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熱ルミネッセンス年代測定法

2016-05-13 07:59:11 | 陶磁器
過日、写真のサンカンペーン昆虫文盤に後絵の疑いがあることを掲載した。その可能性は20-30%程度と考えている。鉄絵顔料の発色は、特有の濃淡があり、その上は釉薬のガラス質で光沢がある。それは釉下彩(下絵)の特徴である。
一般的な後絵は化学顔料で、その発色にはムラがなく均一な色彩であり、洩れなく釉上彩(上絵)である。従って絵付けの上には、光沢はない。
 ・・・と云うことで、本歌の可能性は70-80%程度であろうと紹介してきた。しかし、それをも写し取る職人が、存在することを完全否定することは、できないと考えられる。そこで科学的年代測定が必要となる。

     (低火度の化学顔料では、このような鉄絵特有の濃淡は発生しない)
年代測定の仕方である。C-14年代測定法が比較的簡便であるが、陶磁器に炭素を含有しないので、それを用いることはできない。
そこで熱ルミネッセンス法を用いることになる。自然の鉱物には加熱すると蛍光を発するという熱ルミネッセンスと呼ばれる性質がある。その代表例は蛍石で、名前も加熱発光に由来している。宇宙線等の天然放射線が蛍石や石英などの鉱物に当たると、その鉱物を構成する原子に衝突し電子を放出する。この電子は結晶内に蓄積され、電子エネルギーとして保存される。長い年月の間放射線が当たっていると、鉱物結晶内の電子エネルギーは次第に蓄積されてくるが、鉱物が一旦加熱されると、蓄積されていた電子が放出され、電子のエネルギーは蛍光となって発散される。この時発光する蛍光の強さは、その鉱物がそれまで受けてきた放射線量に比例する。
土器は粘土を成型焼成して初めて土器になるが、焼成時に500度以上に加熱されるため、それまでに蓄積されたエネルギーは一旦ゼロになる。その後自然放射線が常に一定に当たっているものとすると、蛍光の強さは土器が製作されてから経過した年数に比例することになる。熱ルミネッセンスの年代測定法は、試料を加熱して放出されるエネルギー(天然ルミネッセンス強度)を測定し、その試料に一定の強さの放射線を一定時間照射したのち再び加熱してその時放出されるエネルギー(人為熱ルミネッセンス強度)を測定し、次式から年代を決定する。
(天然ルミネッセンス強度/人為熱ルミネッセンス強度)/(照射放射線量/年間放射線量)
熱ルミネッセンス年代測定法は試料の採取法、年間放射線量の決めかたなどに、いろいろ課題があるとのことであるが、絶対年代を判定する方法が開発されたことに意義があるという。

そこで、先に紹介した松江の分析業者と相談をした。
後日、費用や分析資料採取について、返答を頂くことにしていたが、その回答を以下の内容で受け取った。
先ず分析料金は25万円+消費税。年代測定結果は、以下のようなことが想定されるとの回答である。
陶磁器の履歴が分からないため、「年間線量」を正確に求めるはできない。このため、15-16世紀(本歌)か、ほぼ現代(後絵)かの区別は可能であるが、正確な年代を求めることはできない、とのことであった。また、分析試料を採取するために、10×10×5mm程度の堆積を削り取る必要がある、とのことである。
当初、1分析あたり10万円程度との情報もあっただけに、ここは白黒つけようという気になっていたが、25万円+消費税とのこと、さらに資料採取のため大きく削り取るという。これでは、本歌であったとしても、骨董価値は皆無となる。2-3日考えたが、諦めることにした。

今後は、本歌同様な後絵を行う職人の存在有無を、現地にて調査することにしたい。




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