ロック探偵のMY GENERATION

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Aerosmith, Baby Please Don't Go

2018-12-21 15:59:32 | 音楽批評
今回は、音楽記事です。

最近このブログでは、クイーンについての記事をいくつか書いてきました。

そこからのスピンオフで、今回は、クイーンと同じ1973年デビューのレジェンドバンドであるAerosmithについて書きたいと思います。

エアロスミス……と聞いたら、世の人は何を思い浮かべるでしょうか。
映画の主題歌になった I Don't Wanna Miss a Thing でしょうか。あるいは、ハードロックの傑作Fallin' in Love でしょうか。それとも、Run DMC との共演でも知られるWalk This Way でしょうか。

この記事では、 Baby Please Don't Goを挙げたいと思います。

この曲はHonkin' on Bobo というアルバムに収録されています。
2004年に発表されたこのアルバムは、ブルースの名曲をカバーしたもので、Baby Please Don't Goは、その第一弾シングルでした。

このアルバムは、エアロスミスが自らのルーツに対するリスペクトを表明した作品だと思うんですね。

デビュー当初のエアロスミスはストーンズのパクリみたいなことをいわれてましたが、実際のところ、彼らはブルースを出発点にしていて、レッド・ツェッペリンなんかを強くリスペクトしています。一時期、スティーヴン・タイラーがツェッペリンの新たなボーカルになるなんて噂があったほどです。

以前も書きましたが、ロックの根底には、白人が黒人音楽のマネをすることからくる屈折したコンプレックスのような感情がひそんでいます。
黒人のように演りたいけれど、黒人のようには演れない……そこでどうするか、というところがあるんですね。

で、Honkin' on Bobo を聴くと、スティーヴン・タイラーが、じつに奔放にブルースの名曲を歌い上げてます。

なかでも、Baby Please Don't Go は、アルバムのハイライトでしょう。
この曲は、「史上もっとも演奏されたブルース」ともいわれてるそうで、ロック界でもヴァン・モリスン率いるゼムやAC/DCなどがカバーしてきたというマスターピースなのです。

歌の内容は、牢獄にとらえられている囚人が、恋人が去っていくのを心配している……というもの。それで、「ベイビー、行かないでおくれ」というわけです。
囚人の立場から歌う歌は、“プリズンソング”などとも呼ばれ、ブルースやロックに流れ込んでいった音楽類型の一つです。「辺境にあるもの」の音楽としてのブルース、そしてロック……そういう意味でも、 Baby Please Don't Go は、ブルースを象徴する一曲といえます。

それが、このアルバムでは、まるでエアロスミスのオリジナル曲であるかのように聴こえてきます。ブルースをもとにしつつ、ハードロック風味がきっちりとはまってるんです。
黒人音楽を白人がやることからくる葛藤……その一つのソリューションが、この Honkin' on Bobo ではないか。そんな気さえきてします。
そこまでいうと、さすがにほめすぎでしょうか……