脳辺雑記帖 (Nohhen-zahts)

脳病と心筋梗塞を患っての独り暮し、Rondo-Nth の生活・世相雑記。気まぐれ更新ですが、気長にお付合い下さい。

マッチ売りの少女

2007年09月19日 21時27分32秒 | 随想

一日、空は歌わなかった。 
一日、風さえ聴こえなかった。
そんな平日の午後だった。

所用で、東東京にある、 
降りたこともない駅の改札を出て、 
居住用の高層マンションばかりの、
見知らぬ街を歩いていた。

駅前大通りと交差する、
首都高の高架下で、
一輪の花を見つけた。

花は 
路面の舗装の裂け目から、
たくましくも地上に芽吹き、
可憐なピンクの花びらを咲かせながらも、
白い埃にまみれ、薄汚れていた。

 こんな光景は珍しくもない。

だが気がつけば、
どうしてか、私の脳裡には、
「マッチ売りの少女」が立っていた。


小雪混じりの寒い冬の日、
売れないマッチを抱えた少女は、
暖を取るために、マッチを擦り続ける。

小さな炎が明々と、 
少女の心に灯っては、
次々と儚く消えてゆく。

最後の一本を擦り終えた少女は、
積もり出した雪の中で、
眠るように死んでゆく。

この話を初めて聞いた子供の頃、
可憐そうで薄幸な少女に、
私は、「幸福な死」を夢想した。

人生を半分以上も過ぎた今、
「マッチ売りの少女」の話は、
私に「生」への物語となって、
立ち上がってくる。

薄汚れても、なけなしの、
最後の一本のマッチまで賭けて、
生き抜こうとする姿にこそ、
命の意味があるのではないかと。

少女よ、
いや路傍の花よ、
その身一つで生きる姿に、
力あれ! 
光あれ!

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