岡山にある
百姓屋敷わらのオーナー・船越康弘さんの重ね煮料理の講習会が、今月はじめの2日(日)に、ここ稲武のどんぐり工房で開かれたので、参加しました。
主催したのは、稲武に住む松嶋さん夫婦。家具工房・
ファーストハンドの二人です。稲武のような僻地で、マクロビファンの間では有名な船越さんご夫妻の手ほどきを直接受けられるなんて、めったにないチャンスです。
雪がちらつく小寒い日でしたが、工房の厨房には、名古屋や豊田市街地などから30名以上の人たちがやってきて、熱心に講習を受けました。
船越さんは、マクロビオティックの創始者・桜沢如一の直弟子である小川法慶氏に師事した方。重ね煮は、小川氏が考案した独特の調理法です。
マクロビオティックでは自然界のすべてのものを陰陽に分類します。食べ物も、下に伸びるものを陽性、上に伸びるものを陰性とし、季節や体質にあわせて、陰陽を勘案しながら材料を選び調理法を変えます。マクロビでもっとも大事な食べ物とされる玄米は、中庸に属します。
さて、小川氏の考案した重ね煮は、鍋の一番下に一番陰性の食品、その上に少し陽性なもの、その上にもう少し陽性の素材といった具合に重ねて入れ、最後に最も陽性の食品である塩を置いて、一緒に煮る、というものです。
私は昔、マクロビオティックの雑誌の編集に携わっていたおりに、編集部関係の人たちと忘年会かなにかで鍋をかこんだとき、はじめて重ね煮のすごさに遭遇しました。
居合わせたメンバーの一人に、小川氏の下で重ね煮を学んだ人がいて、彼が、鍋の一番下に生わかめ、ついでキノコ類、ネギ、白菜とつんでいって、上に魚類、最後に鍋肌からだしを注ぎ、蓋を閉めたのです。
同席した私たちは半信半疑。小川氏の重ね煮を知ってはいたのですが、まさか鍋料理でも通用するとは信じていなかったのです。小半時すぎて蓋を開け、みんなでいただいたのですが、味がよく回っていて、なかなかおいしかった。一番驚いたのが、鍋底に敷いた生わかめがとろけなかったことです。
それ以来、ときどき重ね煮っぽい方法で野菜を煮ることはしていましたが、ちゃんとした勉強はしていないので、この日を楽しみにしていました。
船越さんは、まず、包丁を持つときの立ち方から教えて下さいました。
調理台に向かって半身に立ち、足の親指に力を入れる。まな板と包丁は直角にして、今度は手の小指に力を入れて持つ。肛門を引き締め、手に力を入れすぎないようにして切る。はじめは慣れなくてぎこちなかったのですが、そのうち、こちらのほうが楽になって来ました。
この日の重ね煮は、シイタケ、タマネギ、ニンジンの順に入れた、基本的な重ね煮。船越さんは、小川さんの方法にさらに改良を重ねて、一番下にも塩を入れます。
「昔からのマクロビオティックを頭から信奉している人たちからは、非難されました。師匠のやったことを否定するのか、というわけです。一番下が陰性と教えられたのに、最初に陽性、それから陰性のものを入れるとはけしからん、と。でも、一番下に塩で材料をはさむようにようにしたほうがおいしいことは、科学的に確かめられているのです」と、船越さん。
陰性の食品のすぐ下にある鍋のその下には、ものすごく強い陽性である火があります。食べ物でないとはいえ、考えてみれば、その陽性と極度の陰性をいきなりぶつからせるよりは、ちょっと緩衝材的なものをおくのは、理にかなっているかもしれません。その緩衝材的役割を、塩が果たしているのではないかな、とおもいました。だからよりおいしくなるのかも。
材料は切った端から鍋に入れていきます。だから、ボウルやざるも要りません。
タマネギはまわし切り、ニンジンは千切りにします。どちらも、芯のところもちゃんと使います。その部分は、葉が出る場所。ということはとても強い力に溢れている場所なのだから、食べない手はない、とおっしゃいます。最近はめんどうで、つい捨てていましたが、心してこれからは使うことにします。
それぞれの材料を平らにならしながら重ねていき、一番上に塩をぱらぱら降って蓋。弱火にかけます。かけたあとは、絶対に蓋をとりません。
1時間ほどして湯気が出てきて、いい匂いが漂ってきました。船越さんが鍋から出た湯気をかぎながら、「まだあと少し」「もうそろそろ」と指示して回ります。
で、やっとOKが出て蓋を開け、かきまぜます。ちょっとつまみました。甘い!
講習会は、10時に始まり午後1時まで。たった3時間でちゃんと昼食が食べられるところまでいけるのかしら、と思いましたが、できました。しかも、重ね煮を使った副食が3品も!
味噌汁はだしなしで湯をわかし、味噌を溶いた中に重ね煮を入れるだけ。油揚げも、刻んだのが入っていました。豆腐ハンバーグは、水気を切った豆腐に山芋をおろしたものを入れ、重ね煮を加えてつなぎに卵を混ぜて形を作り焼けば出来上がり。付け合せのソバサラダも、梅酢にオイルを加え、そこにゆでたソバと重ね煮を投入。
船越さんのきわめてめりはりのあるトークが続く一方、どんどん料理ができて行くさまは見事でした。
重ね煮料理の中で、とくにおどろいたのは味噌汁のおいしさです。甘くてじんわりぬくもりました。彼の話では、この重ね煮を学校給食に取り入れたところ、こどもたちの平均体温が0.5度も上がったとか。私も、お昼をいただいているとき、ふっと突然体がぽかぽかに温まるのを感じました。
重ね煮は、たっぷり作っておいて冷蔵庫に入れておけば、3週間は持つのだそう。同じ材料を重ね煮せずに普通に炒めて保存したら、3週間後には腐敗しているとのこと。たいへんな違いです。この重ね煮、いろんなバージョンでできます。いったん作っておけば、毎日の家事がかなり省力化できそうです。
とはいうものの、講習会が終わってもう10日も経つのに、まだ一度も作っていません。今夜こそ、がんばろう!
ところで、この講習会の様子はあしたのTBS系の朝の番組「はなまるマーケット」で紹介されるそうです。