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1年周期で地球を周回している衛星のように見える小惑星“カモオアレワ”は、月面から飛び出した破片なのか?

2023年11月15日 | 太陽系・小惑星
地球の準衛星になっている小惑星“469219 Kamo oalewa(カモオアレワ)”。
この小惑星は、ひょっとすると月から飛び出した破片かもしれないんですねー

この可能性を改めて示した研究成果が、アリゾナ大学の大学院生Jose Daniel Castro-Cisnerosさんを筆頭とする研究チームから発表されました。

研究チームによると、月の破片がカモオアレワのように数百万年にわたって、地球と似たような軌道を公転する小惑星となる確率は低いものの、ありえないことではないそうです。
図1.地球と月の近くを移動する小惑星“469219 Kamo oalewa(カモオアレワ)”のイメージ図。(Credit: Addy Graham/University of Arizona)
図1.地球と月の近くを移動する小惑星“469219 Kamo oalewa(カモオアレワ)”のイメージ図。(Credit: Addy Graham/University of Arizona)

1年周期で地球を周回している衛星のように見える天体

カモオアレワは2016年4月27日にハワイの掃天観測プロジェクト“パンスターズ(Pan-STARRS)”によって発見された幅46~58メートルと推定される小惑星です。

当初、“2016 HO3”という仮符号で呼ばれていたのが、後にハワイ語で「振動する破片・断片」を意味するカモオアレワに改名されています。

地上から観測したカモオアレワのスペクトル(光の波長ごとの強度分布)が、アポロ計画で採取された月の石と一致したことから、カモオアレワは天体衝突などで飛び出した月の破片ではないかと考えられています。

現在のカモオアレワの公転周期は地球とほぼ同じ1年。
地球からはカモオアレワがヒル球(※1)の外側で一緒に公転しているように見えます。
※1.ヒル球(Hill sphere)は、重い天体を周回する別の天体(例えば太陽を公転する地球)の重力が、重い天体の重力を上回る範囲のこと。太陽を周回する地球のヒル球は、半径約150万キロ(地球から月までの距離の約4倍)。地球のヒル球に入り込んで一時的に地球を周回する天体はミニムーンとも呼ばれている。
このように1年周期で地球を周回している衛星のように見える天体は、“準衛星(Quasi-satelite)”と呼ばれています。

衛星のように見えるのはあくまでも地球を基準とした場合。
太陽を基準にすれば、地球の公転軌道付近で太陽を周回する小惑星の軌道が描かれることになります。
小惑星カモオアレワの軌道を描いた動画。動画では太陽(Sun)を中心とした動きと地球(Earth)から見た動きの両方が黄色の線で示されている。カモオアレワは太陽を中心に公転する小惑星だが、地球から動きを観測すると地球を公転する衛星のように見える。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
研究チームによると、カモオアレワは準衛星の中でも特徴的な公転運動をしているそうです。
現在のカモオアレワは地球の準衛星ですが、約100年前までは地球から見て太陽の反対側を中心とした馬蹄形の軌道を公転していて、約300年後からは再び馬蹄形の軌道を公転するようになると見られています。
図2.a:地球に似た約1年周期の軌道を公転する小惑星の地球から見た動き。左は馬蹄形の軌道(紫)、右は準衛星の軌道(緑)。b:馬蹄形の軌道と準衛星の軌道を遷移する小惑星カモオアレワの特徴的な動き。c:小惑星カモオアレワの西暦1600年~2500年までの軌道長半径と、太陽を中心とした角度で示された地球に対する相対的な平均位置。(Credit: Castro-Cisneros et al.)
図2.a:地球に似た約1年周期の軌道を公転する小惑星の地球から見た動き。左は馬蹄形の軌道(紫)、右は準衛星の軌道(緑)。
b:馬蹄形の軌道と準衛星の軌道を遷移する小惑星カモオアレワの特徴的な動き。
c:小惑星カモオアレワの西暦1600年~2500年までの軌道長半径と、太陽を中心とした角度で示された地球に対する相対的な平均位置。(Credit: Castro-Cisneros et al.)

月面から飛び出した破片がカモオアレワのような軌道に入る可能性

カモオアレワは、このような軌道の変遷を数十万年~数百万年という長期間にわたって繰り返す可能性が過去の研究で示されていました。

でも、地球と月の重力を振り切るのに十分な運動エネルギーが与えられたカモオアレワのような月の破片のスピードは、このような軌道に進入するには速すぎるんですねー

そこで、今回の研究では、太陽系の惑星全ての重力を正確に再現した数値シミュレーションを開発。
月面の様々な場所から様々な速度で飛び出した後に、太陽からの平均距離0.98~1.02天文単位(※2)の範囲にしばらく留まると仮定して、破片の動きを分析しています。
※2.1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当する。
シミュレーションの結果が示していたのは、月から飛び出した破片の大多数は、アテン群やアポロ群のような軌道で太陽を公転する小惑星になるものの、破片全体のうち6.6%は一時的に地球の公転軌道付近で太陽を周回する可能性があることでした。

アテン群は、地球横断小惑星(Earth-crossing asteroids)のグループの一つで、軌道長半径が1天文単位より小さく、太陽から最も遠くなる位置“遠日点”までの距離が0.983天文単位より大きな軌道を持つ小惑星。

アポロ群も地球横断小惑星(Earth-crossing asteroids)のグループの一つ。
地球より大きな軌道長半径を持つ小惑星で、地球に非常に近付くことがあるので潜在的な脅威ともいえます(軌道長半径が地球のそれに近いほど、軌道を横断するのに必要な離心率は小さくなる)。
離心率が大きいものだと近日点が水星より内側にあったり、遠日点が海王星の外側にあったりすることもあります。

そして、アテン群やアポロ群のような軌道で公転しない破片6.6%の内訳は、馬蹄形の軌道を公転する破片が5.8%、カモオアレワのように馬蹄形の軌道と準衛星の軌道を遷移する破片が0.8%になりました。

また、月の公転方向とは反対側(地球上から見て西側)の半球から、月の脱出速度(毎秒2.4キロ)をわずかに上回る速度で飛び出すことで、月面から飛び出した破片がカモオアレワのような軌道に入る可能性が最も高いこともシミュレーションから示されました。

この結果をもとに研究チームでは、カモオアレワが月から飛び出した破片である可能性が高まったと結論付けています。
今後は、このような軌道に入ることを可能にした条件の特定や年齢の推定を進めていくそうです。

でも、本当にカモオアレワは月の破片なのでしょうか?

この疑問に結論を出すには、さらなる研究が必要になってきます。
カモオアレワは、中国が2025年に打ち上げを計画している小惑星探査ミッション“鄭和(チェン・フー)”でサンプルリターンの対象になっているので、そう遠くはない内に答えが得られるかもしれませんね。
今回の研究成果をまとめた論文は、“Nature Communications Earth & Environment”に掲載されました。


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これまでに行われた古い隕石の年代測定は再検討が必要!? 理由は初期太陽系全体でアルミニウム26の分布が不均一だったから

2023年11月14日 | 太陽系・小惑星
初期の太陽系の状態を研究する上で、非常に古い年代が隕石の調査は有効な手段の一つになります。

でも、何十億年もの時間を遡って当時の様子を推定しようとすると、様々な問題や障害が立ちはだかることになります。

オーストラリア国立大学のEvgenii Krestianinovさんたちの研究チームは、年代が古い隕石の1つである“チェック砂砂漠002隕石(エルグ・チェック002、Erg Chech 002、EC 002)”(※1)の分析結果を発表。
その目的は、初期太陽系での重要な熱源であり、年代測定の手掛かりとなっているアルミニウムの同位体(※2)“アルミニウム26”の指定濃度を他の隕石と比較しながら調査することでした。

分析の結果、初期の太陽系におけるアルミニウム26の濃度は、かなり不均一だった可能性が判明。
この結果が示しているのは、「アルミニウム26の分布が均一だったら」という前提で年代が分析されてきた古い隕石の年代を、再検討しなければならないことでした。
※1.Erg(エルグ)は、砂砂漠(砂漠という名前から一般的に想像される砂が主体の砂漠)を意味し、その後に続く番号は発見順や記載順などをもとに付与される。Erg Chech 002は「チェック砂砂漠の地域で発見された隕石のうち、2番の番号が付与された隕石」という意味になる。

※2.原子核は複数の陽子と中性子で構成されている。同じ数の陽子が含まれている原子核は同じ元素に分類されるが、陽子の数が異なる場合は、その元素の“同位体”として区別される。また、異なる元素同士を比較する場合にも、“核種”という言葉の代わりとして使用される。

図1.チェック砂砂漠002隕石の磨かれた断面の様子。緑色の輝石結晶(特に左上側)があることが特徴的な隕石。(Credit: A. Irving (Public Domain))
図1.チェック砂砂漠002隕石の磨かれた断面の様子。緑色の輝石結晶(特に左上側)があることが特徴的な隕石。(Credit: A. Irving (Public Domain))

希少な安山岩でできた“チェック砂砂漠002隕石”

地球では数多くの隕石が見つかっていますが、その中でもかなり興味深い隕石の1つが“チェック砂砂漠002隕石”です。

巨大な緑色の輝石結晶が特徴的のこの隕石は、2020年にアルジェリアのチェック砂砂漠(Erg Chech)で発見された隕石の1つです。

2021年に発表された研究では、チェック砂砂漠002隕石は約45億6500万年前に固化した安山岩(※3)だということが分かっています。
この年代は、地球で見つかる最も古い鉱物結晶(約44億400万年前)よりも古く、太陽系が誕生したとされている約45億6730万年前(±16万年)にかなり近いものになります。

現在のところ、チェック砂砂漠002隕石は太陽系で最も古い火成岩(※3)の1つになります。
また、初期の太陽系における標準的な組成の物質を溶かして固化させると、安山岩ができることが分かっています。

でも、これまでに見つかった火成岩に分類される隕石のほとんどは玄武岩(※3)であり、安山岩は非常に珍しく数例しか発見されていません。

希少な安山岩の隕石であるチェック砂砂漠002隕石は、誕生したばかりの太陽系に岩石が溶けるほどの高温な環境があったことを示す重要な手掛かりになります。
※3.マグマが冷えて固まった岩石を火成岩と呼ぶ。火成岩はその成因や成分で様々な分類があるが、今回の話に限って説明すると、より金属元素に乏しい火成岩を安山岩、金属元素に富む火成岩を玄武岩と呼ぶ。
ただ、研究チームではチェック砂砂漠002隕石の年代は、再検討が必要だと考えているんですねー

それは、上記の2021年の研究とは別に、2022年にはマンガン53の崩壊で生じるクロム53の比率を調べる、2つの独立した研究が行われていたからです。

2つの研究チームは、チェック砂砂漠002隕石が固化した年代を、それぞれ45億6556万年前(±59万年)と46億6666万年前(±56万年)と推定。
双方の結果には1億年ものズレがあったので、再検討が必要だと考えたわけです。

2つの研究で示された古い方の年代は、チェック砂砂漠002隕石の元になったマグマの中に偶然入り込んだ、より古い年代の岩石による可能性がありました。

もし、この予測が正しい場合、チェック砂砂漠002隕石は分析する部分によって異なる年代を示す可能性があるので、より細かな分析が必要になります。

非常に古い隕石の年代測定方法

初期の太陽系における岩石を溶かすほどの熱源には、様々な要因(微惑星同士の衝突、重力による分化、太陽放射など)が考えられますが、主要なものとして挙げられるのは“アルミニウム26”の崩壊熱です。

アルミニウム26は半減期70万5000年で崩壊するので、現在の太陽系にはほとんど残っていないことになります。
でも、太陽系誕生時には豊富に存在していたと考えられていて、その崩壊熱が微惑星の主要な熱源の1つになっていたと考えられています。

また、アルミニウム26が崩壊すると安定同位体のマグネシウム26に変化するので、マグネシウムの他の同位体との比率をもとに、隕石が岩石として固まった年代を割り出す手がかりの1つにもなります。

でも、アルミニウム26とマグネシウムによる年代測定が成立するには、ある前提が必要なんですねー

それは、「アルミニウム26が初期の太陽系全体で均一に分布していて、他の隕石同士で同位体の比率を補正せずに比較できる」というものです。

太陽系が誕生した当時の詳細は謎が多く、物質がほとんどムラなく均一に分布していたのか、それとも場所によって不均一だったのかはよく分かっていません。

そこで、通常の隕石の研究では、アルミニウム26の均一性に依存することを避けるため、他の元素の同位体を分析することで、年代測定の確かさを高める手法が取られます。

ただ、分析の対象となる元素がサンプルに十分含まれていないので、この手法が適用できない場面も多々あります。

古い隕石の年代をアルミニウム26の均一性に依存して測定せざるを得ないというこの問題は、特に太陽系誕生時から一度も変化が起こっていない“コンドライト隕石”と呼ばれるタイプの隕石でよく指摘されています。

チェック砂砂漠002隕石のように、全体が溶けて均一に混ざっていると推定される“エイコンドライト隕石”と比べて、コンドライト隕石は物質の構成がかなり不均一で、場所ごとの形成年代もバラバラな傾向にあります。

また、コンドライト隕石の中で最も年代が古いとされる“CAI(Calcium-Aluminium-rich Inclusion)”と呼ばれるタイプの隕石は、しばしば詳細な分析が行わますが、CAIは軽い元素が豊富に含まれる一方で、年代測定によく使用されるウランや鉛といった重い元素は不足している傾向があります。

そのため、年代が極めて古いと推定される隕石のいくつかは、アルミニウム26が崩壊して生じるマグネシウムだけで年代が推定されるか、アルミニウム26とマグネシウムから推定された年代が、精度の低い他の年代測定結果よりも重視される傾向にあります。

初期の太陽系では場所によってアルミニウム26の濃度は相当不均一だった

今回の研究では、チェック砂砂漠002隕石の確かな年代を確かめるための詳細な分析を実施しています。

まず、鉛の同位体比率による年代測定を、チェック砂砂漠002隕石の全体で7回、鉱物結晶の単位で16回(輝石が15回、斜長石が1回)行っています。

その結果、チェック砂砂漠002隕石がマグマから固化した年代は、今から45億6556万年前(±12万年)ということが分かりました。
過去の研究も合わせると、チェック砂砂漠002隕石の元となったマグマが固化した年代は45億6556万年前後で正しいようです。

この場合、チェック砂砂漠002隕石は、太陽系が誕生したとされる45億6730万年前から174万年後に固化したことになります。
図2.様々な隕石をアルミニウムの同位体比率(縦軸)と鉛による年代(横軸)でグラフ化したもの。岩石が固化した時のチェック砂砂漠002隕石(EC002)のアルミニウム26の推定濃度は、最も少ないサハラ99555隕石(Sahara 99555)の4倍にも達する大きな違いがあることが今回判明した。(Credit: Evgenii Krestianinov, et al.)
図2.様々な隕石をアルミニウムの同位体比率(縦軸)と鉛による年代(横軸)でグラフ化したもの。岩石が固化した時のチェック砂砂漠002隕石(EC002)のアルミニウム26の推定濃度は、最も少ないサハラ99555隕石(Sahara 99555)の4倍にも達する大きな違いがあることが今回判明した。(Credit: Evgenii Krestianinov, et al.)
次に、チェック砂砂漠002隕石に含まれるアルミニウムと鉛のそれぞれの同位体比率を、同程度に古いと推定されるほかのエイコンドライト隕石と比較。

すると、岩石(隕石)がマグマから固化したときに含まれていたアルミニウム26の推定濃度には、最大で4倍もの差が生じていることが分かりました。

さらに、アルミニウムと化学的な挙動が関連している他の元素(※4)の同位体の比率も測定。
その結果、アルミニウム26の分布が不均一であったらしいという別の角度からの証拠も発見します。
※4.チタン50、クロム54、ストロンチウム84、および酸素の安定同位体。
このため、研究チームでは、アルミニウム26の不均一な分布はエイコンドライト隕石だけでなく、非常に始原的なコンドライト隕石でも同じような傾向にあると推定しています。

そう、今回の研究結果が示しているのは、初期の太陽系では場所によってアルミニウム26の濃度が相当不均一だった可能性が高いことです。

これまでに行われた古い年代測定は再検討が必要

この結果から、研究チームが提言しているのは、隕石を通じた初期太陽系の分析について、再検討が必要だということ。

初期の太陽系は時間の経過に応じて、どのように変化してきたのでしょうか?
このことを知るには、古い隕石を分析して年代順に並べる必要があります。

ただ、その年代は過去の研究で推定されたものを参照している場合が、しばしばあるんですねー

現在ほど分析技術が優れていなかった過去の研究では、アルミニウム26以外の方法で年代測定が行われていないことも珍しくありません。

そう、アルミニウム26のみで年代測定を行うには、「アルミニウム26の濃度が太陽系全体でほぼ均一だった」っという前提が必要になります。
でも、今回の研究結果はそれを否定し戯。

現在では、分析技術が進歩していて、わずかな濃度のウランや鉛の同位体比率を利用する、過去には不可能だった年代測定が行えるようになっています。
チェック砂砂漠002隕石を通じて、今回の研究が行えたのも、まさにその一例だと言えます。

このため、他の隕石でも最新の方法を適用すれば、より正しい年代が推定できるようになり、初期太陽系の詳細な理解がさらに進むはずですね。


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最も遠くで発生し、短時間に過去最大のエネルギーを放出した高速電波バースト“FRB 20220610A”を観測! 多くの謎がある天体現象です

2023年11月13日 | 宇宙 space
短時間に大量の電波パルスを発する“高速電波バースト”は、その正体やメカニズムなどに多くの謎があり、現在も研究が続いている天体現象です。

今回、マッコーリー大学のStuart Ryderさんたちの研究チームは、高速電波バースト“FRB 20220610A”が発生した銀河を探索した結果、今から80億年前の宇宙で発生したものであることを突き止めました。

地球から“FRB 20220610A”の発生源までの距離は112億光年で、これは観測史上最も遠い高速電波バースト。
また、放出されたエネルギーも過去最高の値で、高速電波バーストのモデルを構築する上で重要な指標になるようです。
図1.“FRB 20220610A”は地球から約112億光年彼方に位置する合体中の銀河のグループから放出されたと考えられている。(Credit: ESO, M. Kornmesser)
図1.“FRB 20220610A”は地球から約112億光年彼方に位置する合体中の銀河のグループから放出されたと考えられている。(Credit: ESO, M. Kornmesser)

短時間に非常に強い電波パルスを発する天体現象

マイクロ秒~ミリ秒という短時間に強力な電波パルスを発する“高速電波バースト(FRB : Fast Radio Burst)”という天体現象があります。

2007年の発見以降、数千例以上の観測例があるのですが、その起源となる天体の正体や発生のメカニズムは未だ分かっていません。

分かっているのは、高速電波バーストが短時間に放出するエネルギー量は膨大で、太陽が数日かけて放出する総エネルギーに匹敵すること。
さらに、1つの例外を除き、高速電波バーストは1回だけ観測される周期的ではない天文現象ということです。

起源天体の候補として上がっているのは、中性子星やマグネター(強い磁場を持つ中性子星)、巨大ブラックホールなど…
数多くのモデルが提唱されている状況で、天文学における未解決問題になっています。
ただ、ほとんどの高速電波バーストが、銀河系外で発生していることは分かっています。

2020年には、銀河系内のマグネターから同様の電波パルスを検出。
これにより、マグネター起源説が注目を集めていますが、他の高速電波バーストもマグネター起源であるかは分かっていませんでした。

このため、高速電波バーストに関する研究は、多くの高速電波バーストの観測を積み重ね、現象を説明できるモデルを構築している最中といえます。

観測史上最も遠くで発生し最も高エネルギーな高速電波バースト

今回の研究では、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の電波望遠鏡“ASKAP”で観測された高速電波バーストのうち、2022年6月10日に、ちょうこくしつ座の方向で観測された高速電波バースト“FRB 20220610A”について追加の観測を実施。
ヨーロッパ南天天文台(ESO)が南米チリのパラナル天文台に建設した超大型望遠鏡“VLT(Very Large Telescope)”を用いて、“FRB 20220610A”が発生した銀河がどこにあるのかを追跡しています。
図2.超大型望遠鏡“VLT”で観測された“FRB 20220610A”の発生場所付近の画像。黒丸で囲まれた領域が“FRB 20220610A”の発生場所で、画像Aのabcでラベルされた白丸は個別の銀河だと考えられている。(Credit: S. D. Ryder, et al.)
図2.超大型望遠鏡“VLT”で観測された“FRB 20220610A”の発生場所付近の画像。黒丸で囲まれた領域が“FRB 20220610A”の発生場所で、画像Aのabcでラベルされた白丸は個別の銀河だと考えられている。(Credit: S. D. Ryder, et al.)
その結果、“FRB 20220610A”が発生した銀河は、合体中の銀河の小さなグループに属していることを突き止めるのに成功。
測定の結果、その赤方偏移(※1)の値がz=1.016±0.002だと分かります。

この赤方偏移の値が意味しているのは、“FRB 20220610A”が今から80億年前の宇宙で発生し、地球から112億光年彼方に位置すること。
これにより、“FRB 20220610A”は観測史上最も遠くで発生した高速電波バーストということが判明します。
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、このズレの量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる天体は、赤方偏移の度合いを用いて算出され、距離や存在した時代を表すのに“赤方偏移”(記号z)が使用される。
また、“FRB 20220610A”は、これほど遠いにもかかわらず明るく観測されているので、放出されたエネルギーは2×10の35乗ジュールであると推定されています。

このエネルギーは通常の高速電波バーストの1000倍以上。
そう、“FRB 20220610A”は観測史上最も高エネルギーな高速電波バーストでもあるんですねー
図3.記録されたいくつかの高速電波バーストの距離とエネルギーの関係のグラフ。赤紫色の星印が“FRB 20220610A”で、グラフの一番右側にある、つまり最も遠い位置にあることが分かる。(Credit: S. D. Ryder, et al.)
図3.記録されたいくつかの高速電波バーストの距離とエネルギーの関係のグラフ。赤紫色の星印が“FRB 20220610A”で、グラフの一番右側にある、つまり最も遠い位置にあることが分かる。(Credit: S. D. Ryder, et al.)

行方不明のバリオンを観測

“FRB 20220610A”の研究では、宇宙にまつわる別の謎“ミッシング(行方不明の)バリオン問題”にも解決策を与えてくれそうです。

宇宙は、私たちの身の回りにあるような物質“バリオン(陽子や中性子などの粒子で構成された普通の物質)”(4.9%)と、目には見えない正体不明の“ダークマター(26.8%)”と“ダークエネルギー(68.3%)”で満たされています。

でも、たった4.9%しかないバリオンも、星や銀河、星間ガスなどとして観測されている量はおよそ半分で、残り半分はまだ見つかっていません。
これを“ミッシングバリオン問題”と呼んでいます。

ミッシングバリオンは、宇宙の構造形成シミュレーションから網の目のような宇宙の大規模構造に沿って、イオン化した高温のガスとして分布しているのではないかと予想されています。

このような状態の物質の温度は、自ら輝く恒星や銀河ほど高くなく、極紫外線と軟X線の間で観測されるような10万~100万度程度で薄く広がって分布しているので、現在の検出器で見つけるのは難しいとされています。

ただ、イオン化したガスは通過する電波にわずかながら影響を与えるので、高速電波バーストを通じて観測することができる訳です。

遠い宇宙を通過する電波は、近くの宇宙からやってくる電波と比べて多くのガスを通過するので、より影響が大きくなります。
これを“マッカール関係(Macquart relation)”と呼びます。

マッカール関係は、比較的近い距離の宇宙では知られていますが、より遠くの宇宙からやってくるいくつかの高速電波バーストの観測により、マッカール関係が成立していない可能性が指摘されていました。

今回の“FRB 20220610A”では、マッカール関係が成立していることが明らかにされたので、宇宙の歴史の半分以上においてマッカール関係が成立していることが示されました。

高速電波バーストが遠い宇宙でも観測されたことで、その正体が何であれ、宇宙の歴史において普遍的な存在であることが示唆されます。

ただ、“FRB 20220610A”が史上最も遠い高速電波バーストの地位にいる期間は短いかもしれません。

現在建設中の超大型電波望遠鏡“スクエア・キロメートル・アレイ(SKA : Square Kilometer Array)”は、“FRB 20220610A”よりずっと遠くの高速電波バーストを数千個発見できる可能性があります。

さらに、現在ヨーロッパ南天天文台が建設を進めている口径39mの大型望遠鏡“欧州超大型望遠鏡(E-ELT : European Extremely Large Telescope)”を使えば、“スクエア・キロメートル・アレイ”で発見した高速電波バーストがどこで発生したのかを、突き止めるのに役立つようですよ。


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超巨大ブラックホールから噴き出すアウトフローが星の形成や銀河の成長を抑制している!? 電波観測から分かった分子ガスの多様性と分布

2023年11月12日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
今回の研究では、アルマ望遠鏡を用いて、くじら座の方向に位置する活動銀河核“NGC 1068(M77)”の中心領域に対し、波長3mm帯で星間分子ガスの二次元分布を網羅的に観測する“イメージング・ラインサーベイ”を実施しています。

活動銀河核の化学特性を調べ、それがどのような物理状態を反映したものなのかを機械学習を利用して解析。
すると、超巨大ブラックホールから双極に噴き出すジェットに起因すると思われる分子ガスのアウトフローを発見したんですねー

このことから分かったのは、ジェットが銀河円盤に衝突したことで衝撃波領域を生じ、周囲の物質が高温に加熱されている現場だということ。

この銀河の中心付近では、激しいジェットの作用により星の素となる分子の破壊や組成の変化が起きていて、新たな星の誕生が抑制されている可能性があることが考えられるようです。
この研究は、国立天文台の斉藤俊貴特任助教と名古屋大学の中島拓助教たちの国際研究チームが進めています。
図1.アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測した渦巻銀河“NGC 1068”の中心部。アルマ望遠鏡で検出されたシアン化水素の同位体(H13CN)の分布を黄色、シアンラジカル(CN)の分布を赤色、一酸化炭素の同位体(13CO)の分布を青色で示し、背景のハッブル宇宙望遠鏡による画像と重ねている。H13CNが活動銀河核の中心部のみに集中して存在しているのに対し、13COは主に周辺を取り巻くリング状のガス雲に分布している。また、CNは中心部とリング状のガス雲の両方に分布しているだけでなく、中心から北東(左上)方向と南西(右下)方向に向かって伸びた構造をしていて、これは超巨大ブラックホールからのジェットに起因する構造と考えられる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, T. Nakajima et al.)
図1.アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測した渦巻銀河“NGC 1068”の中心部。アルマ望遠鏡で検出されたシアン化水素の同位体(H13CN)の分布を黄色、シアンラジカル(CN)の分布を赤色、一酸化炭素の同位体(13CO)の分布を青色で示し、背景のハッブル宇宙望遠鏡による画像と重ねている。H13CNが活動銀河核の中心部のみに集中して存在しているのに対し、13COは主に周辺を取り巻くリング状のガス雲に分布している。また、CNは中心部とリング状のガス雲の両方に分布しているだけでなく、中心から北東(左上)方向と南西(右下)方向に向かって伸びた構造をしていて、これは超巨大ブラックホールからのジェットに起因する構造と考えられる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, T. Nakajima et al.)

銀河中心核にあるブラックホールの活動

様々なタイプの銀河の中には、その中心に存在する超巨大ブラックホールをエンジンとして、周囲に莫大なエネルギーを放射しているものがあり、それらは活動銀河核(active galactic nucleus ; AGN)と呼ばれています。

銀河中心核にあるブラックホールの活動が周囲の星間物質に及ぼす影響(特に新しい星々の誕生を加速するか、抑制するか)を知ることは、銀河の進化の過程を理解するうえで重要なことになります。

でも、多くの場合、活動銀河核の中心部は濃いガスや星間ダストに埋もれて隠されてしまっています。
なので、可視光や赤外線の波長帯では大型望遠鏡をもってしても、
 どのような構造をしているのか?
 物理的・科学的に何が起こっているのか?
といったことを直接的に観測して調べることが困難でした。

ミリ波・サブミリ波を用いた電波観測

アルマ望遠鏡の観測波長であるミリ波・サブミリ波は、電磁波の中でも波長が長いのでダストによる電磁波の吸収を受けにくく、このような活動銀河核領域の内部まで見通すことができるという大きな特徴があります。

この特徴に着目し、地球から比較的近傍(距離約5,140万光年)に位置する活動銀河核の一つ、くじら座の“NGC 1068(M77)”の中心核付近をターゲットに、これまでもミリ波・サブミリ波による観測が行われてきました。

例えば、2007年から2012年にかけて行われた国立天文台野辺山45メートル電波望遠鏡を用いた観測では、銀河中心方向の一点に対して、波長3mm(84-116 GHz)の帯域を周波数方向に無バイアスに観測。
そこに含まれる分子輝線を網羅的に探す“ラインサーベイ”が行われました。

その結果、25本の分子輝線を検出することに成功。
でも、45メートル電波望遠鏡では空間分解能が低いことと、銀河中心方向一点のみの観測だったので、様々な分子が存在することは確認出来たものの、それらの分子ガスの分布や、中心核付近の構造までは分かりませんでした。

そこで、今回の研究では、より高い分解能を持つアルマ望遠鏡(※1)を用いて、“NGC 1068”の中心核付近に対し、同様に波長3mm帯(85-114 GHz)でのラインサーベイ観測を実施しています。

アルマ望遠鏡は電波干渉計なので、一方向の観測でもある領域(視野)内の高分解能イメージングが可能で、分子ガスの二次元分布図を描き出すことができます。
※1.日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの仮想的な巨大電波望遠鏡(電波干渉計)として観測することができる。
観測の結果、銀河中心にある差し渡し650光年ほどのサイズの核周円盤(circumnuclear disk)と呼ばれる構造(図1で黄色に輝いて見える中心部分)と、その外側の半径3,300光年ほどにある爆発的に星が生まれているリング状のガス雲(図1で青色に見える部分)を明確に分解でき、特に核周円盤については、その内部構造まではっきりととらえることに成功しました。

核周円盤への超巨大ブラックホールの影響

これまで活動銀河核の中心領域では、電波強度が特に強く観測しやすい分子輝線に限って、干渉計による高分解能の観測が行われた例はありました。

でも、今回の研究のように周波数方向に無バイアスに観測し、検出されたすべての分子ごとにその分布を描き出す“イメージング・ラインサーベイ”が行われたのは初めてのこと。
これにより、活動銀河核の化学状態を理解するための重要な分子輝線カタログを得ることができました。

今回のラインサーベイで有意に検出されたのは23の分子輝線。
そのスペクトルデータを詳細に解析した結果、中心にある超巨大ブラックホールの影響を直接受けていると考えられる核周円盤では、外側のリング状のガス雲の領域と比べて、シアン化水素(HCN・H13CN)分子や一酸化ケイ素(SiO)分子などの存在量が特に多いことを確認しています。

一方で、野辺山45メートル望遠鏡の観測では存在量が多いと思われていたシアンラジカル(CN)分子は、アルマ望遠鏡による高分解能観測の結果、核周円盤での存在量はそれほど高くないことが分かりました。

シアンラジカル分子は強力なX線や紫外線の照射、一酸化ケイ素分子は強い衝撃波を受けたガス雲で観測されやすいことが、これまでの観測から知られています。

また、HCNやH13CN分子は高い温度の分子雲で生成反応が活発になることが、化学反応計算から示されています。

これらを合わせて考えると、核周円盤への超巨大ブラックホールの影響としては、衝撃波を伴うような力学的な機構によって分子ガスが高温に加熱されていることを示唆していました。

ブラックホールから噴き出すアウトフローが星の形成を抑制している

さらに、研究チームは、この影響のメカニズムをより詳しく調査するため、核周円盤とリング状のガス雲の間にある領域に注目。
この領域には、核周円盤から向かって北東(図1の左上)と南西(同右下)の2方向に向かって、ある種の分子ガスの分布が伸びたような構造が見られました。

この特徴的な形態を分子ごとに分類するため、研究チームが利用したのは、機械学習の一つである主成分分析(principal component analysis : PCA)でした。

人の目によって分布形態を分類しようとすると、見る人の主観によって結果が変わってしまうこともあるので、機械学習を用いることで客観的な結果を得ようとした訳です。

分析の結果分かったのは、核周円盤とその外側に伸びた領域は、分子ガスの分布の構造として全く別の領域として分類されるということでした。(図2・左)
図2.(左)機械学習を用いて行った分子の分布形態の分類図。核周縁版(おおよそ中心の白色の点に相当)から向かって北東(左上)と南西(右下)の2方向に向かって、ある種の分子ガスの分布が伸びたような構造(青色)が見出された。(右)機械学習により核周縁版とは別の領域として分類された双極の分子ガス分布構造を説明する様式図(図3を地球方向から見た図に相当する)。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Saito et al.)
図2.(左)機械学習を用いて行った分子の分布形態の分類図。核周縁版(おおよそ中心の白色の点に相当)から向かって北東(左上)と南西(右下)の2方向に向かって、ある種の分子ガスの分布が伸びたような構造(青色)が見出された。(右)機械学習により核周縁版とは別の領域として分類された双極の分子ガス分布構造を説明する様式図(図3を地球方向から見た図に相当する)。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Saito et al.)
この中心から向かって外側に伸びている領域は、先行研究で明らかにされている超巨大ブラックホールから吹き出す双極のジェットと見かけの方向が一致。
なので、双極の分子流(アウトフローと呼ばれる)をとらえたと考えられます。

ジェットやそれに起因して放出されると考えられているアウトフローは、銀河円盤に対して角度を持っているので、その一部が銀河円盤をかすめることになり、そこでの相互作用によって衝撃波加熱が起きていると考えられます。(図3のピンク色で示される領域、これを地球方向から見ると図2・右のように見える)

アウトフローの領域では、一般的な銀河でよく見つかる基本的な分子(一酸化炭素やメタノールなど)は破壊されて少なく、逆にラジカルのような特殊な分子(シアンラジカル、エチニルラジカル、シアン化水素の異性体など)が増えていることが分かりました。

このことから明らかになったのは、中心にある核周円盤は超巨大ブラックホールから吹き出すジェットやアウトフローの強い影響下にあること、そしてその影響は核周円盤からずっと外側の領域にまで広がっていることでした。

このようなジェットやアウトフローの領域は、激しい衝撃波や紫外線・X線などの強い輻射を伴うことが知られていて、一般的な星間分子が存在するには過酷な環境だということも分かりました。

星間分子は、銀河の主成分である星を形成する素となります。
この銀河の中心付近では、星の素になるような分子の破壊が起きているので、新たな星の誕生は抑制されてしまうようです。

今回の研究では、銀河中心にある超巨大ブラックホールが、その母体となる銀河の成長を遅らせている可能性があることを、化学的な観点から示した初の観測例になりました。

そもそも、このようなジェットの周辺では、多くの星間分子が破壊されてしまうので、分子の観測自体が難しいと考えられます。
それでも、ジェットに起因する分子ガスアウトフローの検出とその化学的性質の解明に至ったのは、アルマ望遠鏡の高感度かつ高分解能な性能と主成分分析という手法のおかげと言えます。

銀河中心の超巨大ブラックホールの活動が、銀河の成長を抑制している姿が明らかになったことは大きな発見といえます。

今回の研究では、活動銀河核に対する初めてのイメージング・ラインサーベイによって、この銀河の中心部の極端な環境を理解することができました。
アルマ望遠鏡によるラインサーベイ観測と、機械学習による解析を組み合わせることが、活動的な銀河の物理・化学特性の解明にも非常に有用だということを示したことになりますね。
図3.銀河中心の超巨大ブラックホールからの双極のジェットおよび銀河円盤の位置関係と、それに起因する分子ガスのアウトフローの様式図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Saito et al.)
図3.銀河中心の超巨大ブラックホールからの双極のジェットおよび銀河円盤の位置関係と、それに起因する分子ガスのアウトフローの様式図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Saito et al.)

これらの観測結果は、Saito et al.“AGN-driven Cold Gas Outflow of NGC 1068 Characterized by Dissociation-sensitive Molecules”として、アメリカ学術雑誌“The Astrophysical Journal”に2022年8月23日付で掲載(DOI: 10.3847/1538-4357/ac80ff)されるとともに、Nakajima et al. “Molecular Abundance of the Circumnuclear Region Surrounding an Active Galactic Nucleus in NGC 1068 based on Imaging Line Survey in the 3-mm Band with ALMA”として、アメリカ学術雑誌“The Astrophysical Journal”に2023年9月14日付でオンライン掲載されました(DOI: 10.3847/1538-4357/ace4c7)。


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ディンキネシュは二重小惑星だった!? NASAの探査機“Lucy”が初のフライバイ観測を実施、データ送信は最大で1週間かかるそうです

2023年11月11日 | 太陽系・小惑星
2023年12月5日更新
12年間にわたるミッションで合計10個の小惑星を探査するNASAの小惑星探査機“Lucy(ルーシー)”が、小惑星ディンキネシュ(Dinkinesh)のフライバイ観測を実施しました。

“Lucy”がディンキネシュに最接近したのは日本時間2023年11月2日1時54分。
最接近時に撮影した画像からは、小惑星ディンキネシュが二重小惑星ということが判明しています。
さらに、今後10年間の探査で使用される装置やシステムのテストも行われたようです。
NASAの小惑星探査機“Lucy”が撮影した小惑星ディンキネシュ。二重小惑星だということが判明した。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOAO)
NASAの小惑星探査機“Lucy”が撮影した小惑星ディンキネシュ。二重小惑星だということが判明した。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOAO)

装置のテストを兼ねたフライバイ観測

“フライバイ”とは、探査機が惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式です。
これにより、探査機は燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行えます。
積極的に軌道や速度を変更する場合を“スイングバイ”、観測に重点が置かれる場合を“フライバイ”と言い、使い分けています。

今回のディンキネシュへのフライバイ観測は、今後10年間の探査で使用される観測装置やシステムのテストという位置付け。
“Lucy”に搭載されている高解像度カメラ“L’LORRI”や熱放射分光器“L’TES”、可視光カラーカメラ“MVIC”、赤外線撮像分光器“LEISA”で構成される“L’Ralph”による観測はもとより、フライバイ中に小惑星の位置を特定しながら観測装置の視野内に収め続けるための自立追尾システムのテストが行われました。

“Lucy”によるディンキネシュへの最接近予定時刻は、日本時間の2023年11月2日1時54分。
ディンキネシュから430キロ以内の最接近点を毎秒4.5キロの相対速度で通過したようです。

その前後で、高解像度カメラ“L’LORRI”や熱放射分光器“L’TES”などによる観測も行われています。

ディンキネシュは直径1キロに満たない小惑星だと考えられています。

小惑星帯にあるそれほど小さな小惑星が、間近から観測されたのは今回が初めてのこと。
ただ、最接近の前後では、“Lucy”の高利得アンテナが地球を向いていなかったので通信はできない状況だったんですねー

最接近後には、高利得アンテナが地球へ向けられて通信は再開。
これにより、“Lucy”の運用チームは探査機の状態が良好なことを確認、その後に再接近中に収集されたデータを送信するコマンドが送られています。
小惑星探査機“Lucy”による小惑星ディンキネシュへのフライバイ観測。最接近中の機体姿勢変化を示した図。探査機の飛行方向は赤色の矢印で示されている。(Credit: NASA/Goddard/SwRI)
小惑星探査機“Lucy”による小惑星ディンキネシュへのフライバイ観測。最接近中の機体姿勢変化を示した図。探査機の飛行方向は赤色の矢印で示されている。(Credit: NASA/Goddard/SwRI)

ディンキネシュは二重小惑星だった

“Lucy”が最接近時に撮影した画像から判明したのは、小惑星ディンキネシュが二重小惑星ということでした。

実は、再接近の数週間前には、ディンキネシュの明るさが時間と共に変化することから、二重小惑星の可能性が指摘されていました。

今回の“Lucy”による最接近時の観測で、二重小惑星ということが確かめられた訳です。

推定される小惑星のサイズは、大きい方の天体が最大幅およそ790メートル、小さい方の天体はおよそ220メートルになります。
二重小惑星ディンキネシュの動画。小惑星の追跡などを目的とするカメラ“T2CAM(terminal tracking cameras)”による13秒おきに撮影された一連の画像をアニメーションにしたもの。2つの天体の見かけの動きは、秒速4.5キロで移動する探査機の動きによるもの。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/ASU)
二重小惑星ディンキネシュの動画。小惑星の追跡などを目的とするカメラ“T2CAM(terminal tracking cameras)”による13秒おきに撮影された一連の画像をアニメーションにしたもの。2つの天体の見かけの動きは、秒速4.5キロで移動する探査機の動きによるもの。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/ASU)

ディンキネシュの衛星は接触二重小惑星だった

2023年11月7日付でNASAが公開した画像から新しいことが分かりました。

この画像は、“Lucy”に搭載されている高解像度カメラ“L’LORRI”で撮影されたディンキネシュとその衛星です。
ディンキネシュのフライバイ観測が行われた2023年11月2日2時頃(日本時間)、小惑星から約1630キロ離れた位置で撮影されたものです。
小惑星ディンキネシュとその衛星。NASAの小惑星探査機“Lucy”に搭載された高解像度カメラ“L’LORRI”で2023年11月2日2時頃に撮影された。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
小惑星ディンキネシュとその衛星。NASAの小惑星探査機“Lucy”に搭載された高解像度カメラ“L’LORRI”で2023年11月2日2時頃に撮影された。(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
画像の左側にはディンキネシュが、右側には今回のフライバイ観測で存在が判明したディンキネシュの衛星が写ってるんですねー

この画像から分かる衛星の特徴は、2つの物体が接触したような形をしていること。
この画像が示しているのは、ディンキネシュの衛星それ自身が接触二重小惑星(Contact binary)、つまりお互いに接触した2つの小惑星で構成されていることです。

なぜ、ディンキネシュの衛星を構成する2つの部分が同じような大きさなのかは分かっていません。
今後、その理由の解明が進められるはずです。
小惑星探査機“Lucy”と小惑星ディンキネシュの位置関係を示した図(赤は探査機の移動経路)。Aは2023年11月2日1時55分頃、Bは同日2時頃に画像が撮影された時の探査機の位置を示している。(Credit: Overall graphic, NASA/Goddard/SwRI; Inset “A,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOIRLab; Inset “B,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
小惑星探査機“Lucy”と小惑星ディンキネシュの位置関係を示した図(赤は探査機の移動経路)。Aは2023年11月2日1時55分頃、Bは同日2時頃に画像が撮影された時の探査機の位置を示している。(Credit: Overall graphic, NASA/Goddard/SwRI; Inset “A,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOIRLab; Inset “B,” NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL)
ディンキネシュの衛星をとらえた画像は、2023年11月2日付ですでに公開されていました。
ただ、先に公開された画像は探査機との位置関係上、衛星が接触二重小惑星であることまでは分かりませんでした。

7日に公開された画像は、2日に公開された画像の約5分後に撮影されたもの。
探査機が約1500キロ移動したことで小惑星との位置関係が変化し、衛星の真の性質を伝えてくれる1枚となりました。
接近時に発見された小さな衛星の名称が、エチオピアのアムハラ語で“平和”を意味する“セラム(Selam)”に決まりました(2023年11月27日に国際天文学連合(IAU)が承認)。
ディンキネシュの探査を終えた“Lucy”は、2024年12月に地球フライバイを行って軌道を修正。
2025年には2つ目の探査対象である小惑星帯の小惑星ドナルドジョハンソン(Donaldjohanson)のフライバイ探査を行います。

その後は、2027年のエウリュバテス(Eurybates)とその衛星ケータ(Queta)をはじめ、ミッションの主目標である木星のトロヤ群の小惑星探査が行われる予定です。

運用チームは、再接近後に“Lucy”からの信号を受信、探査機の状態が良好なことを確認しています。
今回実施された初のフライバイ探査で“Lucy”はどのように動作していたのか?
このことを“Lucy”運用チームは楽しみにしているようですよ。

全てのデータが送られてくるまでには、最大で1週間かかるそうですよ。


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