外国人居留証の手続きのために公安局の出入境管理処へ行ってきた。
さすがというべきか、世界中から人々が集まる広東省とあって、人でごったがえしている。機械のボタンを押して順番待ちのレシートを取ると、五十五人待ちと印刷されていた。一緒についてきてくれた総務の女の子によると、先週、別の日本人の手続きでここへきた時は約百人待ちだったそうだ。
申請受付カウンターの前の長椅子には、黄色い人、黒い人、白い人といろんな人種の人たちがいる。いろんな民族がいる。ほとんどの人はTシャツにジーパンやスーツといった日本人とほとんど変わらない格好をしているけど、なかにはまれに、ムスリムの黒いチャドルを頭から被った女性や民族衣装のような服を着ている人もいる。カウンターの前では、ロシア人の若いカップルが途方に暮れた顔をしながらビザ事務所の職員と話をしていた。書類に不備があり、これでは申請を受け付けられないと言われてしまったのだろう。
待合室には話し声がざわざわと響いていた。
ほとんどが僕の知らない国の知らない言葉だ。
ここには何種類の言語が飛び交っているのだろう?
疲れた頭でぼんやり考えた。
僕は彼らのことをなにも知らない。どんな風景のところで育ったのか、どんな食べ物を食べているのか、どんな暮らしをしているのか、どんな仕事をしているのか、どんな恋をしているのか、なんにも知らない。
いったい僕は、この世界のどれくらいのことを知っているのだろう?
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第24話として投稿しました。『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
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