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星のゆりかご降着円盤は巨大な赤ちゃん星の成長にも関わっていた

2022年07月09日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究で中国科学院上海天文台の国際研究チームが見つけたもの。
それは、銀河系中心部に太陽の32倍の質量を持つ赤ちゃん星“原始星”を取り巻く降着円盤でした。

これほど巨大な原始星の周りに降着円盤が観測されるのは珍しいことなんですねー

さらに分かってきたのは、この降着円盤には2本の渦巻き腕が見られること。
渦巻腕は、1万年以上前に別の天体が接近・通過した影響によって形成されたと考えられています。

これまでよく分かっていなかった重い星の形成にも、軽い星と同様に降着円盤を介した成長過程が関係していること。
この可能性があることを今回の発見は示しているようです。

大質量星はどのような過程を経て形成されるのか

太陽のような軽い星は、星の材料になる分子ガスの塊の中に円盤が形成され、その円盤を通して周囲のガスが中心へと降り積もり形成されることが知られています。

赤ちゃん星“原始星”を取り巻く降着円盤は“原始惑星系円盤”とも呼ばれ、星のゆりかごのような存在なんですねー
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

一方、太陽質量を大きく超える重い星“大質量星”、特に進化が速いO形原始星はどのように形成されるのでしょうか。
軽い星と同じ過程で形成されるのか、それとも別の過程を経て形成されるのでしょうか。
このことについては、まだよく分かっていませんでした。

銀河中心部での星の形成過程

地球から約26,000光年の距離にある銀河系中心部には、水素分子を中心とした高密度な分子ガスが大量に分布している“銀河中心分子雲帯”と呼ばれる領域があります。

この領域は、これまでの研究では星の誕生には適さない環境だと考えられていました。
でも、近年の観測により原始星の存在が確認され、星の形成領域としても注目されていました。

ただ、この領域を観測することは容易なことではないんですねー

その理由は、銀河系中心部では星の形成過程を調べる対象としては地球から遠い位置にあること。
さらに、銀河中心と地球の間に分布する星間物質が邪魔をしてしまい、星が形成される様子を詳細に調査することが困難だからでした。

銀河系中心部にある原始惑星系円盤を電波で直接とらえる

そこで、中国科学院上海天文台を中心とする国際研究チームが用いたのはアルマ望遠鏡でした。
南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡としてミリ波・サブミリ波を観測することができる。

アルマ望遠鏡の長基線観測を用いて、40ミリ秒角の解像度で銀河中心分子雲帯の一部を観測しています。
この解像度を持ってすれば、東京から大阪にある野球ボールを簡単に見つけることができる。

そして、銀河系中心部に見つけたのが、太陽の32倍の質量を持つO形原始星を取り巻く降着円盤。
その直径は、約4,000auに達していました。
1天文単位auは太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。

これは降着円盤を持つことが分かっている最も重い原始星の1つ。
銀河系中心部にある原始惑星系円盤を電波で直接撮像した初めてのものでした。

さらに、興味深いのは、今回発見された降着円盤には2本の渦巻き碗が見られることでした。

原始惑星系円盤で渦巻き碗が検出されるのは珍しいことです。

研究チームが調査を続けて見つけたのは、降着円盤から約8000au離れた場所にある太陽質量の3倍程度の天体。
数値シミュレーションとの比較から示されたのは、1万年以上前にこの天体が降着円盤に接近・通過した際に、円盤を乱し渦巻き碗が形成された可能性でした。

そう、アルマ望遠鏡を用いて見つけた降着円盤の渦巻腕は、天体同士が近接した痕跡と考えられるんですねー

今回の発見により、これまでよく分かっていなかった重たい星の形成にも、降着円盤の存在が関係している可能性が示されました。

星の質量が違っても、その形成過程は同じである可能性が出てきたわけです。

アルマ望遠鏡による更なる高解像度観測によって、大質量星の形成の謎が解明されることが期待されますね。
赤ちゃん星を取り巻く降着円盤と接近・通過した天体の時間変化を迫った数値シミュレーション画像(a-c)。<br><br>左下から、接近時、それから4,000年後、8,000年後の様子。通過後、降着円盤に渦巻き腕が見られる。アルマ望遠鏡によって観測された渦巻き腕を持つ降着円盤とその周りにある2つの天体の電波画像(b)。天体同士が最も接近した時から約12,000年が経過していると推測される。
赤ちゃん星を取り巻く降着円盤と接近・通過した天体の時間変化を迫った数値シミュレーション画像(a-c)。左下から、接近時、それから4,000年後、8,000年後の様子。通過後、降着円盤に渦巻き腕が見られる。アルマ望遠鏡によって観測された渦巻き腕を持つ降着円盤とその周りにある2つの天体の電波画像(b)。天体同士が最も接近した時から約12,000年が経過していると推測される。(Credit: Lu et al.)



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