minga日記

minga、東京ミュージックシーンで活動する女サックス吹きの日記

至福の即興(2)

2013年04月15日 | ライブとミュージシャンたち
和楽器と西洋楽器のコラボレーションはとても難しい。

30年前にクラシックスの前進であるジャンジャンで行われたフランス在住の現代音楽家の作品を聴きに行ったことがあった。サックスと琵琶の饗宴だった。即興ではなく、あくまでもその方の作品。この時にいかに和楽器との融合が難しい事なのかを思い知った。

その後、私自身も箏や三味線、尺八と様々な和楽器と共演する機会があったが、緊張感のある繊細な和楽器と果たして上手く共演できたのだろうか・・・。

今回はほんの僅かな時間だったが、尺八の吉岡龍見氏、鼓の大倉正之助氏ともご一緒できた。そして、フランソワの和楽器に対するアプローチがとても勉強になった。

彼のピアノは和楽器の中に入っても全く邪魔にならず、間を活かした切り口で、時に優しく、時に激しく反応していく。私も彼のピアノのように、自然に溶け込んで行くことができたのだった。トシキのベースも素晴らしいタイミングとふくよかな生音が活きていた。


龍見さんの尺八も生音で遠くまで届く美しい響き。演奏途中でフランソワに合図されて彼と私が2人で、という場面になったが、これもとても面白かった。31歳になる息子さんも尺八の先生をしていらっしゃるそうで、じゃあ、親子同士でなにかまたできますね!と新たな展開が・・・?

鼓の大倉さんとは、(故)キム・デファンperさんを通して古い知り合いだが、共演は1度だけ。キムさんが亡くなって、ソウルで葬儀に出席し、そのあとに演奏させていただいたのが9年前になる。

彼の鼓の迫力はもちろんのこと、声が素晴らしい。いよ~~~っと腹の底から湧き出る声と鼓の音が心地よく、3人(尺八、ピアノ,鼓)の演奏が大門さんの舞踏と一体となってばしっと終った時に思わず「お見事!!」とかけ声をかけたくなってしまった。

昔、格闘技が全盛だった頃、プライドのリングに一人大倉さんが上がって、セレモニーの演奏をしたのをTVで見たが格好良かった。あんな凄い演奏は聞いた事がない、というくらい、どんな格闘家よりも男らしかったのを覚えている。その話をちょこっとしたら、大倉さんは照れくさそうに「いやあ、あの時はイノキ、イノキって間違えられちゃって。」

キムさんは日本に来る度に大倉さんのご自宅に滞在し、大倉さんと一緒にハーレーに乗ってアメリカを横断したり、ペーパームーンにキムさんを迎えに来たりして「お前は日本の息子だ」ととても可愛がっていらしたようだ。大倉さんも金さんが亡くなってから毎年3月1日のご命日にはソウルに行って演奏をしているらしい。来年は亡くなって10年目にあたるのでみんなで演奏しましょう!という話で盛り上がった。

本当に大門さんのお蔭で楽しい饗宴。あっという間の濃厚な2時間だった。こんな素敵な出会いがあるから、即興もやめられない。フリー万歳!


素晴らしい写真を撮ってくれた、20歳の横溝光太郎君にも感謝してます。ありがとう。夏からのフランス留学頑張ってね。


至福の即興(1)

2013年04月15日 | ライブとミュージシャンたち
「早坂紗知はフリーの人だからね」という言葉で定義付けされるのにとても違和感を感じていた時代があった。「フリー=でたらめ」のような意味であきらかに差別するジャズの店が沢山あったからだ。演奏を聞いてももらえずに拒否される事の悔しさ。

次第に即興だけの演奏から遠ざかるようになっていった。誘っていただいたらもちろん喜んで参加していたけど。

でも本当は、即興だけの演奏って奥が深い。何も考えずに相手の音、その場の空気、観客の息づかいまでを敏感に感じながら音を丁寧に出して行く。この作業のほうが決められた曲を演奏するよりも遥かに難しい。しかし、海外のミュージシャンたちと初対面で音を出す時には言葉以上の力を持つ事もある。

特にヨーロッパの音楽家たちは即興が大好き。即興しかやらない、という頑固なミュージシャンたちが多いのは事実だ。

初めて20代でヨーロッパツアーを行った時、西独(古い言い方だけどw)のハンス・ライヒエルgに誘って頂いたのだが、全てが即興。何をやってもいい、という自由の怖さと楽しさを初めて味わった。それ以来、私に『フリーの人』というイメージが定着した。

自分のバンドで活動するようになって、何も決めない即興だけの演奏をした事は一度もない。常にオリジナルやワールドミュージックを取り入れてきた。自分が好きな音楽をずっとやっている。もちろん、テーマがあって、あとは個々の自由をなるべく尊重できるような形にはしているのだけれど。

フリーの早坂紗知が聞きたいんだ、と昔からのファンの人に言われる事もある。フリーだろうが、オリジナルだろうが、今やりたい事をやっているだけなので、フリー好きのファンが離れて行ったのは悲しいけど、仕方ない。全てひっくるめて、これが私の音楽なのだ。昔も今も自分の中では何一つ変わっていないんだけどね(苦笑)。

前置きが長くなってしまったが、昨日はフランスに在住の舞踏家、大門四郎をとりまく音楽家たちが集結。普段はご一緒しないような、面白いメンバー。70歳を目前にした大門さんのみごとな筋肉とバランス感覚には毎回感服するのだが、今回はフランスからフランソワ・ロッセ(p)を連れて来た。大門さんと同じ歳で、パリで知り合ったそうだ。彼は私の敬愛するO.メシアンに師事していた現代音楽の作曲家、演奏家なのだった。

少し早めにクラシックスに到着した私は、大門さんが静かに瞑想しながら柔軟体操をする傍らで楽器を取り出し、ピアノの椅子に座ってチューニングしながらソプラノを吹き出した。

視線を感じたので顔をあげるとニコニコと優しい笑顔のフランソワが近づいてきた。

さっと、ピアノの椅子から立ち上がって、挨拶。ボンジュール、くらいは言えるけど、あとが続かない。フランス語は大学時代に少しだけ齧っただけだしなあ・・・。

彼はピアノの前に座り、いきなり私がさきほど吹いていた演奏の余韻を引きずるような形で音を出し始めた。私に入っておいで、と言わんばかりに。誘われたらもちろん黙っている訳はない。それにあわせて一緒に音を出して行く。そうきたの、じゃあこれは?という感じで次々に音楽を作り出していく。ジャズをモチーフにしたり、バロックだったり、ケルト音楽だったり・・・・ああ、この人とは上手くやっていけるな。楽しくて楽しくて、いくらでも演奏したくなる素晴らしいピアニスト。フランス語はわからないが、彼のピアノと演奏していると、いろいろな情景を垣間見る事ができて短時間のうちにあっという間に「親友」になってしまった。

久しくこういう種類の高揚感を味わっていなかった。これは本番が楽しみだ・・・・・(つづく)

トップ写真提供:横溝光太郎




リハーサル風景