天の川銀河の“いて座銀河腕”内部の磁場構造を初めて三次元的に解明。(Credit: University of Tokyo) |
今回の研究では、天の川銀河の渦巻き腕(注1)の一つ“いて座銀河腕”の内部の磁場構造を、三次元的に明らかにすることに世界で初めて成功しています。
注1.天の川銀河は全体がゆっくり回転していて、回転する方向に巻き込まれるような渦巻構造をしていると考えられている(“渦巻銀河”と呼ばれる)。渦巻きの濃く見える部分を“渦巻き腕”と呼び、渦巻き腕にはガスや塵が多く集まっていて、この内部で盛んに新しい星が生まれている。
研究では、いて座の天の川方向の184個の星を広島大学かなた望遠鏡(注2)を用いて精密に観測。注2.かなた望遠鏡は、広島大学東広島天文台が所有する口径1.5メートルの光学望遠鏡。可視光・赤外線の偏光観測を広い視野で行うことに特化した観測装置“HONIR(広島大可視赤外線同時撮像装置)”を用いて、星からの光が磁場の影響を受けて生じる“偏光”を多くの星について観測する。
観測の結果を、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”(注3)が測定した各星までの正確な距離と組み合わせることで、“いて座銀河腕”の内部の磁場が、星までの距離に応じて天の川の方向から大きく傾いて折り重なるように分布することを、初めて明らかにしました。(図1、図2)図1.“いて座銀河腕”方向の星間磁場の向きと地球からの距離毎の分布。(左図)星空画像中の白線が一つ一つの星の示す星間磁場の向き。(右図)左図の結果を各星の距離毎に分解し、それぞれの距離の磁場分布を取り出すことに成功した。(Credit: University of Tokyo) |
図2.地球からの距離毎の磁場の三次元分布。(Credit: University of Tokyo) |
注3.“ガイア”は、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星。可視光線の波長帯で観測を行い、10憶個以上の天の川銀河の恒星の位置と速度を三角測量の原理に基づいて測定する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡。測定精度は10マイクロ秒角(1度の1/60の1/60の1/10マンの角度)であり、これは地球から月面の1円玉を数えられる精度。
この研究では、天の川銀河の磁場を奥行き方向に切り分けて検出する技術を初めて確立することで、これまで全く知られていなかった磁場の三次元分布を明らかにしています。今後、この手法を用いることで、天の川の中で活発な星形成を引き起こすガスの集積過程について、観測的に明らかにできると期待されています。
この研究の成果は、東京大学大学院 総合文化研究科の土井靖生助教と広島大学宇宙科学センターの川端弘治教授、同・中村謙吾大学院生(研究当時)、香川大学教育学部の松村雅文教授、千葉工業大学 惑星探査センターの秋田谷洋上席研究員たちの国際共同研究チームによるもの。
詳細は、アメリカの天体物理学専門誌“The Astrophysical Journal”に掲載されました。
詳細は、アメリカの天体物理学専門誌“The Astrophysical Journal”に掲載されました。
宇宙空間に存在するごく弱い磁場“星間磁場”
宇宙空間には、地球の磁場の約10万分の1程度の強度のごく弱い磁場(星間磁場)が存在しています。
その星間磁場の磁力線に沿って集まる傾向にあるのが、宇宙空間に存在するガス(星間ガス)です。
この現象によって、星間ガスの塊、いわゆる星間雲が生まれます。
星間雲は、まるで磁力線に串刺しにされるように生まれ、その形状もこれらの磁力線の影響を受けます。
そして、星間雲の中では、新しい星が生み出されることになります。
つまり、星間磁場は、星間雲の形状だけでなく、それらの中で新しい星が生まれるプロセスも操作する“あやつり糸”ととらえることができます。
星間雲が形成される際に集まる星間ガスは、磁力線に沿って集まりながら、同時に磁力線を引っ張ることで、磁力線の分布に影響を与えます。
なので、星間磁場の磁力線の配置を理解することは、新しい星を生み出すために不可欠な星間ガスの集積の過程やメカニズムを解明する上で貴重な情報源になります。
天の川の中では、たくさんの星が活発に生み出されていますが、その内部で星間磁場がどのように分布しているのかは、これまで分かっていませんでした。
それは、これまでの技術では、星間磁場の様子を視線方向に重なった平均値としてとらえることができなかったためです。
このため、天の川の磁場は、天の川銀河に沿った方向にほぼ揃っていると考えられていました。(図3)
天の川銀河内部の磁場構造
今回の研究では、天の川銀河の渦巻き腕構造のひとつ“いて座銀河腕”に着目。
天の川銀河内部の磁場構造を明らかにするため、この銀河腕を見通すように観測を行っています。
観測に用いたのは、広島大学かなた望遠鏡に搭載した観測装置“HONIR(オニール)”。
“HONTR”は、広い領域の磁場構造をとらえるのに最適化された観測装置です。
星からの光は、地球に届くまでの間に星間雲を通過します。
その際に、磁場の向きに垂直な方向の光の振動が抑制されることにより、磁場の向きに沿った光の振動が他の方向より大きな状態になります。
これを“偏光”と呼びます。(図4)
“HONIR”を用いて、この偏光を観測することで、星と地球の間にある磁場の様子を知ることができます。
でも、途中に複数の星間雲が存在した場合、それぞれがどのような磁場構造を持っているのかが、これまでは分かりませんでした。
そこで今回の研究では、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”で測定した星までの正確な距離を元に、様々な距離の星々の偏光観測データを組み合わせています。
これにより、途中に存在する複数の星間ガス中の磁場を、正確に取り出す手法を開発。(図4)
この手法を適用することで、天の川内部では、距離毎に揃って天の川の向きから大きく傾いた磁場が、幾度にも折り重なって存在することを初めて明らかにしました。
このことは、天の川の中でどのように星間ガスが集積し、星を生み出すに至るのかを知るための非常に貴重な資料になります。
今後は、滑からな磁場構造の広がりについて、詳しく調査する必要があります。
様々な渦巻き銀河について、その渦巻き腕の内部で等間隔に星形成が進んでいる様子が観測されていて、磁場構造との関連が強く疑われています。
でも、磁場構造が不明ななので確認ができていませんでした。
研究グループでは、観測範囲を広げて天の川の渦巻き腕内部の磁場構造を大局的に明らかにし、天の川中の活発な星形成を引き起こすガスの集積やその履歴について観測的に明らかにしていくよう様です。
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