【Live Information】
★毎日1枚、自分に影響があったアルバムをご紹介するプロジェクト★
【8】 キース・ジャレット 「Standards vol.1」
洋楽に本格的に目覚めたのは中学時代。
そのころロック以外でどんな音楽に夢中になっていたかというと、「映画音楽」と「マーチ」です。
「映画音楽」なんてジャンルは、今では死語に近い感がありますが、まさに美メロの宝庫なんです。いま一番欲しいCDは、サウンドトラックの「映画音楽大全集」的なものです。久しぶりに浸ってみたいな。
そして「マーチ」ですが、実はメロディがカッコイイものばかりなんです。(軍を鼓舞するための音楽なので当然なんですけれどね)
ではそもそも記憶に残っている中で最も古い洋楽というと。。。
まだ保育園に通っていた頃のことです。
午後遅く、ぼくはいつも居間のテレビで天気予報を眺めていました。まだ白黒放送とカラー放送が混在していた時代です。
記憶の中のぼくは、ひとりきりでテレビの前に座っています。
バックでたんたんと流れているのは、ピアノで奏でられる美しい曲でした。愛らしく清楚なその曲は、ぼくが天気予報を見るたびに、まるでペンキを丁寧に何度も何度も重ねて壁や家具に塗るように、徐々に濃く心に沁み込み、記憶の抽斗に刻まれました。
時は20年ほど流れ、大人になったぼくはジャズを聴くようになります。いろんなCDを漁っているうちに、ビル・エヴァンスにたどり着きます。そして女性のシルエットのジャケットで有名なアルバムから優しく可愛らしいワルツが流れてきた時、眠っていた記憶が甦りました。あっ!と思いました。
保育園の頃テレビから流れていたあの曲は「ワルツ・フォー・デビイ」だったんですね。
これがぼくのいちばん古い、ジャズ、いや洋楽にまつわる記憶です。
音楽の原体験という意味では、エヴァンスの影響がないとは言えないでしょうね。
そのおかげかどうか、エヴァンスはもちろん、ドン・フリードマンやミシェル・ペトルチアーニなどのリリカルな白人ピアニストは大好きで、いつしかあんなジャズを演奏してみたいと思うようになりました。
そしてキース・ジャレットです。
ゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットと組んだトリオは「スタンダーズ」と呼ばれ、数多くのスタンダード・ナンバーを彼らの感性で蘇らせました。
その中で体の奥から感動したのが、「Standards vol.1」に収められた「God Bless The Child」です。
初めて聴いた時から気持ちを激しく揺さぶられました。文字通り虜になりました。
自分の気持ちを代わりに音で表現してくれたような気がする不思議な感覚、あるいは自分の内面に潜んでいる音楽の指向を引き出されたような感覚、と言ったらいいのでしょうか。
ゴスペル・ロック風のアレンジと、三人の渾身のソロは、いまだに聴くたびに胸をアツくさせてくれます。
CDのクレジットでは15分32秒の長尺ですが、長いと感じたことは一度もないですね。「Let It Be」や「My Back Pages」などと並んで、間違いなくぼくは死ぬまでこの曲を聴き続けるでしょう。
リリカルな演奏とゴスペル・フィーリングの、極上のブレンドです。
自分もいつもこんな演奏ができたら、と憧れています。