この春、添乗に立候補しようと思っていたツアーがありました。
滋賀県のミホミュージアム。
エントランスからの一本道に延々つづく、桜並木が有名ですが、私のお目当てはこちら。
伊藤若冲筆、「象鯨図屏風」。
六曲一双の墨画です。
若冲らしい奇抜な絵、と思っていました。
象と鯨がご対面…だなんて、空想の産物かなぁ、と。
この文章を読むまでは。
フェルメールの絵画の紹介などでも知られる生物学者の福岡伸一さん。
その著書『動的平衡』のなかで、ライアル・ワトソンという方の『エレファント』という書物を紹介しています。
孫引きで申し訳ありませんが、要約すると。
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南アフリカのクニスナと呼ばれる地方。
相次ぐ象牙乱獲で、わずか1世紀ほど前には
500頭余りいた象の群れは、ついに1頭を残すのみに。
象の群れの危機を知った生物学者のワトソンは、
急遽、滞在先のアメリカから南アフリカに飛びます。
母系家族を維持し、常に周りの象とコミュニケーションをとりあって生活する象。
そんな象が、たった一頭残されたとき、
「大母」と呼ばれる最後の象は、いったいどこへ行くのかを見届けるために…。
ワトソンには確信があったといいます。
クニスナ地区の森林地帯が終わる頃、アフリカの大地は突然、崖となり、
その下の海面に垂直に落ち込みます。
切り立った壁の上からは、大海原が見渡せる。
はたして大母はその崖の上にいたそうです。
「私は彼女に心を奪われていた。
この偉大なる母が、生まれて初めての孤独を経験している。
それを思うと胸が痛んだ。
しかしその瞬間、さらに驚くべきことが起こった。
空気に鼓動が戻ってきた。
シロナガスクジラが海面に浮かびあがり、じっと岸のほうを向いていた。
潮を吹きだす穴までがはっきりと見えた。
大母は、この鯨に会いにきていたのだ。
海で最も大きな生き物と、陸で最も大きな生き物が、
ほんの100ヤードの距離で向かい合っている。
そして間違いなく、意思を通じ合せている。
超低周波音の声で語り合っている。
この女性たちは、ケープの海岸の垣根越しに、互いの苦労を分かち合っていた。
女同士で、大母どうしで、種の終わりを目前に控えた生き残りどうしで。」
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驚きました。
これってまさに、若冲の絵そのものの場面です。
デフォルメは若冲の得意技ですが、一方で観察、そして綿密描写の人ですから、
もしかしたら見たのかもしれません。
鯨と象の、ご対面を。
野尻湖には、ナウマンゾウ記念館もあるぐらいだし。
…いや、でも日本では、時代が違いすぎますね。
でも、若冲は、きっと想像したのでしょう。
ひょっとしたら、どこかで骨のかけらぐらい見たのかもしれません。
そして、画家の目は、とらえたのだと思います。
何万年前にありえたかもしれない象と鯨の出逢いを。
海で最も大きな生き物と、陸で最も大きな生き物が、互いにエールを交わす場面を。
若冲の「象鯨図屏風」は、2008年に北陸地方の旧家で発見されました。
ミホミュージアムの所蔵品。
残念ながら今春は臨時休館となってしまいましたが、
開館したら、真っ先に訪ねたいと思います。
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