田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

夕日の中の理沙子 7   麻屋与志夫

2008-11-26 15:00:08 | Weblog
コウジは、できるだけ遠くの大学に進学するといいはる。
「ダッタラアメリカへでもイッタラ」
といいたいのをがまんした。
だってわたしいろいろ情報はいってる。
マジでそんなこといえない。
どうして、遠くにいきいの?
とも……きくことができない。
願書ももうだしたという。
「……ねえ、どへ?」
と、ききたいのを必死でこらえる。

とても、進学できる環境ではない。
経済的にコウジの家が追い込まれているの、わたしはしっている。
コウジの家だけではない。
戦後、木工業でさかえてきたこの街も、平成不況でくるしんでいる。
街が壊れそう。
わたしも壊れそう。
このつらさ。  
わかってんかな、アイツ。   
かわいそうなコウジ。
せいいっぱいツツパッてる。
わたしが、なにもかも知ってるのに。
コウジに同性の恋人もいるんだって、わたしの恋敵が男の子だってことも、チヤーんとしってるんだから。
でも、恋敵がボーイだなんて、どうなってるの、アイツ。
学校がわるイ。
わたしたちも、おかしいのだ。
あまり校則がきびしすぎて、それにさからうだけの革新系の男の子が、女の子がすくないのだ。
ふるい因習にこだわりすぎているおとなが、わるい。
文化は、この栃木県をとびこして、東北にいく。
東京にちかすぎるのが、わるい、のだ。
不満のある若者は、きらくに東京にでられる。
だから、土地固有の文化が育たないのだ。
むかしからそうだったのだろう……。
コウジってバイセクシャルなのかしら。
そうだとしたら、どうしても、ヘテロセクシャアルになってもらいたい。
Hにあまり、積極的でないのは、おぬしすこし気がおかしいぞ。
アヤシイ。
アヤシイ。
ぞょ。
わたしと、コウジのなかをヤッカンデだれが根も葉もないこと言い立てているのよ。
キット。 
きっとそうよ。
だって、神沼商業高校はいまどき、めずらしい男子高校だから、なかのいい男のともだちがいても、それはあたりまえのことじゃないのかしら。
こういうことって、わたし、将来的には小説家になれると思うのだけド、書いていく、追及していくテーマじゃないかしら。





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ああ、快感。


夕日の中の理沙子 6   麻屋与志夫

2008-11-26 09:25:00 | Weblog
事件は起こしたくない。
問題は起こしたくない。        
ほんとは、こんなことばかりコウジと話していたわけではない。
ということで、シーンをわたしとコウジのプライベィトことに、プレイバック。    
いままでの店ではわたしたちのことが評判になった。
それで、川岸をかえたというわけ。
黒川をわたった、街の東台地にあるソラリスにデートの場所をかえたのだ。
コウジはどうしても東京に行く。
東京にある大学に進学する、という。
いつの時代でも、田舎街をぬけだすには、進学か就職、結婚のチヤンスをいかすしかない。
そして、いつの時代でもわたしたちは都会をめざしている。
でも、そうではないひともいる。
田舎街で幸福な学生生活のできたひとは、その街に合っているのかもしれない。
ずっと、ずっと神沼にのこって、神沼で結婚して、子供を産んで、生きていけるひとって、うらやましい。 
こういうひとは、変化をきらう。 
あまり外にでたがらない。
まあいろいろあるさ。
わたしは、いまのところ毎日でもコウジに会っていたい。
神沼からははやくとびだしたい。
コウジに会っていられれば、住むとこなんかどこでもいいのだ。
ほんとはね。
コウジのそばにいられるんだったら、場所なんかどこでもいい。
この神沼だって東京だっていいのだ。 
この地球上なら、いやソラリス星だってコウジといられるならどこだって場所は選ばない。
離れているのはいや。
さびしくて、さびしくて、勉強にもうちこめないほど、コウジのことばかりかんがえている。
わかれて、家にもどってきたとたんに、もうコウジの携帯にメイルいれチャウわたし。
ダラシナイわ。
でも、それだけ彼のこと好き。
いつもおもっているってことよネ?
好きです、あなた。
なんて書いてみた。
……ウフフ、わたしってバカみたい。   





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夕日の中の理沙子 5  麻屋与志夫

2008-11-25 16:42:04 | Weblog
使う言葉まで同じ。
どのテレビも新聞も報道していることは同じだ!!
でも、ほんと、試験から解放されて、みんなその点では、ほっとしている。
ヨロコバシイコトデス。
髪を長くのばしているだけでにらまれる。 
髪は肩までたらさないように。      
ソックスは無地。
靴はスニカー。  
外出時にも、制服着用のこと。
それくらいの校則は、ガマンしなければ。
ともかく、中間も、期末試験も、なんにもない、ゴクラクみたいな中学にいるんだから。
ゲゲの学校なんだ。
鬼太郎の学校なんだ。   
試験もなんにもない。    
たのしいな。
たのしいな。  
みんなで歌おうゲゲゲのゲーという、ユートピア。

教育の超理想を校長が実践している。
全国の中学生アコガレのガッコウナノヨ。
絶対に失敗はゆるされない、と校長はガゼンはりきっている。
日本の新世紀の中学教育の未来をオンブしている。
オンブお化けじゃないけど、気負いすぎて、理想が重荷になってつぶれなければいい。
だれがって、モチ学校が。
そんなわけアリだから……まあ、校則がきびしいのも、しょうがないカ。
「わたし、アキラメテル。もうすぐ卒業だもんね、コウジ」            
ああ、だめだぁ。こんなトークするはずじゃなかった。
わたしはKYじゃない。空気は読み過ぎ。
いまは大好きなコウジと会っている。
それなのに、この話題はなによ。

下級生は担任の先生もきまっていない。
日替わり担任制という新制度もできた。
文部省のエライさんは、担任の日替わりなんて、トンデモナイと批判しているらしい。
そう新聞にのっていた。  
まいにちまいにちぼくらの担任は……とA君がまた歌いだす。
鯛やきのメロディの替え歌をうたう。
かわってしまって、いやになっちゃった。
外出すら制服でないとゆるされないのに……。
先輩とデートしているのみつかったら。
どんな罰がまっているか。
かんがえただけでも、こわい。

セスジヲトカゲがはしる。

試験を完全撤廃したために、生徒の風紀がみだれたぁ!
なんてことになると困るのはダアレ。 
あとすこしで、高校入試。 

受験だ。




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夕日の中の理沙子 4  麻屋与志夫

2008-11-25 08:19:13 | Weblog
これでは、なんのために会っているのか、わからなくなる。            
恋しいカレとデートするのがたのしくて走ってきたのに。
胸ときめかせて、走ってきたのに。
まだ動悸がなりやまない。走ってきたばかりじやない。
コウジに会えたよろこびからなんだから。
うれしくて、トキメイテ、胸の鼓動がなりやまない。

斜陽はきえてしまっていた。
山の端がかすかに赤らんでいた。 
夕日がきれいだ。夕映えがまだ空にのこっている。 

薄闇がせまっていた。

生徒たちだって、ぴりぴりしている。
取材されてもなにもいわないように。  
とはいわれていない。     
くちどめ、されているわけでもない。
でも、みんなの顔をみていれば、ものいえばくちびる寒し、てなことはわかるというものよ。                 
サムイ。 
テスト廃止。
……本音のうらはサムイ。
それをさぐりあてるのがプレスのひとのおしごと、じゃないの。
それなのに、ナニヨ。
ぜんぶ、どこの新聞も。
テレビもおなじ意見。
マスコミの偏向取材ここに極まれる。
と、きどってみたいワ。
マスコミが裏読みできなくなったら、この世は闇よ。
どうしてテスト廃止なんて、とんでもない。
高校入試も、大学も就職もぜんぶ試験があるのに。
これで、学力は維持できるのだろうか?
くらいの、批判をする新聞記者っていないのかしら。

いい、わるい、なんてわたしたちには、わからない。
それは、なん年かたってみないと、結論はでない。
永遠にこの試験のない中学に学んだことの是非は、結論はでないことかもしれない。
でも……みんなでわたればコワクない的なマスコミの報道って怖い。
テスト廃止にのりきった校長の英断。
進学中心の授業からのぬけだしをはかる英断。
英断。




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夕日の中の理沙子 3 麻屋与志夫

2008-11-24 22:28:29 | Weblog
なんか、とても心配。  
なにか、思うようにいかないことが起きそうで、不安なんだ。
だからひとりでまくしたてた。     
夢中で学校批判をしていた。
ごめんなさい。    
みなさん。 
いまの、この現実で満足しているみなさん。
ゴメン。
わたしは、ただコウジが悲しいことをいいだすのではないかとこわかったの。
それでしゃべりつづけていた。
校長先生が、中間、期末テストの廃止宣言なんかだしたのは、わたしたちが3年生になった春だったのに……。         
1年もたとうとしている。 
いまごろになって話題になるなんて、マスコミの注目をあびるなんて、おかしい。
……と、ワタシテキには、おもうのだ。 
なんでも、この県の北のほうのある中学でまた暴力事件がおきた。
なん年かまえに、黒磯の女教師刺殺事件があった(そうあのバタフライナイフを一躍有名にした)その隣町でのことらしい。
いっせいに、東京からプレスのひとたちがおしかけてきた。 
暗い事件だけでなく、なにか明るい話題はないかとさがしていた。                                            神沼の東中学で試験撤廃にふみきっている……。
Y紙にスクープ記事がのった。
ほかの新聞もその話題にとびついた。 
はじめから、明るい話題として、とりあげる予定だったみたい。
ありがたいわ。  
それでもってて、日本一有名な中学というわけだ。
日本の中学から定期試験がなくなったら、どうなるのだろうか。
中学生活は天国だわねぇ。  
ホントカシラ???
わかんない。   
わたしみたいにコウジとの♡でオツムがいっぱいの女のこにわかるわけないジャン。 
でも世間的には、日本の教育界でいちばんすすんでいる新教育の実験校。
5★の中学なんだから。
マスコミの注目がこの神沼に集まっている。
千手山公園の観覧車は「恋空」のロケで有名になり過ぎだ!!
御殿山球場のスタンドは「ふれふれ少女」のロケ、新垣結衣ちやんのおかげでチョウ有名。
ともかくみんなは、のりきっている。
ノリノリだ。

「そうでしょう。そうよね? コウジ」

トウキョウから毎日プレスのひとたちがおしかけてきている。
校門めがけてカメラとビデオの三脚が並んでいる。
いつも監視されている。
わたしたちがテレビにうつつている。
ばかでかい業務用ビデオカメラ。
ベターカムの、キョダイな一つ目にとらえられないように身をかわすのってけっこうたいへんなんだから。
厚化粧したレポーターのおねえさまがつきつけるマイクから逃げるのってむずかしいのよー。                 
「テスト廃止でどう学校がかわりましたか」
つきつけられたマイクの餌にくらいついて発言でもしたら、あとがたいへんなんだから。
カワュクくびをかしげる。  
ブリッコしてニッコリ逃げるのってむずかしい。
「マジデ、むずかしいのよ。コウジ」
ああ、ダメだぁ。  
こんなことばかりはなしていたら、ますますコウジにきらわれてしまう。
そう、あせっていたのに、話題をかえられない。                 
わたしってバカ女だ。  
ビミョウに悲しくなった。       
あせった。





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夕日の中の理沙子 2  麻屋与志夫

2008-11-24 02:21:05 | Weblog
六本木にでもあるようなシャレタ店。
銀色にコウテングされたアルミ建材とガラスの壁面だけでできている。  
イナカ街に住むわたしたち女子生徒をときめかせてくれる。
マジで東京いる気分にしてくれる。
……というのだ。
せんぱいがいっていた言葉だ。
テニス部のセンパイが「デートにはサイコウヨ」。
と話していたのをきいたこともある。
まさか、わたしがそこへいそいでいるとは……ね。
ソラリスをコウジが指定してくるとはね。
二階のはじめての席。
客はコウジのほかには――。男のひとがひとりだけだった。
そのひと、隅のほうに座っていた。
コーヒーをのみながら、なにかノートに書いていた。
ノートの上をはしるエンピツの音だけがかすかにしていた。
学校のセンセイ?
それともプレスのひとかな。 
ノートから顔をあげた。
わたしは、まともに見つめられてしまった。
ほかの中学の先生だったら、どうしょう。
なにかいわれそう。
ヤバーイかんじ。 
ほかの席はがらあき。  
わたしはまたせてしまったコウジにかわゅく手をふった。
「ごめん、待たせたちゃった」
夕日のさす窓際の席。
「Hi、コウジ。おまたせ」
コウジの返事がもどってこない。
オダーをとりにきたウエトレスにレモネイドをたのんだ。
コウジも斜陽をみていた。
「あのひと、先生じゃないわよね」   
わたしは、隅にいる男のひとを気にしながらはなしだす。
まだすこし息切れがする。 
いつも、おかたい、定番どおりの、はなしばかりしている。
どうして、テレビドラマのような、気のきいたセリフがでないのかしら。
「高校生とサテンにはいったのをみつかると職員室によばれるのよ。だからぁ、あのひと先生かなぁなんて、気にしちゃうのよね」
「ひとの視線なんか、気にするなょ」
「なんたって、いま日本でいちばん、マスコミの注目をあびている、神沼は東中学校! の生徒なんだから」
気にしちゃうのよね。
とつづけようとしたが。
コウジがあまりに真剣な顔しちゃっているので。
やめた。 
テストを廃止してしまった中学。
「そして、わたしはその中学の、これから卒業しようとしている生徒。高校受験を目前にした受験生なのよ」
ちがう。
こんなことを話すために走ってきたわけではない。
はやく、ラブラブモードにきりかえなければ。
とあせればあせるほど……話がそれていく。               
わたしは、コウジのことばを恐れていた。

会うたびに、不安がつのる。  

別れの予感がひたひたとわたしのこころにうちよせる。



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新連載 夕日の中の理沙子 1  麻屋与志夫

2008-11-23 08:54:52 | Weblog
 夕日の中の理沙子

                           麻屋与志夫


2月16日
日光から那須にかけての峰々が雪化粧をしている。
山々に囲まれた舟形盆地の、わたしの町神沼が美しい。
斜陽をあびて、街が下のほうで、紅色に染まっている。
紅色にそまっているのは、なにも景色だけではない。
わたしも、紅色。           
こころがはずんでいる。   
なんたって、コウジに会えるのだから。
走ってきた。 
走って停車場坂をのぼってきた。
ほほがほてっている。
動悸がする。
ドッキンドッキン心拍がたかなっている。
コウジのことをおもっている。
わたしの初恋。
神沼の夕焼けをコウジと、ふたりでみられなくなる。
あと、なんど、この大夕焼けをみられるのだろうか。
瞳に映った夕焼けをみつめあう。
シアワセな時はとぶように過ぎていく。
夕映えがきえてしまう。 
いそがないとと、斜陽が足尾山系の彼方にきえてしまう。
日光の山々が夕闇に溶けこんでしまう。 
いそがないと、思いでをつくれない。
そう、ちかごろのわたしは思いで作りのためにコウジとデイトしてるみたい。
悲しい。 
お別れだ。
かれとはお別れだ。  
わたしはイヤ。 
もういやだからね。  
別れたくない。
でも、ダメみたい。
ふたりの間が離れていく。
ふたりだけであえる時間がどんどんすくなくなっている。
それで……思いでホロホロ。
ずっとさきになって、いまのことを思いだして、懐かしむためにコウジとデイトしているみたい。
未来の思いでが、泣いている。    
もう毎日のようにコウジと会えなくなる。
恋する少女の勘はあたるんだから。   
運命だってみえてくるんだから。
星座占いなんかしなくても、カンジちゃうんだ。
ワカルンダ。
お別れだぁ。
そうおもうと、悲しくなる。
アブラカタブラ。   
時間よとまれ。
呪文をとなえながら夕映えのなかを、コウジのまつ『ソラリス』にいそいだ。
コウジとわたしの♡もエンドレスラブでありますように。
そう、ねがいながら、約束の場所にいそいだ。
街の東の台地。    
晃望台にある。
カフエレストラン『ソラリス』。



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朱の記憶(14) 完結    麻屋与志夫

2008-11-22 15:46:27 | Weblog
インプラントの歯茎の奥が疼いている。
一噛み一年。そんなことばが脳裏にうかぶ。

人狼を噛み殺すたびに、一年づつ若返る。
どうやら、人狼と戦うことはわたしが先祖から受け継いだ血のなせる宿命らしい。
口を血でみたすことは快楽。
快楽なのだ。

「もう、気づくのが遅いんだから」
わたしの内部でいつもの、いや背後で声がした。
わたしはMの絵を見ながら背後の声に導かれていた。
ふりかえって、彼女の顔を見たい。
背後にはなつかしい気配。
夜の種族の命運を賭けて闇の世界で人狼と戦う。
人狼の血を啜る。
わたしは朱を恐怖していたわけではない。
憧憬していのだ。
Mは天才画家の直感でそれを感知した。
K子とわたしの像を赤で縁どっていたのだ。
それにしてもこのジジイになにができるというのか。
一族の血はいまになってわたしになにをさせようとしているのか。
わたしは感慨をこめて「夏の日の水神の森」を見た。
いままでとはちがった絵になっていた。
朱色がなんと心地好く映じることか。

順路通りに几帳面に全部作品を見終わった妻がわたしの前に立っていた。
めずらしくきつい顔をしている。
戦後六十年。Mの絵画に癒され、その美に共感して生き抜いて来たひとびとの群れの中から、妻は現れた。
「あなたの後ろの方。入り口であなたに招待券くださった方でしょう。わたしにかくしてもわかるわよ。紹介してくださる」
丁寧過ぎることばは妻が緊張しているからだ。
嫉妬しているからだ。
わたしとK子は、同時にふりかえった。
そして肩を寄せあって並んだ。
「わたしの母だ」

妻は見事にソフアに倒れ込んだ。

むりもない。
いま見てきたばかりの「夏の日の水神の森」の少女のような女性がそこには老いもせずに存在していたのだから……。

人狼とはかぎらないのかもしれない。
ひとの血を求める……の……は……。
わたしは妻の向こうのひとたちを見た。
周囲のひとたちは老人で、襟や喉もとが皺の集積なので安堵した。 
もし、処女のごとくなよなよとした白い喉と襟足をしていたら……。

わたしは、彼らの喉もとに噛みついていたろう。

                            (完)



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ああ、快感。


朱の記憶(13)  麻屋与志夫

2008-11-22 05:54:46 | Weblog
輝いたのではない。
わたしの指の攻撃で血をながしていた。
わたしはまだ完全に獣化しきっていない人狼の顎のしたに頭をいれた。
上におしあげた。
犬歯の攻撃を防御した。
鉤爪が襲ってくる。
両手と両足で人狼の足を十字に固定した。
目の前に人狼の喉仏があった。

わたしは太股の劇痛に耐えた。
人狼の喉に食らいついた。

乱杭歯が生えてきたわけではない。
人狼の喉の骨をくいちぎったのはインプラントの歯だった。

だがその歯根のさらに奥深く疼きがあった。    
歯茎が疼いていた。

わたしは、おもわず、舌を人狼の傷口にあてた。
朱色はもはや、忌避すべき色ではなかった。

快楽とともに受容するものだった。

人狼におそわれる恐怖。
朱の記憶の中でおびえて生きてきた。

だがおそわれるより、おそうほうがスリルがある。

咬まれるより、咬む。

咬むよろこびに目覚めた。

血だらけのわたしを発見したのは。
元工員のひとたちだった。
そしてわたしが倒れていたのは……。
奇しくも母がわたしの命を。
人狼から奪い返した。
場所だった。
工場跡地の中庭だった。

月がさえわたっていた。
因縁だ。
因縁だ。
旦那の通夜に襲われた。

「Mの展覧会をみにいこう。あの絵に会える気がする。Mの回顧展にいきたい」
「あなた口をきかないで。いますぐ救急車がくるから」

妻はわたしのながした血を見ておろおろしていた。
わたしはいままでわたしの邪魔をしてきた人狼を倒した。
よろこびで、はればれとした気分になっていた。
                                                                          
咬むことは、日常の咀嚼行為のように癖になるものらしい。

それに、あまりにすみやかなわたしの太股の傷の回復が気にかかる。

もしまた咬む機会があれば!!

わたしの細胞は若返る。
かもしれない?
 



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朱の記憶(12) 麻屋与志夫

2008-11-22 01:48:36 | Weblog
わたしは生まれたときのままの全裸で。
人狼とにらみあっていた。

「……縮んではいない。
さすがだ、吸血姫のベビイだけはあると褒めておこう」
「吸血姫。そのコドモ? わたしが……」
「しらなかったのか。
ここは、おれたち人狼の町だ。
むかしから。お前らは邪魔なのだ。
おれたちの真の姿を見ることのできる。
吸美族のきさまらはよそ者なのだ」

人狼にはかれらの真の姿を喝破する。

わたしたちの存在が疎ましかったのだ。

「狼のくせに九尾の狐が怖かったのだろう」

いままで、わたしたちの同族の男子が何人殺されてきたことか。

嬰児が狼の顎の中に消えていく場面が。

既視感となって。
パノラマ現象が脳裏に白光をともなって閃いた。 

その恨みがふいにわたしの内部で爆発した。
遺伝子のなかに組み込まれていた情報が機能しはじめていた。
わたしの股間にたれさがった男根に人狼のひと噛みがおそった。
わたしは股のあいだにそれを挟んで攻撃をかわした。
相打ちしかこの危機を乗り越える手はない。
しかし、局所では困る。死を招きかねない。
本能的にさとっていた。

腿の肉をしたたか食いちぎられた。
凄まじい痛覚がおたしをおそった。

それでも太股に挟んだ人狼の首をしめつづけた。

人狼は口の中でわたしの肉を咀嚼している。

旨そうに音をたてて……。
そこに隙が生じた。

人狼の目にわたしは指をつきたてた。
わたしは鉤爪になることもなかった。
未知の力がからだにみちみちてくることもなかった。
ただ、妻が、父の棺桶の隣なりにわたしの棺桶を見ずにすむように戦う。
いままでかずかぎりなく人狼の犠牲にされたてきたこの町のひとのためにも戦う。
「人狼の喉仏を食いちぎるのよ。
ボウヤ。わたしのボウヤ。
できる。勝てるよ。負けないで」
頭の中で声がする。耳の奥から声がひびいてくる。
「わたしの人生をことごとくダメにしてきた。
わたしの邪魔ばかりしてきた。
許さん。わたしと住めなかった、母の恨み。
同族の恨み。復讐してやる」
「ほざけ。老いぼれ」

人狼の両眼が真紅に輝いた。





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