夏目漱石の『漾虚集』の中の短編小説「幻影の盾」の読書メモです。
この小説は中世ヨーロッパの物語のような小説です。文体は「雅文調」と言うものなのでしょうか。漢文訓読調を交えた優雅な文体です。とは言え現代人には読みにくい。三人称小説ですが、語り手の視点は主人公ウィリアムに焦点を与えます。主人公の内面を描くことはできるようです。
内容はアーサー王の時代のお話です。中世ヨーロッパの兵士ウィリアムは白城の城主ルーファスに仕えています。ウィリアムは夜烏の城にいるクララと恋仲になります。しかし、かつて友好関係にあった夜鴉の城主と白城の城主の間に諍いがおこり、戦になってしまいます。戦の結果クララは焼け死にます。しかしウィリアムには「幻影の盾」がありました。その「幻影の盾」の中でウィリアムはクララと再会します。
この小説はどう読めばいいのでしょう。現実にはクララは死んでしまます。幻想の世界で二人は結ばれるだけなのです。悲恋の物語なのでしょうか、あるいは恋が成就したファンタジーなのでしょうか。
「倫敦塔」にせよ、「カーライル博物館」にせよ、やはり幻影に取りつかれた男の話でした。漱石の初期の作品は「幻影」を描いています。何を考えてこれをやっていたのか。『文学論』の「F+f」の「f」を確かめようとしているものと思われます。そこを掘り下げていきたいと思っています。
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