アントニオ猪木さんは昭和の大スターである。虚実を超えた屈折した共同幻想の中で輝いていた昭和の象徴だった。
私の小さかったころは、ほとんどの人がプロレスを真剣勝負だと思い熱狂していた。しかしいつの間にかプロレスを真剣勝負でないことに人々は気づいていった。「八百長だ。」という人もいたが、八百長ではない。命がけのショーだった。
大学生のころ、もうプロレスを真剣勝負だと思っていた人はほとんどいなくなっていた。しかしそれでもプロレスの人気は逆に上がっていた。IWGPという新しいタイトルをつくり、その初代チャンピオンを決める大会は異様に盛り上がった。ハルクホーガンが猪木を失神させて逆に困ってしまっていたが、これもまたプロレスらしい伝説になる。みんなが虚実入り混じった共同幻想に夢中になった。
猪木さんのすごかったのは、どんなことがあっても前にすすんだことだ。前に進む力は昭和に生きた私たちに不思議な力を与えた。
昭和という時代は胡散臭かった。しかしその胡散臭さをはるかに超えた力があった。胡散臭さにみんながワクワクした。それが人間の力だった。理屈を超えた人間の力がまだそこにはあった。その第一人者がアントニオ猪木さんだった。
いまだにあの頃の猪木さんの活躍に心が熱くなる。ご冥福をお祈りします。
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