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なにが天の川銀河を歪ませたのか? 原因は銀河の衝突といった強力な現象かも

2020年03月22日 | 宇宙 space
天の川銀河の円盤が平らでないことを知ってます?
円盤の片側がやや上に反り返り、もう一方は下向きに反り返るという歪みがあるんですねー
これまで分からなかった歪みの原因ですが、どうやら矮小銀河が関係しているようです。


天の川銀河の円盤は平らでなかった

私たちの天の川銀河の形状は円盤状の棒渦巻銀河です。
ただ、銀河円盤は完全に平らではないんですねー

1950年代から知られていたのは、片側がやや上に反り返り、もう一方はやや下向きに反り返るという歪み(warp)を持っていること。
さらに、この歪みの位置は、回転するコマの首振り運動のような“歳差運動”と呼ばれる動きによって、円盤の中を徐々に移動していることも分かっています。
  歳差運動とは、自転している物体の回転軸が、円を描くように振れる現象。歳差運動の別称として首振り運動、みそすり運動、すりこぎ運動などの表現が用いられる場合がある。

天の川銀河の歪みの原因については、これまでに様々な理論が提案され議論が続いています。

その中には、銀河間の磁場によって引き起こされるという説や、天の川銀河を包み込むように存在するハローに含まれるダークマター(暗黒物質)が不均一な分布をしているため、その重力の影響で銀河円盤が曲げられているという説があります。
横から見た天の川銀河のイラスト。銀河の中心にはバルジと呼ばれる膨らみがあり、太陽は銀河中心から約2万6000光年の距離にある。銀河の外縁部には、星の分布が上下にやや反り返っている歪みが見られる。今回の研究では、銀河中心から約5万2000光年までの範囲にある太陽周辺の星々の運動データが主に使われている。右上は天の川銀河を真上から見た図。
横から見た天の川銀河のイラスト。銀河の中心にはバルジと呼ばれる膨らみがあり、太陽は銀河中心から約2万6000光年の距離にある。銀河の外縁部には、星の分布が上下にやや反り返っている歪みが見られる。今回の研究では、銀河中心から約5万2000光年までの範囲にある太陽周辺の星々の運動データが主に使われている。右上は天の川銀河を真上から見た図。(Credit:Stefan Payne-Wardenaar; Inset: NASA/JPL-Caltech; Layout: ESA)


強力な作用が円盤の歪みに必要だった

今回の研究でイタリア・トリノ天文台のチームが着目したのは、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”が観測した天の川銀河の星のデータでした。

2018年に公開された“ガイア”の第2期データには、17億個以上の星の位置や運動の情報が含まれています。

研究チームでは、その中から約1200万個の巨星をピックアップし、これらの巨星の動きから、円盤の歪みの歳差運動を詳しく解析。
すると、歪みの位置が歳差運動により銀河円盤の中を一周するのに、約6億~7億年かかることが分かります。

これは、太陽が天の川銀河の中を公転する時間(約2億2000万年)に比べ3倍ほど長いものです。

ただ、円盤の歪みが銀河間磁場で生じるという説や、ダークマターハローの不均一な重力で引き起こされるという説から予想される速度に比べると、はるかに速いものなんですねー

このことから研究チームが考えたのは、銀河円盤の歪みにはもっと強力な作用が必要だということ。
例えば、天の川銀河に他の銀河が衝突するといった現象でした。

天の川銀河の周囲には、たくさんの銀河が周回していて、過去に天の川銀河と衝突を起こしたと推測されているものもあります。

でも、今のところ、いつ、どの銀河が衝突して、天の川銀河の歪みが作られたのかは分かっていません。
候補の1つとしては、“いて座矮小銀河”が考えられています。

2018年に発表された別の研究で示されているのは、“いて座矮小銀河”が過去に天の川銀河の円盤を何度か突き抜けたことがあること。
そして、“いて座矮小銀河”は天の川銀河と合体する途中の段階らしいことが、“ガイア”の第2期データの分析から分かっています。
ガイアの第2期データから描いた天の川銀河。中央の赤色の楕円の位置に、“いて座矮小銀河”が存在する。
ガイアの第2期データから描いた天の川銀河。中央の赤色の楕円の位置に、“いて座矮小銀河”が存在する。(Credit:ESA/Gaia/DPAC, CC BY-SA 3.0 IGO)
2013年に打ち上げられ、現在も観測を続けている“ガイア”。
今年中に第3期、2021年後半には第4期のデータ公開が予定されています。

これらのデータ加わることで、天の川銀河のさらなる謎の解明が期待されています。


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地震や磁場など… 火星の内部構造を調べる探査機“インサイト”の初期成果が発表されましたよ。

2020年03月21日 | 火星の探査
NASAにとって火星への着陸に成功した8機目の探査機が“インサイト”です。
今回、“インサイト”の探査による初期成果が発表されたんですねー
地上を走り、丘を登ることで火星の地表を調べてきたこれまでの探査機と違い、“インサイト”の役割は火星の内部を奥深くまで調べ、地球などの岩石天体がどのように形成されたかを明らかにすること。
なので、同じ場所にとどまり火星内部の動きを正確に検知する必要があるようです。
○○○


火星の地質調査を行う探査機

NASAの低予算プログラム“ディスカバリー”の候補に挙がっていた、3つの計画から選ばれたのがインサイト計画でした。

選ばれた理由は、スケジュールがずれ込む可能性や、予算の上限を超える可能性が低かったこと。
ただ、搭載機器の“地震計”に問題が発生し打ち上げは延期…
“地震計”の改良や、完成している探査機本体や機器の保管などに更に予算が必要になってしまいます。

それでも2018年5月に火星探査機“インサイト”は打ち上げに成功。
2018年11月には火星の赤道付近にあるエリシウム平原地域の“ホームステッド”と呼ばれる浅いクレーターに着陸しています。

これまでの約1年の探査によって次々と新たな知見が得られていて、火星の地震“火震”、チリ、奇妙な電磁パルスなどについての研究が論文として発表されてきました。
火星を探査する“インサイト”(イメージ図)。
火星を探査する“インサイト”(イメージ図)。(Credit:IPGP/Nicolas Sarter)


“火震”を測定し内部構造の組成を調べる

史上初めての、火星の内部構造を調べることを目的とした探査機が“インサイト”です。

メインの測定機になる高精度の火星地震計“SEIS”では、2019年4月に初めて“火震”が検出されています。

“火震”を測定することによって、火星の内部構造の組成について知ることができます。
このことは地球を含む岩石惑星が、どのように形成されたかを明らかにすることにもつながります。

火震は予想よりも頻繁に起こっていて、2019年末までに1日当たりおよそ2回の“火震”を検出。
  これまでに“SEIS”で検出された震動は450回以上にのぼっている。
ただ、“インサイト”が最初の“火震”を検知するまでに要したのは数か月… 着陸した時期は、たまたま“火震”が起こらなない穏やかな時期だったようです。

火星には地球のように地震活動を起こすプレートはありません。
でも、“火震”を引き起こす可能性のある火山活動領域が存在しているんですねー

この火山活動領域の1つ“ケルベロス地溝帯”は、崖の側面から振り落とされたらしい岩塊が見られる場所で、これまでに検出されていたペアの“火震”と強い関係がある領域だと考えられています。

“ケルベロス地溝帯”では大昔の洪水によって長さ約1300キロにわたる溝が作られ、そこに溶岩流が流れ込んだと見られています。
その溶岩流には200万年以内に“火震”によって破壊された証拠が示されていました。
NASAの火星探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”に搭載されたカメラ“HiRISE”で撮影されたケルベロス地溝帯。
NASAの火星探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”に搭載されたカメラ“HiRISE”で撮影されたケルベロス地溝帯。(Credit:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)


磁力計により示されたこと

“インサイト”に搭載された磁力計により示されたことがあります。

それは、着陸地点での局地的な磁場が、これまでの予測よりおよそ10倍も強いこと。
確かに数十億年前の火星には磁場がありました。でも、現在は存在していないんですねー

“インサイト”周辺の地表の岩のほとんどは、年代が若く磁化されていないと考えられます。
なので、“インサイト”が検出した局所磁場は、地下に埋もれた古い岩に残されたものとみられます。

“インサイト”の下にある磁気層がどのくらい強く、深いのかは、探査データを地震学や地質学から得た情報と組みわせることで、明らかにできるようです。

さらに明らかになったのは、“インサイト”が検出する磁気シグナルの強さが昼と夜とで異なっていて、真夜中頃に脈動すること。
原因はまだ分かっていませんが、可能性の1つとして、火星の大気と相互作用する太陽風に関連していることが考えられています。


カメラではとらえられない旋風

“インサイト”は火星の風速、風向き、気圧をほぼ連続的に測定し、地表付近の大気が渦巻状に立ち上る突風の一種である“チリ旋風”と呼ばれる数千もの旋風を検出しています。

このことから、“インサイト”の着陸地点では、他の探査機がこれまでに着陸した場所よりも多くの旋風が起こっていることになります。

ただ、旋風は頻繁に起こっているにもかかわらず、“インサイト”のカメラではとらえられず…
火星地震計だけは、この旋風が巨大な掃除機のように、火星の表面を引っ張っていることを検知していました。

この他に“インサイト”には、火星の自転に伴うふらつきを電波で調べて、火星の核が固体か液体かを調べる装置や、熱流量測定装置などが備えられています。

これらの装置を使った今後の探査によって新発見がもたらされれば、火星や地球を含む岩石惑星が、どのように形成されたのか明らかになるかもしれません。

“インサイト”による探査が順調に進み、研究が進展することが期待されますね。
火星の地下構造と探査を示したイラスト。
火星の地下構造と探査を示したイラスト。(Credit:J.T. Keane/Nature Geoscience)


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楕円銀河と渦巻銀河の特徴を持った不思議な銀河の歴史

2020年03月19日 | 宇宙 space
ハッブル宇宙望遠鏡による観測で、ソンブレロ銀河のハローには低金属星の割合が非常に小なく、一方で金属の豊富な星の割合が予想以上に高いことが示されました。
このことは、典型的な渦巻銀河に見られるものとは異なる傾向… 何か理由があるのでしょうか。

楕円銀河と渦巻銀河の特徴を持つハイブリッドな銀河

おとめ座の方向約2800万光年彼方に位置する明るい銀河M104。

ほぼ真横から見る銀河円盤とそれに沿った暗黒帯、円盤部から突き出した丸い形が特徴的で、その形からメキシコのつばの広い帽子“ソンブレロ”にたとえられ“ソンブレロ銀河(以下ソンブレロ銀河)”とも呼ばれています。

アマチュア天文家の撮影対象として人気のソンブレロ銀河ですが、研究対象としては不思議な構造が注目されてきました。

ソンブレロ銀河は、その形の特徴から銀河の形状分類上は、これまで渦巻銀河とされる場合がほとんどでした。

でも、近年の大口径望遠鏡や赤外線による観測から、中央の丸い突出部を囲む淡いハローが非常に大きな範囲に広がっていることが明らかになります。

さらに分かったのは、ソンブレロ銀河のハロー内には、渦巻銀河では通常数百しか存在しない球状星団が数千個も存在していること。

これらの特徴から、実際は楕円銀河でありながら、その中に円盤状の構造を持つに至ったと考えられています。
そう、ソンブレロ銀河は、楕円銀河と渦巻銀河の特徴を兼ね備えたハイブリッドな銀河なんですねー

銀河全体の質量はおよそ太陽8000億個分で、直径は5万光年ほど。中心部には超大質量ブラックホール(太陽質量の10億倍)が存在しているようです。

渦巻銀河の特徴に合わないハローの金属量

ソンブレロ銀河の明るい部分の周囲には、ハローと呼ばれる淡い領域が球状に広がっています。
銀河の外観図。銀河円盤の中心にある膨らみが“バルジ”で、全体を球状に包むのが“ハロー”と呼ばれる部分。画像はソンブレロ銀河M104。
銀河の外観図。銀河円盤の中心にある膨らみが“バルジ”で、全体を球状に包むのが“ハロー”と呼ばれる部分。画像はソンブレロ銀河M104。
今回、この領域をアメリカ・宇宙望遠鏡科学研究所のチームがハッブル宇宙望遠鏡を用いて観測。

すると、金属量(水素とヘリウム以外の元素の量)が低い星の割合がわずかしかなく、反対に金属量の高い星が予想以上に多いことが明らかになります。

ハローは天の川銀河をはじめ渦巻銀河に見られる構造で、一般的には金属量が少ない低金属星(金属欠乏星)の割合が高い領域になります。

金属元素は恒星の内部で起こる核融合反応によって生成され、星が一生を終えるときに周囲へ放出されます。
その物質を取り込んで次世代の星が誕生するので、銀河の円盤部のように星の材料が豊富に存在し、星形成のサイクルが活発なところでは星の金属量は増えていきます。

反対にハローでは、そのような活動が無いので、サイクルは繰り返されず、年老いた金属欠乏星の割合が高くなると考えられてきました。

でも、今回行われた観測研究では、ソンブレロ銀河ではそうなっていないことが示されたんですねー
南米チリにあるヨーロッパ南天天文台ラ・シーヤ観測所の望遠鏡によって撮影されたソンブレロ銀河M104
南米チリにあるヨーロッパ南天天文台ラ・シーヤ観測所の望遠鏡によって撮影されたソンブレロ銀河M104(Credit: ESO/IDA/Danish 1.5 m/R. Gendler and J.-E. Ovaldsen)

銀河同士の衝突と合体

ハローには、年老いた星が数十万個集まっている球状星団という天体も存在しています。

これらの星団からハローに星が抜け出していけば、金属欠乏星の割合は高くなるはず。
でも、ソンブレロ銀河では、そのような過程があまり起こってきませんでした。

そこで考えられるのは大質量の銀河同士による衝突合体です。
これらの銀河が、金属を多く含む多数の若い星で構成されていれば、ハローの中に金属量の高い星が多く分布していても不思議ではありません。

ただ、ソンブレロ銀河は非常に安定した整った姿をしていて、天文学的な時間スケールでの最近に破壊的現象が起こったことを示す証拠は全く見られていません。

それでも、コンピュータモデルでは昔に衝突合体が起こった可能性が示されることに…

今後は、ソンブレロ銀河と同程度の距離にある銀河のハローに含まれる金属量が調べられる予定です。

また、次世代宇宙望遠鏡による観測では、ソンブレロ銀河の予想外の特徴がさらに詳しく分かってくるかもしれません。
楕円銀河と渦巻銀河の特徴を持った不思議な銀河の歴史が明らかになるといいですね。


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原始銀河団からの予想以上に強い赤外線放射は、超大質量ブラックホールや星形成銀河が潜んでいる証拠かも。

2020年03月18日 | 宇宙 space
すばる望遠鏡と5つの赤外線天文衛星の観測データから、約120億光年彼方の原始銀河団に見られる赤外線放射が、予想よりも強いことが分かりました。
このことは何を示しているのでしょうか?
それは、この原始銀河団に激しく星形成を行う銀河や、成長中の超大質量ブラックホールが潜んでいる可能性があること。
今後、原始銀河団に含まれる個々の銀河を分解して検証するそうです。


銀河はどのようにして形作られるのか

宇宙には様々な銀河が存在しています。
その銀河がたくさん集まった領域“銀河団”では大質量楕円銀河が、そして銀河がほとんどない場所では渦巻銀河が多数を占めているなど、銀河の特徴はその周辺の環境によって異なっています。

なので、現在の銀河がどのようにして形作られたのかを解明するには、昔の宇宙における銀河と環境との関係が重要なヒントになります。

この関係を調べるのに必要になるのは、銀河団の祖先とされる原始銀河団の性質の全体像をつかむこと。
それには多くの原始銀河団の観測が重要になってきます。

なかでも、盛んに研究されているのが、宇宙で最も銀河が多く生まれたとされる約100~120億年前の原始銀河団です。

でも、原始銀河団は天球上でまばらにしか存在していません。
そう、見つけるのが非常に難しいので、100億光年を超える遠方の原始銀河団は、ほんのわずかしか見つかっていません。


可視光線による原始銀河団のカタログ作り

それでも、この困難を克服しようとする強力な研究がありました。

それは、すばる望遠鏡に搭載されている広視野主焦点カメラ“Hyper Suprime-Cam(HSC)”を用いた超広域深宇宙探査(HSC-SSP)です。
超広域深宇宙探査の初期に行われた観測からは、約120億年前の宇宙に存在する原始銀河団が探査され、約180領域もの大規模な原始銀河団カタログが作られています。

ただ、これだけでは不十分なんですねー それは“HSC”での観測は可視光線になるからです。
そう、銀河の中で何が起こっているのかを解き明かすのに必要なのは、様々な波長による観測なんですねー


可視光線画像に赤外線観測データを重ねてみる

特に活発な星形成銀河では、星から放たれた光の大部分はチリに吸収されてしまいます。

なので、星形成率を正確に見積もり、チリと温めている天体の正体を明らかにするには、暖められたチリが発する赤外線や電波を幅広い波長域で観測する必要があります。

そこで、国立天文台の研究チームが用いたのは、“HSC”による広域可視光線観測に加え、5つの赤外線天文衛星が過去に観測したデータでした。
これにより原始銀河団が放つ赤外線放射についての研究を進めています。
  データが用いられた5つの赤外線天文衛星は、ヨーロッパ宇宙機関の“プランク”と“ハーシェル”、NASAの“IRAS”と“WISE”、JAXAの“あかり”。

ただ、赤外線天文衛星による過去の観測データには問題もありました。
それぞれの天文衛星では中間赤外線から遠赤外線までの超広域画像が得られていても、遠くの天体を個々に検出するには解像度や感度が低かったからです。

この問題の克服には、“HSC”で見つかっている原始銀河団については、赤外線天文衛星のデータを重ね合わせるという手法が使われています。
この手法により、約120億光年彼方の原始銀河団が放つ平均的な赤外線放射の全体像がとらえることができました。

特に波長30~200μm帯は、これまで普通の遠方銀河でさえ全く様子が分からなかった波長帯だったので、極めて画期的な成果といえます。
画像解析手法の模式図。すばる望遠鏡の“HSC”による観測で原始銀河団を探し、その領域について赤外線天文衛星で得られた画像を重ね合わせることで、赤外線放射の全体像をとらえることに成功している。(提供:国立天文台)
画像解析手法の模式図。すばる望遠鏡の“HSC”による観測で原始銀河団を探し、その領域について赤外線天文衛星で得られた画像を重ね合わせることで、赤外線放射の全体像をとらえることに成功している。(提供:国立天文台)



個々の銀河で何が起こっているのか

今回検出した赤外線放射は予想以上に強いので、“HSC”で見つかっていた星形成銀河だけでは説明がつかないものになりました。

研究チームが赤外線放射の波長成分を詳しく調べてみると、典型的な星形成銀河よりも温かいチリが存在することが明らかになります。

原因としては、成長中の超大質量ブラックホール(活動銀河核)や、若く熱い星形成銀河が原始銀河団に潜んでいて、チリをより高温にしていることが考えられています。
約120億光年彼方の原始銀河団が放つ平均的な赤外線放射の全体像。原始銀河団のすべての銀河による放射強度の総和(赤丸)、“HSC”で検出した銀河1つ当たりの放射強度(黒点・黒点線)、“HSC”の可視光線から予想される原始銀河団からの赤外線放射(灰色曲線)を示している。赤外線天文衛星による観測から求められた放射強度と比較すると、足りない部分(濃い灰色の領域)がある。(提供:国立天文台)
約120億光年彼方の原始銀河団が放つ平均的な赤外線放射の全体像。原始銀河団のすべての銀河による放射強度の総和(赤丸)、“HSC”で検出した銀河1つ当たりの放射強度(黒点・黒点線)、“HSC”の可視光線から予想される原始銀河団からの赤外線放射(灰色曲線)を示している。赤外線天文衛星による観測から求められた放射強度と比較すると、足りない部分(濃い灰色の領域)がある。(提供:国立天文台)

今後、原始銀河団に潜んだ活動性をさらに詳しく調べるには、個々の銀河に分解して検証する必要があります。

そこで期待されるのが、ヨーロッパ宇宙機関とJAXAが開発・検討を進めている次世代の赤外線天文衛星“SPICA”です。
“SPICA”を用いることができれば、個別の銀河で何が起こっているのかを、より詳細に研究することが可能になるんですねー

ただ、“SPICA”は100平方度を超えるような超広域観測に向いていないので、将来行われる“SPICA”の観測データを用いた研究を、今回の研究成果が補うことになるようです。


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重い元素はどうやって作られるの? まずは矮小銀河で観測されたストロンチウムの起源を調べてみよう。

2020年03月16日 | 宇宙 space
重い元素の起源については多くの謎に包まれています。
矮小銀河で観測されたストロンチウムの比率が極めて高い星もその1つ。
このストロンチウムはどのような天体現象で生成されたのでしょうか?
スーパーコンピュータを用いたシミュレーションでは、少なくとも4種類の天体や天体現象が関わっているようです。
ストロンチウムが生成される様子の概念図(Credit: ESO/L. Calçada/M. Kornmesser)
ストロンチウムが生成される様子の概念図(Credit: ESO/L. Calçada/M. Kornmesser)


原始が中性子を獲得する過程

恒星は“宇宙の錬金術師”といえます。
それは、周期表上の多くの軽い元素は、恒星内部で起こる核融合反応によって形成されることが分かっているかです。

でも、重い元素の起源については多くの謎に包まれているんですねー

核融合反応は、鉄やニッケルのような重い元素を生成しますが、原子核がさらに中性子を獲得するとより重い元素が形成されます。

超新星爆発や2つの中性子星の合体のような極限の天体現象のもとで起こるのは、速い中性子捕獲過程“rプロセス(rapid neutron-capture process)”。
一方、より軽い星の進化の最終段階である漸近巨星分枝星などでは、遅い中性子捕獲過程“sプロセス(slow neutron-capture process)”が起こります。
  年老いた軽い星である漸近巨星分枝星は、太陽のような低質量星の一生の末期にあたる。
この2つのプロセス、つまり2種類の環境では、異なる割合の重元素が形成されることになります。

これらのプロセスで形成される重元素は、星が一生を終えるときに宇宙空間に放出され、その後に形成される新しい星に取り込まれまていきます。

このようにして次の星に受け継がれた元素の分布を追跡することで、重元素がどうやって形成されたのかの理解につながると考えられています。


ストロンチウムの量を説明するのに必要なもの

中性子捕獲過程で形成される元素の中で最も軽いものの1つに、ストロンチウム(原子番号30)があります。

同じく、中性子捕獲過程で作られる元素の中で重いものの代表であるバリウム(原子番号56)と比較してみると、天の川銀河の近傍に存在する矮小銀河には、バリウムに対するストロンチウムの比率が極めて高い星がいくつか観測されています。
  矮小銀河は数十億個以下の恒星からなる小さな銀河。

このことが示しているのは、ストロンチウムとバリウムが異なる環境で作られたということです。
ちょうこくしつ座の矮小銀河。遅い中性子捕獲過程によってストロンチウムが過剰になった恒星が含まれている。
ちょうこくしつ座の矮小銀河。遅い中性子捕獲過程によってストロンチウムが過剰になった恒星が含まれている。(Credit: ESO/Digitized Sky Survey 2)
このストロンチウムの起源を確かめるため理化学研究所のチームが実施したのは、rプロセスとsプロセスを起こす天体現象を考慮した矮小銀河の化学進化シミュレーション。どのような天体現象でストロンチウムが生成されるかを調べるためでした。
  シミュレーションに使用されたのは、国立天文台が運用する天文学専用のスーパーコンピュータ“アテルイⅡ”。

その結果示されたのは、中性子星合体(rプロセス)と漸近巨星分枝星(sプロセス)だけでは、ストロンチウムの量を説明できないということでした。

そこで、研究チームが考えたのは、足りないストロンチウムのうちいくらかは自転する大質量星に由来するというもの。
このような星では、恒星内部で起こる物質のかくはんによって中性子が作られ、sプロセス元素が生成されるからです。

さらに、シミュレーションから重要なことが分かります。
それは、電子捕獲型超新星から放出された物質によって、ストロンチウムとバリウムの比が大きい星が作られるということでした。

このような電子捕獲型超新星は、大質量星の中でも太陽の8~10倍程度という軽い部類の星が起こすとされている現象です。
このような星がストロンチウムの起源になっていると考えられます。
4つの天体と天体現象(中性子星合体、漸近巨星分枝星、自転する大質量星、電子捕獲型超新星)の影響を考慮したシミュレーションが示す元素比と、近傍矮小銀河や天の川銀河で観測された恒星の元素比の比較。黒い実線はシミュレーションが示す中央値を表している。
4つの天体と天体現象(中性子星合体、漸近巨星分枝星、自転する大質量星、電子捕獲型超新星)の影響を考慮したシミュレーションが示す元素比と、近傍矮小銀河や天の川銀河で観測された恒星の元素比の比較。黒い実線はシミュレーションが示す中央値を表している。(Credit: Hirai et al., 2019, ApJ)
今回の研究から分かってきたのは、近傍の矮小銀河で観測されるストロンチウムの量を説明するのに必要なもの。

それは、中性子星合体と漸近巨星分枝星、自転する大質量星、電子捕獲型超新星という4種類の天体や天体現象の中で起こる中性子捕獲反応でした。

今後、研究チームでは、天の川銀河やその周辺の星でも、観測される元素組成とシミュレーション結果を詳細に調べ、さらに重元素の起源を調べるそうです。


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