当時のイラクについて、著者の説明を紹介します。
・人口2,300万人あまりのイラクで、クルド人は二割近くを占める。
・クルドの二大勢力のうち、クルディスタン愛国同盟 ( PUK ) のタラバー二議長は、米国の主導するイラク攻撃に積極的だ。
・一方のクルディスタン民主党 ( KPD ) は、米国と密接な関係にあるものの、バルザー二党首が米国のイラク攻撃に慎重である。
・30年ほど前KPDは、米国、イラン、イスラエルの支援を受け、イラク中央政権と武力衝突を繰り返していた。
・しかし突然支援を中断され、イラク軍の猛攻により崩壊したことがあった。
・イラン・イラク戦争の末期、1988 (昭和63) 年には、イランと手を組んだバルザーニたちが「 イラクの裏切り者 」 として、イラク軍の毒ガス攻撃にさらされたが、国際社会は、救援手段を取らなかった。
・反体制派の中でもとりわけクルドは、米国の政策が、クルド民族運動の目的や正義のためでなく、米国の利害に基づいているという現実を学んできた民族である。
・現在のクルド人が米国に期待するのは、その絶大な軍事力と政治力であって、米国外交の「 良心 」などではない。
ではイラクにいて、フセインを倒したいと活動しているクルド人とは、いったい何なのかという疑問が出てきます。もともとクルド人は、中東の山岳地帯に住む民族なのだそうです。ネットの情報によりますと、独自の国家を持たない世界最大の民族集団がクルド人で、その数およそ2,500万人から、3,000万人と言うことです。
祖国を持たない民族として学校で習ったのは、ユダヤ人でしたが、第二次世界大戦が終わった1948 ( 昭和23 ) 年には、イスラエルを建国しました。国の無い民族の話は終わったと思っていましたが、なんとクルド人が、イスラエルを超える世界最大の祖国を持たない民族集団だと言います。
クルド人は、イラン、イラク、トルコ、シリアの国境地帯に住み、もともとは山岳地域の先住民族でした。詳しいことは知りませんが、イギリスがこの地域を支配していた頃勝手に国境線を引き、現在の国々が生まれたと言います。各国に散らばっているため、クルド人は少数民族のように言われますが、中東では、アラブ人、トルコ人、ペルシャ ( イラン )人の次に多い民族です。
大昔にクルド人は、この地方で独立王朝を持っていましたので、今でも独自の言語を持ってています。近隣諸国からは認められていませんが、彼らは独立国家の名前を「クルディスタン」と決め、国旗まで定めています。
混沌とした中東の中で、彼らはクルド人の自治獲得の戦いを続け、イラン・イラク戦争後に、イラク国内で「クルド自治区」を認めさせています。彼らが最終的に狙っているのは、「クルド人国家」の樹立です。
そのクルド人の宗教が大半はイスラム教だと言われますと、このあたりから私の頭が混乱します。
勝又氏の本を理解しようと、関連する事柄を調べていきますと、一部に過ぎないクルド人のことだけでも、本になる程のボリュームとなります。大海に漂う小船のような自分を発見しますが、勇気を出して進みます。次はイスラム教のことです。
世界の宗教でのイスラム教の位置付けを調べてみますと、次のようになります。
1. キリスト教 22億5400万人 33.4%
イタリア・フランス・ベルギー・スペイン・ポルトガル・中南米・アメリカ・カナダ・イギリス・ドイツ・オランダ・北欧オーストラリア)
2. イスラム教 15億0000万人 22.2%
インドネシア・マレーシア・トルコ・エジプト・サウジアラビア・イラン・イラク・中東
3. ヒンズー教 9億1360万人 13.5%
インド・ネパール・バリ島
4. 仏 教 3億8400万人 5.7%
日本・中国・韓国・ベトナム・タイ・カンボジア・ラオス・スリランカ・ミャンマー・チベット
イスラム教の中の80%がスンニ派で、残りの20%がシーア派です。イラクで多数を占めているのはシーア派ですが、政権についているのは、サダム・フセインが属するスンニ派です。
面倒で調べる気にもなりませんが、フセインを倒そうとしているクルド人は、大半がイスラム教なので、中はスンニ派とシーア派に分かれているはずです。クルドのスンニ派は、同じスンニ派のフセインを殺そうとしているわけですが、ためらいは無いのでしょうか。宗教より民族の方が優先するのでしょうか。
アラブの世界に詳しい氏は、こんな初歩的な私の疑問など気にもかけません。お構いなしに、説明を続けます。
・一般論だが、実はアラブ人も、クルド人も、アメリカが大好きだ。
・彼らは、強いものに憧れる。だが米国外交の単純な発想と、力任せの強引さは許せない。パレスチナ問題ではイスラエルの横暴に甘く、イラクには正義を振りかざす。
・アメリカの言い分には、他者の価値観や論理の入り込む隙間がない。だから、フセイン大統領の対米批判がその点では説得力を持つ。
・イラク攻撃も、反体制派と米国の思惑には開きがある。フセイン打倒に、アメリカの政治力と軍事力が必要なのは明らかだとしても、傀儡政権が生まれるのは、望まない。
・反対派の人々の目的は、本来あるべき健全なイラクを実現すること。その一点に尽きる。親米国家の設立も、石油に絡むアメリカの国家戦略も介在してはならない。
反体制派の人々の主張はとても立派で、崇高な響きさえありますが、実際のところ、実現の手段や国家像が私にはぼんやりとしか理解できません。米国頼みの新生イラクの建設なのですから、自分たちの言い分だけが通るはずがありません。なんだか私には反体制派の人々の姿が、わが国にいる反日・左翼の人間に重なる気がしてきました。
国をアメリカの政治力と軍事力に守られているのに、「アメリカの戦争に巻き込まれるから、軍備は全廃しろ。」「戦争は嫌だ。」「アメリカ軍は出て行け。」・・・・、スローガンはまだありますが、身勝手であるところが共通しています。
本は全部で220ページで、紹介しているのは18ページです、こんな調子だと、何時終われるのか心もとなくなりますが、明日からは気合を入れ、焦点を絞り、イラクという国を探検してみようと思います。