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古代日本のルーツ・長江文明の謎(その7)

2021-12-23 09:10:20 | 日本文化の源流

〇長江文明の流れをくむ滇王国

不定期連載とは云え暫く中断していた。今回は、その7回目である。以下、安田教授の著述内容である。

”雲南省・昆明の南に滇池という湖がある。この湖のほとりに滇王国は形成された。滇王国には、豊かな森があり、水産資源があった。人々は水田稲作に加え、滇池での漁撈によって生活を立てていたようである。此の地は交通の要衝でもあった。インドや東南アジア、チベットなどとの交易によっても発展を遂げていた。ミャンマーや西双版納を経てタイやカンボジアへとつながる古道もあった。

滇王国の遺跡としては、石寨山遺跡や李家山遺跡、羊甫頭遺跡などがあるが、これらの遺跡を詳しく調査してみると、滇王国は長江文明の影響を強く受けていることがわかる。これらの遺跡からは、おびただしい数の青銅製品が発掘されていて、その中には大型の銅鼓も混じっている。その銅鼓にはかならず太陽が造形されている。

太陽といえば、稲作を発展させた長江文明のシンボルである。この点からも、滇王国と長江文明の深い関連を見て取れるわけだが、さらに石寨山遺跡や李家山遺跡から出土したものには、鳥が造形されていることも多い。鳥もまた、稲作漁撈民の象徴であり、長江文明に通じるものである。

(双鳥朝陽象牙蝶形器 出展・河姆渡遺跡博物館HP :太陽は稲作のシンボル)

滇王国のあった雲南の地に象徴的なものがある。省都・昆明から西に6時間のところに洱海(じかい・エルハイ)という湖があり、その湖畔には7世紀から13世紀まで栄えた南詔大理王国の都・大理市があった。南詔大理国は、雲南のナシ族などの少数民族が建国した仏教王国である。南詔大理国の仏教建築を代表するのが、洱海湖岸にある嵩聖寺の三塔である。この三塔は、仏教国だった南詔大理国のシンボルのようなものであり、もっとも高い塔は十六層、69.13mにもなる。教授が注目したのは、その塔の最上部で発見された鳥の像である。

(嵩聖寺三塔 出典・Google earth)

(大鵬金翅鳥 出典・雲南省博物館HP)

それは、大鵬金翅鳥(たいほうきんしちょう)とよばれる金属製の怪鳥だ。高さ20cmに満たない小さな鳥であったが、この塔の守護神となっている。この鳥は、一日に大龍を一匹、小龍を八匹食べるという。

なぜ鳥が龍を食べるかというと、この地では龍によってたびたび洪水が引き起こされるからだという。その龍を退治するため、鳥がつくられ、三つの塔が立てられた。塔は、大鵬金翅鳥の足であり、龍を押さえつけているというわけだ。

雲南省では昔から龍が悪者扱いされ、これを退治するのが鳥という構図がある。そこには水害以上の深い意味があった。すでに指摘したように、龍は畑作牧畜民のシンボルであり、鳥は稲作漁撈民のシンボルである。昔から雲南に住んでいた人たちは稲作漁撈民の子孫であり、新たに遣って来た畑作牧畜民との対立があったことが、鳥と龍の闘いには隠されているのではないか。

すなわち、滇王国は、長江文明崩壊後に生まれ、長江文明を引き継ぐ稲作漁撈民の王国だったのではないか。長江文明を担った人たちは、北方からやって来た畑作牧畜の漢民族によって、長江流域から追われた。その一部は雲南に逃れ、その地に築いたのが滇王国だったのではあるまいか。滇王国は、長江文明の栄光を引き継ぐ最後の王国だったのである。

その滇王国にも、やがて畑作牧畜の民がやって来た。ここでも、稲作漁撈文化の長江文明を引き継いできた人たちと、畑作牧畜文化の漢民族の対立があり、鳥と龍の闘いに反映されたのである。”・・・以上である。

ここで文中太字の『太陽といえば、稲作を発展させた長江文明のシンボルである。この点からも、滇王国と長江文明の深い関連を見て取れる』、『鳥もまた、稲作漁撈民の象徴であり、長江文明に通じるもの』については、教授の指摘通りである。しかし、後半部分の『大鵬金翅鳥と龍の関係』、つまり『龍は畑作牧畜民のシンボルであり、鳥は稲作漁撈民のシンボルである。昔から雲南に住んでいた人たちは稲作漁撈民の子孫であり、新たに遣って来た畑作牧畜民との対立があったことが、鳥と龍の闘いには隠されている』については、そのようであったとも考えられるが、これについては西方インドの影響が大きいと考えている。教授も指摘のように雲南昆明は、タイやカンボジア、ミャンマー、インドとの交易で繁栄した。当然ながら西方・インドの伝承も伝わった。インド神話ではナーガ(龍)はガルーダ(大鵬金翅鳥)に捕食される関係であり、北の畑作牧畜民と雲南の稲作漁撈民云々との教授の説は伝承の主体ではなく、そのような関係も背景の一つとして考察されるべきものであろう。

タイでは、ナーガ(龍)はガルーダ(迦楼羅・大鵬金翅鳥)に捕食される故事があり、ポピュラーな存在である。写真は、中世の北タイ・カロン窯の焼物である。なによりガルーダはタイ王室の紋章である。

<不定期連載にて続く>



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