インド人はビリをやっても良い素振りをしている、ぼくの手も出かかっていた。そこへちょうどアユミが来てくれた。彼女と日本語で簡単に打ち合わせをし
「ビリ、貰って良い?」とアユミ
「おぅ、どうぞ、どうぞ」
可愛くて若い外国人女性に頼まれて、気分が舞い上がったインド人は残りのビリとマッチをぼく達にくれた。
「やったね」
ぼくもアユミもお金は病院で管理され持っていない。ビリを買うお金もない、もし持っていたとしても外には出してくれないだろう。
2人でビリを吸っていると、さっきアユミが話していた婦人達がちょっと嫌な顔をしてぼく達を見ている。アユミは小柄で子供っぽい顔をしている、というより婦人達から見たアユミは高校生くらいにしか見えなかったに違いない。彼女は不良少女と思われたかもしれない。インド人の女性が煙草を吸っているのをぼくは見たことがない。ぼく達がビリを吸っていると大男の髯の門番が駄目だと言っていたが、ドクターが見えなくなるともう何も言わない。久し振りに吸ったビリは強くて頭がぼうとなってしまった。効いた。
ぼくの症状はそんなに良くなってない。薬が強いのだろう身体の痛みはそれ程感じない。身体の痛みがなく睡眠薬が効けば眠れる。遅々として進まない長い夜を目を開けて白々と明ける夜明けを待つ、夜の闇が不眠のぼくを襲う。だがこの病院の睡眠薬は効いている。夜はかなり眠っているようだ。薬効が切れるから朝はどうしても早く目が覚めるが。身体の方は重くて動けない、特に下半身はまだふらふらしている。
でもアシアナでの治療を思い出しても症状の回復はやはりこの程度だろう。莚を引き摺って陽の当たる場所へちょっと移動する事さえ辛かった。莚の上にへたり込んで、ただぼうと空を見ていた。飛行機を見てはあれに乗ってカトマンズへ行きたい、鳥は自由に高い塀の上を行き来する、羨ましかった。いつになったらここから出られるのか、治療が終っても解放されるわけではない、第1刑務所の第2収監区に移送され長い刑を務めなければならない。第2収監区にはビリもスタッフも自由に吸えると聞いていた、ぼくは刑務所内で再びスタッフを吸い中毒者になった。