一日、空は歌わなかった。
一日、風さえ聴こえなかった。
そんな平日の午後だった。
所用で、東東京にある、
降りたこともない駅の改札を出て、
居住用の高層マンションばかりの、
見知らぬ街を歩いていた。
駅前大通りと交差する、
首都高の高架下で、
一輪の花を見つけた。
花は
路面の舗装の裂け目から、
たくましくも地上に芽吹き、
可憐なピンクの花びらを咲かせながらも、
白い埃にまみれ、薄汚れていた。
こんな光景は珍しくもない。
だが気がつけば、
どうしてか、私の脳裡には、
「マッチ売りの少女」が立っていた。
小雪混じりの寒い冬の日、
売れないマッチを抱えた少女は、
暖を取るために、マッチを擦り続ける。
小さな炎が明々と、
少女の心に灯っては、
次々と儚く消えてゆく。
最後の一本を擦り終えた少女は、
積もり出した雪の中で、
眠るように死んでゆく。
この話を初めて聞いた子供の頃、
可憐そうで薄幸な少女に、
私は、「幸福な死」を夢想した。
人生を半分以上も過ぎた今、
「マッチ売りの少女」の話は、
私に「生」への物語となって、
立ち上がってくる。
薄汚れても、なけなしの、
最後の一本のマッチまで賭けて、
生き抜こうとする姿にこそ、
命の意味があるのではないかと。
少女よ、
いや路傍の花よ、
その身一つで生きる姿に、
力あれ!
光あれ!
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