昨年度、一年間のPC販売台数において、中国が1800万台を超え、1700万台のアメリカを抜く。つい先日のニュースです。数年前、アメリカIBM社がPC部門を中国のレノボに売却しました。採算が合わないとの判断がIBMに働いたのでしょう。最近では、HP(ヒューレット・パッカード)もPC部門を売却する計画を発表しました。これで、コンピュータ大手がPC部門より手を引くことになりました。
中国ばかりか、インドをはじめ、アジア各国(新興国を含む)のPC販売は依然好調です。HPといえば、PCの勇、コンパック(PC売り上げ世界一位の企業)をかつてM&Aした。そのコンパックは、ミニコンの勇、DEC(デジタル・イクイップメント)を吸収合併した経歴をもつ会社であった。ミニコン界ではずーと首位DEC、万年2位のHPであったので、2位が1位を食った例として記憶されている。
この先、企業の基幹部門はどのよなコンピュータシステムを構築するのだろうか。PCはあくまでも基幹システムの端末として生き残るだろうし、また個人ユーザー用に、今までどおり多数のPCが販売され続けるだろう。
大手のコンピュータメーカーは、ハードを作って売る時代から、コンピュータシステムを構築販売する、別の表現をすえば、システム開発売りの会社へと変貌をとげた。
インターネットを利用して、セキュリティーに強い、クラウド・コンピューティングを提案する企業へと、大手コンピュータ各社は変身した。それは、富士通、NEC、日立、日本IBM各社が得意とした、ユーザー・オリエンティッドなシステム開発に他ならない。顧客企業が抱える問題を解決するシステムを提案し、それを実現する、日本で生まれたビジネスモデルが、いまやアメリカを代表するコンピュータ・メーカーのIBMのビジネスモデルとなった。
私が学生時代、日本IBMのTOPであった、椎名社長(慶應義塾大学工学部出身)に講演会でお話いただいたことを思い出す。
椎名さんは慶應を卒業すると、本国IBMにて研修を受けることになった。
研修の途中、米国IBM本社の社長、トーマス・ワトソンJr.に社長室に呼び出された。
ワトソン「君、わが社は何を作っている会社かね?」
椎名「もちろん、コンピュータです。他に、ビジネス関連の商品を製造販売しています。」
ワトソン「そうだとも。ではIBMが創業当時、何をつくっていた会社か君は知っています
か?」
椎名「あいにく、存じ上げません。」
ワトソン「実はね、ひき肉を挽く機械の製造、販売をする会社だったのだよ。」
椎名「そうでしたか。それは知りませんでした。社長はこの話で、私に何をお伝えになりたい
のですか?」
ワトソン「よく聞いてくれた。はるばる極東の国から来てくれた君に、是非伝えたいことがある
んだよ。今でこそ、我がIBMは時代の先端といわれるコンピュータの製造販売を主力
とする企業だ。でもね、100年前は挽肉製造機を造って売る会社であった。
そんなわが社が、100年後コンピュータを製造販売する会社のままでいるかどうか
はわからないね。しかし、永続する企業を目指し、常に時代の流れを冷静に読みき
ることが、わが社の経営者に必要とされる能力なのだよ。君の父君が頑張って我
が社の製品を日本国内で販売してくれて感謝している。若い君がこれから生きて
いく上で、先に話した私の話を常に忘れずにいてほしい。100年後我が社が何
を売る企業となっているかは分からないが、何を売るにしろ、企業としてしっかり
存在し、人々の役に立つ企業であり続けてほしいと思う。研修が終わって、日本に
帰っても、今日の話は忘れずにいてくれたまえ。」
椎名「はい、有難うございました。常に変化を読み、時代に送れず、時代を先導できるよ
う頑張りたいと思います。」
大筋で以上のような会話が取り交わされた。
OBの一人として、後輩たちの参考になればと、快く講師を引き受けてくださった椎名社長。講演会のことがつい昨日のことのように思い出されます。
コンピュータシステムばかりでなく、この世の中がどう変容していくのか、そこのところを常に見据えて、毎日を真剣に生きていこう。お互いにね。