地球以上に複雑で分厚い大気を持つ土星最大の衛星タイタン。
このタイタンの成層圏の深い場所で、複雑な分子が作られることがアルマ望遠鏡のデータから分かってきました。
太陽系外から降り注ぐ銀河宇宙線が、タイタンの大気成分に影響を与えていることを、世界で初めて観測的に明らかにしたんですねー
この成果は、最先端の地上望遠鏡と解析技術を組み合わせることで実現したもの。天体に送り込まれる探査機に匹敵する科学成果になるようです。
タイタン大気中に存在する複雑な分子ガスの解明
土星の衛星タイタンは、地球と同様に窒素を主成分とし、地表で1.5気圧という分厚い大気を持つ天体です。
大気中に存在しているのは、地球大気には見られない複雑な分子ガス。
これらが多様な化学過程を経て、生命の構成要素であるアミノ酸を生成する可能性も指摘されています。
そのため、タイタンの大気における化学過程の解明は、現代の惑星科学の重要なトピックになっているんですねー
これまで、NASAの惑星探査機“ボイジャー”や“カッシーニ”が行ったタイタンの詳細な観測でも、大気中にシアン化水素(HCN)やプロパン(C3H8)など多様な分子が存在することが分かっています。
さらに、観測ではその量が季節によって1000倍程度もダイナミックに変化することが示されている。
でも、“カッシーニ”のミッションは2017年9月に終了してしまいます。
さらなる研究の進展のために、地上の大型望遠鏡を用いた観測と解析技術の構築が必要となったわけです。
今回、東京大学の研究チームが着目したのは、タイタンの大気中にごくわずかに存在する“アセトニトリル(CH3CN)”という分子。
“アセトニトリル”は有機溶媒としてよく使われる液体ですが、タイタンの大気中には気体として存在している分子です。
タイタン大気の窒素分子(N2)が壊されると2個の窒素原子(N)になります。
これが水素・炭素を含むほかの分子と反応して作られるのが“アセトニトリル”のような窒素化合物になります。
それでは、何が窒素分子(N2)を壊すのでしょうか?
紫外線と銀河宇宙線による窒素分子の破壊
窒素分子(N2)を壊すもの。それは、太陽からの紫外線や、天の川銀河の中を飛び交っている高エネルギーの宇宙線“銀河宇宙線”です。
銀河宇宙線は、宇宙から来る放射線の一種。天の川銀河には、太陽のような恒星が2000億個ほどあると考えられている。そのような恒星のうち重たいものは、一生の最期に大爆発を起こす。その残骸が源になって、宇宙には銀河宇宙線(高エネルギーの粒子)がたくさん飛び交っている。
ただ、紫外線と銀河宇宙線ではN2分子の分解の仕方が微妙に異なっています。
N2分子を形作っている窒素原子のほとんどは、陽子7個と中性子7個からなる窒素14(14N)です。
ただ、中性子が1個多い窒素15(15N)という安定同位体もわずかに存在しています。
地球上では窒素原子の約0.36%が15Nになる。
紫外線が窒素分子(N2)を壊す場合、2個とも14NからなるN2分子と、Nの片方または両方が15NになっているN2分子とでは、吸収する紫外線の波長がわずかに違ってきます。
また、大気の最上層から紫外線が侵入して窒素分子(N2)を壊していくと、徐々に紫外線が吸収されて減っていきます。
なので、ある高度よりも深い場所には紫外線が届かなくなります。
この効果は“自己遮蔽”と呼ばれ、存在量がより多い14N2分子の方により強く働き、15Nを含むN2分子にはあまり働きません。
このため、紫外線による分解では、大気の深い場所ほど15Nの割合が多くなります。
では、銀河宇宙線はどうかというと、エネルギーが約100MeV~1GeVと極めて高い銀河宇宙線は、同位体の種類によらず、衝突した窒素分子(N2)をすべて壊してしまうんですねー
このため、銀河宇宙線は大気の深い場所にまで侵入してN原子を作り出すことができ、銀河宇宙線による分解では14Nと15Nの割合は、分解前の割合と変わらないという特徴があります。
この性質の違いを使えば、“アセトニトリル”の同位体比を観測することで、材料になったN原子がどの高度で、まだどんな過程で作られたかが分かるということです。
タイタン成層圏の深い場所にも存在する“アセトニトリル”
南米チリに設置されたアルマ望遠鏡では、観測の前に必ず行うことがあります。
それは、目標天体とは別に、大きさや表面温度がよく分かっている太陽系天体を比較対象として観測すること。
研究チームは、ここに目を付けたんですねー
この比較対象用のデータとして、過去に得られていた大量の観測データから、タイタン大気の14Nと15Nを含む“アセトニトリル分子”が回転するときに出す電波の信号を抽出後に分析しています。
そして、得られたのが、タイタンの大気に含まれる“アセトニトリル”の量が、およそ10ppb(約1億分の1)だということ。
15Nを含む“アセトニトリル”の割合は、14Nを含む“アセトニトリル”の約125分の1だという値でした。
この比率は、シアン化水素(HCN)やシアノポリイン(HC3N、HC2Nなど)など、他の窒素化合物の場合に比べるとやや小さいものです。
また研究チームでは、“アセトニトリル”の電波スペクトルの形から、大気中の高度に応じた“アセトニトリル”の存在量を推定することにも成功。
その結果、タイタンでは大気の上層部から高度約150キロまでの範囲で、“アセトニトリル”が比較的多く存在していることが分かります。
これらのことが示しているのは、タイタンの成層圏(高度約40~300キロ)の深い場所でも、銀河宇宙線によってN2分子が分解され“アセトニトリル”が作られていること。
太陽系の外から降り注ぐ銀河宇宙線が、タイタンの大気成分に影響を与えていることを、世界で初めて観測により明らかにしたんですねー
これまで、太陽系内天体の科学研究で大きな成果を上げてきた探査機による観測ミッションでは、観測天体の近傍から詳細な観測ができます。
でも、研究テーマの立案から観測までには、多くの時間や人的コストが必要になってきます。
それが、最先端技術を投入して建設された地上大型望遠鏡を用いることで、探査機でなくても遠く離れた天体の大気成分の詳細な観測が地上でも可能になる。
今回の研究から分かってきた、もう一つの大きな成果ですね。
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太陽系外から降り注ぐ銀河宇宙線が、タイタンの大気成分に影響を与えていることを、世界で初めて観測的に明らかにしたんですねー
この成果は、最先端の地上望遠鏡と解析技術を組み合わせることで実現したもの。天体に送り込まれる探査機に匹敵する科学成果になるようです。
タイタン大気中に存在する複雑な分子ガスの解明
土星の衛星タイタンは、地球と同様に窒素を主成分とし、地表で1.5気圧という分厚い大気を持つ天体です。
大気中に存在しているのは、地球大気には見られない複雑な分子ガス。
これらが多様な化学過程を経て、生命の構成要素であるアミノ酸を生成する可能性も指摘されています。
そのため、タイタンの大気における化学過程の解明は、現代の惑星科学の重要なトピックになっているんですねー
これまで、NASAの惑星探査機“ボイジャー”や“カッシーニ”が行ったタイタンの詳細な観測でも、大気中にシアン化水素(HCN)やプロパン(C3H8)など多様な分子が存在することが分かっています。
さらに、観測ではその量が季節によって1000倍程度もダイナミックに変化することが示されている。
でも、“カッシーニ”のミッションは2017年9月に終了してしまいます。
さらなる研究の進展のために、地上の大型望遠鏡を用いた観測と解析技術の構築が必要となったわけです。
2017年9月13日、NASAの土星探査機“カッシーニ”が最後に撮影したタイタン。濃い大気に含まれる「もや」に覆われている。この撮影の2日後に“カッシーニ”は土星大気に突入して運用を終えている。(提供:NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute) |
“アセトニトリル”は有機溶媒としてよく使われる液体ですが、タイタンの大気中には気体として存在している分子です。
タイタン大気の窒素分子(N2)が壊されると2個の窒素原子(N)になります。
これが水素・炭素を含むほかの分子と反応して作られるのが“アセトニトリル”のような窒素化合物になります。
それでは、何が窒素分子(N2)を壊すのでしょうか?
紫外線と銀河宇宙線による窒素分子の破壊
窒素分子(N2)を壊すもの。それは、太陽からの紫外線や、天の川銀河の中を飛び交っている高エネルギーの宇宙線“銀河宇宙線”です。
銀河宇宙線は、宇宙から来る放射線の一種。天の川銀河には、太陽のような恒星が2000億個ほどあると考えられている。そのような恒星のうち重たいものは、一生の最期に大爆発を起こす。その残骸が源になって、宇宙には銀河宇宙線(高エネルギーの粒子)がたくさん飛び交っている。
ただ、紫外線と銀河宇宙線ではN2分子の分解の仕方が微妙に異なっています。
N2分子を形作っている窒素原子のほとんどは、陽子7個と中性子7個からなる窒素14(14N)です。
ただ、中性子が1個多い窒素15(15N)という安定同位体もわずかに存在しています。
地球上では窒素原子の約0.36%が15Nになる。
紫外線が窒素分子(N2)を壊す場合、2個とも14NからなるN2分子と、Nの片方または両方が15NになっているN2分子とでは、吸収する紫外線の波長がわずかに違ってきます。
また、大気の最上層から紫外線が侵入して窒素分子(N2)を壊していくと、徐々に紫外線が吸収されて減っていきます。
なので、ある高度よりも深い場所には紫外線が届かなくなります。
この効果は“自己遮蔽”と呼ばれ、存在量がより多い14N2分子の方により強く働き、15Nを含むN2分子にはあまり働きません。
このため、紫外線による分解では、大気の深い場所ほど15Nの割合が多くなります。
では、銀河宇宙線はどうかというと、エネルギーが約100MeV~1GeVと極めて高い銀河宇宙線は、同位体の種類によらず、衝突した窒素分子(N2)をすべて壊してしまうんですねー
このため、銀河宇宙線は大気の深い場所にまで侵入してN原子を作り出すことができ、銀河宇宙線による分解では14Nと15Nの割合は、分解前の割合と変わらないという特徴があります。
この性質の違いを使えば、“アセトニトリル”の同位体比を観測することで、材料になったN原子がどの高度で、まだどんな過程で作られたかが分かるということです。
タイタン成層圏の深い場所にも存在する“アセトニトリル”
南米チリに設置されたアルマ望遠鏡では、観測の前に必ず行うことがあります。
それは、目標天体とは別に、大きさや表面温度がよく分かっている太陽系天体を比較対象として観測すること。
研究チームは、ここに目を付けたんですねー
この比較対象用のデータとして、過去に得られていた大量の観測データから、タイタン大気の14Nと15Nを含む“アセトニトリル分子”が回転するときに出す電波の信号を抽出後に分析しています。
そして、得られたのが、タイタンの大気に含まれる“アセトニトリル”の量が、およそ10ppb(約1億分の1)だということ。
15Nを含む“アセトニトリル”の割合は、14Nを含む“アセトニトリル”の約125分の1だという値でした。
この比率は、シアン化水素(HCN)やシアノポリイン(HC3N、HC2Nなど)など、他の窒素化合物の場合に比べるとやや小さいものです。
また研究チームでは、“アセトニトリル”の電波スペクトルの形から、大気中の高度に応じた“アセトニトリル”の存在量を推定することにも成功。
その結果、タイタンでは大気の上層部から高度約150キロまでの範囲で、“アセトニトリル”が比較的多く存在していることが分かります。
これらのことが示しているのは、タイタンの成層圏(高度約40~300キロ)の深い場所でも、銀河宇宙線によってN2分子が分解され“アセトニトリル”が作られていること。
太陽系の外から降り注ぐ銀河宇宙線が、タイタンの大気成分に影響を与えていることを、世界で初めて観測により明らかにしたんですねー
これまで、太陽系内天体の科学研究で大きな成果を上げてきた探査機による観測ミッションでは、観測天体の近傍から詳細な観測ができます。
でも、研究テーマの立案から観測までには、多くの時間や人的コストが必要になってきます。
それが、最先端技術を投入して建設された地上大型望遠鏡を用いることで、探査機でなくても遠く離れた天体の大気成分の詳細な観測が地上でも可能になる。
今回の研究から分かってきた、もう一つの大きな成果ですね。
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