原作:太宰 治(「グッド・バイ」)
脚本:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:生瀬勝久
出演:藤木直人 ソニン 真飛聖 朴璐美 長井短 能條愛未 田中真琴 MIO YAE 入野自由 小松和重 生瀬勝久
山形市民会館で『グッドバイ』を見てきました。人間の愚かさと愛おしさを感じずにはいられないすばらしい舞台でした。
主人公の男、田島周治は女性に持ててたくさんの愛人がいる。岩手に疎開していた妻子を呼び寄せ、愛人とはわかれようと算段する。ストーリー的には以上のようなどうでもいいような話です。しかしこのどうでもよさは、広い視点からふとわが身を振り返るとだれにでもあるようなことです。真面目に生きている人にとっても、その真面目さは未来の人間からみたらどうでもいいことかもしれません。自分の姿を、全く新しい価値観で見直してみると、だれもが滑稽に見えるはずです。この作品はそんな人間の滑稽な姿を描いています。しかし滑稽であると同時、それが人間の普通の生き方です。人間は自分の生き方にしがみつくしかありません。誰に笑われようと、それを恥じる必要はないのです。愚かな人こそいとおしい、そんな気持ちにさせてくれる、勇気を与えてくれる作品です。
KERAの作品をKERA以外の人が演出するシリーズKERACROSSの作品です。KERA演出の『グッドバイ』は見ていないので比べることはできません。いつものKERAの演出では不思議な間がありそれがおもしろいのですが、今回はそういう感覚はありませんでした。しかし脚本そのもののおもしろさを素直に表現していて、脚本のよさが伝わってくるいい舞台になっていました。
最近のKERAの作品は人間の普段の営みを異化し、その愚かさを描くと同時に、その愚かさの愛おしさを感じさせます。どの作品もすばらしく、KERAは本の演劇界をリードする存在になっています。これまでKERAはほとんど自分自身で演出していましたが、それでは公演が限られます。KERAの作品を第三者の視点から見つめ直していく作業もあるべきです。今回の作品もKERAの脚本を生瀬さんが演出しており、これはこれでおもしろい作品になっていました。
昔は演劇は個人経営の中小企業のお仕事でした。それによって細かなニュアンスなど手巾芸的なすばらしさを生んでいたのは事実です。しかしそれでは大きな広がりがありません。継続可能な、発展性を求める必要があると思います。日本もそろそろ脚本家と演出家がそれぞれの仕事をこなすようになるべきだと思います。