いわゆるネタバレですのでご注意ください。
話題の映画『パラサイト』を見ました。現代の普遍的な世界的テーマである経済格差を取り上げ、それを映像的に印象付け、そして人間の心理に迫るすばらしい映画でした。具体的には以下の3点で感心しました。1点目は世界的な状況である経済格差をテーマにしながら、一方では韓国独自の問題の核シェルターや「半地下」という歴史的な問題をからめている点。2点目はそれが映像として視覚的にすっきりと入ってくる点。3点目はそれが単に構造的な問題として描くだけでなく、人間の心理を的確につかんだ描写がある点。さすがにカンヌ映画祭で評価された映画だと思います。
1点目。この映画は経済格差という世界的な問題をおもしろいストーリーに仕上げることに成功しています。日本でも経済格差は大きくなってきています。しかし韓国は日本よりもはるかに大きな格差があると聞きます。この主人公の家族は貧民と言ってもいいような状況です。日本とは違って働き口もない。しかし彼らはおおらかです。ここがいい。だから金持ち家族をひるむとなくだましていく。最初は単なるコメディだと思いました。しかし地下の存在が判明してからの展開はコメディを超え始めます。そもそも地下があるというのも、韓国独自の状況だと思われます。予想外の展開でありながら、これこそが格差の象徴だと思わずにはいられません。脚本の構造が見事です。
2点目。この構造が映像においても見事に表現されています。雨の夜に金持ち夫妻が庭にテントを張った息子の姿をみながらいちゃついている姿、そのテーブル下で家族たちが息をひそめている。そしてその地下では家政婦夫婦が気を失っている。この映像は美しさと、ばかばかしさと、悲惨さが同時に表されています。とても印象に残ります。雨が山の手にある高級住宅街から半地下の地域に流れていく構造が視覚的に印象にのこります。計算された映像構成が頭に残ります。
3点目。以上のような構造的な映画でありながら、一番印象に残るのは、父親が「におい」に一番反応したということです。人間は自分のにおいが臭いと言われることが一番いやなことです。性格や信条なんかで対立してもそれはかまわない。しかし自分のにおいが臭いと言われることには敏感に反応してしまう。それが凶悪な行動に結びつく。口にはださないが、誰もが理解できる人間心理の描写がすばらしいのです。実はこの映画の一番のポイントはそこだったのではないか。心の描写が一番共感を生む部分だったのではないかと感じました。
誰もが語りたくなる映画です。そういう発展性を感じる「開かれた映画」なのです