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技術的知性を持つ生物は“海洋”と“陸上”どちらの生息地に存在する確率が高いのか?

2023年07月03日 | 宇宙 space
短期間で科学技術を発達させた人類は、地球の生態系や気候に大きな影響を与える存在になっています。

この自らの経験をもとに、地球外生命探査では技術が存在する証拠として“テクノシグネチャー(Technosignature)”が話題になります。

それは、宇宙から地球を観測したとき、人類はその存在を示すサインを生み出すことができる“技術的知性(Technological Intelligence : TI)”を持つ生物の典型と言えるからなんですねー

近年“人新世”という言葉が造られました。
その背景には、このような事実が想定されていると考えられています。
地球外の工業文明とその存在を示すテクノシグネチャーのイメージ図。(Credit: NASA/Jay Freidlander)
地球外の工業文明とその存在を示すテクノシグネチャーのイメージ図。(Credit: NASA/Jay Freidlander)

天の川銀河に存在する系外惑星の多くは地下に海が存在する

生命にとって、液体の水が存在することは欠かせない条件で、地球の生命も海の中で誕生したと考えられています。

私たちの太陽系では、木星の第2衛星エウロパや土星の第2衛星エンケラドスなどで、液体の水が存在する可能性が指摘されています。

これらの天体では、水は表面に海として存在するのではなく、氷の地殻の下に“地下の海(内部海)”として広がっていると考えられています。

現在の研究で推測されているのは、天の川銀河に存在する系外惑星の多くは表面に海や陸が存在せず、地下に海が存在する可能性が高いこと。
このような“海の世界”で、生命が存在する可能性に期待が高まっているんですねー

技術的知性を持つ種は海洋と陸上どちらの生息地に存在するのか

では、生命の誕生や居住にとって海の世界が一般的だとすると、陸上で出現し技術的知性を持つまでに進化した人類は異例の存在なのでしょうか?

新しい研究では、技術的知性を持つ種が海洋と陸上どちらの生息地に存在する確率が高いかを“ベイズ統計学”を用いて分析しています。
この研究を進めているのは、フロリダ工科大学の宇宙生物学者マナスヴィ・リンガム(Manasvi Lingam)さんたち3名の研究者です。
他の要因が全て同じと仮定すれば、海の世界の方がはるかに一般的だと考えられるので、そのような種は海洋に存在する可能性の方が高いという結果が得られます。

ところが、この結果にはパラドックスが潜んでいると研究チームは考えています。

ベイズ統計学で用いられる確率論では、事前の主観的な予想に基づいて確率を計算します。

なので、今回の研究では、技術的知性を持つ知的生命体が海洋では出現しにくいことを示し、パラドックスの解消を探っています。

研究チームは、視覚などの感覚器官の仕組みと認知能力について、人間を含む霊長類をはじめ、タコなどの頭足類からイルカなどの鯨類までを比較しています。

視覚は進化戦略で重要な役割を果たし、高い知的能力の獲得に欠かせません。

でも、水中での視覚の進化には様々な制約があります。
なので、結果的に水中から陸上への進化を促したと考えられます。

さらに、水中では“火”を使うことができません。

火は、技術の獲得と進歩に欠かせないエネルギー源であるにとどまらず、知的生命体が技術文明を築く上で計り知れないほど大きな役割を果たします。

結局、陸のない海だけの世界は技術的知性への進化を妨げてしまうことになります。

結果は確率論に基づくものですが、この研究モデルにはメリットがあるそうです。

それは、将来の望遠鏡による観測で天体に関するデータが更新されたり、実験やフィールドワークにより動物の行動や認知機能に関する理解が深まったりすることで、研究モデルの検証や改良が可能な点です。

研究チームは今回の研究に関連して、様々な惑星に酸素が存在する可能性や、知的生命体の進化に酸素が果たす役割についても研究を進めるそうです。


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灼熱の木星型惑星“KELT-9b”の大気から“テルビウム”を発見! 系外惑星の大気から見つかった最も重い元素

2023年07月01日 | 宇宙 space
太陽以外の恒星を公転する惑星として、観測史上初めて発見された惑星のタイプは“ホットジュピタ-”でした。

太陽系のガス惑星(木星や土星)は、地球よりも太陽から遠く離れているので表面温度が高温になることはありません。

でも、ホットジュピターは木星ほどの質量を持つガス惑星が、恒星から近い軌道を高速かつ非常に短い周期(わずか数日)で公転する天体。
表面温度が1000℃以上に加熱されていることも珍しくありません。

灼熱の木星型惑星という名前の通り、極端な高温に晒されているホットジュピタ-の環境は相当極端だと考えられています。

木星や土星のような巨大ガス惑星には岩石の核(コア)が存在すると考えられていますが、核は分厚い大気の奥深くに隠されています。

なので、巨大ガス惑星の大気成分はほとんどが水素とヘリウムで、岩石や金属元素は通常見つかりません。

でも、高温に熱せられるホットジュピタ-の場合だと、極端に強い大気循環が発生するので、岩石や金属元素も表面に現れることになるんですねー

重い元素ほど惑星に元々含まれている量が少なく、核から上空へと舞い上がりにくいことから表面に現れにくくなるので、大気中に存在する元素の種類はとても興味深い研究対象になっています。
恒星“KELT-9”(右)を公転するホットジュピタ-“KELT-9b”(左)のイメージ図。(Credit: Bibiana Prinoth)
恒星“KELT-9”(右)を公転するホットジュピタ-“KELT-9b”(左)のイメージ図。(Credit: Bibiana Prinoth)

非常に変わった特徴を持つホットジュピタ-

今回の研究では、ホットジュピタ-の1つ“KELT-9b”の大気スペクトルを測定。
大気中に含まれている金属元素の探索を行っています。
この研究を進めているのは、ルンド大学のN. W. B Borsatoさんたちの研究チームです。
“はくちょう座”の方向約670光年彼方に位置する“KELT-9b”は、表面の最高温度が4300℃に達する、最も高温な太陽系外惑星の1つです。

低温な恒星の表面温度を上回るほどの高温に熱せられた“KELT-9b”の大気は、ホットジュピタ-としても非常に変わった特徴を持つことがこれまでの観測で知られていました。

例えば、水や二酸化炭素といった分子は、恒星からの激しい放射によって分解されてしまうので存在していません。

その一方で、すでに見つかっているのが鉄やチタンといった金属元素です。
“KELT-9b”の大気をさらに詳しく調べることで、他の金属元素が見つかる可能性がありました。

巨大ガス惑星の深部にある重い元素

研究チームが“KELT-9b”の観測に用いたのはスペインの天文台。
ロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台に設置された分光器“HARPS-N”と、カラル・アルト天文台に設置された分光器“CARMENES”です。

2つの分光器は、どちらも惑星の運動によって生じるドップラー効果に対応したスペクトル分析に特化していて、ホットジュピタ-の大気組成を調べる上で優れた性能を持っていました。

観測の結果、見つかったのは8種類の金属元素。
見つかった金属元素は、軽い順にカルシウム、チタン、バナジウム、クロム、ニッケル、ストロンチウム、バリウム、テルビウムの8種類。
その中でも特に興味深い発見は“テルビウム”と“バリウム”でした。
テルビウムは、希土類と呼ばれる似たような元素のグループに属する元素の1つ。高温で動作する燃料電池の結晶安定化剤、次期で膨張・伸縮する特殊な合金、緑色蛍光剤などに利用されている。
バリウムはアルカリ土類金属の1つ。X線を通しにくい性質を利用した造影剤が最も知られている用途。他にも緑色の炎色反応を利用した花火などの用途や、圧電効果を示すセラミックや高温超電導体といった、今後の実用化が見込まれる材料にも登場している。
太陽系外惑星の大気中から初めて見つかったのがテルビウムです。

バリウムが見つかるのは今回が3例目のこと。
1例目“WASP-76b”と2例目“WASP-121b”は、どちらも2022年に発見されたばかりなので極めて珍しいケースといえます。

テルビウム(65番元素)とバリウム(56番元素)は、太陽系外惑星の大気中に見つかった重い元素トップ2です。

これほど重い元素を惑星の深部から持ち上げるメカニズムは、単純な大気循環だけで説明できるものでしょうか。
それとも、他のメカニズムが働いているのかは、今のところ不明です。

ホットジュピタ-の大気成分を調べる作業は、巨大ガス惑星の深部という通常手の届かない領域を調べるための手掛かりになるのかもしれません。

また、重い元素を持ち上げるメカニズムは、惑星内部の物質循環の詳細を知る手掛かりにもなるはずです。

“KELT-9b”の観測は、単に大気中では珍しい元素を発見するだけにとどまらず、惑星全体の詳細を知る重要な手掛かりになる可能性もありますね。


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