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なぜ、金星では自転速度をはるかに超える風“スーパーローテーション”が吹いているのか?

2020年05月19日 | 金星の探査
金星では自転速度をはるかに超えるような風“スーパーローテーション”が吹いでいます。
この“スーパーローテーション”は、どうやって維持されているのか? が長年の謎になっているんですねー
今回、探査機“あかつき”のデータから“スーパーローテーション”を維持するメカニズムが解明されています。
系外惑星の大気循環や、それが表層環境に与える影響の探求に役立つと期待されているようです。


自転速度の60倍にも達する風

金星の自転周期は地球時間で数えて243日、公転周期は225日です。
ただ、その自転と公転の向きが逆なので、金星の一日の長さは地球の117日に相当します。

一方、ゆっくり自転する金星自身を軽々と追い越してしまうほどの速度で回転しているのが、金星の分厚い大気です。

この現象は“スーパーローテーション”と呼ばれ、一番速度が大きい雲層の上端付近(高度約50~70キロ)では、自転速度の60倍にも達しているんですねー

“スーパーローテーション”が発見されたのは1960年代のことでした。

ただ、そのメカニズムは謎のまま…

過去に長期にわたって金星を周回したNASAの探査機“パイオニア・ビーナス・オービター”やヨーロッパ宇宙機関の“ビーナス・エクスプレス”でも、“スーパーローテーション”に関する仮説を確かめるための観測は行えませんでした。

日本にも、謎の多い“金星の気象”を幅広く解明することを目指した探査機があります。
2010年5月に打ち上げられ、2015年12月に金星の周回軌道に投入されたJAXAの金星探査機“あかつき”です。

“スーパーローテーション”がどのように維持されるのかを解明すること。
それが“あかつき”の最大の目標になっています。
“あかつき”のイメージ図。(Credit: 池下章裕、ISAS/JAXA)
“あかつき”のイメージ図。(Credit: 池下章裕、ISAS/JAXA)


“あかつき”による紫外線と赤外線を使った観測

“あかつき”は、紫外線や赤外線といった複数の波長で金星の雲の写真を撮り続けています。

今回、北海道大学の研究グループは風速を求めるため新たな手法を開発しています。
それは、紫外線カメラで得られた画像に写る雲を追跡するものでした。

これによって達成できたのは、これまで不可能だった風速の微細構造を明らかにすること。
さらに、“スーパーローテーション”に対する大気の波や乱流の効果を見積もることもできるようになりました。

研究グループは、“スーパーローテーション”がどのように維持されているのかを調べるため、赤外線カメラで計測した温度を使用しています。

地球がそうであるように、太陽からのエネルギーが一番効率良く届くのは金星の赤道付近で、極付近が受けるエネルギーは弱くなっています。
そのため、熱い低緯度から寒い高緯度へと大気が南北方向にゆっくり循環することで熱は運ばれています。

このとき、角運動量(回転の勢い)もいっしょに運ばれてしまいます。
そう、このままでは赤道における“スーパーローテーション”を維持できなくなってしまうんですねー

詳細な分析を行ってみると、昼に加熱されて夜に冷却されることで大気が動いて生じる“熱潮汐波”が赤道領域へ角運動量を運び、低緯度での大気の加速を引き起こすことが明らかになります。
熱潮汐波とは、大気の温度が1日を周期として変化することが原因となってつくられた、潮汐と同じような大規模な気圧の波のこと。

これまで、大気中に存在する潮汐波以外の波や乱れも加速を担う候補として考えられていました。
でも、低緯度の雲頂付近では、弱くはあるが潮汐とは逆に働いていることも、今回新たに判明したことでした。

ただし、それらは赤道を離れた中高緯度では、角運動量の運搬に貢献していると考えられています。
今回明らかになった金星の“スーパーローテーション”の維持機構の模式図。(Credit: Planet-C project team)
今回明らかになった金星の“スーパーローテーション”の維持機構の模式図。(Credit: Planet-C project team)


地球を含む惑星の大気運動を調べる

現在も観測を続ける“あかつき”ですが、これまでに取得されたデータの分析も活発に続けられていて、観測とシミュレーションの融合といった研究も進んでいます。
今後も金星大気に関する様々な発見がもたらされ、理解が進むと期待されています。

また、可能性として示唆されているのが、地球でも極端な温暖期には、ある程度のスーパーローテーションがあったということ。
地球とは大きく異なる金星大気の研究から、地球型惑星における大気の循環に関するより広い理解が得られるかもしれません。

さらに、現在発見されている4000を超える系外惑星の中でも、恒星の近くを回っている系外惑星の多くは、潮汐力によって恒星にいつも同じ面を向けて公転していると考えられています。

この状態は、非常にゆっくりと自転している金星の状態に似ているんですねー
なので、今回明らかになったシステムは系外惑星でも成り立っている可能性があります。

あまり知られていませんが、ほとんどの太陽系の惑星には大気が存在しています。
こうした地球を含む惑星の大気運動を調べるのが惑星気象学という学問です。

金星の“スーパーローテーション”は、地球では考えられない大気現象ですが、火星では数年に一回起こる大砂嵐という不思議な現象があります。
地球でも砂漠で砂嵐が起こりますが、火星では惑星全体を覆うような規模で起こっています。

木星の縞模様は東西風の流れが作り出しています。
一つ一つの縞は、東に向かう流れと西に向かう流れに対応していて、縞ごとに風の吹く方向が交互になっています。
土星の縞模様も同様です。

17世紀に発見された木星の大赤斑は巨大な高気圧ですが、300年以上消えずにいます。

“ボイジャー”などの探査によって海王星や天王星にも、秒速数百メートルの非常に速い風が吹いていることが分かっています。
太陽から遠く、外部から受け取るエネルギーが少ない惑星で、なぜそのような激しい大気現象が起こるのでしょうか。

このように地球の気象学を、そのまま当てはめても分からない現象はたくさんあります。
今回の研究成果は、系外惑星の大気循環やそれが表層環境に与える影響の探求にも応用できるようですよ。


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銀河同士の衝突が原因だった! 若い渦巻銀河の中心にあるブラックホールがジェットを噴き出し始めた理由。

2020年05月17日 | ブラックホール
すばる望遠鏡が持つ高い解像力によって、渦巻銀河同士の衝突の現場がとらえられました。
この衝突によって、一方の銀河中心核が明るくなり、光速近くで物質を噴き出すジェットが生じつつある画像が、観測により得られたんですねー
ただ、ジェットは比較的年齢の若い渦巻銀河ではあまり見つからず、高齢で質量の大きな楕円銀河で多く見つかっています。
この理由は、今回観測されたような銀河の衝突で説明できるようです。


若い渦巻銀河同士の合体によって生じたジェット

銀河の中心核で生じるジェットは、太陽が100億年の生涯で生み出す以上のエネルギーを、1秒間で放つという非常に強力な現象です。

これまでにジェットが観測されてきたのは、もっぱら長い時間をかけて成長した楕円銀河。
今回、初めて2つの若い渦巻銀河の合体によって、ジェットが生じたことを示す画像が観測で得られたんですねー
すばる望遠鏡を用いたこの観測は、ドイツ電子シンクロトロンの研究チームが行ったものでした。

すばる望遠鏡が向けられたのは、みずがめ座の方向約43億光年彼方にある“TXS 2116-077”と呼ばれる天体。
過去の観測からは、“TXS 2116-077”は中心核が明るい“セイファート1型銀河”であり、ジェットが発生していることが分かっていました。
セイファート銀河は活動銀河の一種。銀河の形態は渦巻銀河または不規則銀河で極端に明るい中心核を持つ。中心核の活動性は中心に存在する大質量ブラックホールによるものと考えられている。

でも、すばる望遠鏡による撮影で、初めてこの銀河に別の銀河が衝突していることが判明。

すばる望遠鏡が持つ高い解像力により初めてとらえたのは、ジェットを放出する“TXS 2116-077”が合体の途上にあり、隣の銀河と4万光年まで近づいている様子でした。
この2つの銀河は合体の最終段階にあるそうです。
合体途上にある銀河“TXS 2116-077”(右)と同程度の質量を持つ銀河(左)の近赤外線画像。両銀河はともに活動銀河核を持ち、銀河同士の衝突で発生した相対論的ジェットが“TXS 2116-077”の中心から噴出している。(Credit: Vaidehi Paliya)
合体途上にある銀河“TXS 2116-077”(右)と同程度の質量を持つ銀河(左)の近赤外線画像。両銀河はともに活動銀河核を持ち、銀河同士の衝突で発生した相対論的ジェットが“TXS 2116-077”の中心から噴出している。(Credit: Vaidehi Paliya)
これまでにも、銀河が衝突・合体する様子は数多く撮影されてきました。
でも、その中に地球の方向へ放たれるジェットが存在する例は初めてのことでした。

通常、ジェットが放つ光は非常に強く、背後の銀河の姿は見えません。
でも、今回は誕生現場である銀河を実際に見ることができたので、このジェットは形成されたばかりで比較的弱いようです。


銀河の衝突がブラックホールにガスを供給している

ほとんどの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。
私たちのいる天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*”が存在している。

そこへ引き寄せられたガスやチリは、ブラックホールの周りに“降着円盤”を形成。
この物質がブラックホールに落ち込んでいくと銀河中心核が膨大なエネルギーを放ち、ときに銀河全体をしのぐほど明るくなります。
星、星間チリ、星間ガスといった通常の銀河の構成要素とは別の部分からエネルギーの大半が放出されている特殊な銀河を活動銀河という。このエネルギーの大半を、銀河の中心1%程度のコンパクトな領域から放出していて、この部分を活動銀河核と呼ぶ。

また、その過程で一部の物質はブラックホールへ落ち込まず、“降着円盤”に対して垂直な方向に加速され超高速で噴き出すジェットになり、銀河からガスを流出させています。
ブラックホールによって集められたガスやチリは、降着円盤を形成しブラックホールに落ち込んでいく。一方、降着円盤内のガスの摩擦熱によって電離してプラズマ状態になると、電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットとして噴射する。

噴き出すジェットは光速近くまで加速されることから、相対論的ジェットと呼ばれることもあります。

ただ、ジェットは比較的年齢の若い渦巻銀河ではあまり見つからず、高齢で質量の大きな楕円銀河で多く見つかっています。

この理由は、今回観測されたような銀河の衝突で説明できるようです。

銀河のガスを移動させて中心へ到達させることは困難です。
銀河を多少ゆさぶって、ガスを中心へ届ける「何か」が必要になります。
そう、銀河の合体や衝突は、ガスを移動させるもっとも簡単な方法というわけです。

十分なガスが移動すれば、超大質量ブラックホールは非常に明るくなり、ジェットを形成できる可能性が出てきます。

私たちの天の川銀河とお隣さんのアンドロメダ座大銀河も、40億年後には衝突・合体すると予測されています。

数多くの詳細なシミュレーションが行われていて、この出来事が最終的に一つの巨大な楕円銀河の形成につながる可能性が示されています。

まだまだ先のことですが、条件によっては超高速のブラックホールジェットが形成されるかもしれませんね。


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二酸化炭素が少ない“ジャコビニ・チンナー彗星”。実は他の彗星よりも暖かい場所で誕生していた。

2020年05月15日 | 宇宙 space
10月のりゅう座流星群の母天体として知られている“ジャコビニ・チンナー彗星”。
この彗星を他の彗星と比べてみると、水に対する二酸化炭素の存在量が特に小さいことが判明したんですねー
このことは、“ジャコビニ・チンナー彗星”が他の彗星よりも暖かい場所で形成された可能性があることを示唆するようです。


複雑な有機物を豊富に含んだ彗星

太陽系が誕生した46億年前、生まれたての太陽の周囲にはガスとチリを含む原始惑星系円盤が存在し、その中で惑星や小天体が形成されていました。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

この原始惑星系円盤の中で彗星は、彗星氷の主成分である水が凍るような、およそマイナス120度以下という低温の場所で誕生したはずなんですねー
そのため多くの彗星は同じような組成比を持っています。

でも、10月のりゅう座流星群(ジャコビニ流星群)の母天体として知られている“ジャコビニ・チンナー彗星”は、他の彗星と比べると複雑な有機物を豊富に含んでいることが明らかになっています。

複雑な有機物は比較的温暖な環境で作られると考えられています。
なので、“ジャコビニ・チンナー彗星”は他の彗星と異なり、温かい場所で誕生した可能性があります。
2018年9月16日に撮影された“ジャコビニ・チンナー彗星”。(Credit: IKEP-)
2018年9月16日に撮影された“ジャコビニ・チンナー彗星”。(Credit: IKEP-)


彗星に含まれる二酸化炭素に注目

そこで、京都産業大学の研究チームは、彗星に含まれる二酸化炭素が水よりも低温で昇華して失われるという性質に注目。
“ジャコビニ・チンナー彗星”の二酸化炭素に対する水の組成比を調べることで、彗星の氷ができた環境が温かかったかどうかを明らかにできると考えたわけです。

そして、2018年に地球に近づいた“ジャコビニ・チンナー彗星”を、すばる望遠鏡の高分散分光器HDSで観測しています。

ただ、彗星が発する二酸化炭素の光は地球の大気に吸収されてしまうので、観測には工夫が必要でした。

研究チームが着目したのは、水や二酸化炭素が太陽紫外線で壊されてできる特殊な酸素原子でした。
この酸素原子は、通常よりも高いエネルギー状態に励起されていて、光を出すことで安定な低いエネルギー状態へと遷移します。
この光が“酸素禁制線”という、地球のオーロラ発光で見られる緑や赤の光なんですねー
励起とは、外部からエネルギーを与えることによって、原子・分子などをより高いエネルギー状態に移すこと。

彗星のコマでは、水から壊れてできた酸素原子は赤の禁制線を出しやすく、二酸化炭素から壊れてできた酸素原子は緑と赤の禁制線を同程度に放出するという特徴があります。

そう、“酸素禁制線”の緑と赤の光の強さを比べれば、二酸化炭素に対する水の比率を推定することが可能だということです。
彗星のコマでの酸素の禁制線の発光メカニズム。太陽紫外線によって壊されて作られた水分子からの酸素原子は赤の禁制線を出しやすく、二酸化炭素からの酸素原子は緑と赤の禁制線を同程度放出する。(Credit: 京都産業大学)
彗星のコマでの酸素の禁制線の発光メカニズム。太陽紫外線によって壊されて作られた水分子からの酸素原子は赤の禁制線を出しやすく、二酸化炭素からの酸素原子は緑と赤の禁制線を同程度放出する。(Credit: 京都産業大学)
観測により判明したのは、“ジャコビニ・チンナー彗星”の水に対する二酸化炭素の比率はおよそ1%。
他の彗星が数%~30%の比率なので、“ジャコビニ・チンナー彗星”の比率は非常に小さいものでした。

この二酸化炭素が非常に少ないという結果は、過去の観測で明らかにされた一酸化炭素の成分比が低めであることとも整合していました。
一酸化炭素は二酸化炭素よりも、さらに低い温度で蒸発して失われてしまうからです。

このように二酸化炭素が少ないことから、“ジャコビニ・チンナー彗星”が他の彗星に比べて温かい領域で形成された可能性が高いことが示唆されることになります。


太陽系初期における彗星の形成環境

高温環境で作られやすい複雑な有機物が豊富に含まれるということは、これまでの研究結果とも矛盾しないものです。

原始惑星系円盤の中で木星や土星といった大きな惑星が誕生する際、その惑星の周りに存在する“周惑星系円盤”という小さなガスとチリの円盤が、衛星の誕生現場となっていました。

“ジャコビニ・チンナー彗星”も、この“周惑星系円盤”で誕生したのではないかと研究チームは考えたんですねー

“周惑星系円盤”は、太陽から同じ距離の原始惑星系円盤中のガスやチリよりも暖められています。
なので、そこで誕生した彗星は二酸化炭素が少なく、複雑な有機物を豊富に含んでいたはずです。
原始惑星系円盤内にある巨大惑星の周惑星系円盤と、周惑星系円盤内での彗星形成のイメージ。(Credit: 京都産業大学)
原始惑星系円盤内にある巨大惑星の周惑星系円盤と、周惑星系円盤内での彗星形成のイメージ。(Credit: 京都産業大学)
今回の研究により、これまで特異な特徴を持つ彗星として知られていた“ジャコビニ・チンナー彗星”の謎を、一つ明らかあにすることができました。

今後、さらに“ジャコビニ・チンナー彗星”の研究を続けるとともに、同じような特徴を持った変わり者の彗星を新たに見つけられれば、太陽系初期における彗星の形成環境を明らかにすることができそうですね。


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見落としから発見したもの。それは地球とよく似たサイズと温度の系外惑星でした。

2020年05月13日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
運用を終了した探査衛星“ケプラー”の観測データを見直していると、これまで“ケプラー”が発見したどの系外惑星よりもサイズと温度が地球に近い天体が見つかりました。
しかも、この系外惑星が位置しているのは“ハビタブルゾーン”… そう、液体の水が存在できる領域なんですねー


太陽系の外にある惑星を探す衛星“ケプラー”

“ケプラー”は2009年に打ち上げられたNASAの系外惑星探査衛星です。

2013年5月までのメインミッションで発見した系外惑星の数は2300億近く。
姿勢制御装置の故障による主要ミッション終了後にも、2014年からは太陽光圧を姿勢制御に利用する“K2ミッション”を開始し、さらに数百個の系外惑星を発見しています。

残念ながら“ケプラー”の運用は2018年の10月30日に終了… 原因は燃料切れでした。

“ケプラー”は、これまでの観測で膨大なデータを取得しているので、このデータの解析を進めていけば、まだまだ新しい発見が出てくると期待されています。
系外惑星探査衛星“ケプラー”


赤色矮星の“ハビタブルゾーン”に軌道を持つ岩石惑星

アメリカ・テキサス大学オースティン校の研究チームでは、“ケプラー”が取得したデータの見直しを進めています。
すると、はくちょう座の方向約300光年彼方の恒星の周りに、地球サイズの系外惑星“Kepler-1649 c”を見つけるんですねー

“Kepler-1649c”の直径は地球の1.06倍で、地球に非常に近い大きさ。
公転周期は19.5日で中心にある恒星“Kepler-1649”のすぐ近くを回っています。

ただ、この“Kepler-1649”は太陽よりもはるかに暗い“赤色矮星”というタイプの恒星なので、“Kepler-1649 c”が恒星から受ける光量は地球に届く日光の75%と穏やか。
なので、表面温度も地球と似ている可能性があり、“ハビタブルゾーン”に位置する惑星と見られています。
“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く惑星の表面に液体の水が存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。
系外惑星“Kepler-1649 c”のイメージ図。(Credit: NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)
系外惑星“Kepler-1649 c”のイメージ図。(Credit: NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)
ただ、一般的に赤色矮星では表面の激しい爆発現象“フレア”が起こります。
なので、この惑星の環境は生命に適したものだとはいいがたいようです。

また、惑星の気温を大きく左右する大気については何も分かっていないので、サイズの推定に関しても大きな誤差が残っています。

それでも、“Kepler-1649 c”が興味深いのは、大きさと温度の両方がここまで地球に近いと推定される系外惑星が、これまで見つからなかったということ。

また、この惑星が回る赤色矮星は、天の川銀河の中で一番多いタイプの恒星です。
今回のように、赤色矮星の周りで“ハビタブルゾーン”内に軌道を持つ岩石惑星の発見が重なれば、その中に第二の地球が存在する可能性も増えてくるはずです。
地球(左)と比較した“Kepler-1649 c”(右:イメージ図)。(Credit: NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)
地球(左)と比較した“Kepler-1649 c”(右:イメージ図)。(Credit: NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)


軌道共鳴から示唆される未知の惑星

なぜ、これほど興味深い系外惑星が見逃されていたのでしょうか?

“ケプラー”は、地球から見て系外惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”という手法により惑星を発見し、その性質を明らかにします。

ただ、恒星の減光は様々な理由で起こるんですねー
なので、“ケプラー”がとらえた膨大な数の減光記録から、本物の惑星が引き起こしたものを自動的により分けるアルゴリズムが用いられています。

ここで惑星以外が原因と推定された減光に下されていたのは“偽陽性”の判定。
でも、恒星の光度変化には紛らわしいものも多く、アルゴリズムには限界があることも分かっていました。

そこで、研究チームは見落とされた可能性のある系外惑星を探すため、“偽陽性”のデータを徹底的に調べてきました。
その結果、“Kepler-1649 c”による減光がアルゴリズムに弾かれてしまっていたことが判明したというわけです。

ところで、“Kepler-1649 c”の存在が確認される前から、中心の赤色矮星にはもう1つ惑星が存在することが知られていました。

その惑星“Kepler-1649 b”も、また地球のような岩石惑星だと推測されています。
でも、恒星からの距離は約750万キロと、“Kepler-1649 c”のさらに半分しかありません。

興味深いことに、2つの惑星の公転周期には9:4という関係があります。
これは、外側の“Kepler-1649 c”が恒星を4周する間に内側の“Kepler-1649 b”がほぼピッタリ9周することを示してます。

このように、公転周期が整数比になる現象は“軌道共鳴”と呼ばれます。
太陽系だと冥王星と海王星の公転周期が3:2になっています。

ただ、気になるのは、公転周期が2:1や3:2のような簡単な比ではなく9:4になっていることです。

ひょっとすると、間に別の惑星が隠れていて、“Kepler-1649 b”と“Kepler-1649 c”の両方と3:2の軌道共鳴を起こしているのかもしれません。
“Kepler-1649 c”: 未知の惑星 :“Kepler-1649 b”の公転周期が9:6:4の関係にある。

“Kepler-1649”に未知の惑星は存在しているのでしょうか。
残念ながら“ケプラー”の観測データからは、それらしい信号は見つかっていないようです。
“Kepler-1649”系のイメージ図。(Credit: NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)
“Kepler-1649”系のイメージ図。(Credit: NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)



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太陽光による加熱は少ないはず… なぜ土星の上層大気は高温なのか?

2020年05月11日 | 土星の探査
木星から海王星にあるガス惑星の上層大気は、なぜ高温に保たれているのでしょうか?
地球だと、上層大気は太陽光による加熱で高温に保たれています。
でも、木星より外側の惑星は太陽から遠く離れているので、太陽光による過熱はあまり強く働かないはず…
今回、2017年に運用を終了した土星探査機“カッシーニ”のデータから、土星の上層大気が高温に保たれている謎を解く手がかりが得られたようです。


オーロラが上層大気を加熱している

地球の大気の最上層部は“熱圏”と呼ばれ、密度は極めて薄いのですが、太陽からのX線や紫外線で加熱されるので温度が約2000度にもなっています。

これは木星から海王星までのガス惑星でも同じで、いずれも上層大気は高温に保たれています。
2008年11月1日に探査機“カッシーニ”によって撮影された土星の南半球の近赤外線画像。青い領域は太陽からの赤外線を反射している部分で、赤い領域は土星本体の熱放射の赤外線を示している。緑色のリングが土星のオーロラで、水素イオンが赤外線を放射している。(Credit: NASA/JPL/ASI/University of Arizona/University of Leicester)
2008年11月1日に探査機“カッシーニ”によって撮影された土星の南半球の近赤外線画像。青い領域は太陽からの赤外線を反射している部分で、赤い領域は土星本体の熱放射の赤外線を示している。緑色のリングが土星のオーロラで、水素イオンが赤外線を放射している。(Credit: NASA/JPL/ASI/University of Arizona/University of Leicester)
ただ、木星より外側の惑星は太陽から遠く離れているので、地球の“熱圏”とは違って太陽光による加熱はあまり強く働かないはず。
にもかかわらず、例えば土星の上層大気は、太陽光だけが熱源だと考えた場合よりも数百度も温度が高いんですねー

この食い違いは、ガス惑星の大気における“エネルギー危機(energy crisis)”とも呼ばれ、惑星科学の大きな謎の一つになっています。

この謎を解くためアリゾナ大学の研究チームは、NASAの土星探査機“カッシーニ”の観測データを新たに解析。
土星の上層大気を高温に保つ熱源の有力候補を見つけるためでした。

そして、分かってきたのは、土星の北極と南極に生じるオーロラがその熱源の候補だということ。

太陽風と土星の衛星から放出される荷電粒子とが相互作用すると電流が生じます。
研究チームが考えたのは、この電流によってオーロラが発光して上層大気を加熱するというメカニズムでした。
2005年6月21日に“カッシーニ”の紫外線撮像分光計(UVIS)で撮影された土星のオーロラ。南北両極に見える青白いリングがオーロラ。2枚の画像は約1時間差で撮影されたもので、土星のオーロラが1時間以上持続すること、短時間で変化することを示している。(Credit: NASA/JPL/University of Colorado)
2005年6月21日に“カッシーニ”の紫外線撮像分光計(UVIS)で撮影された土星のオーロラ。南北両極に見える青白いリングがオーロラ。2枚の画像は約1時間差で撮影されたもので、土星のオーロラが1時間以上持続すること、短時間で変化することを示している。(Credit: NASA/JPL/University of Colorado)
大気の中を循環する熱の流れを完全に描き出すことができれば、オーロラの電流が土星の上層大気を、どのように加熱して風が生じるかを深く理解できるようになるはずです。

そこで、研究チームが考えたのは、オーロラによって土星の極域に溜まった熱エネルギーが、全球的な風の流れによって赤道地域へと運ばれるということでした。
これによって、上層大気は太陽光だけで加熱される場合よりも2倍も高い温度にまで熱くなるようです。


上層大気の密度と温度

今回の結果は、惑星の上層大気を広く理解する上で欠かせないもの。
“カッシーニ”の探査データの中でも重要な位置を占める成果になるんですねー

1977年に打ち上げられた“カッシーニ”は、2004年に土星を周回する軌道に投入され、13年以上にわたって土星や衛星の観測を行いました。

“カッシーニ”は2017年9月に土星大気に突入してミッションを終えるのですが、その直前に“グランドフィナーレ”と呼ばれる最後のミッションを実施しています。

このミッションは、22回にわたって土星のすぐ近くを通り土星本体と環の間を通り抜けるというものでした。

今回の研究で分析された重要なデータは、この“グランドフィナーレ”で得られたものでした。
このデータからは、土星の環が本体よりもずっと後になってから形成されたことも分かっている。

“カッシーニ”はオリオン座とおおいぬ座の明るい恒星が、土星の後ろに隠される掩蔽現象を6週間にわたって観測。
研究チームは、恒星が様々な緯度で土星の縁に潜入し、再び出現する様子をとらえたデータから、星の光が土星の大気を通過する際の変化を調べ、上層大気の密度を求めています。

大気の密度は高度が高くなるほど薄くなりますが、大気密度の減少度合いは温度によっても変わってきます。
この観測データからは、土星の上層大気の温度を緯度ごとに導くことに成功しています。

そして、分析の結果明らかになったのは、土星の上層大気の温度はオーロラが発生する緯度付近で最も高いということ。
これは、オーロラ電流が上層大気を加熱していることを示唆するものでした。

さらに、研究チームは大気の密度と温度から土星大気内の風速も求めています。

惑星の上層大気は宇宙空間と接する領域であり、土星の上層大気を理解することは、太陽系内での太陽風や磁場の変動といった“宇宙天気(space weather)”を理解するカギにもなります。

こうした宇宙天気が太陽系の他の惑星に与える影響を理解したり、他の恒星系での系外惑星と宇宙天気の関係を知る上でも重要になるようです。


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