築30年は経っている木造の2階建てアパートだったが、
回りに日差しを遮る建物が無く雑草だらけの庭も自分の物として使って良いという条件が魅力的だった。
両隣は子どものいない若夫婦と80に近い一人暮らしのお婆さんだということが、
実際に転居してみてから分かった。
仕事が休みの日、辰雄が草むしりをしたりシャベルで土を起こしたりしていると声をかけてくれ、
世間話もするような今時珍しい気さくなお隣さん方だということも分かった。
隣との境は垣根になっていて行き来はできないのだが、
そこは垣根、プライバシー保護にはほど遠い。
ま、両隣の住民も、もちろん辰雄もそんなこと気にする風もなくご近所さんとしてのつきあいをしてくれる環境に、
ここを選んで良かったと思うのだった。
毎朝出勤前に畑のカブを確認する。
農薬を使いたくないので虫には食われ放題だ。
モンシロチョウが飛んでいた数日後には葉の裏に小さな青虫が現れる。
葉をかき分けていくと青虫は糸を出してぶら下がる。
危険から逃れるつもりなのだろうが、辰雄に見つかり潰される結果になる。
侮れないのがダンゴ虫だ。
一見可愛いこの虫は枯れ葉や石の下でコロニーを作っているが、
カブの根元や葉の茎にしがみついてかじっていたりもするのだ。
2匹で丸まっているのは交尾中のサイン。
しょっちゅう交尾を繰り返しあっという間に仲間を増やす。
つづく…