宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

高速で自転する天体“マグネター” 自転速度が遅くなる現象“アンチグリッチ”はなぜ起きる?

2023年02月17日 | 宇宙 space
太陽よりも数十倍重い星が一生の最期を迎えると超新星爆発を起こし、その爆発の中心部には極めて高密度な天体“中性子星”が形成されることがあります。
 中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていている。一般に強い磁場を持つものが多い。
中性子星は、密度が地球の数100兆倍、磁場が地球の約1兆倍もある天体。
多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーとも呼ばれています。

その中性子星の中でも特に強力な磁場を持つものが“マグネター”と呼ばれています。
 マグネター(磁石星)は中性子星の一種で、10秒程度の自転周期を持つ、主にX線で輝く天体。
100億テスラ以上の超強磁場を持つと推定されていて、磁気エネルギーを開放することで輝くと考えられている。
マグネターは、強力な磁場が高速の自転によってねじれることで、X線から電波まで幅広い領域の電磁波を放出しているので、宇宙で最も活動的な天体の一つといえます。
電磁波のエネルギーの違いは、マグネターの周辺で起こっている活動の違いによるものとみられています。

マグネターの自転速度が急激に変化する現象

中心で核融合が起きている恒星とは違い、マグネターは自らエネルギーを生み出していません。
なので、宇宙空間にエネルギーを放出し続けることで、自転速度が少しずつ遅くなっていくんですねー

ところが、マグネターでは自転速度が急激に変化する“グリッチ”と呼ばれる現象が時折起きています。

ほとんどのグリッチでは自転速度が速くなります。
でも、稀に自転速度が遅くなる“アンチグリッチ”も観測されています。

ただ、グリッチやアンチグリッチの原因はほとんど分からず…

それは、中性子星の平均密度が1立方センチ当たり10億トンという高密度な物質で出来ているから。
このような物質を実験室で作ることはできず、性質がほとんど理解されていなのはこのためです。

自転速度が速くなる現象“グリッチ”

中性子星の密度は、中心部に近づくにつれてさらに桁数が上がるので、理解することはより難しくなります。

ただ、観測回数の多いグリッチについては、原因がある程度推定されています。

ほとんどの場合、グリッチではX線の放射が観測されていません。
なので、グリッチを引き起こすのはマグネターの内部での現象だと考えられています。

マグネターの表層と内部を比べると、表層の方が磁場の影響を受けやすく、減速しやすいと考えられています。

そのため、表層と内部の自転速度の差が大きくなった時、内部の運動エネルギーの一部が表層へと伝わることで、表層の自転速度が急激に速くなると考えられています。

自転速度が遅くなる現象“アンチグリッチ”

一方でアンチグリッチについては、これまでに観測された回数はわずか3回だけ…
極めて少なく、その原理はグリッチ以上に理解されていません。

それでも、これまでに考えられたアンチグリッチの発生原因としては、主に以下の3つのシナリオがあります。

1番目
 近くの恒星から電気を帯びた粒子が大量に供給され、マグネターの周辺に強力な磁気圏が形成される。
磁気圏は急速にねじれつつ極域まで拡大し、ねじれが限界に達すると安定した形に再形成され、その時のエネルギー放出が自転速度を遅くさせる。

2番目
 磁場の影響を受けやすい表層は、赤道領域がだんだんと膨らむように変形する。
変形が限界に達して表層が壊れたり、磁場の影響を受けにくい内部の配置が再構築されたりすることで、再び球形に近い形へと戻るが、この時の急激な形状変化が自転速度を遅くする。

3番目
 マグネターの表層は個体に近く、内部は液体に近い性質を持っていると考えられている。
表層と内部の境界では渦が生成されやすく、渦の発生・位置の変化・消滅の仕方によって、表層の自転速度を低下させる現象が起こると考えられている。

今回進められたのは、2020年10月5日に“SGR 1935+215”で観測された珍しいアンチグリッチの記録に基づく、アンチグリッチが起こる原因についての研究。
 この研究を進めているのは、ライス大学のM.G.Baringさんたちのチームです。
このアンチグリッチは、発生から数時後に高速電波バーストに似た強力な(しかし高速電波バーストに比べれば弱い)電波の放出が観測されたという点で非常に珍しい現象でした。

アンチグリッチと電波の放出が、ほぼ同時に観測されたのは今回が初めてのこと。
おそらく、アンチグリッチと電波の放出は互いに関連しているはずです。
マグネターのアンチグリッチに伴う電波放出は、マグネターの極域から放出されていると考えられている。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
マグネターのアンチグリッチに伴う電波放出は、マグネターの極域から放出されていると考えられている。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
研究チームでは観測データと物理モデルを照合。
すると、アンチグリッチは1番目のシナリオで起こる可能性が高いことが分かりました。

なぜ、上記のようなアンチグリッチの発生原理が、これまで理解されなかったのでしょうか?

その理由の1つに、X線放射が観測されなかったことがあります。

マグネターの外部の変化を伴う現象ではX線が放射される可能性があります。
このことから、X線放射だけに注目すれば、マグネターの内部で起こる現象である3番目のシナリオの可能性が高いことになります。

でも、高速電波バーストの観測体制が整えられてからまだ日が浅いことや、今回初めてアンチグリッチと電波放出が関連付けられたことから、1番目もしくは2番目のシナリオが妥当である可能性が出てきたわけです。

さらに、電波放出のエネルギー値や、放出が短時間に留まることは、1番目のシナリオが最も適合することを示していました。
このシナリオの場合、電波はマグネターの極域近くから放出されたことになります。

今回の推定は、数少ないアンチグリッチと関連する電波放出が観測されたことで、初めて実現しました。

ただ、アンチグリッチは観測回数が極めて少なく、一方の高速電波バーストも最近理解されるようになった現象なんですねー

観測例が増えるに従って別のシナリオが検討されたり、あるいは複数のシナリオがそれぞれ別のアンチグリッチを引き起こしている可能性が出てくるかもしれません。

それでも今回の研究結果は、アンチグリッチの理論が観測事実によって初めて検証されたという意味で重要な成果になります。
研究はまだ始まったばかり、今後の観測や研究により新しい発見が期待できます。


こちらの記事もどうぞ


土星の衛星エンケラドス表面の水柱から“生物の細胞”を検出できる可能性はあるのか?

2023年02月15日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
厚い氷の層に覆われた海を持つ土星の小さい衛星“エンケラドス”。
エンケラドスには間欠泉があり、地表にある割れ目から宇宙空間に向けて海水を噴き上げているんですねー

興味深いことに海水に含まれているのは、水、塩、シリカ(二酸化ケイ素)、炭素を含む単純な化合物。
そう、これらは生命の材料になり得る物質なんですねー

なので、エンケラドスから宇宙空間に放出されるプルームには、もしかすると生物の細胞が含まれているかもしれません。
エンケラドスを周回してプルームを採取することができれば…
将来の探査機が、生物の細胞を検出してくれるのかもしれませんね。
図1.エンケラドスの間欠泉を観測する土星探査機“カッシーニ”(イメージ図)。プルームを初めて観測しただけでなく、ミッションの後期にはプルームを複数回通過し、貴重なデータを提供してくれた。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
図1.エンケラドスの間欠泉を観測する土星探査機“カッシーニ”(イメージ図)。プルームを初めて観測しただけでなく、ミッションの後期にはプルームを複数回通過し、貴重なデータを提供してくれた。(Credit: NASA/JPL-Caltech)

エンケラドスの地下に存在する海に生命は存在するのか

土星の衛星エンケラドスは、2005年の土星探査機“カッシーニ”による観測以来、注目され続けている天体です。

それは、エンケラドスの南極付近には間欠泉があり、水のプルーム(水柱)が時々宇宙空間へと放出されているからです。

観測で得られた数々の証拠は、エンケラドスの内部が潮汐力によって加熱されて融けていて、表面を覆う分厚い氷の下に液体の海が存在するという強力な証拠を示しているんですねー
 衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
 木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。
また、プルームにはある程度複雑な有機分子、それに塩化物イオンやナトリウムイオンなどが含まれているので、この海は生命を育む条件が整っているとも考えられています。

もし、エンケラドスの海に生命が存在するとしたら…

それは、地球の深海底に存在する生命に似ているのかもしれません。
このような環境では届かない日光のかわりに、地熱活動で噴出する熱水噴出孔からの無機物を代謝するメタン菌などの化学合成生物が生息しています。

なので、エンケラドスにも生命がいるとすれば、そのような代謝経路を持つ生命であるはずだという予測が成り立ちます。

どうやって生命の探査を行うのか

エンケラドスは、地球外生命がいるかもしれない天体の最有力候補の1つといえます。
でも、その証拠を見つけるのは簡単なことではないんですねー

エンケラドス表面の氷の下に海があるとしても、それは厚さ30~40キロと推定される氷殻の下になり、海の深さ自体も10キロあると見られています。

これほど深い穴は地球ですら掘られたことはありませんし、生物圏があったとしてもその規模は極めて小さいとされているので、仮に潜水艇を送り込めたとしても捜索は困難を極めるでしょう。

このことから、直接の探査によって生命を見つけられるかどうかは、まだ当分先の話になりそうです。
図2.エンケラドス内部活動のグラフィカルな説明図。氷の地殻の下には液体の海があり、そこには地熱活動に由来する熱水噴出孔があると推定されている。また、氷の薄い部分からは海水が間欠泉として噴出されている。“カッシーニ”の観測により判明したプルームは液体の海と地熱活動の強力な証拠になった。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Southwest Research Institute)
図2.エンケラドス内部活動のグラフィカルな説明図。氷の地殻の下には液体の海があり、そこには地熱活動に由来する熱水噴出孔があると推定されている。また、氷の薄い部分からは海水が間欠泉として噴出されている。“カッシーニ”の観測により判明したプルームは液体の海と地熱活動の強力な証拠になった。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Southwest Research Institute)

でも、エンケラドスから宇宙空間に放出されるプルームには、もしかすると生物の細胞が含まれているかもしれません。

ただ、放出された生物は瞬く間に低温と真空に晒されてしまいます。
生きたものを見ることは不可能ですが、氷漬けにされた細胞を見る機会はあるかもしれません。
本当に技術的に検出可能なレベルの量で細胞が含まれていればの話ですが…

プルームの採取を目指す探査ミッション

今回の研究では、アリゾナ大学のAntonin Affholderさんたちのチームが、エンケラドスを周回してプルームを採取する将来の探査機が、生物の細胞を検出可能かどうかの検証を行っています。

まず、研究チームが行ったのは、想定されるエンケラドスの生物圏の大きさをもとに、海水の上部に含まれる細胞数の推定でした。

そして、細胞がプルームに乗って噴き出す数と、1回のプルーム通過で探査機が採取可能な細胞の量、細胞が真空に晒されて壊れてしまう比率。
さらに、測定機の性能限界により誤って検出できないエラーが生じる確率を調べ、現実的に細胞が検出可能かどうかを算出しました。

その結果分かったのは、プルームに含まれる細胞の数が1ミリリットル当たり最大1000万個、1回の通過で採取できる量が0.00001ミリリットル、細胞の損傷率が94%だと仮定した場合、100回のプルーム通過で細胞を検出できる可能性があることでした。

100回と聞くとハードルが高いように思えますよね。
でも、2050年代の到達を目指している探査ミッション“エンケラドス・オービランダー”の場合、プルーム通過を1000回としているので、十分達成可能な回数といえます。

また、細胞の直接検出が叶わなかったとしても、代わりにアミノ酸を検出する代替案も併せて検討されています。

アミノ酸は生命以外の自然環境でも生成される物資です。
でも、生命が介在しない場合の存在量には限界があると考えられているんですねー

もし、プルームに含まれるアミノ酸などの複雑な有機分子の量が多い場合、生命以外の生成理由を考えることが難しくなるわけです。

なので、仮に細胞という直接の証拠が検出できなかったとしても、その代わりに有機分子の量を測定することで、生命が存在しない可能性が高いか低いかを考えることが可能になります。

プルームの採取だけで生命を見つけられると期待するのは、かなり甘い考えなのかもしれません。

でも、比較的簡単に生命存在の可能性を絞り込める手段の応用は考えられます。
エンケラドスと同様に生命の存在が予想される天体… 木星の衛星エウロパなど他の天体での観測に用いる可能性もありますね。


こちらの記事もどうぞ


磁場が支えるガスの流れが大質量の星を生み出していた! アルマ望遠鏡の優れた感度と解像度によって見えてきたこと

2023年02月13日 | 宇宙 space
アルマ望遠鏡の高い解像度によって分かったこと。
それは、大質量の星が生まれる場所では、星に物質が供給される仕組みに、磁場が重要な役割を果たしていることでした。
磁場の力が、ガスの流れを外圧や重力作用から守っているので、星の形成が安定するそうです。

星の形成過程において磁場はどのような役割果たすのか

星形成過程において、磁場がどのような役割を果たすかは、これまでも広く議論されているテーマです。

この磁場はどれほど強いのでしょうか?
そして、磁場は星の材料物質を形成中の中心星まで運ぶことができるのでしょうか?
さらに、いつどこで重力が磁場の影響を上回るのでしょうか?
これらのことは、大きな謎になっていました。

今回の研究を進めているのは、台湾中央研究所のパトリック・コッホ氏を中心とする国際研究チーム。
アルマ望遠鏡を用いて、“W51 e2”および“W51 e8”と呼ばれる大質量星形成領域の磁場構造を、0.1秒角というこれまでにない高い解像度でとらえています。

この領域をとらえた初期の解像度は3秒角だったので、30倍(面積に換算すると約1000倍)も解像度が向上しているんですねー

これは、アルマ望遠鏡の優れた感度と解像度によって実現したもの。
磁場の分布を1000倍も鮮明にし、500天文単位という小さな領域まで初めて可視化することに成功しています。
図1.“W51 e2”(上)と“W51 e8”(下)の大質量の星形成領域での、星形成過程4段階における磁場の様子(左から順に、外層、全体崩壊、局所崩壊、降着流のスケール)右に行くほど解像度が高く、右端のパネルでは1000倍鮮明になるよう、実際に検出された磁場の形態に基づいたアルゴリズムを用いて、流線を不可視化している。最も高い解像度=500天文単位(0.1秒角)の画像では、星形成の中心核に物質が流れ込んでいるように見え、中心核とつながる複数の流れが分解して見えることが分かる。磁場がガスの流れに強く沿っているので、ガスの流れは崩壊や外圧に対して安定している。右端の破線円の大きさは左端の観測と同様の3秒角による解像度を示していて、アルマ望遠鏡によって解像度が飛躍的に向上していることが分かる。(Credit: Koch et al.)
図1.“W51 e2”(上)と“W51 e8”(下)の大質量の星形成領域での、星形成過程4段階における磁場の様子(左から順に、外層、全体崩壊、局所崩壊、降着流のスケール)右に行くほど解像度が高く、右端のパネルでは1000倍鮮明になるよう、実際に検出された磁場の形態に基づいたアルゴリズムを用いて、流線を不可視化している。最も高い解像度=500天文単位(0.1秒角)の画像では、星形成の中心核に物質が流れ込んでいるように見え、中心核とつながる複数の流れが分解して見えることが分かる。磁場がガスの流れに強く沿っているので、ガスの流れは崩壊や外圧に対して安定している。右端の破線円の大きさは左端の観測と同様の3秒角による解像度を示していて、アルマ望遠鏡によって解像度が飛躍的に向上していることが分かる。(Credit: Koch et al.)

磁場はガスの降着流に沿っている

一連の観測画像から見えているのは4つの異なるスケールです。
それぞれのスケールは、星が形成される過程、そして中心星に物質が流れ込む過程において、磁場が果たす重要な役割をとらえています。

2-3秒角の画像(外層スケール)では、強い磁場によって作られた模様が見えています(この画像では磁場は横向き)。
周辺から中心付近に向かって物質が降着している様子が映っています。

0.7秒角の画像(全体崩壊スケール)では、重力の作用によって物質が集まっていく一方で、局所的にはそれに抵抗する作用が磁場によって生じます。

0.26秒角の画像(局所崩壊スケール)では、上の塊が2つの小さな核に分裂していて、よく見るとこの部分の磁場の分布と重力の作用は全体崩壊(0.7秒角の画像)と同じような状態を表しています。

このように、解像度の違いによって物質や磁場の見え方が異なるので、星が形成される過程を詳しく観察することができます。

最も解像度の高い0.1秒角(約500天文単位)の画像では、局所的な物質降着を表している画像(0.26秒角)で見られる広がった球状のガスが、複雑に入り組んだ状態でつながっている様子が分解して見えています。

このガスの降着流は、星が生み出されているまさに中心に向かっていて、観測された磁場はこの流れに沿っていることが分かりました。

このことは非常に重要な結果なんですねー
ガスの流れに沿って磁場があるということは、磁場の力がガスの流れを外圧や重力作用から守っているということになるからです。

つまり、ガスの降着流は磁場に支えられて安定していることを示していて、中心星に物質が供給される過程において磁場が重要な役割を果たしている可能性を示しています。

今回の研究結果が証明してくれたのは、他の望遠鏡では不可能なアルマ望遠鏡の優れた感度と解像度でした。
これにより分かってきたのが、星を形成する中心核への物質の流れ込みを安定化させるという、磁場の新たな役割だった訳です。


こちらの記事もどうぞ


55億光年彼方の宇宙で見つかった最大級のモンスター超銀河団“キングギドラ”

2023年02月10日 | 銀河・銀河団
国立天文台と広島大学を中心とした研究チームが、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラを用いた大規模観測から、約55億光年彼方の宇宙に巨大な超銀河団を見つけました。
この超銀河団は、およそ満月15個分の天域にまたがって銀河とダークマターが強く密集しているだけでなく、含まれている銀河団は少なくとも19個。
50億光年以遠の宇宙で確認されている中では最大の超銀河団だそうです。

銀河団が集まって形成する巨大構造“超銀河団”

宇宙における巨大な天体といえば、無数の星やガスが集まった銀河が挙げられます。

でも、重力によって一つにまとまった天体として宇宙最大規模といえるのは、その銀河が大量のガスとともに集まった銀河団になります。
その銀河団がさらに集まって“超銀河団”という巨大構造を形成していることも分かっています。
 超銀河団とは、宇宙において、銀河群や銀河団が集まり形成されている銀河の大規模な集団。その大きさは1億光年以上の広がりを持つものもある。
約100メガパーセク(天の川銀河の約500倍)にわたって広がる構造を持つ超銀河団ですが、一方で定義そのものもまだ曖昧。
その正体や内部で何が起こっているかなど、多くの謎に包まれています。
 天文学において太陽系外の天体までの距離を測る単位の一つ。1パーセク(pc)は、1天文単位(au)=約1.4960億キロメートルが角度の1秒を張る距離で、約31兆キロメートルに相当する。光年を用いると1パーセク=3.26光年になる。
実のところ、“天の川銀河”も“おとめ座超銀河団”と呼ばれる超銀河団の内部に位置していて、さらに周辺の複数の銀河団や超銀河団とともに、より大きな“ラニアケア超銀河団”を構築しています。
 私たちの住む“天の川銀河”は“おとめ座超銀河団”の内部、およびその中核をなす“おとめ座銀河団”の外れに位置していることが知られている。超銀河団の定義自体が曖昧である現状も相まって、超銀河団をさらに包み込む巨大構造も超銀河団と呼ばれるケースがある。
そう、超銀河団は私たちが住む近傍宇宙の成り立ちを明らかにする上で、非常に重要な研究対象といえるんですねー

少なくとも9の銀河団で構成された超銀河団を検出

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam:HSC)”を用いた大規模探査“すばる戦略枠プログラム”は、満月の見かけの大きさの約4400倍に相当する広範囲を100億光年以遠の彼方まで観測することに成功しています。

このプログラムから得られる高品質な画像データは、未知の超銀河団を探すのに現時点で最適なリソースといえます。

国立天文台ハワイ観測所の嶋川里澄さんの研究チームは、“ハイパー・シュプリーム・カム”を用いた“すばる戦略枠プログラム”の観測データを分析し、超銀河団の候補を100天体近く見つけています。

研究チームは、その中で最も規模が大きいと見込まれるものについて、星の総質量とダークマターの分布を調査。
 ダークマターの分布は、弱重力レンズ効果を利用して求めている。弱重力レンズ効果は、遠方の銀河から放たれた光が、手前にある銀河団など強い重力場を持つ領域を通過する際に光路が曲げられることで、遠方銀河がゆがんだり増光されて見える現象(重力レンズ効果)のうち、その程度が比較的小さい場合を指す。今回の研究で発見された超銀河団は、50億光年以遠の宇宙で、これまでに弱重力レンズ解析によって確認された中では最大の構造になる。
すると、3つのダークマター密集領域を中心に、少なくとも19の銀河団で構成された超銀河団を検出するんですねー
図1.すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラがとらえた“キングギドラ超銀河団”の3色合成画像。中央画像の等高線は銀河の密度分布を、淡い赤色が示しているのはダークマターが広範囲にわたってとりわけ強く密集する領域。番号が付いた四角は超銀河団に付随する銀河団の位置を示す。周囲のパネルは、これら19個の銀河団の拡大図で、銀河団でよく見られる、赤い銀河が群れ集まる様子がとらえられている。左上の満月は、超銀河団の領域と比較した場合の、満月の見かけの大きさを表す。(Credit: 国立天文台)
図1.すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラがとらえた“キングギドラ超銀河団”の3色合成画像。中央画像の等高線は銀河の密度分布を、淡い赤色が示しているのはダークマターが広範囲にわたってとりわけ強く密集する領域。番号が付いた四角は超銀河団に付随する銀河団の位置を示す。周囲のパネルは、これら19個の銀河団の拡大図で、銀河団でよく見られる、赤い銀河が群れ集まる様子がとらえられている。左上の満月は、超銀河団の領域と比較した場合の、満月の見かけの大きさを表す。(Credit: 国立天文台)
おとめ座の東端辺りに広がるこの構造は、およそ55億光年彼方の宇宙に存在し、見かけの面積は満月約15個分もありました。
研究チームでは、この巨大な構造を“キングギドラ超銀河団”と呼んでいます。

ダークマターの分布は、その重力によってさらに奥に位置する天体からの光がわずかにゆがむ“弱い重力レンズ効果”を利用して解析されたもので、この手法で見つかった50億光年以遠の超銀河団としては“キングギドラ超銀河団”は最大のものでした。

宇宙論的シミュレーションとの比較から示唆されたのは、“キングギドラ超銀河団”が太陽質量の10の16乗倍のダークマター質量を持っていること。
これは、“おとめ座超銀河団”のおよそ10倍に匹敵するんですねー

さらに、そのすぐ外側にも超銀河団相当の巨大構造が2つ確認されていて、近傍宇宙最大の“ラニアケア超銀河団”のような超巨大構造の前身である可能性もあります。

今回ターゲットにした約55億光年先の宇宙で、すばる望遠鏡の戦略枠プログラムによる探査データから、このような超銀河団が見つかる確率は五分五分だったそうです。

今後は、近く稼働予定のすばる望遠鏡の超広視野多天体分光器“PFS”や、ユークリッド宇宙望遠鏡を使って、3次元構造や内部の銀河形態などに迫っていくようです。


こちらの記事もどうぞ


矮小不規則銀河“UGC 7983”と無数の銀河… そして偶然映り込んだ小惑星の軌跡

2023年02月08日 | 銀河・銀河団
数十億個ほどの恒星が集まった“矮小銀河”は、天の川銀河と比べて規模が100分の1程度の小さな銀河です。
その“矮小銀河”の中でも、星やガスが不規則に分布している銀河を“矮小不規則銀河”と呼びます。
今回公開された画像は、“おとめ座”の方向約3000万光年彼方に位置する矮小不規則銀河“UGC 7983”のもの。
遠方に散らばる無数の銀河や、偶然映り込んだ小惑星の軌跡がとらえられています。
矮小不規則銀河“UGC 7983”。(Credit: ESA/Hubble & NASA, R. Tully)
矮小不規則銀河“UGC 7983”。(Credit: ESA/Hubble & NASA, R. Tully)
上の画像に移っているのは銀河“UGC 7983”だけではないんですねー
その背後には、はるか遠方にある無数の銀河が視野全体にわたって写り込んでいます。

そこに写っているのは、天の川銀河やアンドロメダ銀河のような渦巻銀河から、“UGC 7983”と同じおとめ座の方向にある“M87”のような楕円銀河まで、その形態は様々です。

では、画像の左上に写っているうっすらとした1本の点線は何でしょうか?
ヨーロッパ宇宙機関によれば、これは観測中にたまたま視野を横切った太陽系の小惑星の軌跡なんだとか。

この画像は、ハッブル宇宙望遠鏡の掃天観測用高性能カメラ“ACS”を使って取得された4つのデータを組み合わせることで作成されています。

1基の宇宙望遠鏡で複数のデータを得るには、途中でフィルターを切り替えながらの露光が必要なんですねー
なので、移動する小惑星の軌跡が、このように断続的な4本の線として記録されたというわけです。

なお、ハッブル宇宙望遠鏡による“UGC 7983”の観測は、“Every Known Nearby Galaxy”というキャンペーンの一環として実施さたもの。

このキャンペーンでは、天の川銀河から10メガパーセク(約3260光年)以内に存在する近傍のすべての銀河を正確に観測するため、153個の銀河を対象に2019年から2021年にかけてハッブル宇宙望遠鏡による観測が実施されています。
 天文学において太陽系外の天体までの距離を測る単位の一つ。1パーセク(pc)は、1天文単位(au)=約1.4960億キロメートルが角度の1秒を張る距離で、約31兆キロメートルに相当する。光年を用いると1パーセク=3.26光年になる。
ヨーロッパ宇宙機関によると、天の川銀河の隣人ともいえる近傍の銀河の観測は、天文学者が様々な銀河に存在する星の種類を断定し、宇宙の局所構造をマッピングする上でも役立つそうです。

3000万光年先の小さな銀河と遠方に散らばる無数の銀河…
そして、偶然映り込んだ小惑星の軌跡をとらえたこの画像は、ヨーロッパ宇宙機関から2023年1月16日付で公開されています。


こちらの記事もどうぞ