俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

ウィグル

2015-06-01 10:07:25 | Weblog
 「西部大開発」のスローガンの元、中国はウィグルやチベットのインフラ整備を進めている。これは漢民族を送り込むことによる西部の「中国化」でもある。この地域は当初は資源だけが目的だったが、近年は中央アジアに対する貿易拠点としても位置付けられて重要性が高まっている。
 しかし全土の中国化は容易なことではない。かつての反日暴動を思い出すだけでも、現地に送り込まれた漢民族がどんな目に遭うかを想像することは難しくなかろう。パナソニックの工場やジャスコの店舗などが襲撃されたが、民族対立が起こる度に漢民族が経営する店舗や工場などが襲われる。それも単なる嫌がらせのレベルではなくしばしば大量殺戮にまで至る。ウィグル自治区でどれほどの民族対立があるかは中国の国家機密なのでその犠牲者数は推測するしか無いが、繰り返される騒乱による双方の犠牲者数が半端なものでないことだけは確実だ。この対立を抑え込むために大勢の武装警官が配備されているが、日本の機動隊とは全く違って殆んど軍隊に近い武装をしている。ウィグル地区に送り込まれる警官も民間人も戦場に向かうぐらいの覚悟が必要だろう。
 漢民族がウィグル地区に店舗や工場を作ってもウィグル族が雇用されることは殆んど無い。言葉も習慣も違うからだ。もし従業員食堂を作ろうとすれば2種類作る必要が生じる。豚を穢れた動物と考えるウィグル族と漢民族が同じ食堂を利用することはできない。漢民族専用の食堂しか作らなければ、差別としてウィグル族を怒らせることになるだろう。だから漢民族による施設にウィグル族が雇用されることは殆んど無い。
 こうしてウィグル地区の開発が却って民族間の貧富の差を拡大することになる。これでは植民地支配のようなものであり、これが更に民族間の対立を助長することになる。開発すればするほど対立が深まるのだからどうしようも無い。民族の文化が違い過ぎれば共存は殆んど不可能だろう。共存できないのだから自治権を拡大するか分離独立以外に解決策は無いのではなかろうか。価値観を共有しない人々による共存共栄は余りにも困難だ。

平均

2015-06-01 09:35:42 | Weblog
 厚生労働省は5月19日に発表した「毎月勤労統計調書」で2014年度の実質平均賃金が△3.0%で、1991年に現在の方法で統計を取り始めて以来最低の数値だったと発表した。これを受けて一部のマスコミは、株価が上がっても実体経済は一向に良くなっていない、と報じた。
 日本人には平均値に対する妙な信仰があるようだが、平均値は実は余り役に立たない指標だ。母集団が同じでなければ余り意味が無い。このデータの場合、失業率が下がっていることと消費増税が平均賃金低下の最大要因だろう。失業率が下がるとは新規雇用者が増えるということであり、新規雇用者の大半がその企業での最低賃金なのだから平均賃金が下がる。
 失業率については5月29日に総務省が発表した。年平均の完全失業率は平成24年の4.3%から、25年の4.0%、26年の3.6%と順調に低下し、完全失業者数は何と59か月連続して減少しているそうだ。
 数字のマジックをもう1つ。5年ほど前には失業率が上がって平均賃金は下がった。失業率が下がっても上がっても平均賃金が下がるとは奇妙な話だが、背景を理解する必要がある。これはリーマンショック後の中高年者に対するリストラと、給料の高い団塊の世代の退職が重なったからだ。景気が良くなれば失業率が下がって「平均」賃金が上がると思い込むのは間違いだ。上がるのは平均賃金ではなく個々の賃金だ。
 賃金よりも気温を例にしたほうが分かり易い。国内100箇所の平均気温を算出する場合、どの地点を選ぶかによって大きな差が生じる。北海道のデータが多ければ低く、九州・沖縄が多ければ高くなる。こんな馬鹿なことをしないために毎年同じ観測地点が使われている。これと同じように、給料の増減を見るなら、この2年間継続して勤務していた人だけを対象にするなどによって補正する必要がある。前年と本年での対象者が異なれば、気温のデータに新たに沖縄を加えるようなものであって実態を反映しなくなる。
 マスコミに勤務する人は文科系出身者が多いと言われているが、これは数学以前の算数のレベルだ。小学校の算数からやり直せとまでは言わないが、もう少し思考力を磨いて欲しいと思う。