ホテルへ戻る途中、馴染みのジュース・ショップに立ち寄る。ヴィベックの手前が映画館でその真向かいにある。店の中と向き合うように備え付けのカウンターがあり、背の高い二つの椅子が置いてある。それに座って通りを見ながらジュースを飲むのが日課だ。髪を金髪に染めたマスターが目の前でジューサーを回しジュースを作ってくれる。一切添加物なしの果汁100パーセントのジュースだ。オレンジやリンゴはジューサーを回した後、木綿布で搾ってもらう。人参ジュースは少しどろ々しているが搾らずそのままで飲む、フルーツのような甘さで植物繊維が身体に良いと思っている。ジュース屋の椅子に座っていると、通りすがりのアフリカンが声を掛けてくる。
「マナリ(北インドの地名)の良いチャラスが手に入った。どうだ、トミー」
「ありがとう、今は間に合っている」
「必要な時はいつでも声を掛けてくれ」
子供の乞食が背を屈め近寄り、小さな手を出しバクシシを要求する。カウンターが高いので店の中からは見えない、マスターに見つかると商売の邪魔になると怒鳴られ追い払らわれる。ぼくが「チョロ」と言ったくらいで諦めるようでは乞食は務まらない。マスターに見つからないように「バブー(旦那)・バクシシ」と悲しそうな声で奴は粘る。ぼくの足に触った手を口に当てその手をぼくに向けて出す。何も食べていない「バブー・バクシシ」と真に迫った演技を子供乞食がする。お互いの根比べだ。短期滞在の場合は気分次第で出すこともあるが、長期だと一度バクシシすると毎回狙われる。ぼくが無視し続けると奴は次の獲物を捜しに行った。