ねこ庭の独り言

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文明の衝突 - 12 ( トルコの内情について )

2019-10-22 15:00:19 | 徒然の記
 分断された国家について、氏がは国名を挙げ説明していますが、特に詳しく述べているのが、トルコ、メキシコ、オーストラリア、ロシアです。
 
 37ページを費やしていますから、思い切って割愛しなくては紹介しきれません。反日・左翼とに分断される日本と比較しながら読めば、理解が深まります。
 
  1.  トルコ
  「元来、多民族国家であったオスマン帝国では、」「 " オスマン国家 " などの名称が、国名として用いられており、」「自国を、トルコ人の国家と認識することはなかった。」
 
 「19世紀、衰退し始めたオスマン帝国の各地では、」「ナショナリズムが勃興し、諸民族が次々と独立した。」「第一次世界大戦で敗北すると、英、仏、伊、ギリシャなどの占領下におかれ、」「オスマン帝国は、完全に解体された。」
 
 「これに対し、トルコ人は1919年5月、独立を訴え、武装抵抗運動を起こした(トルコ独立戦争)」「1920年、ムスタファ・ケマルの下に結集して戦い、」「1922年9月、現在のトルコ共和国の領土を勝ち取り、」「ローザンヌ条約を締結し、共和制を宣言した。」
 
 「翌1924年に、オスマン王家のカリフをイスタンブールから追放し、」「西洋化による近代化を目指すイスラム世界初の世俗主義国家、トルコ共和国を建国した。」
 
 ここまでが、第一次世界大戦以降のトルコの歴史ですが、ハンチントン氏は、周知の事実として省略しています。突然ムスタファ・ケマルから説明されると、私たち日本人には、話が通じません。ケマルがトルコ共和国を設立するまで、トルコはイスラム圏に属する、多民族国家だったということです。
 
 これ以後は、氏の著書からの引用です。
 
 「ケマルは、多国家からなる帝国という思想を拒否し、」「単一民族からなる、国民、国家を作ろうとして、」「その過程で、アルメニア人と、ギリシァ人を、」「追放したり、殺したりした。」「ケマルは、民族、政治、宗教、文化の面で、」「トルコ国民のアイデンティティーを、定義し直した。」
 
 文章で書くと長いので、箇条書きで紹介します。
 
  ・ 皇帝を退位させ、西欧型共和制とした。
  ・  宗教的権威である、カリフの地位を廃止した。
  ・ 教育、宗教を司る、伝統的大臣職を廃止した。
  ・ 独立した宗教学校と大学を廃止し、非宗教的公共教育制度とした。
  ・ イスラム法を適用する、宗教裁判所を廃止した。
  ・ イスラム教を、国家宗教の地位から外した。
  ・ トルコ語はアラビア文字でなく、ローマ字とした。
 
 トルコ帽とか、トルコ行進曲など、断片的な知識しかなく、私にはほとんど馴染みのない国でしたが、氏の説明を読みますと、驚くことばかりです。第一次世界大戦後のトルコは、日本の明治維新以上の大改革をしていました。軍人と、西欧思想を持つ知識階級が主体となり、理想にもえ国家改造を断行したのです。
 
 国民の識字率が格段に向上し、人智が開け、国民が個人主義に目覚めますが、実はここから、トルコの分裂が始まります。軍人と経済的に恵まれた知識人や、上流階級の間で、西欧思想が広まりましたが、大多数を占める国民は、依然としてイスラム教を信じ、イスラムの生活習慣を捨てなかったのです。
 
 国民と政府の指導層が分断している国家、簡単に言いますと、これが現在のトルコです。他の国から見ますと、トルコはイスラム教国なのか、西欧型の民主主義国なのか、よく分からないということになります。西欧の軍事同盟である、NATOに加盟していますが、何度申請しても、EUに加盟できないという現実はここから来ています。
 
 米国の基地を受け入れたトルコは、地中海や中東方面への、ソ連の拡張を防ぐ防波堤として、西欧諸国から期待されました。しかしトルコはこのため、非西欧の非同盟諸国から非難され、イスラム諸国からはイスラムへの冒涜であると攻撃されました。国内が分裂していると、国際社会でも困難な立場に立つという実例です。湾岸戦争の時、国内の亀裂がさらに大きく露呈しました。
 
 「湾岸戦争時トルコは、反サダム陣営に協力し、」「トルコ領内にある、イラクのパイプラインを封鎖し、」「イラク石油の流通を妨害し、米軍機の基地利用を許可した。」「政府に反対する国民の大規模なデモが起こり、」「外務大臣、国防大臣、参謀総長が、辞任する騒ぎとなった。」
 
 長い叙述が続きますが、トルコに関する基本的な問題点は、把握できたと思います。学者でありませんから、私はこの程度の理解で納得し、次回は、メキシコといたします。
コメント (3)
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