京都国際マンガミュージアムは、元龍池小学校の跡地にあります。
黄色い外壁に直線的な窓が特徴的なミュージアムの裏側



下が本館の表口で昭和4年築の本館は、母と同じ産まれ年の今年88歳

タイル張りの門が可愛い

山岸涼子展を観に来ました。昭和12築の右側の新館は、本館と壁の色合いが違っています。

入館料800円で、蔵書のマンガ読み放題。アジア人はもちろんですが、
欧米人の姿も多く見られて、観光でなくほんとに漫画のファンかな?


夏休みの土曜日の午後のせいか、静かに漫画を読む入館者が多かったです。
漫画には数多くの忘れ難い作品が有り、多くの知識や思い出も与えてくれました。それでも漫画の大ファン・・というほどでは決してない。もっぱら人に見せてもらう派のわたくし、思えば小学生時代は幼馴染と兄に、中学時代だけは別マ、デラ・マなどは自分で買いました。高校や大学時代には漫画からは離れてジュリー一筋・・ 結婚してから家人の買うジャンプにモーニングを一緒に読んでいました。大人になっても漫画は面白い!だけど、自分で買うほどの事はないな・・。
80年代、同級生の友人に萩尾望都、竹宮惠子、青池保子、美内すずえ、池田理代子、大島由美子ら巨匠たちの作品を貸してもらうことで、王道少女漫画、いまや古典でありバイブルとなった作品群を大人になってから知りました。その中で、唯一欲しい! 我が身の近くにずっと置いておきたい!そう思ったのが「日出処の天子」。これだけは自分で買いました。その山岸先生の作品展ならば、行かねばならないでしょう。
山岸凉子展 「光 ―てらす―」 ―メタモルフォーゼの世界―


私の自慢は、69年の山岸先生のデビュー作「レフトアンドライト」を見ていることです。あの頃は他にも沢山の作品を読んでいたにもかかわらず、たった一つのデビュー作の中身をほぼ覚えているのは、やはりその作品の印象が深く 私の心の琴線に触れたせい?初期の作品の「レモンとクッキー」は、中学生の私が何度繰り返し うっとりと読んだことか。いつの間にか作品は私の心にしっかりと食い込んでしまいました。

デビュー当時の顔の丸っこい絵柄を、自分本来の尖った絵柄にしたら、多くのファンから反感を買ったのだとか・・ そんな、山岸さんの初期の大ヒット作は「アラベスク」人間の体をあるがまま、使う筋肉の本来の姿を描いた本格バレエ作品は、それ以前のバレエ漫画を陳腐にしてしまい これ以降のバレエ漫画の指針となりました。再び見る展示原画の優美なバレエシーンや衣装にウットリ。。。
そして「妖精王」✨ 幻想的でありながら人間臭さもある妖精たちの物語。北海道の冷涼な世界で繰り広げられる、美しくも妖しく恐ろしい妖精たちのファンタジーに魅せられたものでした。

「日出処の天子」は壮大な歴史ロマン。古代の政治や宗教にまで深く切り込み、およそ少女漫画らしくない戦闘シーンも繰り広げられる物語を、少女達にすんなりと読ませてしまったのは、ひとえに山岸さんのストーリー運びに他なりません。表現者として漫画作家が誰よりも一番優れているんじゃないだろうか?絵、ストーリー、このどちらにも優れていないと漫画は書けないのですから。

何よりも儚くも繊細で優美に美しく、怜悧で酷薄で、孤独な魂を持った 両性具有者のような厩戸皇子に惹かれました。全ての物を見透かすような、冷たく妖艶な眼差しに、すっかり心を奪われてしまいました。その万能の厩戸皇子でさえも、蝦夷の心は手に入れることはできず、嫉妬に狂う厩戸皇子の心の描写が胸に痛かった


先に弥生美術館で開催された時よりも「日出処の天子」の原画が多く展示されているとの事で、彩色された原画の緻密さ繊細さに目を見張り、着物の美しい柄や、扉絵の装飾的なデザインの華麗さには、ずっと見続けていたいと その場から動けないほどでした。
最終回の原画は波の描かれた海の上で、隋に送る親書について厩戸皇子が語る場面。当時、最終回には多くの不満が寄せられたそうですが、私も物足りないと思った一人です。しかし、海の上に浮かんでいるかのような最後のコマを見ていたら、厩戸皇子の気持ちに初めて寄り添えたような気になって、それまでの物足りなさが消え 全てを納得できました。感動のあまり思わず泣けました。

海の泡沫となって消えてゆく経巻 仏たち
遠い海原の向こうの波間から 遥か彼方の隋が見えるような気が・・
第3展示室になると、あれだけ沢山いた見物人の姿がどこかに消えてしまい、私一人の貸し切り状態になっていました。 今、全ての繊細な美しい原画は私一人だけの為にある!そんな錯覚さえ覚えた、充実の展覧会でした。
35℃の熱さの中の京都、烏丸御池という交通至便なビジネスの中心地にありながら、静かで落ち着いたロケーションも最高です。

階段の踊り場は小学校として使われていた 当時のままの姿で、
昭和4年の時の流れが止まった、柔らかく静かな空間です


このところ漫画を貸していただいているのは、もっぱらJ友さんたちです。お話をしていたら、かつて読んでいた作品や好きな作家が同じでした。ジュリー以外にも多くの共通点があって、ともに同じ時代を生きて 同じものを見てきたんだなぁ・・と、そういう所がとても嬉しいです。