12月10日(日) (入院して7日)
症状はあまり良くなっていない、身体が震える。毎日、日記を書いているのだが首や頭がガクガクと震え、手と指が自由に動かない、我ながら情けない。早くここから逃げ出したいのだが下半身の衰えはそれを不可能にしている。今日から下半身を強くする為ベッドから出て歩行訓練を始めた。今までぼくは病室とトイレしか知らなかった。廊下に出て右側へゆっくりと歩いて行くと右側は病室で、その先の左側はナースセンターのような事務室のようだ。患者らしきインド人とシスター達が見える。その前をぼくが通り過ぎようとすると
「何をしているのトミー、どこへ行くの?」と言って、シスターが走って来てぼくの腕を捕まえた。
「散歩もしちゃいけないのか?」
じっとぼくの目を見ていたシスターは腕を放し
「庭には椅子が置いてあるわ」笑みを残して彼女は事務室へ戻った。
前庭になっていた。入院して初めて見る外の風景である。重苦しい病室に閉じ籠っていたぼくの心と身体は広がっていくようだ。手入れは行き届いていないようだが花壇が数ヶ所ある。空いた椅子に腰を掛けた。久し振りに吸う外の空気と12月の暖かく優しい太陽はとても眩しかった。病院の塀に囲まれた内側だけの自由だが朝は太陽が日差しをくれる。これからは毎日、午前中だけでも外へ出て本を読んだりも出来る。
パタパタとサンダルの音がする。大分、元気になったアユミの足音だ。
「外に出て大丈夫なの?」
「うん、ゆっくりなら歩ける」
「私ねぇ~」
彼女は時々、ヨーロッパからの1人旅を思い出すように語ってくれる。彼女は語る事によって、ぼくは日本語で語られる優しさによって心の傷が癒されていくように思えた。アユミと会えたことでぼくは本当に救われている。禁断の最も辛い時に日本語で話せる。でも彼女の話の半分もぼくは理解が出来ない、それでも良かった。