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太陽系は今より1万光年先、銀河中心に近い場所で誕生した!? なぜ現在地に大移動できたかは今後の研究に期待

2023年11月25日 | 太陽系・小惑星
今回の研究では、独自の理論モデルを用いて、天の川銀河における主要な元素の循環過程を調査。
その結果、太陽系は約46億年前に現在の位置よりも1万光年ほど銀河中心に近い領域で誕生し、長い年月をかけて現在の位置まで移動しながら進化してきたことが示唆されました。

さらに、この研究では天の川銀河全体における惑星材料物質の分布の予測にも成功。
これにより、天の川銀河の内側では大型の惑星が形成されやすく、一方外側では水を豊富に含む小さな岩石惑星が多数できる可能性が示唆されたそうです。

この研究成果は、鹿児島大学 天の川銀河研究センターの馬場淳一特任準教授、神戸大学大学院 理学研究科の斎藤貴之準教授、国立天文台 科学研究部の辻本拓司助教たちの共同研究チームによるもの。
11月14日に鹿児島大学、神戸大学、国立天文台の3者が共同で発表し、詳細は英国王立天文学会が刊行する天文学術誌“Monthly Notices of the Royal Astronomical Society”に掲載されました。
図1.今回の研究の概念図。現在、太陽系は天の川銀河の中心から約2万7000光年先に位置しているが、誕生時には1万光年ほど銀河中心に近かった可能性が高い。現在の太陽系の位置に関しては、2万5000光年前後や2万6000光年弱など複数の説があるが、今回のリリースではこの値が採用されている。(Credit: NAOJ(出所:神戸大Webサイト))
図1.今回の研究の概念図。現在、太陽系は天の川銀河の中心から約2万7000光年先に位置しているが、誕生時には1万光年ほど銀河中心に近かった可能性が高い。現在の太陽系の位置に関しては、2万5000光年前後や2万6000光年弱など複数の説があるが、今回のリリースではこの値が採用されている。(Credit: NAOJ(出所:神戸大Webサイト))

太陽系は銀河中心近くで生まれていた

宇宙には最初、水素、ヘリウム、リチウムなどの軽い元素しか存在していませんでした。
そこから、恒星内の核融合や超新星爆発、中性子星同士の合体などのプロセスを経て、それぞれの銀河における重元素量(※)が増加する進化が起こっていきました。
※.天文学では、水素とヘリウムよりも重い元素のことを“重元素”と呼び、水素に対する重元素の割合は重元素量と呼ぶ。重元素は恒星内部の核融合反応により生成され、恒星の死に伴い星間空間へと放出される。なので、星の生と死のサイクルが十分に繰り返されていない初期の宇宙では、現在の宇宙に比べて重元素量が低かったと考えられている。
重元素は、星が生まれ変わるごとに増加していくことから、こうした銀河内での元素の循環は“銀河化学進化”と呼ばれます。

銀河中心領域の上下に膨らんだバルジ内では、余りにも星が密集しているので、夜でも昼間のように明るいと言われています。
そう、それだけ星が多いと超新星爆発などの発生頻度も高くなってくるので、中心部の方が“郊外”よりも重元素の量が早く増えることになります。

これまで、太陽系は天の川銀河において中心から2万4000光年~2万7000光年離れた郊外で誕生し、中心からの距離を大きく変えることなく公転してきたと考えられてきました。

でも、およそ46億年前に郊外で誕生した惑星系にしては、重元素の含まれる割合がとても多いことが分かってきたんですねー
その割合の高さから考えると、より中心部に近い星の過密地帯(棒状構造の回転範囲とされる)で生まれた可能性があると提唱する研究成果が報告されています。

銀河内の重元素の供給過程

今回の研究で目指しているのは、天の川銀河の化学進化の理論モデルを作り、太陽系が生まれた領域を解明すること。
それと同時に、天の川銀河の様々な場所で、どのような惑星系が誕生する可能性があるのかも推定しています。

太陽のような小質量星の場合、核融合反応は水素からヘリウムでほぼ終わり、最終盤にヘリウムの暴走的な核融合反応であるヘリウムフラッシュが起きて、炭素までは生成されると考えられています。

それに対して、質量が太陽の8倍以上の大質量星は、その先も核融合反応を続け、宇宙で最も安定した元素である鉄までが生成されます。

ただ、鉄より重い元素は恒星の中心部では生成されないんですねー
それは、鉄の核融合反応ではエネルギーが放出されないので、鉄を生成するようになった恒星は自重を支えきれずに超新星爆発を起こしてしまうからです。

このため、鉄よりも重い元素は超新星爆発などの激しい現象にともなって生成されると考えられています。

つまり、銀河内の重元素の供給過程は、どれだけの質量の星が、どの数だけ、そしてどれだけのペースで誕生したかで変わってくることになります。

星形成の歴史によって、宇宙空間に存在する元素の組成が異なることから、同じ銀河内でも領域によって元素の種類と量に差異が生じてきます。

特に、天の川銀河の中心部では重元素が多く、活発な星形成が行われているようです。

なぜ太陽系は大移動できたのか

今回の研究では、それぞれで異なる星の進化プロセスを考慮した銀河化学進化モデルを構築。
約46億年前の太陽系の重元素量に合う領域を探しています。

その結果、46億年前に太陽系と同じ重元素量に達しているのは、天の川銀河の中心から約1万6千光年の領域だと判明。
これにより、太陽系は現在よりも約1万光年ほど内側で形成された可能性が示唆されました。
図2.(左)今回の天の川銀河の化学進化の理論モデル。(右)天の川銀河中心からの様々な距離における重元素量(鉄と水素の割合)の時間変化の様子。天の川銀河は内側ほど早い時期に星形成活動が活発になり、重元素量が早い段階で増加した。重元素量の変化の様子を各距離ごとに計算して、誕生当時の太陽系の重元素量に到達する距離は、天の川銀河中心から1.3万光年~2万光年の間であることが見出された。現在、太陽系は中心から約2.7万光年の距離に位置しているので、誕生から46億年の間に約1万光年ほど外側に移動してきたと予測される。(出所:神戸大Webサイト)
図2.(左)今回の天の川銀河の化学進化の理論モデル。(右)天の川銀河中心からの様々な距離における重元素量(鉄と水素の割合)の時間変化の様子。天の川銀河は内側ほど早い時期に星形成活動が活発になり、重元素量が早い段階で増加した。重元素量の変化の様子を各距離ごとに計算して、誕生当時の太陽系の重元素量に到達する距離は、天の川銀河中心から1.3万光年~2万光年の間であることが見出された。現在、太陽系は中心から約2.7万光年の距離に位置しているので、誕生から46億年の間に約1万光年ほど外側に移動してきたと予測される。(出所:神戸大Webサイト)
天の川銀河の内側領域は星形成活動が活発で、超新星爆発も頻発し、巨大なガス雲も多く存在しています。

もし、太陽系が現在よりも天の川銀河の中心近くで生まれて留まり続けていた場合は、今よりも頻繁に巨大ガス雲と遭遇したり、近隣の超新星爆発からの強力な宇宙線に晒され、生命の誕生や進化に影響があった可能性があります。

このような、まるで地雷地帯のような危険領域を通り抜けて、外側へ向かい運よく郊外まで避難できたから、地球の生命は安全な環境で生存できるようになったとも考えられます。

さらに、今回の研究では、天の川銀河の化学進化から、銀河内で形成される惑星系の多様性の予測も得られています。

天の川銀河の内側ほど惑星の材料物質が豊富なことから、巨大ガス惑星を持つ惑星系が誕生しやすい可能性があります。
同じく内側ほど鉄の相対含有量も高いので、鉄コアの大きな岩石惑星が形成される可能性があり、外側では水の豊富な惑星系が誕生する可能性があるそうです。

もし、太陽系が全く異なる場所で誕生していた場合、含まれる重元素の組成も全く異なることが予想され、それに応じて惑星系の形成や生命の発生も異なっていたかもしれません。
図3.今回の天の川銀河の化学進化の理論モデルに基づく、惑星材料物質の空間分布を時間変化で表したもの。(左)天の川銀河の内側ほど惑星材料物質の総量が多く、巨大ガス惑星を持つ惑星系が誕生しやすい可能性がある。(中)同じく内側ほど鉄の相対含有量が高く、大きな鉄コアを持つ岩石惑星が誕生しやすい可能性がある。(右)外側ほど鉄に対する酸素の相対含有量が高く、水を豊富に含む惑星が形成されやすい可能性がある。(出所:神戸大Webサイト)
図3.今回の天の川銀河の化学進化の理論モデルに基づく、惑星材料物質の空間分布を時間変化で表したもの。(左)天の川銀河の内側ほど惑星材料物質の総量が多く、巨大ガス惑星を持つ惑星系が誕生しやすい可能性がある。(中)同じく内側ほど鉄の相対含有量が高く、大きな鉄コアを持つ岩石惑星が誕生しやすい可能性がある。(右)外側ほど鉄に対する酸素の相対含有量が高く、水を豊富に含む惑星が形成されやすい可能性がある。(出所:神戸大Webサイト)
研究チームが考えているのは、太陽系の大移動には、天の川銀河の渦状腕構造や棒状構造の性質が密接にか関わっているということ。
今後の研究により、天の川銀河の詳しい構造や成り立ちが解明されると、太陽系の大移動についての手掛かりや疑問に対する答えが得られるかもしれません。


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月が形成されたのは、これまでの推定より約4000万年も古い年代だった。アポロ17号で採取された月の石を分析して分かったこと

2023年11月24日 | 月の探査
地球唯一の衛星“月”は、いつ形成されたのでしょうか?

この疑問の答えは、太陽系の中で起きた大衝突の答えにも迫ることになります。

今回の研究では、アポロ計画で採取された月の石に含まれている鉱物“ジルコン”を分析。
これにより、月の表面が固まった時期は遅くても44億6000万年前であると算出しています。

この数値は、これまでの研究よりさらに4000万年古く、太陽系の形成から1億1000万年後の時代になるそうです。
この研究は、フィールド自然史博物館のJennika Greerさんたちの研究チームが進めています。

月が形成される原因となった巨大衝突

夜空でもひときわ目立つ巨大な天体“月”は、地球唯一の衛星です。

太陽系全体を見渡しても月は5番目に大きな衛星で、周回している惑星との直径比・質量比は太陽系で最大になります。

月と同程度の大きさの他の衛星は、地球よりずっと大きな惑星を周回していることを考えると、月がどのように地球の衛星として誕生したのかは大きな謎といえます。

長年の研究により、月が形成される原因として最も有力な仮説がジャイアントインパクト(巨大衝突)説になります。

この説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、地球と月を形成したと考えられています。

大きい方は地球になり、大気と海のある地質学的に活発な惑星になるのにちょうどよい大きさと環境へと進化。
小さい方が月になるのですが、こちらには地球のような特性を保持するのに十分な質量はありませんでした。

現状では、このジャイアントインパクト説が月の誕生の様子や地質学的証拠に最も一致しています。

月が形成された年代

月の存在は地球に潮汐力を作用させ、潮の満ち引きや自転周期に変化を与えています。
このため、地球の歴史を調べる上で、月の形成年代を正確に知ることは欠かせません。

また、初期の太陽系では“後期重爆撃期”という天体衝突の増加があったことが知られています。
この後期とは、星間物質の衝突による惑星の誕生・成長の時期を前期とし、惑星形成後の衝突を示したもの。
月が形成された後の出来事だと考えられています。

後期重爆撃期では、地球に最初の海が誕生し始めたころ(約38億年前)に、多くの彗星や小惑星が地球へ降り注ぐように衝突しています。

こうした集中的な衝突は、木星や土星のような巨大ガス惑星の軌道が移動して、それらの重力の影響を受けて軌道が変わった小天体の一群が、太陽系の内側に飛び込んできたことが原因と考えられています。

後期重爆撃期では、月や地球・水星・金星・火星といった惑星が多くの天体衝突を受けています。
地球にも小惑星が衝突したとされているのですが、地殻変動が原因でそのほとんどが発見されていません。
なので、後期重爆撃期を含む月の形成過程を知ることは、月以外の天体の歴史を知る手掛かりにもなります。

ジャイアントインパクト説を検証する上での重要な課題の1つは、月が形成された年代です。

衝突のエネルギーは高いので、形成直後の月は表面全体がマグマで覆われた“マグマオーシャン”状態にあったと考えられています。

月の表面が冷えて固まるスピードは、かなり速かったと考えられているので、月の石を調べればその形成年代が分かります。

これまで、その年代は今から44億1700万年前(±600万年)より以前だと考えられていました。

アポロ17号で採取された月の石を分析する

今回の研究では、アポロ17号で採取された月の石(標本番号72215)に含まれる鉱物“ジルコン”を分析し、月の形成年代を調べています。

月はジャイアントインパクトの段階で一度溶けているので、ジルコンが固まって結晶となった年代は、月のマグマオーシャンが固化した年代とみなすことができます。

ジルコンは化学的・物理的に強い物質なので、数十億年もの時間変化の中で変質せず、長期の年代を調べることができます。

また、数十億年という時間を測ることができるウランを含んでいる一方で、年代測定の邪魔になる鉛が結晶成長時にほとんど含まれないことも、ジルコンを使う利点になります。

さらに、これらの利点を生かし多くの研究で年代測定の指標として使用されているので、ノウハウの蓄積もあります。
ウランは時間をかけて鉛へと崩壊するため、ウランと鉛の比率を調べることで鉱物が結晶化した年代を推定することができる。でも、結晶化時に無関係の鉛が鉱物に入り込んでいると、年代測定結果を狂わせる恐れがある。ジルコンは化学的に鉛をほとんど含まない形で結晶化するので、ウランによる年代測定がしやすい鉱物と言える。
一方、このような研究では年代が異なることも珍しくありません。
なので、正確な年代を突き止めるには、結晶の場所ごとの年代を細かく調べる必要があります。
図1.実験装置に月の石を挿入するJennika Greerさん。(Credit: Dieter Isheim, (Northwestern University))
図1.実験装置に月の石を挿入するJennika Greerさん。(Credit: Dieter Isheim, (Northwestern University))

太陽系の形成から1億1000万年後に月は形成された

この研究では、極めて小さなジルコン結晶の年代を特定するため、“アトムプローブトモグラフィー”を使用して分析を行っています。

ジルコンの年代測定では、含まれている鉛の量を調べる必要があります。
そこで、研究チームでは、イオンビームで結晶表面を削り出して新鮮な表面が露出した後、紫外線パルスレーザーで表面の原子を蒸発させ、その中に含まれる鉛の量と分布を調べています。
図2.分析されたジルコン結晶の一例。丸い穴はイオンビームで削られた跡。今回の研究では、穴の表面をパルスレーザーで蒸発させ、鉛がどのくらい含まれているのかを調べることで年代測定が行われた。(Credit: Jennika Greer)
図2.分析されたジルコン結晶の一例。丸い穴はイオンビームで削られた跡。今回の研究では、穴の表面をパルスレーザーで蒸発させ、鉛がどのくらい含まれているのかを調べることで年代測定が行われた。(Credit: Jennika Greer)
分析の結果分かったのは、ジルコンに含まれた鉛が、ウランから崩壊して生じたもののみであること。
これにより、鉛の量がそのまま年代測定に利用できることが分かりました。

もし、ウランの崩壊とは無関係な鉛が含まれている場合、それは小さな塊として存在するので、場所ごとに鉛濃度の濃淡が生じるはずです。
今回の分析では、鉛は均一に分布していたので、元々含まれているという可能性を排除することができました。

いくつかのジルコン結晶の年代測定結果を照らし合わせた結果、月の形成年代は遅くとも44億6000万年前(±3100万年)と、これまでの分析より約4000万年も古い年代であることが明らかになりました。

これは、太陽系の形成から1億1000万年後の時代。
別の研究も合わせると、月が形成されたのは、今から45億1000万年前から44億6000万年前の間のどこかだと考えられます。

今回の研究では、最も古い年齢の月の石を通じて、月の形成年代を絞り込むことができました。
この研究成果は、その後の月や地球で生じた潮汐の影響や微惑星の衝突を解析する上でも重要なものになります。


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“SPHEREx”ミッションの目標は宇宙誕生に関する疑問と地球に到達した水の経路の解明! 宇宙望遠鏡は2025年4月に打ち上げ

2023年11月23日 | 宇宙 space
NASAの公式サイトに宇宙望遠鏡ミッション“SPHEREx(Spectro-Photometer for the History of the Universe, Epoch of Reionization, and Ices Explorer)”の情報がアップされました。
近赤外線宇宙望遠鏡“SPHEREx”のイメージ図。主鏡の周りについているコーンは、望遠鏡を赤外線から遮断するために取り付けられている。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
近赤外線宇宙望遠鏡“SPHEREx”のイメージ図。主鏡の周りについているコーンは、望遠鏡を赤外線から遮断するために取り付けられている。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
“SPHEREx”のミッションは、赤外線の波長で全天をマッピングし、1年に2枚の地図を作成すること。
小さな望遠鏡ですが、視野が非常に広いので、膨大な量の光を集めることができるんですねー
“天の川銀河の1億個の恒星”や“4億5000万の銀河”の画像を、そのスペクトルデータとともに記録していきます。

これにより、宇宙の大規模構造を追跡することを可能にし、138億年前の宇宙の誕生に関する疑問の解明を目指します。
さらに、恒星や惑星系が形成される領域における水や氷の存在量を調査し、水がどのようにして地球に到達したのかという謎を解く手掛かりを探すことになります。

“SPHEREx”による観測データは、近赤外線宇宙望遠鏡“ユークリッド”(※1)とナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡(※2)による分光観測を補完することが可能です。

※1.“ユークリッド”は、2023年7月に打ち上げられたヨーロッパ宇宙機関(ESA)主導の近赤外線宇宙望遠鏡。100億光年先までの銀河の形状や位置、距離を測定し、これまでで最大で最も正確な宇宙の3次元マップを作成。この地図を手掛かりに、宇宙の構造に大きく影響してきたダークマター(暗黒物質)やダークエネルギー(暗黒エネルギー)の謎を解明する。

※2.ナンシー・グレース・ローマンは、NASAが2026年10月から2027年5月までの間に打ち上げを予定している宇宙望遠鏡。この望遠鏡は、宇宙から重力マイクロレンズ探査を行い、数万個のマイクロレンズ現象を発見し、1000個以上の主星を公転する惑星を発見すると期待されています。

“SPHEREx”が提供する前景銀河の高精度赤方偏移情報(※3)は、“ユークリッド”とナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡による背景銀河の弱い重力レンズ測定に対応していて、前景銀河を取り囲むダークマター(暗黒物質)の分布を直接測定することができます。
さらに、“SPHEREx”の低赤方偏移調査ではインプレーションパラメータの測定を、ほぼ独立して行うことが可能なので、新しい一連の証拠が提供されるはずです。

※3.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。

現在、“SPHEREx”はカリフォルニア工科大学のケイヒル天文学・天体物理学センターの地下室で、一連の厳しいテストを受けている最中です。

“SPHEREx”は、2025年の4月にスペースX社のファルコン9ロケットに搭載されヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられ、地球周回軌道に投入されることになります。


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ほとんどの銀河の中心にある、超巨大ブラックホール周辺の物理構造を解明! X線天文衛星の15年間にわたる観測データを使用

2023年11月22日 | ブラックホール
ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ超巨大ブラックホールが存在すると考えられています。

私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ巨大ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在していて、これら超巨大ブラックホールの構造を解明することは、現代天文学の最重要課題の1つになっています。

超巨大ブラックホールへ落下する物質は角運動を持つため、降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤をブラックホールの周囲に作ります。

降着円盤内ではガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ。
この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測されます。

これは活動銀河核と呼ばれる天体現象で、その光は時に銀河の星の光の総量を凌駕するにまで至ります。
さらに、その激しい活動は銀河全体の星形成にも影響を与えると考えられています。

今回の研究では、複雑なX線スペクトル変動(X線のエネルギーの強度分布)を示す活動銀河核である“Mrk 766”の中心構造を解明するため、ヨーロッパとアメリカのX線天文衛星による15年間にわたるアーカイブデータ(※1)を再解析。
※1.衛星による過去に観測したデータ。観測後に一定期間を経るとデータは公開され、誰でもデータを解析できるようになる。
その結果、部分的に視線を覆うことでX線の一部を吸収する物質や、中心からの物質の吹き出しによるX線吸収に加えて、今まで考慮されてこなかったX線散乱成分を考慮することによって、15年間という全観測期間のX線観測データをシンプルなモデルで統一的に説明することに成功しています。

今回の研究結果に加え、2023年9月に打ち上げられたJAXAのX線天文衛星“XRISM”による観測によって、活動銀河核の中心構造の理解が進ことが期待されています。


銀河全体の星形成に影響を与えるアウトフローという現象

活動銀河核の中心から物質が噴き出し(この現象をアウトフローと呼ぶ)、それが広く外側に運ばれることで、銀河全体の星形成に影響を与えると考えられています。

この影響を解明するには、アウトフローの構造や周囲の物理状態を知る必要があります。

そこで、今回の研究では、複雑なX線スペクトルを示すことで知られている“Mrk 766”という活動銀河核のX線観測データを解析。
これにより、アウトフローや中心の物理構造を詳細に調べています。

X線は薄い物質を透過し濃い物質には吸収されるので、活動銀河核中心の高温プラズマ(※2)から発生するX線の吸収を調べることで、周辺構造の推定が可能になります。
※2.ブラックホールの近くにあるX線の放射源。1000万℃以上の高温の物質があると考えられている。
“Mrk 766”からのX線を観測すると、その明るさが時間とともに変化し、アウトフローが起こっていることが分かっています。
でも、15年間という全観測期間で、これらのX線スペクトルを統一的に説明し、中心構造を解明することはできていませんでした。
図1.活動銀河核“Mrk 766”の中心の概略図(Mochizuki et al. 2023, Fig.6)。ブラックホールの周辺物質に、W1からW5までの番号を振っている。ブラックホール周辺の高温プラズマ(Hot corona)から発生したX線が、W3による温かい吸収、W4のアウトフローによる吸収、W1とW2、W5の3重構造による部分吸収、さらにW4のアウトフローによる散乱(水色の線)を受けている。御堂岡氏ら(Midooka et al. 2022)(https://www.isas.jaxa.jp/home/research-portal/gateway/2022/0926/)がNGC5548という超巨大ブラックホールについて作成した図を、2つの天体の違いを考慮して修正されたもの。(Credit: MOCHIZUKI Yuto)
図1.活動銀河核“Mrk 766”の中心の概略図(Mochizuki et al. 2023, Fig.6)。ブラックホールの周辺物質に、W1からW5までの番号を振っている。ブラックホール周辺の高温プラズマ(Hot corona)から発生したX線が、W3による温かい吸収、W4のアウトフローによる吸収、W1とW2、W5の3重構造による部分吸収、さらにW4のアウトフローによる散乱(水色の線)を受けている。御堂岡氏ら(Midooka et al. 2022)(https://www.isas.jaxa.jp/home/research-portal/gateway/2022/0926/)がNGC5548という超巨大ブラックホールについて作成した図を、2つの天体の違いを考慮して修正されたもの。(Credit: MOCHIZUKI Yuto)


アウトフローの構造や周囲の物理状態

この研究では、周辺物質によるX線吸収について、JAXAが保有するスーパーコンピュータ“JSS3”を用いてシミュレーションを実施。
それにより、周辺物質によるX線吸収を記述するモデルを作成しています。

このモデルを観測データに適用し、3種類の吸収体を考慮することで、すべての観測データを説明できることが明らかになりました。

1つ目は、視線の一部を覆うことで部分的にX線を吸収する部分吸収体。
内部に三層構造を持つ部分吸収体が視線上を覆い隠す割合が変化することによって、一見複雑なX線のスペクトル変化が説明できることを発見しました(図1のW1・W2・W5)。

2つ目は、光の速さの約10%の速度(秒速3万キロ)を持った光速のアウトフロー(図1のW4)。
このアウトフローを考慮することで、ドップラー効果(※3)によって波長が短くなった吸収線を説明できました。
※3.光源と観測者の間に相対的な速度があるときに、光のドップラー効果によって観測者の方へ動いている物質からの光は波長が短くなり、遠ざかっている物質の光は波長が長くなる現象。

3つ目は、比較的遠方に存在していると考えられている温かい吸収体(※4)(図1のW3)による吸収です。
※4.温かい吸収体(Warm absorber)は、超巨大ブラックホールから離れた距離にある速度の遅い吸収体。

さらに、“Mrk 766”には幅の広がった鉄の輝線(※5)構造が存在していて、その起源について長年の論争がありました。
※5.輝線は、原子が不安定な状態から安定な状態に戻る時に照射されるX線。
今回の研究で分かったのは、遠方にある中性の物質の散乱による細かい輝線と、降着円盤による広がった輝線に加えて、やや広がった輝線構造が存在していること。
先行研究で行われたアウトフローの輻射流体シミュレーション(※6)と比較してみると、この構造はアウトフローによるX線の散乱成分であることが明らかになりました(図1の水色の線)。
※6.輻射流体シミュレーションは、流れ出る物質が電磁波による輻射によって輸送される物理過程を解明したシミュレーション。
これらのことから、今回の研究では活動銀河核“Mrk 766”の15年間にわたるX線観測データを全て説明できるモデルとして、遠方の散乱体、部分吸収体、降着円盤、アウトフロー、温かい吸収体からなる描像を提案しています。

さらに、アウトフローの噴き出す量、速度、角度について制限することにも成功し、部分吸収体はアウトフロー起源であることが裏付けられました。

この研究で示唆されたアウトフローの散乱成分は、他の活動銀河核でも同様に存在すると考えられます。
なので、幅の広い鉄輝線から推定されていた従来の構造は補正される可能性があります。

さらに、2023年9月に打ち上げられたJAXAのX線天文衛星“XRISM”によって、アウトフローの駆動メカニズムや、アウトフローの内部の状態が解明できれば、活動銀河核の中心構造の理解がさらに進むはずです。


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火星大気の散逸に影響しているかも? 太陽コロナ質量放出が大気に与える影響を米中の火星探査機が観測

2023年11月21日 | 火星の探査
今回の研究では、アメリカと中国の火星探査機により、太陽コロナ質量放出(CME)が火星大気に与える影響を観測しています。

太古の火星には厚い大気があり、気候は温暖で、その表面には大量の液体の水が存在した時期があったと考えられています。
この研究で分かってきたのは、太陽コロナ質量放出による影響により大気が散逸した可能性があること。
火星を温暖で住みやすい惑星から、今日のような乾燥した過酷な世界に変える役割を果たしたようです。
この研究成果は2023年8月8日付で“The Astrophysical Journal”に掲載されています。
図1.NASAの火星探査機“MAVEN”によってとらえられた火星北半球の紫外線が増。(Credit: NASA/LASP/CU Boulder)
図1.NASAの火星探査機“MAVEN”によってとらえられた火星北半球の紫外線が増。(Credit: NASA/LASP/CU Boulder)

太陽コロナ中のプラズマが大量に放出される突発的な現象

太陽活動に伴って太陽コロナ中のプラズマが大量に放出される突発的な現象が、太陽コロナ質量放出です。
太陽コロナ質量放出が、太陽風と相互作用しながら惑星間空間を伝播していくと惑星間コロナ質量放出(ICME)と呼ばれます。
図2.NASAの太陽観測衛星“SOHO”によってとらえられた2000年11月に発生した2つのコロナ質量放出。(Credit: ESA/NASA/SOHO)
図2.NASAの太陽観測衛星“SOHO”によってとらえられた2000年11月に発生した2つのコロナ質量放出。(Credit: ESA/NASA/SOHO)
惑星間コロナ質量放出が地球に到達すると、地磁気が一時的に弱まる現象“磁気嵐”が発生することがあります。

磁気嵐は規模が大きくなると、極域で見られるオーロラが活発になるだけでなく、低緯度の地域でもオーロラを見れることができたりします。
大規模な磁気嵐は、私たちの生活とも密接に関連していて、地上の送電設備や人工衛星へ障害を与えることもあります。

地球の大気は強力な磁場によって保護されているので、多くの場合惑星間コロナ質量放出が地球上の人間や社会活動に大きな影響を及ぼすことはありません。

でも、宇宙空間では状況が異なってきます。
惑星間コロナ質量放出により発生した高エネルギー粒子によって、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在している宇宙飛行士は被爆する危険性が高まり、人工衛星や搭載機器が損傷する可能性もあります。

一方、固有の磁場が存在しない現在の火星では、大気は磁場によって保護されていません。
そのため、将来の火星ミッションにおける、惑星間コロナ質量放出の影響と“火星への航海”や“火星での居住可能性”との関連は重要な課題になります。

火星大気の進化

今回の研究では、惑星間コロナ質量放出が火星の大気に及ぼす影響を調べています。

2021年12月4日に太陽で発生した太陽コロナ質量放出は惑星間コロナ質量放出となり、第1回水星スイングバイを行ったばかりの“ベピコロンボ”の探査機(※1)を通過。
その後、12月10日に火星に到達しています。
※1.“ベピコロンボ”はJAXAとヨーロッパ宇宙機関が共同で推進する水星探査ミッション。それぞれの周回探査機が飛行を担当するヨーロッパ宇宙機関の電気推進モジュールに搭載され水星を目指している。
惑星間コロナ質量放出の到達を待ち構えていた中国国家航天局の火星探査機“天問1号”(※2)は太陽に照らされた火星の昼側から、NASAの火星探査機“MAVEN”(※3)は夜側から観測を実施しました。
※2.“天問1号”は中国が2020年に打ち上げた火星探査機。
※3.“MAVEN”はNASAが2013年に打ち上げた火星探査機。火星の上層大気を中心に観測することを目的としている。
図3.惑星間コロナ質量放出の中国国家航天局の火星探査機“天問1号”とNASAの火星探査機“MAVEN”の軌道図。水星探査ミッション“ベピコロンボ”の探査機は、太陽に近い位置から惑星間コロナ質量放出の通過を確認している。(Credit: Yu et al. 2023)
図3.惑星間コロナ質量放出の中国国家航天局の火星探査機“天問1号”とNASAの火星探査機“MAVEN”の軌道図。水星探査ミッション“ベピコロンボ”の探査機は、太陽に近い位置から惑星間コロナ質量放出の通過を確認している。(Credit: Yu et al. 2023)
惑星間コロナ質量放出が火星の昼側に到達すると、太陽風の動圧によって火星の電離層は圧縮され、プラズマ密度が急激に変化する“電離層界面”の高度が数日かけて徐々に低下していきます。
一方、“MAVEN”は夜側に存在するイオンの大幅な減少を測定しています。
図4.惑星間コロナ質量放出の火星の電離層に対する影響の概要。点線は電離層界面の高度、実線は電離層プラズマの密度を示す。(Credit: Yu et al. 2023)
図4.惑星間コロナ質量放出の火星の電離層に対する影響の概要。点線は電離層界面の高度、実線は電離層プラズマの密度を示す。(Credit: Yu et al. 2023)
地球の通常の状態では、電離層のプラズマの一部が夜側に移動します。
でも、火星の場合はイオンが惑星間コロナ質量放出によって押し流され、大気から宇宙空間に流出したことを示唆しています。

火星の大気はごく一部しかイオン化していないので、惑星間コロナ質量放出によって散逸した大気はごく少量に留まるようです。
ただ、数十億年にわたるタイムスパンを考慮すると、惑星間コロナ質量放出による複合効果はより大きくなる可能性があります。

太古の火星には厚い大気があり、気候は温暖で、その表面には大量の液体の水が存在した時期があったと考えられています。
イオンの大気からの散逸は火星大気の進化を形作った可能性が高く、火星を温暖で済みやすい惑星から、今日のような乾燥した過酷な世界に変える役割を果たしたと考えられます。

近年、太陽活動に伴う“宇宙天気”が注目を集めています。
今回の研究は、惑星間コロナ質量放出の強力な磁場と高い動圧がもたらす宇宙天気が、火星の大気に及ぼす影響を浮かび上がらせてくれたと言えますね。


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