大部の著作、高木信二「東洋に向かう道」(“The Trek East,” 2016, 596pages)

[著者高木信二]

 

　これまで日本の末日聖徒イエス・キリスト教会について書かれた、最も詳細な歴史である。物語り風というより、客観的・学術的記述で、年月を隔てた世代の研究者による鋭い指摘も含まれている。英語で書かれたこの大部の著作は、2017年「モルモン歴史学会」(Mormon History Association)から「国際モルモン史について書かれた最優秀書」に選ばれた。

　この本の特徴は、日本の教会史について書くに当たって、まず大局的な視点から分析を試みていること、そして具体的教会史そのものについては資料探索が徹底していることである。これは著者の特徴 - - 学者としての姿勢 - - で行き届いていて、妥協を知らない。

　大局的視点（マクロな取り組み）は、広く読者に日本の置かれた歴史的状況や文化的（宗教を含む）背景を示して、宗教社会学的な分析を試みていることである。１章３節。また、戦後の伝道再開を、米占領軍の存在（「鷲の翼」）に支えられて宣教師が活動を始めた面があると見る(10章のタイトル)。これらの視点はアメリカの読者に対する解説の役割も果たしていると思われる。　

　資料の探索・渉猟は、大阪大学の図書館はもちろん大蔵省の図書室にまで及び、また多数の米親日研究者(lds)の協力や個人史、通信、面談などによって行き届いた蒐集を行なっている。

　その結果、旧来の解釈に対する修正も行なっている。その一つは、1924年日本伝道部が閉鎖されたいきさつについて、従来日米関係が悪化したため、という理由があげられてきたが、むしろ主要な原因は伝道の成果不振であったという見方(R.L.Neilson, 2010年)を結果的に確認していることである。そして反証として他のキリスト教宗派が通常通り布教活動を行なっていたこと、大正～昭和初期にかけてハリウッド映画や野球がもてはやされていたことなどをあげている。

　この本の大変便利な点は、巻末に初期(~1952年４月)の改宗者のリスト、宣教師のリスト(~1968年)など貴重な情報が提供されていることである。この本は長年にわたって関心を持ち続け、発表してきたものをまとめ、新しく得られた知見を加えた大部な本である。経済を専門とする著者に、教会と日本の教会歴史によほどの情熱がなければできないことである。日本の末日聖徒イエス・キリスト教会の歴史に関心のある人にとって、丁寧に読む価値のある貴重な書籍である。英語で書かれているが、蔵書の１冊として参照図書としても活用されることを薦めたい。そして著者が傾注された多大な労をねぎらいたいと思う。

 

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