留美子は洋館を見つめたまま答えた。

「うん、知ってる」









注:画像はここからおかりしたものです。
http://www.kindaikenchiku.com/kamakura/kamakura.htm









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