前庭の花壇越に低い塀がある。外の広い通りが良く見えた。通りを見ると道具を持った流しの床屋が歩いている。髭でも剃ってさっぱりしたい、髭の門番に頼んで床屋を呼んでもらった。床屋は雑巾のような布をぼくの胸に掛けると、汲んできたコップの水でぼくの頬を指でぺチャぺチャと濡らした。シャボンを少し泡立てるといきなりぞりっと剃った。頬髭を剃り鼻髭はカットして揃える、髭剃り代5ルピーで刑務所内と同じ料金だった。
「パイサ(お金)」
手を出し料金を請求する床屋にぼくは
「パイサ・ナヒン」お金は持っていないと言った。
そう言われた床屋は驚き呆れ返ってしまったようだ。周りのインド人達に救いを求めるように見回している。
「パイサ・オフィス・チョロ」お金は事務所へ行って貰えとぼく。
ヒンディー語と英語で説明をしたが、どうも良く理解が出来ないようだ。床屋はまだ文句を言っている。髭の門番が言い聞かせたのだろう、床屋は渋々と事務所の方へ歩いて行った。シスターから貰ったお金をぼくに見せると、床屋は道具を持って通りへ出て行った。陽射しで身体が温まっている、髭を剃ってさっぱりしたついでに身体を洗い下着の洗濯をした。スタッフを断って7日になる、最大の峠は越えつつある、身体を洗う気力が生まれた。
薬は相変わらず多いが来週から少しずつ減っていくだろう。夕食は少し食欲が出てきた、身体が回復へ向かっているのだ。まだ早くは食べられない、食べ物を噛むと下顎の付け根辺りに痺れるような痛みがある。時間をかけてゆっくり噛んで食べれば良い、食べられるようになれば体力は回復する。
夜、ベッドの上で何度も何度も日本の姉からの手紙を読み返した。