俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

アンチエイジング

2013-03-08 09:29:55 | Weblog
 始皇帝の時代から人は不老不死を希求した。しかしこれは無理だと分かったので「遅老遅死」を求めるようになった。このニーズに応えるのがアンチエイジングだ。これほど大きな市場は無かろう。様々な病気とは違ってこの対象は全人類だ。老化したくないという願望は全人類共通のものであり例外は無い。
 最も有利な点は効果の検証が不可能であることだ。仮にある人が効果が無かったと訴えても、個人差があるのだから、効果が無かったとは証明できまい。
 提案できる内容の豊富さもこのビジネスの魅力だ。美容・体力・性機能・脳・各種臓器など無数のメニューを提供できる。これなら誰の要望にも応えられる。
 注意すべきことは副作用を起こさせないことだ。アンチエイジングの無効性の証明が不可能であろうとも、その薬品の有毒性なら証明可能だからだ。従ってできるだけ毒にも薬にもならないくだらない代物をまことしやかな理論で飾り立てる必要がある。
 しかし根本的な問題がある。果たして老化は病気なのだろうか。病気でないものを病気にでっち上げて薬を売ることは最近の医学界のトレンドであり、高血圧症・高血糖症・他責型鬱病・発達障害といったかなり疑わしい病気だけではなく、月経時の軽い障害までが病気として薬品市場の拡大に貢献している。この流れに乗ればアンチエイジングも予防医療と位置付けられない訳ではない。
 しかし医療と名乗るからには効果を証明する必要がある。効果のある薬は副作用もある。アンチエイジングを医療とするビジネスは魅力的だが危険も大きい。むしろあくまで民間療法に留めてぼったくることが最も有利なビジネスモデルなのかも知れない。騙すのは悪いことだが騙されるほうも阿呆だ。徐福に騙された始皇帝のようなものだ。

医原病

2013-03-08 09:00:44 | Weblog
 医療の常識はしばしば覆される。特にスポーツ医療で著しい。運動中に水を飲むな、という古い常識は完全に否定された。兎跳びも有害無益らしい。投手は肩を冷やすな、と言われて水泳さえ禁じられていたものだが、その後、筋力強化に採り入れられ、最近では投球後のアイシングが奨励されている。
 一般医療での目立った変化は、傷を消毒しなくなったことぐらいだろうか。これはここ数年のことで、今でもヤブ医者は平気で傷を消毒している。
 乳癌の乳房温存療法は欧米よりも約20年遅れてしまったが、10年ほど前から日本でも定着したようだ。しかしもし近藤誠氏などが医師生命を賭けて主張していなければこの療法は今でも認められていなかっただろう。
 医学は保守的だ。権威主義が跋扈する。古い知識しか持たない大学教授が新しくて正しい療法の邪魔をする。スポーツ医療のほうが見直され易いのは、こんな権威に胡坐をかき医学の進歩を妨げる人がいないからだろう。
 近い将来、見直されるであろうし、絶対に見直されるべき医療がある。ほんの少し基準値から外れただけで薬を使って検査数値だけを正常化させている馬鹿げた医療だ。検査数値だけを増減させても医療効果は殆んど無い。これは大きな切り傷の皮膚だけを治療して切れた血管を放置するようなものであり、対症療法以下の表面療法だ。こうして健康な人が病人扱いをされ、薬という毒物によって本当の病人にされてしまう。これが医原病だ。こんなデタラメが放置されているのは製薬会社による圧力のせいだろうか。
 今では否定されているが一時期、ロボトミーという手術が横行した時期があった。脳の一部を切除することによって危険な性格を匡正しようとしたのだが、これは有害であることが明らかになった。やたら臓器を切り取りたがる外科医はロボトミーと同じ間違いを犯しているように思える。内科であれ外科であれ、誤った医療は病気そのものよりも危険だ。