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太古の宇宙で見つかる巨大銀河も星屑を再利用して成長を続けている

2023年06月09日 | 銀河・銀河団
銀河で生まれた星の一部は超新星爆発を起こして、その残骸を膨大なエネルギーとともに銀河の外へ放出します。

でも、この残骸は再び銀河へと舞い戻り、次世代の星の新たな糧にもなるんですねー

今回の研究では、すばる望遠鏡とケック望遠鏡を用いて、この星の輪廻転生を通して成長する巨大銀河の様子をとらえることに初めて成功したそうで。
星屑を再利用しながら成長し続ける巨大銀河のイメージ図。超新星爆発やブラックホールの活動によって銀河の外へ放出された星の残骸が再び銀河内部へ送り返されることで、爆発的な星形成が絶えず維持され、より大きな銀河へ成長することを手助けする。背景はマウナケア山頂域に並ぶ、すばる望遠鏡とケック望遠鏡。(Credit: 精華大学/NAOJ)
星屑を再利用しながら成長し続ける巨大銀河のイメージ図。超新星爆発やブラックホールの活動によって銀河の外へ放出された星の残骸が再び銀河内部へ送り返されることで、爆発的な星形成が絶えず維持され、より大きな銀河へ成長することを手助けする。背景はマウナケア山頂域に並ぶ、すばる望遠鏡とケック望遠鏡。(Credit: 精華大学/NAOJ)

太古の宇宙で見つかる銀河はどうやって成長を持続しているのか

宇宙の大規模構造に沿って淡く分布するガスは、銀河が新しい星を形成するための材料になります。
宇宙の大規模構造は、100万光年以上という巨大なスケールで広がる銀河や物質から構成される泡状の構造。銀河がほとんど存在しない領域“ボイド”や、逆に銀河が多く集まる“フィラメント構造”など、銀河が偏って存在する構造のこと。宇宙初期の急加速膨張であるインフレーションの際に生じた密度ゆらぎがもとになり、さらにダークマターがその重力によって物質を集めるきっかけとなったことで成長していった構造と考えられている。
星が超新星爆発で最期を迎えると、ガスが銀河の外に排出されることがあります。
一方で、星を作り続けるには、銀河に降り注ぐガスの供給が絶えず必要になるはずです。

これまで、成長途上の銀河が太古の宇宙でたくさん発見されてきましたが、持続成長の原動力が宇宙誕生時の原始的なガスの供給によるものなのか、それとも死んだ星の残骸を多く再利用しているのかは、明らかになっていませんでした。

太古の銀河を囲むガスは重元素に富んでいる

この疑問に答えるため、清華大学、早稲田大学、マックス・プランク宇宙物理学研究所を中心とする国際研究チームは、110億年前の宇宙にある巨大銀河を観測しています。

宇宙誕生時の原始的なガスは、ほとんどが水素で構成され、わずかにヘリウムを含みます。

一方、再利用されるガスは、星の核融合によって生成された重い元素を含んでいます。

研究チームは、すばる望遠鏡とケック望遠鏡の観測データを解析し、この銀河の周辺30万光年にも及ぶ広い範囲で、水素やヘリウム、炭素を検出。
そこから分かったのは、これらの元素の比率が太陽で見られるものと同等であることでした。

太陽系から110億光年も離れた太古の銀河を囲むガスが、これほど重元素に富んでいることは驚くべきことでした
天文学では、水素とヘリウムよりも重い元素のことを“重元素”と呼び、水素に対する重元素の割合は重元素量と呼ぶ。重元素は恒星内部の核融合反応により合成され、恒星の死に伴い星間空間へと放出される。なので、星の生と死のサイクルが十分に繰り返されていない初期の宇宙では、現在の宇宙に比べて重元素量が低かったと考えられている。

星屑の再利用だけで銀河の成長を促すことができる

研究チームは、銀河を取り巻くガスの動きをシミュレーションと比較することによって、一年間に太陽700個分に相当するガスが銀河に還流していることを明らかにしています。

このことは、この銀河で観測された星形成の速度(1年間に太陽80個分ほどの星が生まれる)を、遥かに上回るもの。
そう、ガスの再利用だけで銀河の成長を促すことができることを示しているんですねー

私たちの身の回りに存在するバリオンと呼ばれる通常の物質は、実は大半が銀河の外にありますが、希薄な銀河間ガスを直接観測することは極めて難しいことです。
宇宙は正体不明の“ダークマター(26.8%)”と“ダークエネルギー(68.3%)”で満たされていて、身近な物質である“バリオン(陽子や中性子などの粒子で構成された普通の物質)”は、宇宙の中にわずか4.9%しか存在しないことが分かってきている。その“バリオン”も、星や銀河、星間ガスなどとして観測されている量はおよそ半分で、残り半分はまだ見つかっていない。これが“ミッシング(行方不明の)バリオン問題”。ミッシングバリオンは宇宙の構造形成シミュレーションから、網の目のような宇宙の大規模構造に沿って分布しているのではないかと予想されている。
この希薄なガスの中の重元素を特定しただけでなく、運動状態をもとらえることに成功したわけです。

その意味で、銀河形成の理解に向けて大きく前進したといえるのかもしれません。

この研究では、水素と重い元素の比率を測定するために、すばる望遠鏡に搭載された多天体近赤外撮像分光装置“MOIRCS(Multi-object Infrared Camera and Spectrograph:モアックス)”で撮られた水素ガスのデータが非常に重要な役割を果たしたそうですよ。


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ヘリウム星からの質量降着で引き起こされた“Ia型超新星”からの電波を初検出

2023年06月07日 | 宇宙 space
白色矮星が引き起こす超新星爆発“Ia型超新星”から放射される電波が初めて観測されました。

さらに、明らかになったのは、この白色矮星の伴星がヘリウムに富む恒星だったこと。

このことは、白色矮星が爆発に至るまでの全体像を理解するうえで、大変重要な知見になるそうです。

白色矮星が引き起こす超新星爆発“Ia型超新星”

白色矮星は、超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が、赤色巨星の段階を経て進化した姿だとされている天体です。

赤色巨星に進化した恒星は、周囲の宇宙空間に外層からガスを放出して質量を失っていき、その後に残るコア(中心核)が白色矮星になると考えられています。

一般的な白色矮星は直径こそ地球と同程度ですが、質量は太陽の4分の3程度もあるとされる高密度な天体です。

誕生当初の白色矮星の表面温度は10万℃を上回ることもありますが、内部で核融合反応は起こらず余熱で輝くのみなので、太陽のように単独の恒星から進化した白色矮星は長い時間をかけて冷えていくことになります。

この白色矮星が大爆発を起こして星全体が吹き飛ぶ現象が“Ia型超新星”です。

白色矮星は、電子の縮退圧という力で自己重力を支えています。

でも、何らかの原因で星の質量が増えて太陽質量の約1.4倍(チャンドラセカール限界)を超えてしまうと、自己重力を支えられなくなって収縮し、暴走的な核融合反応が起こって爆発してしまうんですねー

Ia型超新星は爆発直前の質量がどれも同じで、爆発後のピーク光度もほぼ同じと考えられています。

なので、観測された見かけの明るさと比較することで、地球からの距離を測ることが可能になるわけです。

このような天体や現象は標準光源と呼ばれています。

超新星は明るい現象であり、発生した銀河が遠くても距離を測ることができるので、Ia型超新星は重要な標準光源の一つになっていて、宇宙の加速膨張が発見されるきっかけにもなったりしています。

ただ、Ia型超新星は、このような重要な役割を担う天体でありながら、その爆発に至るメカニズムは解明されていませんでした。

伴星からの物質が白色矮星に降り積もる“降着”という現象

でも、そもそも、なぜ白色矮星の質量が増えるのでしょうか?

このことについては、今も議論があり決着していません。
ただ、単独で存在する白色矮星が爆発することはないんですねー

一方で連星をなす恒星の片方が寿命を迎えて白色矮星になると、白色矮星と恒星からなる連星が誕生します。

白色矮星と連星をなすもう一方の星(伴星)の外層部から流れ出した物質が、主星である白色矮星へと降り積もる“降着”という現象。
これが、爆発のきっかけとなる白色矮星の質量増加の原因として注目されています。

普通の星の多くは水素の外層を持っているので、降着する物質も多くの場合は水素が主成分になります。

でも、伴星がすでに水素の外層を失った“ヘリウム星”の場合には、降着する物質もヘリウムが主成分になるはずなんですねー
ただ、今のところ、ヘリウム星が引き起こしたIa型超新星の観測例はありません。

伴星から流れ出した物質は、すべてが白色矮星に降り積もるものではなく、両方の星を包む“星周物質”になると考えられています。

その星周物質の中で白色矮星が超新星爆発を起こすと、星周物質の内部を衝撃波が伝わり、強い電波が放射されると予想されています。

でも、これまでの観測では星周物質に包まれたIa型超新星の例はたくさん見つかっているものの、爆発で生じた電波放射が検出されたことはありませんでした。
ヘリウム星を伴星に持つ白色矮星のイメージ図。主にヘリウムからなる物質が伴星から流れ出し、白色矮星に降着する。(Credit: Adam Makarenko/W. M. Keck Observatory)
ヘリウム星を伴星に持つ白色矮星のイメージ図。主にヘリウムからなる物質が伴星から流れ出し、白色矮星に降着する。(Credit: Adam Makarenko/W. M. Keck Observatory)

ヘリウム星からの質量降着で引き起こされたIa型超新星

スウェーデン・ストックホルム大学のErik Koolさんたちの国際研究チームは、2020年3月23日に“おおぐま座”の方向で発見された超新星“SN 2020eyi”を様々な望遠鏡で追観測し、そのデータを分析しています。

“SN 2020eyj”は、爆発直後のスペクトルから一旦はIa型超新星に分類されています。
でも、その後の光度変化が普通のIa型とは異なっていたんですねー

このことから、研究チームでは爆発から131日後にも分光観測を実施。
その結果、明らかになったのは、この超新星がヘリウムを主成分とする星周物質に包まれていることでした。

さらに、研究チームは英・ジョドレルバンク天文台の電波望遠鏡アレイ“e-MERLIN”を用いて“SN 2020eyj”を観測し、この超新星からの電波検出に成功。
これが、Ia型超新星で電波が検出された初めて事例になっています。

今回検出された電波は、超新星爆発の衝撃波が星周物質と相互作用した証拠になります。

この電波の強さと、国立天文台科学研究部の守屋尭助教の計算した理論モデルを比較してみると、爆発前の白色矮星には1年あたり太陽質量の0.1%に相当する大量の物質が伴星から降り積もっていたことも判明しました。

これらの観測結果から研究チームは、“SN 2020eyj”をヘリウム星からの質量降着で引き起こされたIa型超新星だと結論付けています。

今回の成果は、謎に包まれているIa型超新星のメカニズムを解明するうえで、大きな手掛かりになる発見となるものです。

研究チームでは、今後も電波を放つIa型超新星を捜索し、白色矮星が爆発に至る道筋を解明することを目指していくそうです。
Ia型超新星“SN 2020eyj”のアニメーション動画。ヘリウムを多く含む伴星から白色矮星に物質が降り積もり、質量が限界に達した白色矮星が超新星爆発を引き起こした。今回、その衝撃波と伴星から放出された星周物質との相互作用によって発生した電波が検出されたほか、顕著なヘリウムの輝線がスペクトルに見られた。(Credit: Adam Makarenko/W. M. Keck Observatory)


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潮汐力により加熱された系外惑星“LP 791-18d”には火山活動はあるのか? ハビタブルゾーンに位置する地球サイズの惑星を発見

2023年06月05日 | 宇宙 space
約90光年彼方の赤色矮星で3つ目の惑星“LP 791-18 d”が見つかりました。

観測を進めて分かってきたのは、“LP 791-18 d”は周りの惑星や恒星の影響で活発な火山活動が起こっている可能性があること。

これまで、地球以外で高温の活火山があることが知られている天体は木星の衛星イオでした。

イオは太陽系の衛星の中では最も火山活動が活発なことが有名で、その表面に確認されている火山は400以上、マグマの温度は1000度以上あります。
そこからは硫黄を含むガスが放出されているようです。

それでは、“LP 791-18 d”は、どのような環境を持った惑星なのでしょうか?

“LP 791-18 d”はハビタブルゾーンの内側境界付近にあり、地球のように大気を保持している可能性もあるので、今後重要な惑星大気観測のターゲットになり得ると考えられています。

今後、“LP 791-18 d”の大気組成が検出できれば、惑星の地殻活動が惑星大気に及ぼす影響を深く調べることが可能になり、生命起源の研究につながる可能性もあるそうです。
発見された惑星dのイメージ図。右側奥の青い点が大きく重い惑星c。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/Chris Smith (KRBwyle))
発見された惑星dのイメージ図。右側奥の青い点が大きく重い惑星c。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/Chris Smith (KRBwyle))

太陽より暗い赤色矮星を公転する惑星

今回の研究では、コップ座の方向約90光年の彼方に位置する太陽より暗い赤色矮星“LP 791-18”の惑星系を、宇宙と地上から詳しく観測しています。
今回の研究を進めているのは、カナダ・モントリオール大学のMerrin S. Petersonさんたちの研究チームです。
これまでに見つかっている“LP 791-18”を公転する惑星は“LP 791-18 b”と“LP 791-18 c”の2つでした。
どちらも、NASAの系外惑星探査衛星“TESS”による観測で見つかっています。
“TESS”は、地球から見て系外惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”という手法により惑星を発見し、その性質を明らかにする。系外惑星探査衛星“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星。調査する恒星の多くはM型矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星。
今回、NASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”による127時間におよぶ連続観測データから、新たに惑星“LP 791-18 d”が見つかることになります。
“スピッツァー”は、“ハッブル宇宙望遠鏡”や“X線天文衛星“チャンドラ”、“コンプトンガンマ線観測衛星”と共に、様々な波長の電磁波で宇宙を観測する衛星群“グレート・オブザーバトリーズ”の1機として、NASAが2003年8月に打ち上げた赤外線天文衛星。広い波長範囲や高い感度で赤外線を観測し、暗黒星雲に埋もれた多くの原始星を発見してきたが、2020年1月31日に機体はセーフモードに移行、すべての科学運用を終了している。“スピッツァー”が投入されたのは、地球から距離を置いて、追いかけるような位置関係で太陽を公転する軌道。これにより、地球から出る熱放射の影響を避けることができ、より口径の大きな地上望遠鏡を上回る感度を達成していた。
その後の観測は、惑星の性質を調べるため日本のMuSCATチームを含め、“TESS”の公式追観測プログラムである“TFOP(TESS Follow-up Observing Program)”に参加している多数のチームが地上望遠鏡を用いて、惑星“LP 791-18 c”と“LP 791-18 d”のトランジット観測を行っています。
岡山県の188センチ望遠鏡(MuSCAT)、スペインのテネリフェ島の1.52メートル望遠鏡(MuSCAT2)、アメリカのマウイ島の2メートル望遠鏡(MuSCAT3)用に開発された、3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジットを観測できる多色同時撮像カメラ“MuSCAT”シリーズを用いた研究チーム。“MuSCAT”はMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産品にちなんでいる。
国立天文台ハワイ観測所岡山分室(岡山県)の188センチ望遠鏡に取り付けられた多色同時撮像カメラ“MuSCAT”。今回の観測に用いられた“MuSCAT”は可視光の3色での同時撮像観測が行える。(Credit: MuSCATチーム)
国立天文台ハワイ観測所岡山分室(岡山県)の188センチ望遠鏡に取り付けられた多色同時撮像カメラ“MuSCAT”。今回の観測に用いられた“MuSCAT”は可視光の3色での同時撮像観測が行える。(Credit: MuSCATチーム)
今回の観測に用いられた“MuSCAT2”が搭載されたテイデ観測所(スペインのテネリフェ島)の1.52メートルカルロス・サンチェス望遠鏡のドーム。(Credit: MuSCATチーム)
今回の観測に用いられた“MuSCAT2”が搭載されたテイデ観測所(スペインのテネリフェ島)の1.52メートルカルロス・サンチェス望遠鏡のドーム。(Credit: MuSCATチーム)

地球に似ている惑星

観測の結果分かってきたのは、惑星“LP 791-18 d”の半径は地球のおよそ1.03倍と、地球にとても良く似ていること。

一方、恒星の周りを回る公転周期は約2.75日。
公転軌道は、惑星“LP 791-18 b”(公転周期約0.94日)と惑星“LP 791-18 c”(公転周期約4.99日)の間に位置していました。

主星“LP 791-18”の周りを公転するたびに、惑星“LP 791-18 d”と“LP 791-18 c”は接近するタイミングが訪れます。

この時、お互いの引力が影響を及ぼし合うので、トランジット時刻が一定の公転周期からズレてしまうことに…
このトランジット時刻のズレを調べることで、引力を及ぼしている惑星の質量を推定することができるんですねー

MuSCATチームをはじめ、多数の地上望遠鏡による観測を繰り返すことで毎回のトランジット時刻を測定し、惑星“LP 791-18 d”の質量が地球と同程度、惑星“LP 791-18 c”の質量が地球の9倍程度であることを明らかにしています。
“LP 791-18”周囲の3つの惑星の軌道。惑星のシンボルの大きさと軌道の円の大きさは、観測された惑星の大きさと公転距離の比を反映している。1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。(Credit: 東京大学)
“LP 791-18”周囲の3つの惑星の軌道。惑星のシンボルの大きさと軌道の円の大きさは、観測された惑星の大きさと公転距離の比を反映している。1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。(Credit: 東京大学)

天体そのものが変形させられて熱を持つ現象

質量の大きな惑星“LP 791-18 c”から及ぼされる引力は、惑星“LP 791-18 d”の公転軌道をわずかに楕円形に変形させています。

この楕円形の軌道を公転する中で、惑星“LP 791-18 d”は中心の恒星に近づいたり遠ざかったりすることになり、恒星からの潮汐力が働くことになります。

恒星から遠い時はほぼ球体の惑星“LP 791-18 d”も、接近するにしたがって恒星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になります。

そして恒星から遠ざかるとまた球体に戻っていく…
これを繰り返すことで発生した摩擦熱により、惑星“LP 791-18 d”の内部が熱せられている可能性があるんですねー

このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を“潮汐加熱”といいます。

木星の衛星イオでは、同じ仕組みで活発な火山活動が起こっているので、惑星“LP 791-18 d”の表面でも同様に火山が噴火しているのかもしれません。

火山活動と惑星大気

惑星“LP 791-18 d”は、中心の恒星“LP 791-18”の近くを公転しています。
表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星と呼ぶ。実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
ただ、赤色矮星に分類されている“LP 791-18”の表面温度は太陽よりも低く光度も暗いので、ハビタブルゾーンは太陽系の場合よりも恒星に近い位置になります。
このハビタブルゾーンの内側境界付近を、惑星“LP 791-18 d”は公転しているようです。
“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
ただ、惑星“LP 791-18 d”は“潮汐ロック”により常に同じ面を“LP 791-18”に向けているようです。
潮汐ロックとは、主星からの潮汐力の影響で自転周期と公転周期が一致し、常に主星に対して同じ面を向け続けている状態。主星の近くを公転している場合など、受ける潮汐力が大きい場合に比較的よくみられる現象。月が地球に同じ面を向けているのも同じ現象。
昼側は高温で水は蒸発してしまっている可能性が高く、一方で夜側は十分に冷えていると考えられています。

火山活動が起こっているとすれば、惑星“LP 791-18 d”には大気が供給されているはずなので、その大気に含まれる水蒸気が夜側で凝縮し、液体の水になっているのかもしれません。

惑星“LP 791-18 c”については、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による惑星大気の観測が予定されています。
研究チームでは、惑星“LP 791-18 d”も今後重要な惑星大気観測のターゲットになり得ると考えています。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、地球から見て太陽とは反対側150万キロの位置にある太陽―地球間のラグランジュ点の1つの投入され、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されている。名称はNASAの第2代長官ジェームズ・E・ウェッブにちなんで命名された。
惑星“LP 791-18 d”の活発な火山活動は、本来であれば惑星の地殻内部に閉じ込められてしまう物質を、大気中に送り込む役割を果たしているのかもしれません。

そういった物質の中には、生命にとって重要な炭素なども含まれているはずです。

そのため、今後惑星“LP 791-18 d”の大気組成が検出できれば、惑星の地殻活動が惑星大気に及ぼす影響を深く調べることが可能になり、生命起源の研究につながる可能性もあるはずですよ。


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月の中心部には、ほぼ純粋な金属でできた固体の“核”がある! 過去の大規模なマントル転倒の証拠も見つかった?

2023年06月03日 | 月の探査

地震活動から見えてくる月の内部構造

火山やプレート運動などは存在せず、地質学的には死んだ天体のように見える地球唯一の衛星。
その“月”の内部構造は惑星科学における長年の謎になっているんですねー

20世紀前半までは、月の内部は地球のような層ごとに分かれた構造をしているのか、それとも火星の衛星フォボスやダイモスのように均質な構造をしているのかも分かっていませんでした。

この謎に大きな進展があったのは、NASAのアポロ計画によって月面に地震計が設置されてからでした。

地震波の性質(速度、屈折角、減衰の度合いなど)は、通過する物質の性質(密度、温度、固体か液体かなど)によって変化することが知られていて、地球の内部構造は地震波の観測を通して推定されています。

月にも“月震”と呼ばれる地震活動があることが地震計の設置により判明したので、測定された地震波のデータを元に月の内部構造を推定することができます。
月の地震“月震”は、地球の重力が生み出す潮汐力の影響で月がたわんで発生していると考えられている。
これにより明らかになってきたのが、月には地球と同じような層状の内部構造があるらしいこと…
ただ、月震の規模や頻度は地球と比べて低いことに加え、月面に設置された地震計の数が少ないので、地球のように詳細な構造を探るにはデータが不足していました。

月には中心部に半径約330キロの金属核“コア”がある

アポロ計画から半世紀以上経った現在では、アポロ計画以外にも地震計が設置されていて、データの量も豊富になってきました。

ただ、今度はその膨大なデータの解釈に悩まされることになっていきます。

このような背景もあり、月の内部に関する研究に大きな進展が見られたのは、つい最近のことでした。

2011年になり、月には中心部に半径約330キロの金属核“コア”があることや、少なくともその一部は液体であること、マントルと核の境界部には部分的に溶けた柔らかい層(半径約480キロ)があることが明らかにされました。

でも、それ以上の明確な構造は引き続き不明のままでした。

特に、月の中心部には半径250キロの個体金属核が存在するという予測も出されましたが、この時点では決定的ではありませんでした。

この理由は、核の半径が月そのものの半径の約20%と極めて小さく、それだけ通過する地震波が少ないためでした。
地球など岩石惑星の多くは約50%あります。
今回の研究で、月の核は固体と液体に分離していることが明らかにされた。また、核とマントルの境界部の組成や物質は、過去の月で起きたマントル転倒の強力な証拠になるとしている。(Credit: Géoazur/Nicolas Sarter)
今回の研究で、月の核は固体と液体に分離していることが明らかにされた。また、核とマントルの境界部の組成や物質は、過去の月で起きたマントル転倒の強力な証拠になるとしている。(Credit: Géoazur/Nicolas Sarter)

月の核はほぼ純粋な金属でできている

今回、コート・ダジュール大学のArthur Briaudさんたちの研究チームが発表したのは、「月の核の謎について決定的な答えを得た」というものでした。

研究チームは、これまでに取得された地震波のデータの再分析に加え、月の形状の厳密なデータや月内部の熱対流のモデルも使用して、月の内部構造に関する分析を行っています。

その結果、明らかになったのは、月の中心部には個体の核が存在する可能性が高いこと。
地球の中心部には液体の外核と固体の内核が存在することが明らかになっていますが、月の核も地球と同じような構造をしていることになります。

ただ、月の内核の半径は約258±40キロであり、これは内核の半径が月の半径のわずか15%しかないことを意味していました。

また、推定された平均密度は7.822±1.615グラム/立方センチメートル。
これは、月の核はほぼ純粋な金属でできているという、これまでの予測と一致することになります。

なぜ月の表側と裏側では岩石や元素の種類が大きく異なるのか

さらに、今回の研究では、外核の外側を覆う部分的に溶けたマントル下部について、鉄とチタンの鉱物(Ilmenite)が豊富に含まれていることも示されました。

研究チームでは、これは月の内部に関する別の重大な謎である“マントル転倒(Mantle overturn)”の強力な証拠であると考えています。

月には、表側と裏側で岩石や元素の種類が大きく異なるという謎があります。

特に、月の模様として観察される黒っぽい玄武岩が主体の“海”は、月が誕生してから10億年程度が経った時点でマグマが供給されたことを示唆しています。

ただ、マグマが供給されるには熱源が必要になるんですねー
でも、どうやって月の誕生後これほど遅いタイミングで大規模な熱源が発生したのでしょうか?

このような熱源の発生を説明するメカニズムとして1995年に提唱されたのがマントル転倒でした。

マントル転倒では、月が誕生後に冷えて固まっていくに従い、マントルの上部で鉄やチタンなどの重い元素を含む鉱物が先に結晶化し、マントルの下部にはマグネシウムなどの軽い元素が集中するようになったと考えています。

この場合、重い物質が軽い物質の上に乗っていることになるので、やがてマントル全体のバランスが不安定になり、重い物質は“転倒して”沈み込むことになります。

すると、重い物質が沈み込んだ際の重力エネルギーと、重い元素の中に含まれる放射性物質の崩壊熱が組み合わさることで、核の外側で再加熱が発生。
発生した熱は対流を引き起こし、マントルの物質と熱を上部へと運び上げ、鉄などの重い元素を含む玄武岩マグマを月の表面に噴出させることになります。

これが現在、月の表側にある海になったと考えられています。

マントル転倒が起きた結果、鉄やチタンなどの重い元素を含む鉱物は核の近くへと沈み込むことになるわけです。

今回の研究結果は、マントル転倒の強力な証拠になる重い元素の沈み込みに対応する状態をまさに示していて、内核の発見とともに重要な成果といえます。

示された月の内部構造モデルは、月の磁場が予測より弱すぎることなど、他にも山積みになっている月の謎の解明にも影響を与えることになりそうです。


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