『王様になれ』という映画を観ました。
このブログでは、映画記事としてゴジラシリーズについて連続して書いていますが……今回は、いったんそれを中断して、この映画について書きたいと思います。
『王様になれ』は、このブログで何度か名前が出てきたピロウズのギターボーカル山中さわおさんの原案による映画です。
タイトルも、ピロウズの曲名から。
ピロウズファンとしては、これはぜひいっておきたい――というわけで、先日行ってきました。
ものの性質上あまり広く上映されてるわけではなく、現時点では県内一か所で一週間のみの公開と条件が厳しかったんですが……なんとかタイミングを見つけることができました。
そのタイトルから最近の『ボヘミアン・ラプソディ』みたいなものが想像されますが、そういう話ではありません。ピロウズの曲をちりばめながら展開されるドラマとなっています。
主人公は、プロのカメラマンを目指す青年。
不器用な青年が、ピロウズと出会い、自分の道を歩んでいく物語です。
山中さわおさんはじめ、ピロウズのメンバーも映画に登場。そしてそのほかにも、数組のミュージシャンが出演しています。そのなかには、たとえばSHISHAMOなんかも。
さわおさんはストーリーにも結構からんできますが、そのナチュラルな演技には結構驚かされます。まあ、ちょっとかっこよく描かれすぎなんじゃないかとも思えますが……
冒頭の写真現像のシーンから、もう物語に引き込まれます。
まあ、ピロウズファンだからというのもあるんでしょうが……しかし、そればかりでもありません。
これまた私の個人的事情ではありますが、プロのカメラマンを目指してなかなかうまくいかない主人公の姿が、投稿生活を送ってきた自分の姿と重ね合わされるのです。まあ、一応デビューしたとはいえ、今でもそう変わらない境遇ではありますが……
もっとも身につまされるのは、中盤の夜の繁華街のシーン。
つとめていたスタジオはクビになり、リスペクトするピロウズに関係する仕事でも失敗し、失意のうちに町をさまよう主人公が、「ハイブリッド・レインボウ」の一節を口ずさみます。
ほとんど沈んでる僕らの無人島
地球儀に乗ってない 名前もない
昨日は近くまで 希望の船がきたけど
僕らを迎えにきたんじゃない
撮影スタジオにきたクライアントに対して愛想よくふるまうこともできない――主人公は、「ストレンジカメレオン」で歌われるところの「まわりの色になじまないできそこないのカメレオン」なのです。
それが、無理にまわりの色に合わせようとして、うまくいかない。
おそらく、ピロウズ初期のさわおさんが感じていたある種の鬱屈が投影されてもいるのでしょう。映画の中でもちょっと語られていますが、初期のピロウズはバンドとしてあまりうまくいっていませんでした。劇中の主人公が、写真家として注目を集めている元同期に対して向ける視線は、初期ピロウズのさわおさんのそれと同じものなんじゃないかと思われます。
しかし、ピロウズはウケを狙おうとはしませんでした。
「ストレンジカメレオン」ではこう歌っています。
たとえ世界はデタラメで タネも仕掛けもあって
生まれたままの色じゃもうダメだって気づいても
逆立ちしても変わらない 滅びる覚悟はできてるのさ
僕は Strange Chameleon
世の中がどうあろうと、自分は自分の道を貫く。そういう覚悟が表明されています。
そしてまさに、この「ストレンジカメレオン」を一つの契機として、ピロウズは確固たる礎を築くのです。
「時代が望んでも流されて歌ったりしないぜ」「すべてが変っても僕は変わらない」と、さわおさんはFools on the planetで歌っています。そんなピロウズだからこそ、30年余にわたって活動し続けていられるんでしょう。
映画において主人公がたどるのも、その道筋です。
そんな彼に、ヒロインは「王様になれ」というメッセージを送るのです。
ここで音楽にも触れておきましょう。
この映画にはピロウズの曲がいくつも出てきますが……私がもっともハマっていると思ったのは、劇中でちょっとだけ流れるONE LIFE でした。
ねじれた鎧を脱いで 旅に出た蝸牛
雨にその身を打たれてすり減るけど戻らないぜ
街色の蜃気楼からまた吐き出された
やっぱりブカブカのつま先が
邪魔だからだよってごまかしたいけど
どんな靴を履いてても 歩けば僕の足跡
立ち止まればそれまで 僕が終わる印
この「どんな靴を履いてても歩けば僕の足跡」という歌詞は、いつ聞いてもしびれます。
これぞまさにピロウズです。
間違っているか、正しいかじゃない。間違っていようが、それが自分の道ならその道を進め――そういうことなんだと思います。
そして、そんなピロウズの歌がちりばめられた『王様になれ』。この映画は、バスターズなら観ないわけにはいかないでしょう。バスターズでなくとも、ピロウズにちょっとでも触れてアンテナに引っかかったことのある人なら、観ておいて損はありません。