自閉症論には「心の理論」と呼ばれる用語がある。他者の内心を察知する能力というような意味合いで用いられている。人は普通、相手の身振りや表情などの非言語的な情報、その場の雰囲気などで、他者の内心を推し量るものである。
自閉症スペクトラムにある人々は、「心の理論」がうまく身につかないために、相手の心を掴み損ねてしまうのである。そのために「マインド・ブラインドネス」(バロン=コーエン)とも表される。バロン=コーエンの『自閉症とマインド・ブラインドネス』(青土社)によれば、目の不自由な人でさえ「心の理論」を持つことが示されている。
C.ギルバーグという研究者は、自閉症スペクトラムの特徴は、「考えたり感じたりする存在としての他人を認める能力の欠如」が中核となっているという。ここに含意されているものも、「心の理論」の欠如(あるいは未成熟)という自閉症者一般の性質である。
F.ハッペの『自閉症の心の世界』(星和書店)によれば、カナー・タイプの自閉症者は「心の理論」を持たないので精神病にならないが、アスペルガーの場合では、「心の理論」を健常者より遅れながらも、またそれ故に「異常」に獲得してしまい、「心の理論の過活動」という状態が起こるという。その結果、アスペルガー障害者等は、妄想などの二次的な精神病に陥ることがあるという。
これは、器質性障害(発達障害)を一次障害とした上での、二次障害(鬱病、不安障害その他)のメカニズムを説明しているものとも言える。しかし、今日の日本の精神科診療では、発達障害の検査体制が全く不備であり、このような一次障害と二次障害との連繋において、精神障害の全体像を診察してくれる医療機関や医師は、極めて少ない。精神科医一般がこのような認識のシェーマを共有してくれないことは、多いに問題である。
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