ひさびさに、小説記事です。
今日10月7日は、「ミステリーの日」。
例年この日はミステリー映画について書いてましたが、今年は小説でいこうと思います。
とりあげるのは、小林泰三(こばやしやすみ)さんの『大きな森の小さな密室』。
小林泰三といえば私はずっとホラー作家と認識していて、まあそれは間違いではないんですが、この方はミステリーやSFの作品も多く書いているようです。
で、そのなかの一つとしてあるのが、この『大きな森の小さな密室』です。
この作品は、連作短編集となっています。
「倒叙ミステリ」や、「安楽椅子探偵」、「日常の謎」といったミステリーの趣向を各作品のテーマとしてかかげ、それらのテーマに沿った七つの作品を収録。SF作家でもあるということを活かして、SFミステリもありました。
一読した感想は、もう振り切ったミステリーというところでしょうか。
ペダントリーであるとか、怪奇趣味、文学性などといった余計な装飾は一切なくし、謎解きゲームとしてのミステリー性のみを追求した作品というか……ある意味、「純ミステリー」といってもよいかもしれません。ここまで振り切ってしまえば、いっそすがすがしい。坂口安吾と同様、ミステリーがホームでないからこそ、ミステリーを書くときにはその方向に振り切れるということでしょうか。ミステリーの日にとりあげる作品としてふさわしいといえるでしょう。
収録作の中で私がとりわけ傑作と思ったのは、「バカミス」をテーマにかかげた「更新世の殺人」。
バカミスというのは、その言葉から想像がつくとおり、ばかげたミステリー……あまりにもぶっとんだ設定や現実離れしたようなトリックが出てくる推理小説ということです。
本作は、まさにそれを地でいくように、死亡推定時刻150万年前という殺人事件が描かれます。
無茶苦茶な話ですが、バカミスと銘打って堂々とやれば、これもまた潔い。そして、そういうばかげたミステリーでありつつ謎解きはなかなか高度というのが、バカミスの面目躍如といえるでしょう。バカミスならではの、バカミスだからこそ成立するトリックが、うまく決まっています。
ちなみに、著者の小林泰三さんは2020年に亡くなっています。がんのためで、まだ58歳という若さでした。
はじめにも書いたように、さまざまなジャンルで業績を残してきた方ですが……ミステリー界においては、“正統派異端”ともいうべき存在だったのではないでしょうか。