【Live Information】
いわずとしれたR&B(リズム&ブルース)、あるいはソウル・ミュージックの名曲、「ホワッツ・ゴーイン・オン」。
日本では、当初「愛のゆくえ」というタイトルで発表されました。
この曲をカヴァーするミュージャンは数知れず。
またR&B系のセッションでは「フィール・ライク・メイキン・ラヴ」などと並んでしばしば演題に取り上げられる定番曲でもあります。
マーヴィン・ゲイは1971年5月に、現在では「不朽の名作」と言われているアルバム「ホワッツ・ゴーイン・オン」を発表します。
このアルバムに先がけて、1971年1月に同名シングル・レコードがリリースされましたが、あっという間に10万枚の初回プレス盤が売り切れてしまったそうです。
ベトナム戦争や公民権運動などで大きく揺れた1960年代は、アポロ11号の月面着陸やビートルズの解散、ド・ゴールの死去などの出来事とともに、混沌の中で終焉に導かれました。
しかしそれらは同時に、新たな時代の幕開けを予感させる空気をも秘めていました。
そういう時代の中で制作されるポップ・ミュージックには、当然のように歌詞に政治的メッセージを込めた作品も多く見られるようになりました。
黒人音楽も例外ではなく、1960年代後半からはエドウィン・スターの「黒い戦争」やジェームス・ブラウン「セイ・イット・ラウド」、テンプテーションズの「ボールズ・オブ・コンフュージョン」などの政治的主張を伴う曲が発表され、支持されていました。
Marvin Gaye
マーヴィンの弟であるフランキーは、ベトナムからの帰還兵です。
フランキーの語る悲惨な戦場の様子に衝撃を受けたマーヴィンが作った曲、それが「ホワッツ・ゴーイン・オン」だと言われています。
「こんなに多くのものが母さんに涙の雨を降らせ」「仲間が次々と死んでゆく」この状況を、「愛を降り注ぎ」「愛で憎しみに打ち勝つ」世の中にしよう、と優しく、力強く歌っています。
「愛があれば世界はもっと素晴らしくなるんだ」という思いでルイ・アームストロングが歌っている「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」を思い出しますね。
マーヴィンの甘くセクシーな声で歌われる「ホワッツ・ゴーイン・オン」。
パーカッションとリズム・ギターとベースが生み出すリズムはグルーヴィーでありながら、ゆるやかに淡々と流れてゆきます。
スタイリッシュなストリングスとソウルフルなコーラスは、曲にドラマチックな陰影をつけています。
イーライ・フォンテーヌがイントロで聴かせてくれるアルト・サックスが、これがまたクールなんです。
イントロとインターリュード、エンディングで聞かれる声は、「群衆の声」を想起させるものがあります。
その「声」によって世の中が変わってほしいと願っている、ように聞こえるのは考えすぎかな。
マーヴィンの歌うオリジナル・バージョンと並んでぼくが大好きなのは、ダニー・ハサウェイの「ライヴ」(1972年)に収められているバージョンです。
Donny Hathaway
ダニーの弾くグルーヴィーなエレクトリック・ピアノですぐに気持ちを鷲掴みにされます。
そのダニーの歌は、力強く、優しい。
彼の歌声は「ソウル」そのものです。
この歌声に勇気づけられた人も多いのではないでしょうか。
バンドが繰り出すリズム、これがまさに強力な「グルーヴの波」なんですね。
体が自然に揺れてしまいます。
後半からエンディングに向けてどんどん熱くなる演奏は、感動的ですらあります。
この両方のバージョンに共通しているのは、パーカッションがリズムをより強化していること。
そして盤石ともいえる強力なベーシストが起用されている、ということです。
ベースを弾いているのは、マーヴィン盤がジェームス・ジェマーソン、ダニー盤はウィリー・ウィークス。
ふたりともベーシストの歴史に残るであろう名うてのグルーヴ・マスターです。
「What's Going On」。
「いったい何が起きているんだ?」、という意味です。
曲の背景を知ると、悲壮感すら感じられるタイトルです。
それは今でもあまり変わっていないような気がするんです。
「What's Going On」には、他に「やあ、どうだい」「元気?」というニュアンスもあります。
「やあ元気かい?」という意味の「What's Going On」が、すべての人のあいだで笑顔をもって交わし合える日、それがマーヴィンやダニーが歌に込めた願いの実現する日なのではないでしょうか。
【歌 詞】
【大 意】
母さん
たくさんのできごとがあなたに涙を流させる
兄弟たちよ
大勢の仲間が次々と死んでゆく
だから今ここで愛をもたらす方法を見つけよう
父さん
もうたくさんだ
愛だけが憎しみを克服できるんだ
戦争では解決にならない
だから今ここで愛をもたらす方法を見つけよう
デモ隊、彼らが掲げるスローガン
暴力で痛めつけるのはやめてくれ
話せば分かるがずだ
いったい何が起こってるんだ?
何がどうなっているんだろう?
母さん
みんなが「間違っている」と思っている
けれど僕たちの髪が長いというだけで判断される覚えはないんだよ
だから今ここで愛をもたらす方法を見つけよう
◆ホワッツ・ゴーイン・オン(愛のゆくえ)/What's Going On
■作詞・作曲
アル・クリーヴランド/Al Cleveland、レナルド・ベンソン/Renaldo Benson、マーヴィン・ゲイ/Mavin Gaye
Album「What's Going On」(Marvin Gaye)
■歌・演奏
マーヴィン・ゲイ/Mavin Gaye
■プロデュース
マーヴィン・ゲイ/Mavin Gaye
■シングル・リリース
1971年1月20日
■収録アルバム
What's Going On(1971年)
■録音メンバー
マーヴィン・ゲイ/Mavin Gaye (vocals, piano, box-drum)
ジョニー・グリフィス/Johnny Griffith (keyboards)
アール・ヴァン・ダイク/Earl Van Dyke (keyboards)
ジョン・メッシーナ/John Messina (guitar)
ロバート・ホワイト/Robert White (guitar)
ジェームス・ジェマーソン/James Jamerson (bass)
チェット・フォレスト/Chet Forest (drums)
ジャック・アシュフォード/Jack Ashford (percussion)
エディ・"ボンゴ"・ブラウン/Eddie "Bongo" Brown (percussion)
イーライ・フォンテーヌ/Eli Fountain (alto-sax)
デトロイト交響楽団 etc・・・
■チャート最高位
1971年週間シングル・チャート アメリカ(ビルボード)2位、アメリカ(キャッシュボックス)1位
1971年週間R&B/Souチャート アメリカ(ビルボード)1位
1971年年間シングル・チャート アメリカ(ビルボード)21位、アメリカ(キャッシュボックス)22位
1971年年間R&B/Souチャート アメリカ(ビルボード)2位
Album「Live」(Donny Hathaway)
■歌・演奏
ダニー・ハサウェイ/Donny Hathaway
■プロデュース
アリフ・マーディン/Arif Mardin
■収録アルバム
ライヴ/Live(1972年)
■録音メンバー
ダニー・ハサウェイ/Donny Hathaway (vocals, electric-piano)
フィル・アップチャーチ/Phil Upchurch (lead-guitar)
マイク・ハワード/Mike Howard (guitar)
ウィリー・ウィークス/Willie Weeks (bass)
フレッド・ホワイト/Fred White (drums)
アール・デロウエン/Earl DeRouen (conga)
■チャート最高位
1972年週間アルバム・チャート アメリカ(ビルボード)18位
1972年週間R&Bアルバム・チャート アメリカ(ビルボード)4位