身体訓練 4.二人組バランス
成井豊は二人組バランスをやる理由を二つあげている.
1.共演者と息を合わせる練習になるから.
2.相手を信頼する練習になる.
これはなかなか面白そうなので,今度高校生に芝居を教える時にぜひやってみようと思っている.
今まで、高校生に芝居を教える時にやっていたのは、「後ろに倒れる」というやつだった。これは一人がまっすぐに立って、正面を向いたまま後ろに倒れ、もう一人がそれを受け止めるというもの.2.の相手を信頼する練習と同じ意味を持つ.
「後ろに倒れる」は、催眠術の誘導法からヒントを得たものである.実際の舞台では山海塾の「金柑少年」のバットウ(直立したまま後ろへいきなり倒れる)のような応用方法もあるが,きわめて危険であり、40過ぎるとマットを敷いてないと怪我をする.山海塾の得意技でもあるが,地がすりの下にマットが欲しくなったと言っているのを聞いたことがある.また、コリンウイルソンはその著書の中で、こうやって後ろへ倒れることで体全体が恐怖に抵抗するため、一挙に免疫力が高まると書いている。コリンウイルソンが風邪を引いた時には、これをやって直すのだそうだ.もっともうろ覚えなので,椅子に座って後ろに倒れるだったかもしれない.
月虹舎の前身である「三月劇場」の「エデンの東の向こう側」では、練習でラストシーンがいまいち決まらなかったのだが野沢達也が椅子に座ったまま後ろに倒れこむという離れ業をやって、本番の評判は極めて良かった.もちろん、これも危険なので誰にでも勧めるというわけではない.
私は立場的に、役者ではないので,相手の体の状態を知るのにはマッサージをすることにしている.これについては、基礎訓練とはまた異なる話になるので別のところで書くことにする.
追記:二人組バランスはその後高校生の練習や自分の練習で試したが、体が柔らかくないとうまくいかない。ここにいたるだけでも、道のりは遠いといえる.
とまあ、ここまでで当時は書くのをやめている。
きっと空しくなったのかな。
でも、今読み返すとよくこんな分量書いているな。
身体訓練 3.筋力トレーニング
筋力トレーニングに限らず、一人で何かをやろうとしてもなかなか続かないものだ.ただ、志を同じにする仲間がいる時にはいいが、そうでない時にはこういう努力は空回りになってしまう.そこが分かっているから,成井豊は最初から「プロを志すのなら」という注文をつけているわけだ。
では、アマチュアはどうしたら良いのだろう.少し早めに練習場に行って自分だけでもトレーニングを行うしかない.練習場を借りられる時間だけだって限られているのだから.
なかなか、いっしょにやってくれる仲間は増えないかもしれないが,仕事があり家庭があることを考えるとあまり強制するのもどうかと思うし、なかなか難しい話だ.ただ、こういう世界では基本的に努力する人間は、どういう形であれ報われるはずだと、私は信じている。少なくとも消える運命にあるのは、何の努力もなかった場合であることは明らかだ.
さて、今までの経験から、みんなで基礎練習が大好きという劇団には、気をつけてもらいたいことがひとつある.基礎練習をやることが目的化してしまって、本番がつまらないということだ.つまり、「基礎練習をみっちりやったぞ」ということで満足してしまうのだ.アマチュアの場合はあくまでも公演を持つということが最終目標なのだということを忘れないでもらいたい.
追記。
筋力トレーニングは、自分にあったものをやること。私はダンベルをやりすぎて、左手が痛い。
身体訓練 2.ストレッチ
見本の写真のとおりにやって、うまくいった人がいたらぜひメールをください。私はうまく出来ませんでした。まあ、形にはなるのだけれど、ストレッチの効果がどうでるのかが分からない.第一、説明が読みにくい.私はスキャナーで読みこんで、2倍に拡大して、画像ソフトでノイズを消してやっと読めました.
ストレッチはもう少し一つの動作を静止させるのが長いような気がするのですが,これにはそういう指定もない.というか、たまに16秒静止と出てくる.どちらかというと、体操に近いようです。
愚痴はこれくらいにして、ここで読むべきは次の部分である。
”「自分の体ぐらい、自分の思い通りに操れるさ」と大抵の人は思っている。が、それはあくまでも日常生活においてであって、舞台上では全く違う。なぜなら、舞台上で行う動作は、すべて嘘だから。思わず動いてしまうのではなくて、「こう動こう」 と思って動く時、諸君の体には、ある緊張がかかる。腰が浮いたり、肩が上がったり、掌がパーかグーになったり、人それぞれだが、その時、諸君は科白やお客さんの反応に集中していて、自分がどんなに不自然な動きをしても、なかなか気づかない。”
解決方法としては、次のように言っている.
”身体感覚を豊かにするためには、とにかく自分の体を知ることだ。そのために、とにかく体を動かすことだ。遮二無二動かしても、意味はない。ある様式に則って、決まった動作を何度も繰り返すこと。そして、その動作をマスターすること。完全にマスターできた時、諸君の体からは、きっと余分な力が抜けている。そして、変なクセも取れている。”
困ったことに真実である.困ったことにというのは、私のような怠け者にとって,という意味だ.逆を言えば,こんなにはっきりと答えは見えている、とも言える.
昔、暗黒舞踏の「大駱駝館」の公演中、事情があって家にいづらくなったので,公演会場に居候させてもらったことがあった.(ここまでは私事で話題とは関係ありません)そこで驚いたのは、暗黒舞踏にも様式があるということだった.「獣」とか「虫」とか呼ばれているもので、バレーのような西洋的なものとはもちろん違うのだが。
この、「ストレッチ」で読むべき部分は次の個所である.
”相対評価は必要ない。自分がどうできないかを客観的に把握し、どうすればできるようになるのかを考える。そして、常に今日の自分と昨日の自分を比較するのだ.つまり、絶対評価だ.”
高校生・大学生はこれを受験とか就職試験に置き換えれば、どう勉強したらいいのかがなんとなく見えて気はしないだろうか.私達は毎日ニュートンやガリレオになって引力や加速度を最初から発見することは出来ない.ただ、それを使うことは出来るのだ.公式と様式は一音違いだが,まあ、似たようなものだ.
さて、私のように怠け者の場合、勉強がそういうものらしいと気がついたのもつい最近のことであるので,もちろんこんな様式うんぬんは一度も実践したことがない.
某劇団の練習に参加した時に、ターンの練習をしたことがあるくらいである.たった2週間程度の練習だったが、指導者が良いと練習も楽しい.アマチュアの悲しさで,本番近くなったらせっかくの基礎練習をやらなくなってしまったのも残念だった.
私からのアドバイスは、何かに通うなら一流の講師を選んだほうが良いということだ.一流になればなるほど、発言は合理的で練習も合理的になる.中味は厳しいかもしれないが,楽しいはずだ.
追記
本当はここで、取り上げたかったものに,舞踏家・田中泯の身体気象がある。25年ほど前になかいまよしこ(漢字を忘れた)さんの劇団の稽古を覗きに行ったら田中泯さんが指導していた一種のストレッチである.
通常のストレッチが一人でやるものなのに,これは二人組でやるだけでなく、相手の状態を確認する手立てが考えられている点に特色がある.残念ながら一回しか参加しなかったので,詳しく覚えていない.ホームページにやり方が示されているかと思ったが,どうやらそういうものもなさそうだ。経験されている方は結構いるはずなので,どなたかホームページ上で公開していただけないだろうか
身体訓練 1.マラソン
ここでは、プロの役者には学芸会とは違うのだから持久力があって、柔軟な体作りが必要だということが書かれている。しごくごもっともな意見であり異論は何もない。
成井豊の個人的なエピソードも書かれていて、ほほえましい。読み物として楽しめばいいだろう。
ただ、走ること一つとっても実際に自分でやろうとするとなかなか出来ないものだ。
開演前の劇場を走っている有馬稲子さんの話がエピソードとして載っているが、実は私も同じような光景を目撃している。パルコ劇場で山口小夜子さん主演のパフォーマンスを手伝った時、開演前の劇場の中を小夜子さんは走っていた。主役を張る人というものはこんなものかなと感心させられたものである。
日常の中では走ることは少ないので、脚力に自身のない人はまず、自転車に乗ることをおすすめする。膝への負担が少ないことと、通勤通学も訓練に成るからである。
私の通勤の途中で、毎朝走っている人がいる。真冬でもランニングシャツにナップザックをしょって走っている姿を見ると、感心させられる。工場に入っていくので、走って通勤しているのだ。だが、同時にあの後仕事になるのだろうかとも思ってしまう。日常訓練すれば平気なのだろうか。
私の職場は自宅から17km、とても走る気にはとてもなれない。普段の通勤はスクーターである。たまに、自転車で行くことがあるが、片道1時間10分かかる。2日続けると疲労がたまるので、毎日続けるのはとても無理だ。もっとも20代の頃は公演前に時々10kmくらい走っていた。
それと、走ることと自転車では、体のバランス感覚が違うので、自転車は持久力に関わる筋力を向上させることしか出来ない。舞台で走ることはあっても、自転車に乗ることはまずない。やはり走ることは重要である。
もうひとつきれいに走ることを意識してみてもらいたい。役者は自分の体を見せるのが本領である。きれいにこしたことはないと、私は思う。
ところで、この章の最後で成井豊は「とにかく走れ!走ることで体力をつけ、精神力を鍛えろ!」と書いている。「精神力を鍛えろ!」というのはいきなりのセリフで、その前にも説明はない。どういう意味なのだろう。そんなに難しい謎ではないとおもうが、成井豊はなかなか謎の出し方もうまい。
追記
これを書いた2年後に、自転車通勤を開始。年間の半分ぐらいを自転車で通勤している。通勤にかかる時間も55分ぐらいになった。さらに、2008年からは週に1~2度、ジムのランニングマシンで3km~4km走るようにしている。
自転車で今まで最高に走ったのは1日で268km。
レポート①役者としての私の魅力
作者はここでまずレポートを課している。課題は「役者としての私の魅力」である。
サブタイトルは2つ。
・自分を映す正確な鏡
・自信とは何か
「自分を映す正確な鏡」で成井豊は書いている。とにかく役者が考えて書くことが大切なのだと。
ではまず書いてみよう。
管理人の場合.
●氏名kurage ●年齢 54歳
●身長162cm●体重63kgB不明W82cmH不明
①あなたの顔の長所と短所を客観的に書いてください.
長所:顔が横に広くて、身長の割に大きいので舞台では大きく見える。
短所:歯磨きが悪かったので、歯が差歯でなおかつ神経がないせいで黒ずんだ歯がある.
②あなたの体の長所と短所を客観的に書いてください。
長所:脹脛が太いため、持久力に優れているところである.
短所:なで肩で肩こりをしやすいことと、喉仏がないこと。体が硬い.瞬発力がない.
③あなたの性格の長所と短所を客観的に書いてください。
長所:執念深く、問題を解決するまでねちねちと努力する.
短所:嫉妬深く、自分に関係ないことにはいいかげん。
④役者としての長所と短所を客観的に書いてください。
長所:大胆な演技ができる.
短所:セリフを覚えるのが嫌い。体が硬いので、演技がマリオネットのよう。
セリフが雑で繊細な演技が出来ない.過去にやった演技を再現できない.
⑤役者としてのあなたの魅力は何ですか.
それが、今現在、あるないにかかわらず書いてください.
怖いもの観たさの時、つまりホラー物には適役だと思う.
⑥あなたは将来どんな役者になりたいですか.
具体的な例をあげながら書いてください.
昔は大久保鷹のような訳のわからない演技ができる役者になりたかった.
今は唄って踊れるようになりたい.
いささか恥ずかしい気もするが,こんなところである.3サイズは測ったことがないから知らないだけだ.
さて、社会人はともかく、大学生と高校生はこのレポートは必ずやるようにお勧めしたい.実は、受験の願書を書いたり就職試験のための履歴書を書くときに参考になるからだ.
受験の願書にこんなのを書く欄はない.履歴書にだってもちろんない.ただ、趣味や長所を書く欄はある.こういうところは何気なく書いているかもしれないが,実は一番よく読まれているところである.
個性の時代とか言われるので、こういうところで個性を出すにはどうしたらいいか、悩むところだが、実は試験官は必ずしも個性的であることは求めていない.
かといって、趣味「読書」性格「明朗闊達」では、差別化も出来ない.こういうレポートは、客観的に自分を見つめなおすいいきっかけなのだ.正直な自分を、自分の言葉で、分かりやすく伝えることの出来る人材を、あらゆる所で求めているのである.いかがだろう、役者に求められることとよく似ているような気がするが.
これを書いたのが8年前。
先日、従兄弟の娘の大学の推薦入学に必要な書類の作成を手伝いましたが、やることは似たようなものでした。
役者向きのテキストをそんなに何冊も読んだことがあるわけではないが、分かりやすく、役者以外の社会人のテキストとしても適しているのが「成井豊のワークショップ」(演劇ブック社)だ。
これについてはホームページで説明しようと思って書きかけた文章がある。
以下はその文章。
2000年12月に「貧乏な地方劇団のための演劇講座-実践編」を書き始めた頃、この本(「成井豊のワークショップ」)は出版されていた。(2000年3月)そのころ本屋で見かけたきもするが、実際に購入したのは2001年の9月である。それからぽつぽつと"「成井豊のワークショップ」を読む"という題名で自分なりに感じたことを書き始めた。ところが、パソコンの操作ミスで書きためていたものがすべて消えてしまうというアクシデントが生じたため、"「成井豊のワークショップ」はこう読め"という形で書き直すことにした。
これを書くことしたのは、次のような理由だ。
1.人気作家なのでみんなが知っている。
2.元高校教師なので文章が分かりやすく、中味が実践的である。
3.私が書きたいと思っていたことが、さらに適切に表現されている。
4.しかし、アマチュアや中途半端なプロが真似をするにはカリキュラムが膨大すぎる。
5.そこで、私なりに整理してこの中から最低限の部分を取り上げてみることにした。
とにかく今の私は現場を持っていない。頭の中だけで考えるよりも、比較対照するものを見据えながら書く方が安全だろうという判断である。
注意は一つだけ、私の文章はあなたの脇に「成井豊のワークショップ」があることを前提に書いている。ぜひ新刊で購入して、読みながら対照していただきたい。
発行は演劇ブック社、発売は星雲社である。価格は税抜きで2000円。
演劇関係書はそんなに売れないものだ。ぜひ作者には多少なりとももうけてもらって、いい環境で新作を書いてもらいたいではないか。
はじめに
「はじめまして、成井豊です。」
なんとさわやかで、端的な出だしであろう。
この出だしだけでも、ただ者ではない作者の才能が伺えるのである。芸能界というところは挨拶が大事だそうだ。プロの劇団ももちろん同じだろう。プロを志す人間にまず自分が手本を示す。それも簡潔にして的確に。さすがというほかない。
そう、この「はじめに」にはこの本はプロの役者になりたい意志と覚悟のある人のために、書かれたのだということが書かれている。
この章のサブタイトルは次のようなものである。
・プロの役者になりたい人へ
・ワークショップの目標
キャラメルボックスの新人練習
・「演技しない演技」とは
・「心を動かす」ということ
・「意志と覚悟」を持て
これを要約する次のようになる。
ワークショップの目的は「感情解放」ができるようになることで、「感情解放」とは自分の心が真っ白な状態で舞台にのぞめること、言い換えれば「演技しない演技」をすることである。ではどうすれば「感情解放」ができるようになるのかというと、恥を捨て、バカになることで、これが結果としてカッコよく見えるのだ。自分自身のかっこわるい部分をさらけだす「意志と覚悟」この二つを持つもののみが「感情解放」を成し遂げられる。
私だったらまず次の点を無視する。
1.プロのために書かれた本。
2.意志と覚悟が必要。
大多数のアマチュアにこんな覚悟があるはずがない。ただカッコよく見せたいという欲求があるだけなのだ。仕事もある、恋愛もしたい。ギャンブルや酒飲みだってしたいのだ。それでも時々舞台に立って人とは違うところも見せたい。もしあなたが私と同じならば、こんなものではないだろうか。
ただ、そこそこのことをしなければ、面白いと言ってもらえないことは薄々気が付いている。要はこの本の中から必要なところだけを吸収すればいいのだ。そうすれば、この本が単に「演劇」の練習本という意味を持つだけでなく「受験」や「就職試験」にも活用できるなかなかの優れ本であり、なおかつ読み物としても楽しめることが分かってもらえるはずである。
ナビゲーターは私である。さあ、気楽に次のショウに行こう。
とまあ、こんな感じです。
続きはトピを改めて書いていきます。