ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

水ビジネスについてお伺いした話の続きです

2010年06月18日 | イノベーション
 今年3月に発行された単行本「日本の水ビジネス」(東洋経済新報社発行)の著者である中村吉明さんにお目にかかった話の続きです。
 中村さんは現在、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の技術開発推進部長をお務めになっています。


 「日本の企業が今後、水ビジネス市場で頭角を現すには、どんな参入の仕方が考えられるのでしょうか」という難問に対して、中村さんは「海外の市場にまず参入し、海外で水ビジネスのやり方を学ぶのが最善の策」とのお答えでした。

 日本の地方自治体(地方公共団体)は民営化手法を一部取り込みながらも、上水道・下水道設備システムを低コストで更新したりメンテナンスする運営手法を事実上ほとんど持たないと考えられるからです。地域住民が本当に望んでいる上水道・下水道設備システムの在り方や運営ニーズを探るやり方をほとんど採ったことがないからだと分析されました。

 これに対して、欧米などの「水メジャー」と呼ばれるはフランスのヴェオリア・ウォーターやスエズなどの企業は、まず地域の住民や地方自治体などがどんなことを求めているのかを、コンサルティング会社に調査・分析してもらい、その地域のユーザーニーズを十分に反映させた上水道・下水道設備システム計画を提案するそうです。日本の地方自治体はコンサルティング会社に調査・分析を依頼するノウハウも持たず、住民ニーズをまとめ上げる経験もないようです。

 というのも、上水道・下水道設備システムは地方自治体が提供する当たり前の住民サービスとして運営されてきたからです。日本の企業は、地方自治体の上水道・下水道設備システムの入札に良い案を出す経験があまりありません。上水道・下水道料金を徴収する運営ノウハウも提案できない可能性が高いと推論できるのです。このことは、「公共サービスとは何か」という社会基盤システムは誰がどのようにつくり、運営するのかという根本的な問題になります。日本で当たり前のことが、外国ではどうなのか原理原則から考え直すものがありそうです。

 このため、日本国内の水ビジネスを手がけたいと考える企業は、海外市場の水ビジネス事業に外国企業と連携し、「ニーズを反映した提案をまとめて入札するノウハウを学ぶことが早道ではないか」と、中村さんはお考えのようです。ビジネスモデルを学ぶ、そのノウハウを学ぶ好機と考えればいいのではないでしょうか。

 今回一番感心したことは以下の件です。単行本「日本の水ビジネス」の後書きである「おわりに」にお書きになっていることです。当時、経産省では水政策を本業として担当する部署は産業施設課や国際プラント推進室だったそうです。この正規軍を「チームA」と表現されています。これに対して、今後の水ビジネスを自主的に研究する非正規軍の「チームB」には産業技術政策課と環境指導室の志願者の方々が参加したそうです。

 「経産省には国としての施策を、自分の担当範囲外であっても自由に話せる伝統がある」と、中村さんはいいます。正規軍とは異なる自由な視点で、産業政策を自由闊達(かったつ)に話し合って提案する雰囲気があるそうです。こうした考え方の多様性を端的に示すのは、「経産省系だが非公務員型の独立行政法人経済産業研究所が発足していること」と説明されました。いろいろな提案を多面的に準備する懐の深さが施策の企画立案には重要だとのことだと思います。

 これからの水ビジネスを考えるチームBは職務時間外に集まって議論を重ねたそうです。経産省のいいところは、「チームBが議論していることが伝わると、その活動を支援する方々が現れるところだ」といいます。そして、チームBのまとめた提案がいいと判断すると、正規軍のチームAがそれを取り込む度量を持っているとのことです。今回は、政策を練り上げるプロセスの一部が分かったことが収穫でした。公務員改革が提案されている中で、施策づくりのプロセスを知ることも大事と考えています。

水ビジネスについてお伺いしました

2010年06月16日 | イノベーション
 「水ビジネス」という言葉をお聞きになったことがありますか。
 水道の蛇口をひねると、飲み水が当たり前のように出てくる日本ではあまり馴染みのない言葉です。こんな国は実は大変少ないのです。今後、BRIC'sなどの産業発展によって、将来は深刻な水不足に陥るとの予測もあります。

 水ビジネスという言葉は、日本の社会の産業構造の現状を端的に示す言葉になりつつあります。そして、日本のイノベーション創出にも深く関わっているのです。

 2010年3月に発行された「日本の水ビジネス」(東洋経済新報社発行)という単行本の著者である中村吉明さんにお目にかかりました。

 中村さんは現在、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の技術開発推進部長をお務めになっています。単行本を書く契機となったのは、経済産業省の環境指導室長の時の自主的な研究活動とのお話でした。


 今回は、実力派の某インタビュアーが6月14日午後に中村さんをインタビューするということで、横でお話を聞かせていただく機会をもらいました。自分で企画した取材ではないため、取材テーマに対する問題意識が絞られていません。以下、気になったことをつまみ食い的にまとめてみました。

 単行本「日本の水ビジネス」によれば、日本の地方自治体(地方公共団体)が運営・管理している上水道・下水道設備システムは老朽化し更新期を迎えているものが増えています。現在のような上水道・下水道料金を維持できるかを真剣に検討する時期に差し掛かっています。これまで設備拡張や維持のコストをあまり深く考えずに運営されているため、地域格差として現在でも1カ月当たりの一般家庭の水道代は約9倍あるそうです。1カ月当たりの使用量の基本単位となる20立方メートルの水(2007年時点の水道料金)は、最安値は700円、最高値は6132円と、自治体によって意外と大きな差があるそうです。

 地方自治体の財政問題や水道事業の運営のやり方によっては、将来、もっと格差が開きそうです。このため、一部では部分的に民間企業の助けを借り始めて、低コスト化を図っています。しかし、もし水道代が高騰し、その水道代金が支払えない家庭が出た場合は、水道の供給を止めるのでしょうか。水は生命の根源にかかわるため、おそらく住民感情としては供給停止はできないと思います。しかし、同じように公共性がある電気やガスは民間企業が供給しているため、供給停止が実際に行われています。これは、部分的に民営化する際にでも、きちんと議論しておいた方がいい話です。

 日本国内ではなく海外の上水道・下水道事業をみてみましょう。海外には、「水メジャー」「ウオーターバロン」などと呼ばれる水ビジネスを手がける大手企業が存在し、国際市場で活躍しているとのことです。有名な水メジャーはフランスのヴェオリア・ウォーターやスエズという大手企業です。ヴェオリアは、フランスでナポレオン3世の時代の1853年に設立された企業が出発点になり都市部の上水道などを幅広く手がけている大手企業です。水道事業の運営やメンテナンスのノウハウを蓄積し、現在は64カ国で上水道事業などを手がけています。同社の水部門の売り上げは2008年で126億ユーロです。スエズはフランスなどで電力やガス、水道、廃棄物処理などを手がける総合エネルギー企業です。上下水道事業の売り上げは1兆5000億円だそうです。欧州各国や米国、アジアなどで水ビジネスを幅広く展開しているそうです。ヴェオリアもスエズも、中国の主要な上水道事業などを受注し、水ビジネスを強力に展開しているそうです。

 中村さんの話では、シンガポールの国家戦略が興味深かったです。シンガポールは国土が小さいため、降水を蓄えておくことができず、隣国のマレーシアのジョホール州から水を輸入してきました。2000年にマレーシアが水供給代金の大幅値上げを要求したことを契機に、シンガポールは安全保障として水ビジネスを手がける企業を設け、水ビジネスを国家戦略として強力に推進しているそうです。シンガポールとしての成長戦略でしょう。同様のことは韓国も進めているとの話です。

 経産省系の試算では、水ビジネスの国際市場規模は2005年で60兆円、2025年で100兆円に達する見通しです。海外の水ビジネス企業が目の色を変える魅力的な規模です。最近発表になった日本の新成長戦略では新幹線などの鉄道網システムや原子力発電所などのインフラ輸出を取り込んでいます。この中に水ビジネスは含めることができるのでしょうか。

 既に、日本の三菱商事や丸紅などの商社や日揮などの設備メーカーが部分的には海外の水ビジネスに参入しています。中村さんによると、「日本企業はヴェオリアもスエズなどのように、水ビジネスの“胴元”にならないと主導権をとれないだろう」とのご意見です。

 実は、例えば逆浸透膜などでは日本の化学メーカーは優れた技術・製品を持ち、国際シェアも現在は高いのです。つまり、水ビジネスを構成する部品では、日本企業はそれなりに強みを持っています。この話を聞いて、日本の電機産業と構造は同じだと感じました。携帯電話機では、日本の電機メーカーは製品のシェアは低いのですが、中に使われている部品では高いシェアを持っています。日本企業は研究開発で優れた要素技術を開発し、部品やサブシステムの実用化では強みを発揮します。しかし、製品では主導権をあまりとれません。要するに、ユーザーに製品の使い方を提案するビジネスモデルを構築する構想力が、日本企業を担う日本人は弱いのです。これに対して、日本人は、ビジネスモデルがある程度固まって、必要な基本仕様が見えた部品は研究開発し、事業化できます。昔、戦国時代に種子島に伝播した火縄銃を、短期間で世界最先端の火縄銃に改良し量産した伝統が生きています。

 最近のイノベーションはビジネスモデルの構築争いです。何もない所から、製品の使い方のビジネスモデルを考えるイノベーターをどう育てるのか、かなりの難問です。日本の大学や大学院の教育に、ビジネスモデルを開発できる人材養成を担う専攻が充実するかどうかが問われています。

 最近、ビジネスモデルを輸出し始めたものにコンビニ事業があります。米国で誕生したコンビニは朝から晩まで食料品や日用品などを品切れ無く売っているという意味で便利な存在でした。しかし、米国では品揃えはあまり変えなかったそうです。これに対して、日本のコンビニはビールや缶コーヒーなどの例から分かるように、3カ月単位で多くの品揃えが変わります。ユーザーがほしがる品揃えを追求し続ける点が、日本版コンビニのビジネスモデルです(もちろん、弊害もあります)。このコンビニ事業をアジアに輸出し始めています。品揃えというソフトウエア面の事業モデルの輸出です。日本のビールや清涼飲料などの飲み物、スナック菓子などの食料品事業のアジア・太平洋地域への事業展開話も絡んでいます。

 以上、ややまとまりのない展開の話になりました。まだ続きます。

ベンチャー企業は事業計画を練り続けます

2010年06月15日 | 汗をかく実務者
 「日本の大学発ベンチャー企業は技術シーズにこだわり過ぎる」と、しばしば指摘されます。
 ベンチャー企業は、これまでに無かった新しい事業を成立させるには、始めてみて分かった難問を解決するために、事業内容を強化する模索をし続ける努力が決め手になります。事業内容を局面ごとに組み直し続ける努力が不可欠です。「これは簡単なようで、実際に実行し続けることは困難なこと」と、ハイテク系ベンチャー企業の創業に詳しい芝浦工業大学大学院の工学マネジメント研究科長・教授の渡辺孝さんは指摘します。

 ジャスダック証券取引所(JASDAQ)NEOに上場している東京大学発ベンチャー企業のテラ(東京都千代田区)は、2010年6月1日に「北海道大学と共同研究契約を締結した」と発表しました。同社は、ガンのワクチン療法の事業化を図り、ある程度の事業規模を確立し、事業収支の黒字化を達成しています。テラはIPO(新規株式公開)に成功し、事業を本格化させる事業資金確保に成功したことと評価されています。この点で優等生の企業です。しかし、本当に評価すべき点は事業内容の強化を持続していることです。この努力が、今回の北大との共同研究の締結に現れています。

 テラの代表取締役社長を務めている矢崎雄一郎さんは、2004年6月に当時の自宅で、資本金1000万円をなんとか工面し、一人で創業しました。 東大医科学研究所の研究成果である「樹状細胞ワクチン療法」というガン治療技術を基に、矢崎さんは起業家として事業計画を立案し、大阪大学や徳島大学などの研究成果から産まれた要素技術と組み合わせ続けて、一層優れたガン治療技術群を育て上げ、事業計画の最適化を図っています。

 テラの事業化の基となったガン治療法を発見した研究者ではなく、起業家の視点で事業内容の強化を続けています。事業化の基になった研究成果は、ガン患者自身の免疫細胞を利用するために、「副作用がほとんど無いと考えられる点が優れている」と判断し、ガン治療技術の事業として成立すると直感したそうです。

 創業時にほれ込んだ研究成果に対して、多くの大学発ベンチャー企業にありがちな、研究者である創業者が自分の研究成果に固執し過ぎて、事業内容の強化方針を見誤ることがなかった点が成功要因になっています。矢崎さんは「創業後は何回も事業成立を左右する厳しい局面に直面しましたが、信じ合える仲間で構成した経営陣メンバーの知恵を結集して乗り切ることができましたた」と説明しています。

 創業時から事業計画を一緒に練り上げた経営陣メンバーとは、取締役の堀永賢一朗さん(左)、代表取締役社長の矢崎雄一郎さん、取締役副社長の大田誠さん(右)です。


 日本で新規事業を手がけるベンチャー企業が直面する難問は、想定ユーザー企業が採用実績が無い新規技術の採用をためらうことです。「採用実績があれば採用するのだが……」という矛盾する対応に苦しむ企業ばかりです。テラは、この難問を見事にクリアし事業化に成功しました。

 テラが病院などの医療機関に提供するガン治療技術を医療従事者に説明すると、決まって「まずは治療実績をみせてほしい」と言わたそうです。自分では判断できないので、他社や他人での採用実績によって、採用リスクを低減する日本企業・機関の多くが持つ保守的な姿勢に直面したのです。

 採用第一号となった医療機関は、以下のような独自の工夫で獲得したそうです。当該病院に、テラが持つ樹状細胞の培養装置などの設備やシステムを協力して利用してもらう貸与の仕組みを考え出したのです。これによって、樹状細胞のガン治療技術を導入する当該病院は、初期の設備コストを抑えることができ、ガン治療を始めやすくなりました。 この事業戦略の下に、2005年5月にテラは東京都港区白金台にあるセレンクリニックと、樹状細胞を利用するガン治療技術サービスを技術供与する契約締結に成功しました。

 その後にも、難問があることが分かりました。創業の出発点になった東大医科学研究所の臨床的研究成果では、ガン患者からガンの部分を取り出し、これを患者本人の樹状細胞に与えてガン抗体情報を覚え込ませる過程を用いていました。ところが、多くのガン患者は他の病院などの医療機関でガンを摘出した後に、追加のガン治療としてセレンクリニックを訪れる方が多く、摘出したガンの部分が廃棄されて入手できないケースが多かったのです。テラは樹状細胞に対象となるガンの抗体情報を覚え込ませる手段が無いという大きな課題に直面しのです。「この当時が企業存続の危機として一番苦しい時期だった」とのことです。

 難問の解決策は幸運な出会いによってもたらされました。ガン治療法の研究者人脈を通じて知り合った、当時、徳島大歯学部の口腔外科講師だった岡本正人さん(現在、テラ取締役)は樹状細胞を直接、ガンの部分に注入する技術を開発していました。直接注入された樹状細胞がガン抗原情報を覚え、ガン抗原情報をリンパ球に伝えるため、ガン患者のガン部分が必要なくなりました。ただし、直接注入できる身体の個所のガン対象に限るとの条件が残りました。

 幸運な出会いは続きました。徳島大の岡本さんから、大阪大大学院教授の杉山治夫さんの研究成果であるガンの人工抗原「WT1ペプチド」の有効性を教えてもらったことでした。2007年8月に、WT1ペプチドの研究成果から産まれた特許を所有する癌免疫研究所(大阪府吹田市)から、同特許を樹状細胞利用のガン治療に使用できる独占的実施権を獲得しました。この特許の実施権を得たことによって、大部分のガン患者のガン部分が入手できなくても、樹状細胞を有効に働かせることが可能になりました。 ガンのワクチン療法の事業化を強化する努力を続けて、局面ごとに新しい知恵や工夫を取り込んでいます。事業内容を見直し続けることが成功を呼び込んでいます。

 今回の北大の遺伝子病研究所の教授である西村孝司さんとの共同研究が新しい知恵や工夫をもたらし、事業内容の強化につながると予想されます。その内容は、ガン抗原に特異的なヘルパーT細胞を誘導するという、小難しい内容です。この努力がいずれ幸運を呼び込みます。ベンチャー企業は事業内容を進化させ続けることによってしか、成功の女神のほほえみを呼び込まないと思います。

箱根湿性花園でササユリに出会いました

2010年06月14日 | 旅行
 神奈川県箱根町の仙石原にある箱根湿性花園に行ってきました。6月13日は関西まで梅雨入りし、関東にも梅雨前線が迫り、雨雲が次第に垂れ込めてくる天気になりました。

 箱根湿性花園は、湿原や湖水などの水湿地に生えている野草などを集めた植物園です。湿地帯に生えている野草が約200種類に、草原や林間などの野草に高山植物などを加えて、約1700種類の野草などが集められています。箱根町立の植物園は広さが約3万平方メートルあるそうです。その背後には、仙石原湿原植生復元区が広がっています。

 4月に咲くミズバショウなどから始まり、5月と6月には多くの野草が咲くとパンフレットに書いてあります。6月は「ニッコウキスゲ、ヒマラヤの青いケシ、ササユリ、トキソウ、コウホネ、アサザ、サンショウバラ、マツモトセンノウ、ハナマスなど」が咲くと説明されています。7月に咲く花と書かれていたニッコウキスゲ(本当は「ゼンテイカ」)も咲き始めていました。

 この植物園の良いところは、高原の湿原や草原、水湿地などに咲いている野草に簡単に出会えることです。各野草が育ちやすい場所に移植するため、実際にはかなり苦労しないとお目にかかれない野草に次々と出会えるため、少し拍子抜けします。高山を模した場所に、コマクサが既に一部咲き始めていました。きつい山登りをしないでコマクサに出会えるのはやはり拍子抜けです。心なし、高山のコマクサの方が、厳しい環境に耐えて健気に花を咲かせている気がしました。

 ノハナショウブ(野花菖蒲)やヒオウギアヤメ、カキツバタ(燕子花)が湿地帯や草原を模した所に咲いていました。この三つを同時に見ることができるので、三者の花の違いを学びやすい利点がありました。実際にはまずあり得ないことです。

 今回、初めて咲いているのを見たのはササユリ(笹百合)です。まるで園芸種のように華やかな野草でした。


 植物園の中では、ササユリの花の数はそれほど多くはありませんでした。夏になると関東ではヤマユリを多く見かけますが、関西ではササユリも多く咲くそうです。日本固有のユリの一つだそうです。

 ラン科のトキソウ(朱鷺草)の花にも初めて出会いました。薄いピンク色の花が、湿原の部分にあちこちに咲いていました。


 最初に見つけた時は、可憐な美しい花を熱心に撮影しました。木道を進むと、トキソウの花があちこちに咲いているため、次第にあまり撮影しなくなりました。贅沢なものです。ちょうど、開花したばかりのトキソウを撮影しました。トキソウは箱根湿性花園を代表する野草の花とのことでした。

 ミヤマアケボノソウという新顔にもお目にかかりました。これまで知らなかった野草です。


 知らない野草との出会いも、こうした植物園を訪れる楽しみの一つです。

 大型のサクラソウであるクリンソウ(九輪草)も予想以上にあちこちに咲いていました。花の色が濃いピンク、薄いピンク、やや朱色がかったものまでといくらか違いがありました。クリンソウは花が段々に咲いて行きます。最初の花は既に実になり始め、咲いている花の下部に層状に実を付けているものが多かったです。

 池の周辺部では、葉が大きく成長したミズバショウの近くに、コウホネやアサザなどの水辺の花が咲いていました。どちらも花部が水面上に伸びて花を咲かせています。コウホネは水面に濃い黄色の印象的な花を咲かせていました。

 スイレン科のコウホネ(河骨)には「ヒメコウホネ」「サイジョウコウホネ」などいくつかの種類があることを知りました。3種類のコウホネがそろって咲いていました。その違いはあまり分かりませんでした。コウホネの近くで大型のトンボが水中に尻尾を入れて卵を産み付けていました。ギンヤンマぐらいの大きさのトンボですが、名前は分かりません。

 箱根町では結局、雨は降り出さず、曇り時々晴れで済みました。その後、芦ノ湖の周りを回ってから箱根の山の尾根沿いに、箱根峠経由で静岡県熱海市まで移動しました。ロールケーキ専門店「えとわーる」に立ち寄るためです。熱海駅から急な坂を下った海岸の道沿いにあります。駐車場がないため、少し離れたところに駐車するしかない、不便な店です。おいしいので混んでいます(木曜日が定休日です)。閉店間近の時間帯だったので、ロールケーキはほとんど残っていませんでした。以前に、九州大学の教員の方に教えていただいた店です。具体的な口コミの情報は貴重です。


コミュニケーション・デザインを考えました

2010年06月12日 | イノベーション
 東京工業大学の講義「新エネルギービジネスとコミュニケーション」を聴講し始めました。
 6月10日木曜日から21日月曜日までのウイークデーの夜に開講される集中授業です。この講義は「エネルギー分野で異業種間コミュニケーションできる人材を育てる」ことが狙いだそうです。この狙いは複層的です。「企業のニーズと地域のニーズに基づくコミュニケーション」という二つのニーズを考えることも狙いだそうです。

 講義の主宰者・企画者は、2009年11月に横断組織として設立された環境エネルギー機構の西條美紀教授です。原籍は留学生センターに所属し、東工大で科学技術コミュニケーション論を展開している中心の方です。


 その西條教授が企画し、企業の方々をゲスト講師としてお呼びしてお話を伺います。午後6時から7時を間30分までの講義で、大学院の修士課程の学生の方が多く受講しています。社会人の方もいますが、ほとんどが東工大大学院の方のようです。

 「新エネルギービジネスとコミュニケーション」という講義内容は、カリキュラムのタイトルからは、最初は全貌(ぜんぼう)がつかめませんでした。第1回目の西條教授ご自身による講義全体の狙いの説明を伺って、中身を自分なりに理解しました。

 現在の複雑な社会システムの中で生きるには、コミュニケーション能力が重要になります。今回の講義は社会システムを「エネルギー」という切り口で考えてみましょうということのようです。そのためには、コミュニケーション能力が重要になるとのことのようです。

 日本はエネルギーの大部分を輸入に依存している先進国です。「石油などの化石燃料は約30年で枯渇する」と言われ続けています。少なくとも石油はかなり掘り出し、新しい油田を探し続けています。このため、かなり採取した油田からさらに採油する仕組みを導入したり、足場の悪い海底油田などにも頼る必要が出て来ています。その結果の一つが、米国メキシコ湾の原油流出事故です。米国は油田の代わりに、オイルサンド(原油がしみ込んだ石や砂など)を原油源にする計画も進めています。

 最近の日本での便利な生活はエネルギー多消費に支えられています。このため、日本は石油やLNG(液化天然ガス)を輸入し、発電源や自宅の熱源として利用しています。その一方で、新エネルギー源として太陽光発電や風力発電、地熱発電などのシステムの事業化を強力に推進しています。燃料電池や海洋温度差発電の製品化も図っています。特に、家庭用燃料電池は世界で初めて日本企業が製品化しました。詳細は公表できませんが、太陽光発電の研究開発プロジェクトや海洋温度差発電の要素技術開発などの評価にかかわった経験を持っています。実は今、バイオマス・エネルギーの研究開発など「グリーンイノベーション」の一部を評価している最中です。

 新エネルギー製品・事業の研究開発では、事業化を目指す企業などと、それを使うユーザーである住民などとは、持っている知識量に大きな差があります。例えば、燃料電池を普及させるには、その原料となる水素ガスの供給システムが社会インフラストラクチャーとして必要になります。水素ガスの大量製造法として、製鉄メーカーの転炉を使う方法の要素技術は、ある程度確立されています。この方法以外にも、水素ガスを安く、安定して供給する方法が研究開発されています。

 こうした要素技術の研究開発や事業化の進行と同時に、例えば燃料電池の事業化では、水素ガスに依存する未来社会の是非、具体的な例では水素ガスを身近に置くことの是非などを議論し、ユーザーのコンセンサスを得る必要があります。ユーザーという曖昧な表現ではなく、地域住民のコンセンサスを得ることが重要になります。

 日本は温暖化ガスの削減を熱心に図っています。京都議定書を踏まえて、民主党の鳩山由紀夫前首相は「温室効果ガスを1990年比で2020年までに25%削減する」と宣言しています。このために、企業と地域住民は具体的に何をするのか議論する必要があります。新エネルギーの実用化と温暖化ガスの削減を同時にどのように進めるか、この連立方程式を解く必要があります。

 こうした時に大事なことはコミュニケーションです。西條教授によると、地域住民などのユーザーが連携するにはコミュニケーション・デザインが重要になります。「誰と一緒にどうなりたいのかという、目的」「そのために何をするのかという、計画」、そしてその計画を実行して「どうなったかという、反省」「何をどう変えるかという、修正」をしっかり考えないと、お互いにコミュニケーションはとれません。「話せば分かる」というデザイン無しのコミュニケーションは、鳩山前首相の行動をみれば、その結果は明らかです。

 西條教授の研究グループは、静岡県掛川市で新エネルギー、特に太陽光発電システムが普及する際の住民に対するアンケート調査を始めているそうです。太陽光発電システムを導入した住民に「発電性能の自己診断に必要な情報提供」などをアンケート調査されているとのことです。住民の相互扶助による環境教育など、市民と行政、企業、大学の連携による地域の問題を解決するやり方を研究されているとのことです。

 複雑化する社会システムを個人としてどう理解し、行動していくかは大きな課題です。その時に重要となるのは、きちんと議論できるコミュニケーション能力です。


 講義「新エネルギービジネスとコミュニケーション」は、企業や大学などの外部講師が「コンプライアンスの取り組み」「企業倫理と技術者倫理」などの広範囲なテーマも講義されます。複雑な社会を理解するきっかけを与えてくれそうです。かなりの難問が次々と提示され、考え出すきっかけを与えてくれます。この講義ではディスカッションの場が設けられ、多様な意見をぶつけ合うことが重視されています。

 イノベーションを起こすには、いろいろな人と話し合い、様々な連携を実現することが不可欠です。コミュニケーション能力がイノベーターには重要となります。