【Live Information】
ユーライア・ヒープ。
1970年のデビュー(結成は1969年)以来、半世紀以上のキャリアを誇るイングランドのハード・ロック・バンドです。
1980年代半ばまではメンバー・チェンジがひんぱんに繰り返されていて、かつて在籍したミュージシャンの数は20人以上にのぼります。
これだけ長い歴史があるなかで、彼らの黄金時代を1970年代前半だとする声は未だに大きいようです。
その中でも、デヴィッド・バイロン(vocal)、ミック・ボックス(guitar)、ケン・ヘンズレー(keyboard, guitar)、ゲイリー・セイン(bass)、リー・カースレイク(drums)というラインナップを擁していた時期(1972年~1975年)がぼくは一番好きですね。
毎年のようにメンバー・チェンジを行っていた1970年代のユーライア・ヒープにあって、このラインナップが最も安定していました。
そのユーライア・ヒープの曲の中でぼくが一番好きなのは、「七月の朝」(1971年)です。
そしてぼくがもっとも聴いたユーライア・ヒープのアルバムは、『対自核』(1971年)、『悪魔と魔法使い』(1972年)、『魔の饗宴』(1972年)の3枚です。
『悪魔と魔法使い』は、ヒープの通算4枚目のアルバムです。
このアルバムからベースがゲイリー・セインに、ドラムスがリー・カースレイクに替わり、黄金期のラインナップが完成しました。
前作『対自核』が日本でチャート5位にまで上る大ヒットを記録、イギリスでもチャート39位まで上昇しましたが、アメリカでは93位を記録したに過ぎませんでした。
しかし『悪魔と魔法使い』では、アメリカにおいてバンド史上最高の23位、イギリスでも20位を記録したほか、フィンランドで1位、ドイツとノルウェイで5位、スウェーデンで8位など、ヨーロッパ、とくに北欧で大ヒットを記録して、名実ともに人気バンドとして認知されるようになりました。
ヒープ・サウンドの個性といえば、デヴィッド・バイロンのハイ・トーン・ヴォーカル、音を歪ませたヘヴィなオルガン、クラシカルなコーラス・ワーク、ワウワウを多用するミック・ボックスのギター・サウンド、抒情的なメロディ、などがすぐ頭に浮かびますが、それは『悪魔と魔法使い』の中で随所に現れています。
派手なアドリブ・ソロこそあまり出てきませんが、しっかりと結びつき溶け合った5つの個性が、確固たるヒープ・サウンドを形成しています。
アルバムのオープニングは①「魔法使い」。
アコースティック・ギターを大胆に使ったイントロにはちょっと意表をつかれた気がしました。日の出の勢いのハード・ロック・バンドがリリースしたニュー・アルバムの1曲目にしては、意欲的というか挑戦的ですが、中盤以降になるといつものヘヴィーなヒープ・サウンドが現れてきます。
この曲はケン・ヘンズレーとマーク・クラークの共作です。
マーク・クラークとは元コロシアム、のちレインボウ等に在籍したベーシストで、セインの前任だったベーシストです。このアルバムではこの曲のレコーディングにのみ参加しています。
③の「安息の日々」は、まさにヒープの本領発揮。ノイジーなミック・ボックスのギターに加えて、セインとカースレイクのリズム・セクションが繰り出すドライブ感は快感そのもの。この曲はシングル・カットされ、ビルボードで39位を記録していますが、これはバンド史上唯一の全米トップ40シングルです。
ぼくとしては⑤「連帯」がとても好きなのです。
スケールの大きさが感じられるメロディアスなバラードで、オルガンとコーラス・ワークの使い方がとても美しい。スライド・ギターのソロとピアノによるクライマックスはなんともドラマチックで、感動的ですらあります。
⑨は「呪文」は、①⑤に通ずる要素が多く、場面展開が起伏に富んでいて、プログレッシヴ・ロックの香りが濃い大曲です。
1972~73年頃のハード・ロック界といえば、ブリティッシュ・ロック勢に圧倒的な活気がありました。
レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ブラック・サバスをはじめ、それに続くナザレス、ステイタス・クォー、クイーン、スウィートなど、新旧のバンドが活躍しており、まさに百花繚乱の趣がありました。
その中でユーライア・ヒープは、オルガンとコーラスを多用したサウンドとメロディアスな曲調で独自の「ユーライア・ヒープ・サウンド」を確立させました。
曲調といえば、このアルバムには一貫してブリティッシュ・ロックらしい仄かな暗さやクラシカルな雰囲気が一漂っており、その中にプログレッシヴ・ロック的な展開も見られます。これは曲作りの支柱であるケン・ヘンズレーの存在の大きさの現われでもあり、ヒープの個性のひとつでもあります。
「悪魔と魔法使い」は、その「ユーライア・ヒープらしさ」が十二分に現れているアルバムだと思います。
さらに言えば、1970年代前半のロック・シーンの空気をリアルに伝えてくれる、ロック・アルバムらしいアルバムとも言えるのではないでしょうか。
◆悪魔と魔法使い/Demons and Wizards
■歌・演奏
ユーライア・ヒープ/Uriah Heep
■リリース
1972年5月19日(イギリス)
1972年8月10日(日本)
■録音
1972年3月~4月 ロンドン ランズダウン・スタジオ
■プロデューサー
ジェリー・ブロン/Gerry Bron
■エンジニア
ピーター・ギャレン/Peter Gallen
■レーベル
ブロンズ・レコード/Bronze Record(イギリス)
マーキュリー・レコード/Mercury Record(アメリカ)
■収録曲(シングル=①魔法使い、③安息の日々)
side:A
① 魔法使い/The Wizard(Mark Clarke, Ken Hensley) ☆スイス8位 ドイツ34位
② 時間を旅する人/Traveller in Time(Mick Box, David Byron, Lee Kerslake)
③ 安息の日々/Easy Livin(Ken Hensley) ☆アメリカ39位 ドイツ15位 オランダ5位 デンマーク9位 フィンランド17位
④ 詩人の裁き/Poet's Justice(Mick Box, Ken Hensley, Lee Kerslake)
⑤ 連帯/Circle of Hands(Ken Hensley)
side:B
⑥ 虹の悪魔/Rainbow Demon(Ken Hensley)
⑦ オール・マイ・ライフ/All My Life(Mick Box, David Byron, Lee Kerslake)
⑧ 楽園/Paradise(Ken Hensley)
⑨ 呪文/The Spell(Ken Hensley)
■録音メンバー
☆ユーライア・ヒープ
デヴィッド・バイロン/David Byron(lead-vocals)
ミック・ボックス/Mick Box (guitars)
ケン・ヘンズレー/Ken Hensley(keyboards, guitars, percussions, lead-vocals⑧⑨, backing-vocals)
マーク・クラーク/Mark Clarke (bass①, lead-vocals①)
ゲイリー・セイン/Gary Thain(bass②~⑨)
リー・カースレイク/Lee Kerslake(drums, percussions)
■チャート
1972年週間アルバム・チャート
イギリス20位 アメリカ23位 日本28位
フィンランド1位 ドイツ5位 ノルウェイ5位 デンマーク7位 オーストラリア14位 カナダ22位
1972年年間アルバム・チャート ドイツ34位