2024年1月20日更新
2024年1月20日午前0:20(日本標準時)小型月着陸実証機“SLIM”が月面に着陸したことが確認されました。
着陸後の“SLIM”との通信は確立されているそうです。
ただ、太陽電池が電力を発生していない状況であり、現在月面からのデータ取得を優先して実施してる状態。今後は取得できたデータの詳細な解析を進め、状況などは随時発表されるそうです。
JAXAは、小型月着陸実証機“SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)”の月周回軌道投入以降の運用結果や計画を踏まえて、準備が整ったことを確認したので、2024年1月10日に着陸効果準備フェーズへ移行することを決定しました。
すでに“SLIM”は、1月14日17時32分(日本標準時)に遠月点降下マヌーバ(※1)を正常に実施・完了。
その後、高度約600キロの円軌道に予定通り投入されたことが確認されています。
遠月点は軌道上で月から最も遠ざかる地点、近月点は軌道上で最も月に近づく地点。
マヌーバは、宇宙機に搭載されている推進剤を噴射して、位置や姿勢を制御すること。
現在、“SLIM”は正常に動作していて、今後は近月点降下マヌーバを実施し、2024年1月19日に近月点は高度15キロまで低下する予定です。マヌーバは、宇宙機に搭載されている推進剤を噴射して、位置や姿勢を制御すること。
“SLIM”が着陸を予定しているのは、月の地球側にある“神酒の海(Mare Nectaris)”の西に位置するSHIOLIクレーター付近。
1月20日午前0:00頃(日本標準時)に着陸降下を開始し、同0:20頃の着陸を予定しています。
着陸に成功すれば日本初の月面着陸となり、世界でもアメリカ、旧ソ連(ロシア)、中国、インドに続く5か国目になります。
月面着陸直前の1月19日(金)23:00から、JAXA YouTube公式チャンネル“JAXA Channel”でライブ中継番組が配信される予定です。
JAXAの小型月着陸実証機“SLIM”のピンポイント月着陸ライブ・記者会見。 JAXA YouTube公式チャンネル“JAXA Channel”(1月19日(金)23:00から) |
☆ “SLIM”ミッションのココに注目 ☆
“SLIM”のミッションには幾つかの特徴があります。
1つ目は、推進剤の消費量が少ない軌道の採用です。
2023年9月7日に打ち上げられた“SLIM”は、ロケットからの分離後、予定していた軌道への投入に成功しています。
探査機が惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式があります。
この飛行方式の特徴は、燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行えることにあります。
積極的に軌道や速度を変更する場合を“スイングバイ”、観測に重点が置かれる場合を“フライバイ”と言い、使い分けています。
“SLIM”のミッションでは、着陸機自身のエンジンと限られた推進剤で月へ向かうためスイングバイを実施。
飛行時間が長くなる代わりに推進剤の消費量が少ない軌道を採用しています。
そのため、月スイングバイを終えた“SLIM”は、月や地球から一旦大きく離れるような軌道を飛行した後で、月周回軌道に入っています。
2つ目は、“降りたいところに降りる”着陸への質的な転換です。
昨今、対象になる天体についての知見が増え、探査すべき内容が今までよりも具体的になっているので、探査対象の付近への高精度着陸が必要になっています。
“SLIM”では、月の地球側にある“神酒の海(Mare Nectaris)”の西に位置するSHIOLIクレーター付近の傾斜地に、正確にピンポイント着陸を行うための航法と、二段階式のより安全なタッチダウンを行う技術を実証することになります。
目指している着陸誤差は100メートル以内。
これまでの月面着陸機の誤差は数キロから十数キロ以上だったので、“SLIM”は驚異的な着陸精度を目指すことになります。
このピンポイント着陸技術によって実現するのが、これまでの“降りやすいところに降りる”着陸ではなく、“降りたいところに降りる”着陸への質的な転換。
月惑星の資源探査では、軌道上からリモートセンシングで資源分布を推定し、その後実際に地面を探査することになるので、その際に威力を発揮する技術になります。
3つ目は、月の起源を探ることです。
“SLIM”の着陸地点には、月のマントルに由来するカンラン石が散らばっています。
“SLIM”は着陸後に搭載するマルチバンド分光カメラで、このカンラン石の組成を分析することになります。
なぜ、カンラン石を分析するのでしょうか?
それは月の起源を探るためです。
月は、ジャイアントインパクト(巨大衝突)という形成過程を経て形成されたと考えられています。
ジャイアントインパクト説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、月を形成したと考えられています。
そこで、月のマントルに由来するカンラン石の組成を分析し、その結果を地球のマントルと比較することで、ジャイアントインパクト説を検証する訳です。
ただ、カンラン石は比重が大きいので、通常は地下深くに埋まっています。
地表に露出したカンラン石はクレーター付近に存在していますが、これはクレーター形成時に、衝撃で地下から掘り起こされたものと考えられています。
JAXAは、2007年に打ち上げた月周回衛星“かぐや(SELENE)”で月面のリモートセンシングを実施し、月面におけるカンラン石の分布を突き止めていました。
また、組成分析にあたっては、宇宙線の影響の少ないカンラン石を用いる必要があります。
このため、宇宙線の影響をあまり受けていないカンラン石が存在するとみられる若いクレーターの探査が必要になります。
そう、これらの理由から、着陸地点にはSHIOLIクレーター付近の傾斜地(15度程度の斜面)が選ばれたんですねー
“SLIM”は“2段階着陸方式”と呼ばれる方法で、行きたい場所が斜面であっても、安全な着陸を実現しようとしています。
これは、月面に対して垂直の姿勢で降下し、着陸直前に機体を斜めに傾けて半円形をした脚で一度接地してから、斜面に向かって倒れ込むように横向きに設置するという特徴的な着陸方法になります。
このように“SLIM”のミッションには、ワクワクせせる挑戦がいくつも含まれています。
“LEV(Lunar Excursion Vehicle)”と呼ばれる2機の小型ローバーは、着陸直前の“SLIM”から分離され、月面到達後は画像の取得と、地球へのデータ送信を連携して行う予定です。
1月19日は少し遅くまで起きて、JAXA YouTube公式チャンネル“JAXA Channel”のライブ配信を楽しみませんか。
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